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【10代の性と妊娠】行き場のない少女たちを狙う性暴力や性的搾取。Colabo・仁藤夢乃さんが目指す全ての少女が安心できる社会
- コロナ禍で、家に居場所が無く、性暴力や性的搾取に遭う10代女性が増加している
- 「助けて」と声を上げられない少女たちと共に、加害者を容認しない社会を目指す
- 少女たちを性被害から守るためには、加害者の問題だけではない複雑な要因に目を向ける必要がある
取材:日本財団ジャーナル編集部
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために推奨されている「ステイホーム」。しかし、必ずしも家が安心・安全な場所とは限らない。
家庭不和や家庭内暴力などにより家に居場所を無くした少女たちがいる。そんな彼女たちが、SNSや街で出会った大人たちにだまされ、性暴力や性的搾取などの性被害に遭うケースが後を絶たない。
新宿や渋谷の繁華街で無料のバスカフェ「Tsubomi Café」を開くなど、中高生世代の10代女性を対象に、相談、食事・物資の提供、宿泊支援に取り組んでいる一般社団法人Colabo(コラボ)(外部リンク)。その代表を務める仁藤夢乃(にとう・ゆめの)さんに、行き場を失った少女たちの実情と、私たちが向き合うべき課題について話を伺った。
家に居場所がなく、声をかけてくるのは悪い大人だけ
「親から暴力や虐待を受けて、街をさまよう少女たちがたくさんいます。しかし、そんな彼女たちに声を掛けるのは、悪い大人だけという場面を何度も見てきました。その状況を何とかしたいと思って始めたのが、Colaboの活動です」
そう語るのは、代表の仁藤さんだ。
Colaboに寄せられた10代女性からの性被害に関する相談は、2019年で約600件、2020年では約1,500件にも上る。2倍以上の増加については、Colaboの活動が多くの人に認知され、今までバスカフェに立ち寄っていた層以外の少女たちが増えたのに加えて、コロナ禍による貧困の拡大も大きいと仁藤さんは言う。
「もともとは、自分から『助けて』という声を上げられない女の子たちのために活動をしていました。こういった子たちは、日常的に虐待や暴力を受けて育った経験があり、声を上げるのを諦めてしまっていることが多いんです。また、今日泊まる場所もなく、生きることに必死で、将来を見据えてアクションすることが難しい状態にあります。しかし、コロナの影響で貧困が進み、自分からアクションを取れる子も助けを求めてバスカフェに訪れるようになりました。全員の話をしっかりと聞いて手助けできればいいのですが、人員的にも非常に苦しい状況なのが正直なところです」
バスカフェを訪れる層が変わったことで、自らSOSを発信することができない少女たちの足が遠ざかったのも事実だ。久しぶりに顔を出したと思ったら、妊娠8カ月目で医療にもつながっていなかったケースもあったという。
そんな少女たちの背景には、大半の大人たちの無関心や一部の大人たちの悪意、そして制度的な欠陥があると仁藤さんは指摘する。
「よく『海外の話みたいだ』と言われることが多いのですが、私たちの暮らしている日本、東京やそれ以外の地域でもこのような子たちがいることを多くの方に知ってもらいたいし、関心を持ってほしいんです。女の子がTwitterで『泊まる場所がない』とつぶやくと、たくさんのメッセージが送られてきますが、そのほとんどが性売買の斡旋などを行う大人や、性搾取を目的とした大人からのものです」
最近では、実家でゲームをしようと安心させながら、急に家族が帰ってくるからなどと場所を変更し性暴力を振るうなど、誘う手口も巧妙になってきているという。
「また、『公的制度を頼ればいいのに』という声も聞きますが、そのためには自ら役所の窓口へ行って申請を行う必要があり、ハードルは高いです。中には児童相談所に相談しようとする子もいますが、職員の数に余裕がなかったり、幼い子が優先されたり、少女たちが自分の意思で選択をすることが難しい状況にあります。そもそもこれまで困難な目に遭ってきた少女たちにとって、大人に頼ってみようと思えるものではありません」
「助けて」と言えない少女たちのための居場所を
自ら声を上げられない少女に出会うために、夜の街に繰り出してのアウトリーチ活動(※)を行うようになったという仁藤さん。2018年からは移動バスによる10代女性無料の夜カフェ「Tsubomi Café」をスタートし、取り組みを強化した。
- ※ 積極的に対象者のいる場所に出向いて働きかける活動
「『全ての少女に衣食住と関係性を。困っている少女が暴力や搾取にいきつかなくて良い社会に』というスローガンのもと活動をしています。バスカフェやアウトリーチ活動を行う際に大切にしているのは、『支援する側とされる側』みたいな関係性でなく、『今、実はこうなんだよね…』と気軽に相談できる関係性づくりです。例えば、多くの支援機関や支援団体では、机を挟んで両者が並んで話をすることが多いですが、そういった格式張ったやり方では、女の子たちが話したいときに話をするのが難しいのではないでしょうか」
バスカフェでは、食事や飲み物、お菓子や化粧品、生理用品などを、あえて少女たちが自由に取れるスタイルで提供しているという。
「女の子たちが取るタイミングでLINEを交換して『いつでも連絡して』と声をかけたり、『このお菓子美味しかったよ』と雑談をします。知り合っていきなり、悩みを聞くというのではなく、その前に『いつでも相談していいんだ』と思える人間関係をつくることを大切にしています」
また、Colaboでは宿泊支援も行なっている。今日泊まる場所がない少女は一時的にシェルターで保護したり、帰る場所がない少女には中長期的にシェアハウスを提供し、安心できる環境を整え今後について一緒に考えるという。
「暴力や支配の中で育った女の子たちの中には、その環境が当たり前になってしまい、暴力を振るう男性と交際する子もいます。Colaboの活動や私たちの提供するシェアハウスを通じて、世の中にはもっと違う形の人間関係があることを知ってもらえたらと。そんな安心できる環境を築いた後に、彼女たちにとって本当の意味での『やりたいこと』や『夢』が生まれてくると考えています」
Colaboには、Colaboとつながった少女たちがつながり、共に支え合いながら主体となって活動するグループ「Tsubomi」がある。アウトリーチ活動やシェアハウスの運営を共にしながら、同じような経験をし、悩んできた人たちと出会うことで回復するきっかけにもなっているという。
「Colaboには同じような経験をしたお姉さんたちがいて、自分だけじゃなかったって安心しました」
「家にいるのがつらいというSOSが届かない。それ自体が問題だと思っています。Colaboのような場所が増えて、誰もが気軽に相談できる世の中になってほしい」
Colaboと出会った少女たちからは、そんな前向きな声が届いている。
仁藤さんは「こういう話をすると、親に全ての責任があるように思えますが、親も世間から孤立していたり、病気や障害を抱えているなどそこにも支援が必要だと考えています。また、性売買の斡旋業者や、買春者の問題に目を向ける必要があります」とも語る。
仁藤さんたちが向き合う問題には、複合的な要因が重なり合っている。その現状を、まずは一人でも多くの人に知ってもらうことが、性被害に苦しむ少女たちを生み出さない社会づくりに重要だと、仁藤さんは力を込めて言う。
目指すのは「加害者を容認しない社会」
Colaboでは、2016年より「私たちは『買われた』展」という児童買春の実態を伝える企画展を全国各地で開催している。虐待や貧困から「援助交際」や「JKビジネス」に足を踏み入れた女子中高生らが、自らの体験や思いを表現した写真や手記などを展示し、社会に波紋を広げている。
企画展の根底にあるのは、世間では売春をする少女側に問題があるという見方もあるが、それを「買っている」大人がいるという事実、「援助交際」などという言葉で性搾取の実態を覆い隠すことの問題を知ってもらうことだ。
売春防止法の第5条において、売春を持ちかけた罪は女性にのみ適用されるといった点についても仁藤さんは言及する。
「本来なら、売春せざるを得ない女性たちに必要なのは社会的なケアで、女性を商品化する業者や、買春する人間が罰せられるのが正しい在り方なのではないでしょうか」
今後、Colaboの活動拡大に併せて、法改正などにも携わっていきたいという仁藤さん。
「私たちが目指すのは、加害者を容認しない社会づくり。普段の生活の中でも『これって女性差別なのでは?』と思うことを問題提起してみたり、ちょっとした違和感を見逃さず、言葉にしてみることが大切だと考えています」
大人なんて信用できない、頼りにできない———。居場所のない少女たちにそう思わせる原因に、私たちは加担していないと言い切れるだろうか。仁藤さんの言葉に、そう感じずにはいられない。
撮影:十河英三郎
〈プロフィール〉
仁藤夢乃(にとう・ゆめの)
虐待や性暴力被害を受けた10代の少女を支える活動を行う一般社団法人Colabo代表。夜の街でのアウトリーチ活動、シェルターでの保護や宿泊支援、住まいの提供などをしながら、10代の少女たちと共に性暴力や性的搾取の実態を伝える活動や政策提言を行っている。第30期東京都「青少年問題協議会」委員や厚生労働省「困難な問題を抱える女性への支援のあり方に関する検討会」構成員も務め、2019年には「Forbes Under 30 Asia 2019 社会起業家部門」を受賞。
一般社団法人Colabo 公式サイト(外部リンク)