うおっ乳デカいね♡ 違法建築だろ 作:珍鎮
「ハヅキ、大胆だね」
「あいつらの方が百倍大胆だわ。……はぁ、疲れた」
自宅へ到着し、荷物を投げて床に寝転がる。
──天井を見つめたまま固まった。
あまりにもムラムラするどころの騒ぎではない。ユニバース・フェスティバル。
健全な男子ならば日常的に行うストレスの発散を封じられて四日。
本来であれば悩みの種になるはずのやよいとの再会も二の次になるほど、内側の欲望が俺の煩悩を刺激し続けている。
ただ日常生活を送り、その中で我慢するだけであれば何も問題はなかったのだ。
サイレンスに触れられ、マンハッタンに囁かれ、ドーベルに密着されたせいで頭がおかしくなっている。コリャッ、えっちな攻撃で思考を汚すなよ! 気にせず続けていいぞ。
非日常的な女子との触れ合いで性欲が爆発寸前だ。
こんなラブコメ通り越したラッキースケベみたいな接触が多くなれば、煩悩が暴走しかけても何らおかしな話ではない。う~ん甘露甘露♡
ドーベルに対するアレでも大分抑えた方だった。
比喩抜きに路地裏に連れ込んだ瞬間あいつの唇を奪ってしまっていてもおかしくなかった。
それほどまでにエロダメージが蓄積しているという事なのだ。何なんだこの拷問は。リンパだよ。
「このまま眠るの?」
「……なんもやる気が起きん」
そもそもの原因はあの怪異だ。
サンデーというほぼ出会ったばかりで友人とも呼べない不思議な関係性の女子が四六時中一緒にいるから発散できないわけだが、元を辿ればこの少女がくっ付かなければならないのは怪異のせいなのだ。
マンハッタンカフェが大好きなコイツからしても、俺と一緒にいるこの状況は中々にキツいはずだ。
彼女を親友の元へ帰すためにもこの状況の改善は急務。
呑気に呪いを抜いている場合ではないのだ。明日のお昼ご飯どうしようかな。
「サンデー。怪異って倒せるのか」
「存在を消すことは出来ないけど、心を折れば二度と近づいて来ない」
あの怪奇現象共に心なんてあったんだ。仲直りしたい。
「存在の概念的には私とほとんど一緒。彼らは私には攻撃できないし、私も彼らには触れられない」
「……どういう原理だ?」
「味方を殴ってもダメージが入らないゲームとかあるでしょ。あんな感じ」
世界から見てサンデーとあいつらは同一の判定なのか。
悪そうな怪異の話をマンハッタンから多く聞く辺り、多分彼女に味方しているコイツの方が変わり者なのかもしれない。だがイイ子供を産みそう。素敵な家庭を築けそう。
「どうすれば心を折れる?」
「例えばだけど……レースでポコポコに打ち負かす、とか」
ぽこぽこ。
なるほど確かに名案だ。
レースで負けたらバチクソに悔しいであろうことは容易に想像できるし、それが繰り返されたらもうちょっかいかけようだなんて思わないだろう。
同じ存在であるサンデーならともかく、正真正銘普通の人間である俺に負けたらやる気も萎える。
問題はまるで全然ヒト型じゃないアイツらとどうやってレースをするのか、そもそも何をすればレースに応じるのか、という部分だが。
「ちなみに私と一緒で言葉は通じる」
「おっ。んじゃあ挑発すればいけるな。相手がどんな姿形でも、サンデーが憑依しとけばレースは負けないだろ」
あっけらかんとそう言ってみたところ、無表情な彼女は少しだけ俯いた。
「……勝てるだろうけど、
ユナ……何だって?
「
「はぁ……よく分かりませんが……俺のが強いってことか」
「部分的にそうなだけ」
何だか真面目に話をするターンになった気がするので、起き上がって部屋の電気をつけ、二人分の麦茶を用意してサンデーの向かい側に腰を下ろした。首脳会議。
「肝心なのはユナイトしてる時でもハヅキの身体はあくまで人間ってこと。一体化してるから多少の肉体変化は起きてるけど、大元が人間だからウマ娘みたいな走りを全力でやったら……」
ヤバい、ってことか。
「そう」
なるほどな。それはヤバい。
「語彙力」
「疲れてるって言ったろ」
言いたいことは分かったし状況も整理できた。
呪いの解除が進めば襲われづらくなるが、怪異自体がいなくなるわけではない。
なので大元を叩いた方が話は早いが、殴り合いみたいなバトルが出来ないのでレースで喧嘩を売るしかない──が、相手と同じ土俵に立つためにサンデーと合体すると、いざ走った時に俺の肉体がめっちゃ悲鳴を上げる……と。
こんな感じか。
とりあえず現状の把握ができて良かった。
今後の行動の具体的な内容は明日から考えよう。
もうムラムラしすぎてまともな思考が出来ないのだ。理性が揺らぎ過ぎて制御が大変だ。よいせこらさ。
「とりあえず今日は風呂入って寝る」
「そう」
立ち上がり、着替えをもって浴室へ向かう。
寝るときは別々の布団を用意していて、風呂に入るときも一工夫入れる。コレが今現在のサンデーとの距離感だ。
物理的な距離の近さで言えば一番だが、知り合いのウマ娘の中では俺の情緒を乱さないという意味で信頼できる相手である。
「ハヅキ、入る」
「おう」
コレは一緒に風呂に入るという意味だが、いかがわしい意味は一ミリも含んでいない。
風呂と言えど隔離された場所である為、俺が入るときは背を向けて浴室の中にいてもらっているのだ。もちろんサンデーは濡れてもいい服を着ている。
直接こちらを見られなければ問題はない──わけではないが、まぁ感情は誤魔化せる範囲だ。
初日は目隠しをしてもらっていたが、足元が見えないのは危ないので外してもらった。流石にサンデーの安全が優先だ。
「……ハヅキ、質問」
「どした?」
髪を洗っていると後ろから声をかけられた。びっくりしたなぁ。
「分からないから、正直に聞く。傷つけてしまったら、ごめんなさい」
「そんな繊細な心してないから言ってみ」
「はい」
一度シャワーを止め、彼女の言葉を待った。
「……私は、ハヅキの誇りと本能的な欲求の、どちらを優先してあげた方がいい?」
誇りってなんだ。
そんな大層なものを掲げた覚えはないのだが。
──あぁ、もしかして。
「誇りって、俺の男子としてのプライド的なアレのことか?」
「そう」
男のプライド。
それは自分を守るための大事な一部だ。
もし欲に屈してサンデーに『自慰するから見えないところに行ってくれ』だなんて直接口にしたら、恥辱のあまり死に至る事だろう。
だが、それを知ったうえで彼女は俺の身を案じている。雅だなぁ♡
この家に来た初めての夜、サンデーは『邪魔になるつもりは無い』と言った。
しかし現状、俺のムラムラ爆発寸前の性欲を発散できないという意味で言えば、間違いなく弊害となっている存在だ。
それが引っかかっているのだろう。
心を読める彼女にはすべてが筒抜け。
先ほどの恥ずかしい思考もあくまで思考。口に出さなければ一線は越えないという、俺としても不思議で中途半端な感覚で心を守りながら一緒に過ごしているのだ。
サンデーは心優しい少女だ。間近で見るとお顔がとんでもなく良いな……。
出逢うきっかけこそ不可抗力的な流れだったが、それでも俺に対して出来る事が何かないかとずっと考えてくれている。
それは素直に嬉しい。
これから共に怪異と戦っていく相棒として、これ以上ない程頼もしい存在と言える。
しかし、やはり俺たちは同年代の異性なのだ。
絶対に意識しない、ということは不可能に近い。
サンデーにできても俺にはできない。
高校生なんざ小学校からの馴染みで全く意識したことがない女子とですらワンチャン考えるような多感な年頃なのだ。恋愛事に脳を半分食われてると言っても過言ではない。
誰も責められないような合法的な理由で四六時中一緒にいることになった少女相手に、邪な感情を抱かないなんて難しすぎる。
何かの拍子で好きになってほしいし、何なら彼女の優しさとちょっとした無防備さにやられて俺はもう八割くらい堕ちている。
触れたいし触れられたい。
相手がそれをしてもいいと提案してくれているなら、そのまま流されてしまいたい。参ったね。
──それでもダメなのだ。
別に紳士のように誠実な対応を心掛けているわけではないが、このまま仕方のない理由を盾にサンデーと良からぬ方向に足を進めてしまったら、俺はきっといつか後悔する。
性欲に負けたい。
式場を探したっていい。
それでも自分を自分として繋ぎ止めるための最後の理性が、サンデーの優しい提案を蹴ってしまう。
俺が秋川葉月である限り、これ以外の結論が口から出る事は無いのだろう。
「誇りを優先してくれ。本能的な欲求に従ってお前に何かしたら、マンハッタンさんに合わせる顔がない」
「……そう」
そこまでで話を切り上げ、さっさと入浴を終えた俺は布団を敷いて電気を消した。
サンデーの質問で少しだけ頭がスッキリした。
やはり男がやる気を持続させるにはカッコつけるのが一番だ。
「ハヅキ」
「ん……どうし──」
布団の上で寝転がった直後、上からサンデーの声が聞こえてきた。
薄く目を開けると彼女の顔があり、いつの間にか自分が膝枕されていたことに気がつく。
気がつけば恋人。明日のデートどうしよう。YO。
「な、何だ。どうした?」
「……ハヅキの気持ちを優先したい。でも、辛そうにしている姿を見続けるのも、イヤ」
「そうですか……え、なに」
「私のワガママだから、ハヅキは悪くない」
そういう問題じゃないんだって。
何をするつもりだ。三行以内でお願いします。
「夢を見せる。今抱えているストレスを解消するのに、一番適した夢になるよう、がんばる」
「いや頑張るじゃなくて……てかそれ、お前が考えた夢を俺に見せるってことか?」
何でそんなことが可能なのかは一旦置いとく。
問題は俺が望んでいないという点だ。
「大丈夫。夢の内容は私には知覚できない」
「……今さっき『適した夢になるようがんばる』って言ったばっかだよな」
「………………静かにしてください」
ぺたぺたと俺の頬を揉んでいた白皙な手が、まるでアイマスクをするかのように目を塞いだ。
見えない、何も。こわい。
オイ! 何カップだ?
「自分の気持ちを守るのは、大切な事だと思う。強い思いならそれは意地じゃなくて誇りになる。……でも、ハヅキの体調はもうハヅキだけの問題じゃない」
目を塞いでるおててあったかい。バレーボールの才能があるな……。
「ペンダントを身に着けた時の暴走……抱える感情が多ければ多い程危なくなる。ウマ娘のスズカとカフェは大丈夫かもしれないけど、外へ逃げたら大変なことになると思う」
「いや、あの二人が押さえつけてくれるだろ」
「二人とも、きっともうハヅキには乱暴できない。それくらい心が通じ合ってしまってる」
それってアイツらが俺のこと好きってこと? ハーレム主人公?
「ふざけてる場合じゃない。大切な友達なら当たり前のこと。ハヅキだって山田君のこと殴れないでしょ」
……それはまぁ、確かに。
「だから今のうちに少しでも悪いモノを抜いておく。夢だから内容は忘れるし、実際には私もハヅキも何もしてないから──」
「あぁ分かった、わかったよ」
太ももが震えすぎてPID制御が効かないよ。もしかして相性抜群!?
ここまで色々な事を考えて、悩みに悩んだ結果こうして行動に移しているのだろう。
俺の気持ちと抱えているものを真剣に考えて、なんとか折衷案をひねり出してくれた。
ここで意固地になったら流石にサンデーに対して不誠実にも程がある。誇りを守る事と、他人の気持ちを無下にすることが繋がってはいけないのだ。
「ありがとな、サンデー。ここは甘えさせてもらう」
「……ん、わかった。了承してくれて、ありがとう」
シリアスに様々な思考をしてきたがそもそも疲労が限界だった。
クソ眠いので後はもう寝る。ただそれだけの話だ。
寝ている最中に不思議な夢を見るかもしれないが、所詮はただの夢。
いかがわしい事など何もしていない。
何より起きたらあっという間に忘れる。
だから寝よう。
もう、眠ろう──
◆
「……」
「っ…………」
「…………………おはよう、サンデー」
「…………おはよう、ございます」
何も覚えていない。
何も覚えてない。
最初はサイレンスとマンハッタンとドーベルの三人が俺を囲むという夢でしかありえない光景ながら夢であればありがちっぽい楽園が広がっていたような気がしたがそれも覚えてない。
時間が経つにつれて彼女たちがどこかへ消えてしまい、そばに居たのはサンデーだけだったような気もするが覚えていない。
二人きりになったがそれが何だ。
何もしていない。
何もしてない。
忘れた。
忘れた。
夢の内容など何もかも忘れて何一つ覚えていない。
覚えていないのだ。
何も。
なにも。
「……夢のコントロール、下手だな」
「しょぼん……」
「……とりあえず結婚するか」
「わすれて……」
わがままな女体だ。しかし美しいんだ。
紆余曲折。
何やかんやあったが、結果的には俺の中の邪な欲望が鳴りを潜めた事と、所詮は夢なので何もしてないしすぐに忘れるという事で、誕生日の前日を迎えた俺は盛大な二度寝を決め込むのであった。