うおっ乳デカいね♡ 違法建築だろ 作:珍鎮
──もしかしてマンハッタンカフェは俺のことが好きなのではないだろうか。
そんな考えが過っては消えてを繰り返し、目の前の光景に集中できない。
頬にキス、とは。
ほっぺにチューなどという行為は、頑是ない子供同士でなければ成立しない、幼少期にのみ許されるお遊びだ。
高校生の、ましてや異性がそれを行うなんて恋人だとか余程親密な関係でなければ本来はあり得ない。
だが、数十分前に俺はそれを体験してしまった。
その少女の親友を助け出し、まぁ多少は感謝されてしかるべきだろうとは思っていたが、まさか一気に段階を飛ばしてあからさまな“好意”を示すモーションを仕掛けられるだなんて全くの予想外だったのだ。
思考が吹き飛ぶのも道理というものだろう。まったく一回のキスで俺の思考を吸い尽くしやがって。窒息するかと思ったぜ。ライフセービング。
俺が知らない異文化のコミュニケーションという可能性は除外した。ただの友人に直接頬にキスをして感謝を示す習慣などこの国には存在しない。
だから考えは二つだ。
マンハッタンカフェが俺に好意を抱いてくれているか。うれP!
それとも思春期特有の、少々いきすぎただけの気の迷いだったのか、である。
からかっているだけ、というのは無いだろう。少なくともマンハッタンはそんなことが出来る性格ではない。スケベなのだがな。
だからこそ、言い訳という逃げ場が用意できず困っている。
──後で考えよう。混乱しすぎて何も纏まらない。今は目の前にやるべきことが迫っているのだ。
「……二年ぶりの再会がこれって」
「それは……ほんと、申し訳ない」
自室へ戻った俺を待っていたのは、着替えでシャツのボタンを留めている最中のやよいであった。
互いに数十秒ほど固まったのち、俺が部屋を出てやよいがササっと着替え、いまこうして正座しながら向かい合っている。
「……久しぶりだな、やよい」
「驚嘆ッ。切り替えの早さがおかしい」
「悪かったって……」
数年ぶりに再会した従妹は朝という事もあってか、寝ぼけ眼をこすりながら若干不機嫌だった。
あぁそう言えばこいつは朝がめちゃくちゃ弱いんだったな、と今更のように思い出す。
いつまで経っても居間に来ないから起こしにいったらそのまま布団の中に引きずり込まれた事もあった──そんな昔の記憶を思い出しているうちに、気がついた。
いつの間にか、やよいがすぐそばまで迫ってきている。
察した俺が腕を広げると、彼女は無言で俺の胸にぽてっと体重を預けるように倒れ込んできた。うひょー全身柔らけぇ。
俺も彼女の背中側に腕を回し、いつものように後頭部を優しく撫でる。
そのまま数分ほど受け止め続け──やよいがスンっと鼻を鳴らした。泣いてはいないが、ちょっと危ない。痴れ者めが。ズルい女。しかしどうしてかわいいのだ。
あやすように背中を撫で、彼女から話を切り出せるようになるまで、俺はその体勢のままひたすら待機する事になったのであった。父母の会。
──秋川やよい。
幼少期から苦楽を共にしてきた少女であり、血縁上の従兄妹にあたる存在だ。
本家の跡取りである彼女を支えるため、という名目で分家の息子である俺は秋川家の中で唯一やよいと同じ教育を受け、ほぼ四六時中やよいの傍で生活していた。
離れ離れになったのは二年前。
叔母が海外へ活動拠点を移し、中央トレセン学園の理事長をやよいが就任する事になった際、駄々をこねて反抗する彼女を強い言葉で諭し
やよいは天才だ。
余裕で飛び級できる学力と、本家の人間たちから吸収した経営者としての能力は学園の理事長を務めるには申し分ない才能であり、立場とステータスだけを見れば大人顔負け──現に学園の理事長として大成し、ウマ娘のレース界隈を支えるにあたって無くてはならない存在になっている。
だが、俺は他人が知り得ない彼女の弱さを知っている。
逆に言えばそれを分かっている俺だけは、素のやよいに寄り添えるような人間でなくてはならなかったはずなのだ。
しかし学園を継がなくてはならない彼女を説得する立場に置かれ、俺はその役割を完遂してしまった。
結果だけ見れば学園の拡大に繋がったが──俺にとっては間違いだった。
いつでも、どんな時でも、俺はやよいの味方でなければいけない筈だったのだ。
「……なに、理事長秘書補佐代理って」
ようやく落ち着いてきたやよいが、俺の首に下がっている名札を見て呟いた。上目遣いが結構クるね。
「駿川さんが用意してくれたんだよ。コレくらい用意しないと、イベントと無関係な俺はここにいられないからな」
「ふぅん……たづなさんがね……」
胸に蹲っていた彼女はゆっくりと離れ、前髪の毛先を指でクルクルしている。
視線は下を見たり俺を見たりと忙しない。
勢いで抱擁したはいいものの、やはり久方ぶりの再会という事もあってやよい自身も緊張しているようだ。
「……お母様に言われて来たんでしょ? どうせお願いって名の命令で」
「いや、それは違う」
若干不貞腐れたような態度だが全ての非は俺にある。正直ここで殴られたっておかしくはない。
だが否定するべき点はしっかりと否定しなければ。なぁなぁは良くないと、ドーベルとの一件で学んだのだ。伸び代に驚愕。
「叔母さんは背中を押してくれただけだよ」
「なにそれ……」
「会いに行けない俺のケツを叩いて、わざわざ理由まで作ってくれたんだ。嫌々でここまで来たわけじゃない」
一拍置いて緊張を殺し、今度はしっかりと彼女の瞳を見据える。
「ずっと会いたかったんだ、やよい。……あの時は本当にすまなかった」
恐らくこれまでの人生で一番真面目な態度を構え、俺は彼女に頭を下げた。
二年間も溜め込んでいた謝罪の言葉を吐き出せて少しスッキリした自分がいる。彼女がどんな反応を示すのかは分からないが今の俺なら冷静に対処できる事だろう。それほどまでに心が安心し、落ち着いた。
「──別に、いい。……てか、ずっと会いたかった、って。……葉月、私のこと好きすぎでしょ」
「……?」
何を言うかと思えば。こちらも呆れ返るまでよ。
幼少期の俺にとってはやよいだけが唯一の家族だったのだ。
当たり前のように宇宙で最も愛しているに決まっている。好きとかそういう次元の話ではない。
「お前より大切な存在なんているわけないだろ」
「っ!」
あなにそのビックリした反応。やっぱりまだ根に持ってる? 本当に申し訳ございませんでした。土下座より上位の謝罪方法ないかな……。このままバク転とかしてみるか。ボビュルン。
「……ふ、ふんっ。別に今更葉月の手助けなんていらないし。社会経験で言えば私の方が大人だし」
「いや……仕事を手伝いに来たわけじゃなくてな」
「えっ」
お前が仕事をし過ぎてるから休ませるためにここまで来た、と言ったらやよいは不思議そうに首を傾げた。たぶん自分が“仕事をし過ぎている”という感覚が無いのだろう。気づいてないだろうが目の下のクマがヤバいぞ。寝かしつけてやる! 大人しくそこに直れ! キスをプレゼントしてあげるから。
「スケジュールはもう確認したぞ。やよいお前、自分がやらなくてもいい仕事まで引き受けすぎな」
「うぇっ……で、でも、学園側で処理しないといけない項目が多いし……」
「……駿川さんとか他の職員の人たちでも出来ることは素直にそっちに回しなさいよ。一応言っとくが、お前が思ってるほど大人の人たちは余裕が無いわけじゃないからな?」
「う、うぅ……」
やってみせ、言って聞かせてさせてみて、誉めてやらねば人は動かじ。
昔から溜め込むタイプなのだ。俺が言わなきゃ素直に甘える事も出来ない、大の不器用。
だから俺が傍にいるうちは頑張りすぎている彼女を頑張りすぎないよう手回しをしなければならない。倒れられたら俺だけじゃなく大勢の人が困る事にもなる。
「ちなみにやよい」
「何……」
「お前、昨日は寝た?」
「……三十分、ちゃんと仮眠した」
ちゃんとって言わないんだそういうのは。忙しいのは分かるが明らかにスケジュールを詰めすぎだ。予定表を見た限り、急がなくていいものまで早期の段階で処理しようとしている。焦りは禁物。その小さな体躯で何をのたまう? 貧弱な体力で何徹できると思い込んでいる? 状況判断が大切だと教えたはずだ。
「と、とにかく私もう行かないと」
「論外。絶対に今日一日は休養に充ててもらう」
「でも私がいないと……」
「誤認っ。ステージの照明の位置決めは向こうに任せて良し。現場で手伝っても邪魔になるのみ」
「…………じゃあ、寝る」
「重畳ッ!」
とりあえず休ませることには成功した。コイツが寝ている間にスケジュールの再調整をやっておこう。
サンデーちゃんはその子に掛け布団をかけてあげてね。
……
…………
「はい、明後日の早朝に伺います。……はい、よろしくお願いします」
あれからだいぶ経過し現在時刻は十五時を過ぎた頃だ。昔はこれくらいの時間になると台所に忍び込んでパクった高い茶菓子をやよいと分け合ってたりしてたっけか。
仕事を手伝いに来たわけではない、とは言ったが何もしないわけにもいかず、理事長秘書補佐代理として代われる仕事は全部請け負った。あらかた連絡を終えてから適当なおやつを買ってやよいが寝ている部屋へと戻っていく。
徹夜した後となればまだまだ寝ていてもおかしくはないが──
「……あ、はづきぃ」
襖を開けた先には、布団の上に座ったままポーっと虚ろな目をしている、明らかに寝起きのやよいの姿があった。花に例えると……うんまあちょっと思いつかないけど。
俺に気がついた彼女はだらしない笑みを浮かべて、腕を広げた。どういうおつもり!?
「ぎゅー」
「……」
「っ……? はづき、ぎゅー」
ウサギと亀。
何だっけ、と一瞬の逡巡を挟んだのちに思い出した。
小さい頃によくやっていたスキンシップだ。寝起きは俺が彼女を抱っこして居間へ運んだり、髪を結ったりしてあげていたんだった。
特に彼女が求める頻度が多かったのはこの抱擁だ。酷い時だと十分以上くっ付いたまま離れないこともあった。お~俺を欲しすぎている♡ 猛省せよ。
「はいはい、ぎゅー」
「うへへ……」
徹夜後の寝起きのやよいはトレセン学園の理事長ではなく、いつも俺の背中に引っ付いてきていたやよいちゃんに戻ってしまっていた。余程根を詰めていたのか、解放された時の反動が凄まじいことになってる。そういうことならお手伝いさせて頂きますよ……♡
幼い子供みたいに腕を広げる彼女を抱きしめると、やよいの方からも優しく抱き返してきた。……あなたちょっと服の匂いを嗅ぎ過ぎです。
「はづき……すきぃー、すき……」
「……すっかり甘えん坊さんに戻ってるな」
「あのね、およめさんにしてね……けっこんするのね……」
「必要ないだろ、それ」
従順になるとめっちゃ可愛いな……余情残心。ご褒美に抱っこしながらゆっさゆっさ。我慢てものを学んでもらいてぇべ。
結婚とは他人と他人が家族になるための儀式だ。既に家族である俺たちには必要ない。
というか、ここまで今朝と様子が変わるとは思わなかった。
朝はよっぽど張りつめていたか、もしくは距離感を測りかねて強がっていたのだろう。俺と二人きりの時のやよいは、どちらかと言えばコレくらいフニャフニャなのが平常だ。因果応報とはこのことだな。
「明日はねぇ……生徒たちが海に行くから……監督役……」
この状態でも薄っすらと予定を覚えている辺り流石というか。
理事長自ら監督役を買って出るのはどうなのだろうと思いつつ、彼女の息抜きをするいい機会だとも考えた。
明らかに監視者っぽい見た目に扮した俺がウマ娘たちを見てるので、その間やよいは海で遊ぶといい。生徒との交流も大事な仕事の内だとかそれっぽい理由を用意しておけばいけるだろう。
◆
ああ。
「ウオッカー! ボールそっちに行ったわよー!」
ビーチバレーで揺れ蠢く巨乳。目撃した瞬間首筋に熱い汗がジュワッ。
「おうタマ、もうちょい右だぜ! そのままだとスイカを通り過ぎちまう!」
トレーニング用の水着をデカすぎ乳でいじめている悪党を発見。身長の栄養分が全て胸部に詰まっており。改めて子作りに最適な身体してるなぁ。
「す、凄いオペラオーさん……砂でご自分の等身大の像を作られてしまいましたぁ……」
メイショウ違法。
違法建築違法建築違法建築。
直視に耐えない一種の地獄。
どいつもこいつもスク水でトレーニング兼遊びを行っているがあまりにも生徒たちが集まりすぎておっぱい偏差値がバグってしまっている。
やよい! 無理だ! 帰ろうッ!!
「理事長~、一緒にスイカ割りしませんか?」
「勿論ッ! 諸君の指示に期待しているぞッ!」
知らない生徒に連れていかれた。終わった。
監視しないといけないのに直視したら通報待ったなしの下卑た笑みを浮かべてしまう。このスケベビーチに俺の居場所が無さすぎる。
海の家の端っこで体育座りしながら唸るしかない。くつろいだ。ビーチの中は窮屈で、帰りたい帰りたいと心がもがく。
「……秋川くん?」
「えっ」
「やっぱり。秋川くんも来てたんだ」
「さ、サイレンス……」
拠り所みっけ。
絶望する俺の目の前に現れたのは、スク水の上に一枚だけパーカーを羽織るとかいう逆にえっちすぎ格好をしたサイレンススズカであった。
普段なら目を背けるところだが、友人という関係に甘んじて視線を逃がせる先が彼女しかいないため、今はまじまじとサイレンスを見つめるしかない。べらぼうめ。そういうわけにはいかねぇってんだ。
「あの、サイレンス。悪いんだが暫く隣に居てくれ」
「えっ?」
「頼む。飯代は奢るから」
心からの願い。お鍋が食べたい季節ですね♡
「いいか?」
「え、えぇ。……隣、失礼するわね」
困り笑顔好き。
「……あの、ずっと見つめるの? 私のこと……」
「駄目か?」
「ぁいや、別に……構わないのだけど……」
うほっ♡ オールライツ。とりあえず服脱ごっか。