うおっ乳デカいね♡ 違法建築だろ   作:珍鎮

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相変わらずバグってるな

 

 

 監視者であるはずなのに監視したら罪に問われそうなムチムチ・ビーチで絶望していた俺は、偶然その場に居合わせたサイレンスに視線をズラす事で事なきを得た。

 が、それによって新たに発生する問題を予知できるほどその時の俺は冷静ではなく、絶賛大変な事態に陥っている。

 

「君はいつからスズカちゃんと交流があるのかなっ?」

「あのファルコン先輩、落ち着いて……!」

 

 海の家で大人しくしている分には問題無かったのだ。

 学園のウマ娘たちの多くが集まっている場所で、サイレンスと二人きりで隣同士仲良く談笑し続けるのが良くなかった。

 

「ドトウさん水晶玉はいずこに!」

「えぇぇ~、えぅううぅ……風呂敷の中に入れたはずなんですがぁぁ……」

「時は一刻を争います! 早急にスズカさんとあの殿方の運命を占わなければ……!」

 

 一番最初に俺たちを見つけたのは、なんか青いメッシュが特徴的な派手っぽい見た目のウマ娘だった。通りがかるや否や『アオハルの気配!? 大事件じゃんっ!!』と叫び、それに気がついた他の連中がゾロゾロと押し寄せてきて現在に繋がる、というわけだ。

 

「あ、あの、スズカ先輩とは付き合ってるんですか……?」

「おいスカーレット、やめろって……」

「マックイーン? 声をかけないの? 前に助けてもらった男の子なんでしょ?」

「ぃっいいいのですライアン……かける言葉なんて何も思いつきませんし……」

「あたしが間を取り持ってあげるよ! ほら、出遅れないうちに!」

「おぉおっお待ちになってぇ……ッ!」

 

 あまりにも野次馬が過ぎるというか、大半のウマ娘が遠慮がないのだが、一番の問題は彼女たちが現在の自身の恰好を理解しているのかが怪しい点だ。

 基本的に中央に在籍している生徒たちは、編入組を除いて大体は小学校を卒業してから現在までをトレセン学園という女子校内で過ごしている。そのせいなのか、同年代の男子に対する距離感をイマイチ理解していない──というのが数ヵ月前にドーベルから聞いた話だった。

 その適切な距離感を把握していないという部分に関しては、今しっかりと身に染みて実感している。

 彼女たちは極端なのだ。めちゃくちゃ遠いか、あり得ないほど近いか、その二択しかない。ファンなどの一言二言声をかけるだけに留まる相手ならいざ知らず、そういうわけでもない普通の同年代の男子に対しては距離感がぶっ壊れてしまうらしい。

 

「ウオッカ。スカーレットは何をしてるのですか?」

「おわっ、マーチャンいつの間に……」

「うーん……わぁ、なるほどぉ。──お兄さん、お近づきの印にマーちゃん人形をどうぞ。試作品ですが」

「ちょっ、お前まで何してんだ……!」

 

 端的に言うと、水着姿なのにどいつもこいつも近い。

 あり得ない。

 普通女子は気を許した相手にしかその姿をこの距離感で見せる事は無い筈だ。ドーベルのあの話は本当だったのか。

 向こうから近づかれてるのに、視線を胸部や肩や太ももなどに向けた瞬間、悪いのはこちらになる。なんて理不尽な誘惑なのだろうか。俺と結婚したいわけじゃないヤツは全員退けよ。

 

「──もしもし? ……あ、はい。秋川くん、トレーナーさんが私たちを呼んでる」

 

 はぇ。

 あなたの担当トレーナーとは面識ありませんが。

 

「みんなごめんなさい、ちょっと急ぎだからまた後で。秋川くん、行きましょう」

 

 そう言って俺の手を引いて海の家を離れていくサイレンス。

 トレーナーから直接呼び出しがかかるとかいうあまりにも怖すぎ案件が発生したものの、それよりもまずあの海の家から離脱できたことが喜ばしかった。

 正直あのウマ娘たちの会話の内容などほとんど覚えてない。呼ばれていた名前と顔を照らし合わせるのでやっとだ。あとは変な人形を貰ったことくらいしか記憶に残っていない。

 

 脳内でグルグルと逡巡を続けていると、気がついたときにはビーチの端っこにある人気のない岩陰に着いていた。

 

「ふぅ……何とか抜け出せたわね」

 

 周囲を見渡したサイレンスが一息つくと同時に察した。

 俺たちが移動した先には誰もいない──つまり先ほどの『トレーナーが呼んでいる』というのは、俺を逃がすためのウソだったという事だ。

 正直本当に助かった。あのままだったら誘惑に負けて誰かの肢体を凝視して通報されるところだったぜ。うぅっ愛してるぞサイレンス……ッ!

 

「ありがとうサイレンス。助かったよ」

「ふふ、大したことじゃないわ。……ごめんなさい、みんなも悪気があったわけじゃないの」

「分かってるって。流石にあの場で二人きりは目立つもんな。気がつかなくて悪かった」

 

 目立たない為に、逆に注目を集めるような事をしてしまった。女子だけの合宿中に身内の一人が男子と二人で話していたら興味を惹かれるのは自然な事だ。あの集まりようは流石に常軌を逸している気もするが。

 

「……あの、サイレンス」

「どうしたの?」

「いや、手……」

「──あっ」

 

 おぉ~久しぶりの感触。公園での握手洗いを思い出してムラムラしてきたぞぉ。

 

「……久しぶりだな、こうするの」

「そ、そうね。……夏休みに入る前、スペちゃんの特訓が終わるまでは止めておこうって話をしてから……蹄鉄を見に行ったあの時くらいしか握ってない」

 

 焦って離すと思ったら握ったままなんだなこれが。何で?

 冷静に考えて会うたびに手を握る方がおかしいと思うのだが。興奮してきたのか? あの頃に戻りたいと? にぎにぎするな! 小賢しく愛らしい。

 

「……とっ、とにかく、あと数十分ほど経ったら私は戻るわね。秋川くんも気をつけて──」

 

 ようやっと手を離したかと思ったら次いでアクシデント。

 

「キャッ!?」

「うぉわっ……!」

 

 明らかに動揺した様子のサイレンスの足がもつれ、転んだ彼女を庇おうとした俺ごと二人で砂浜に倒れ込んでしまった。

 俺が下。

 サイレンスが上。

 よりによって俺が押し倒されるのかよ。ラブコメ主人公への道のりは遠いらしい。

 何だかここ最近は異常な体験ばかりしてきたせいか、サイレンスに押し倒されるくらいではあまり動揺しなくなってしまった。

 嘘。サイレンスの手が俺の胸をがっしり掴んでてヤバい。だから逆なんだって。

 

「ぁ──」

 

 俺の上に跨った状態のサイレンスが固まった。まぁ思考停止するのも頷ける状況ではある。俺も頭の中では色々考えているが実際に動くことは出来ていない。

 まず最初に思ったのは、サイレンスがとても軽いという事。

 次に下半身の上に乗った彼女の身体の柔らかさ。

 最後は間近で見るとこの女マジでめっちゃ可愛いな、という事だった。この女子と友達ってマジ? 前世は救世主か何かだったのかな。

 

「……よっ」

「ッ!?」

 

 とりあえず胸に乗っていたサイレンスの手を退かし、そのまま握ってみた。

 つまりサイレンスに跨られたまま、二人で両手を繋いでいる。

 ──恐らくいま可能な思考の中で最も冷静に理解できていることは、このめちゃくちゃな暑さで脳が茹っておかしくなっている、という事だけだった。

 俺も男だ。

 一介の男子高校生だ。

 呪いだの何だのと特別変わった事情が無ければ興奮しない、というワケではない。

 普通に好いている女子と接触できるハプニングが発生して、駄目だ絶対に正気に戻ろうと思えるほど立派な理性は持ち合わせていない。

 

「あ、秋川くん……っ」

 

 おてて握るだけでもうヘバっちゃった? そういうところもおちゃめですね♡ 普段から怠惰だからだ! 体力つけろ!

 

「どうにも暑いな」

「……そう、ね」

 

 ぽた、ぽた、とサイレンスの首筋から汗が垂れる。

 握っている両手も湿っている。おいもっと汗でヌルヌルにせんか! 夏限定の潤滑油。愛情たっぷりのローションだね♡

 夜の公園で二人きりで握手洗いしたあの頃を思い出して心臓が鋭く脈打つぜ。

 

「サイレンス。顔が赤いぞ」

「秋川くんだって……」

 

 相変わらずすぐ照れるな。お兄さん心配だぞぉ。理性と常識と忍耐と知性。これが一丁目一番地だぞ。

 

「なぁ、サイレンス」

 

 もっと焦ってよろしくてよ♡ 早く堕ちろ! この阿呆!

 

「マンハッタンさんってさ、スキンシップで簡単にキスをするようなウマ娘なのか?」

 

 よく考えず聞きたい事だけ聞いている。

 オイなんだこの手を握る力は! ボクと恋人になる気まんまんじゃないか。

 

「えっ、き、キスを……?」

「あぁ。頬に、だが」

「それは……──そんな事は無い……と思う。カフェさんは真面目だし、いたずらに相手を焦らせるようなことは……って、え? もしかして」

 

 暑すぎて本格的に脳が茹ってきた。視界もぼやけてるし水分補給をしないとヤバそうだ。

 もう少しサイレンスと恋人繋ぎをしたかったところだが、そろそろまともに戻り始めた俺の理性が叫び声をあげるところだ。早めにこれを終わらせないと。

 手を離し、ようやく二人とも立った。ちなみに俺はあと一人立たないように努力している。

 

「…………すまん、暑さでどうかしてた。海の家にいた時よりもっと見られたらヤバいことしてたな……マジでごめん」

「……カフェさん、そっか……私、のんびりしすぎてたかも……」

「さ、サイレンス……?」

 

 正気に戻ってきた俺の言葉が届いているのかいないのか、サイレンスは何かぶつぶつと呟いている。

 流石にやり過ぎたかもしれない。嫌われるというか絶縁されてもおかしくないほど性欲に則った行動をし過ぎた。冷静に考えて女子の手を一方的に握るのは許されない事ではないのだろうか。

 しまった。

 終わった。

 何が暑さだ、そんなものどうとでもできたはずだ。完全に言い訳を装備した状態で色欲に抗えなくなっていただけじゃないか。少し寝込む。

 

「──んっ」

 

 焦っていたら、唐突にサイレンスが頬にキスをしてきた。

 ………………は。

 いや、ついこの前もこんな事があった。

 その時と同様、固まってしまっている。

 何が起きているのか分からない。空前のほっぺチューブームかな。

 

「……私、先に戻ってるわね」

 

 そう言って、若干頬を赤く染めた彼女は逃げるように岩陰から去っていった。

 

 ──?

 何で頬にキスした?

 情緒が暴れまわってまったく品がない! 静かに!! そして軽やかに。ワイルドビューティー。

 あんまり俺の心をかき乱すと勢い余って告白してしまうぞ。静粛にな。

 

 


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