現状を把握しよう1
――何が起こったかと言うと、話は簡単だ。
輪廻転生である。
何の面白みも無く事故死して、もう一度生まれ変わったらしい。
そのことは、意識が戻った瞬間に理解した。特に神様に会ったからとかそんなんではなく、自分が一度、確実に死んだ感触がまだ残っていたからだ。
トラックに潰され、骨がバキバキになり、身体中が悲鳴を上げてグチャグチャに潰れていく感触。
身体から力が抜けていき、自分の血がどんどん体内から外へと溢れ出していくのがわかるのに、痛みも何も感じず、目の前が徐々に真っ暗になっていく感覚―――。
ぶるりと身震いし、大きく深呼吸して、嫌な記憶を頭の中から追いやる。
まあとにかく、一度死んだはずなのだが、気が付くと俺はここ、玉座の間っぽい場所で倒れていた。
品の良いシャンデリアに、柱と壁。窓は無く、奥行きはそこまで広くない。
俺の背後に鎮座するは、飾りは少ないが荘厳さを十分に感じさせる玉座。そこから真っすぐレッドカーペットならぬブルーカーペットが対面の壁まで敷かれ、そちらにはこれまた装飾は少なめだが、買ったらいいお値段しそうな扉がある。
ただ、何と言うか全体的に、悪役っぽさの漂う部屋だ。ゲームのラストダンジョンに出て来る魔王のいる玉座の間を、幾分と縮小した部屋、といった感じか。
しばらく呆けてから俺は、とりあえず現状を把握しようと立ち上がり――そして、目線が高くなったことにより、玉座の裏にソレがあることに気が付いた。
「何だ、これ……?」
そこにあったのは、丸い、バスケットボールを一回り小さくしたぐらいの、虹色に光る宝玉。
俺は、何とはなしにそれに手を伸ばし―――。
「ッ!?がああアああアアアッッ―――!?」
宝玉を触れた瞬間――突如襲い掛かる、強烈な頭痛。
まるで脳みそを直接弄られるかのような、不快な感覚が全身を襲う。
思わず膝から崩れ落ち、床に両手を突く。
眼の端から涙が滲み、あまりの痛みから視界がぐらつき、吐き気がこみ上げる。
――その地獄のような頭痛は数十秒続くと、やがて波が引くようにして消えていった。
「ハァ……ハァ……なるほどな……」
――そして俺は、その語句を唱えた。
「……メニュー」
すると同時、目の前に透明なガラス版のような――要するにゲームのメニュー画面のようなものが、目の前に出現した。
これは、唱えた者が一番使いやすい形で現れ、例えばこの世界にもいるゴブリンなどの原始的な種族の場合は『メニュー』を唱えると石板が出て来るし、他の人間に近い生態の種族の場合は、大抵が本の形で出現する。
俺の場合は、やはりよくゲームをしていたためか、これが俺にとって一番使いやすい形だと判断されたようだ。
そんな知識が、まるで脳内に辞書があるかのように、俺の頭にポンと浮かぶ。
……いや、本当に脳みそに直接知識を植え付けられたんだろうな。
ふらつく頭を押さえながらメニューへと視線を向けると、表示されているのは、『ステータス』、『DPカタログ』、『ダンジョン』、『ガチャ』の四つの項目。
『ガチャ』の項目がすんげー気になるところだが……とりあえずそれは後にして、スマートフォンを操作するのと同じような感覚で『ステータス』の項目をタッチしてみると、俺のステータスらしい数値が表示される。
「へぇ……って、種族がアークデーモンて」
いつの間にか俺、人間じゃなくなってたんだが……。