うおっ乳デカいね♡ 違法建築だろ   作:珍鎮

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文字数がヤバくなったので分割しました♡あっ♡少しばかりイグッ♡


押し倒されてる感想はいかが? 述べろ!

 

 

 心頭滅却すれば火もまた涼しという事で、水風呂に突っ込み性欲を強制的に鎮火させてからサンデーを無視して床に就いた翌日。

 先日の約束通り昼過ぎにマンハッタンがウチを訪ねてきた。

 

「お邪魔します……」

 

 ウチに来たのがまだ二回目という事もあってかソワソワした様子で腰を下ろした彼女は制服ではなく私服を着込んでおり、いつにも増して落ち着いた印象を受ける。

 しかしその服は童貞好み、スカートが長くて逆にえっちだ。

 風情があるね。和三盆。

 

「外暑かったよな。これ、麦茶」

「あ、ありがとうございます。頂きます」

 

 実は、彼女が自宅を訪れるまでに考えていたことがあった。

 

 バイトを始めてからのこの数か月の間、立て続けに知り合いが増えたことでどうやら感覚が麻痺していたようで、よくよく考えるとマンハッタンカフェにだけは、こちらからの何かしらのアクションをひとつも起こしていなかった事に気がついたのだ。

 不可抗力で助けたのはあくまで彼女の担当トレーナーであり、マンハッタン自身に手を貸した覚えはこれといって無い。

 道端で鍵を拾った事に関しても、正確にはサンデーが教えてくれた場所に落ちていたものを拾って渡しただけで俺自身は何もしておらず、また通りがからずともそのうちサンデーが拾って彼女に渡していたであろうことは想像に難くない。

 

 そこで思い至ったのだ。

 俺がマンハッタンカフェに快く思ってもらえる要素無くないか、と。

 

 脱水症や呪いの件といい、俺は彼女に助けられてばかり──言ってしまえば迷惑をかけているだけだ。

 だが理性のリミッターが無くなった状態でのあの凶行も仕方ないものだと割り切れるマンハッタンさんであれば、世話になった諸々の件も『気にしないでください』の一言で片づけることが出来てしまうだろう。

 というわけで、俺が考えるべきなのは贖罪ではなく恩返しだという結論に至った。

 せっかく生まれた繋がりなのだ。途切れさせない為にはあらゆる手段を行使しなくては。

 無償の愛は無償で返すぜ。

 

「それ有償」

 

 静かにねサンデーちゃん。 

 抱き枕にされたくなかったら黙ってろ。えっちな幽霊の分際でよ。

 

「幽霊じゃないってば。カフェからも何か言って」

「え……?」

「そいつの言ってることは気にしなくていいから。それよりマンハッタンさん、昼はもう食べた?」

「あ、いえ……まだです……」

 

 よかった。

 恩返し計画その一は無事に決行できそう。

 受け取った恩を返すと言っても、マンハッタンの性格を考えると大仰なものはむしろ迷惑になってしまう可能性が高い。

 なので俺ができる事といったら、飯を奢ったり荷物を持ったりパシリになったりなど、誰でもできるような雑用を進んでやるくらいだ。

 今年一番のご奉仕をあなたに。

 

「いまから作るところだったんだけど……食ってく? 冷やし中華」

「えっ……いいんですか」

「ちょうど材料が二人分残ってるから」

「ですが、その、まだ解呪の儀式が……」

「飯食ってからでもいいかなと思って。腹減り過ぎた状態で理性が無くなった時とか……ほら、マンハッタンさんの髪とか食んだらヤバいし」

「……そう、ですね。よろしくお願いします」

 

 リミッター外しのペンダントに関しては今回対策を用意してあるのだが、空腹時の自分の挙動までは保証できない。

 お礼と保険も兼ねて先に昼食を作ろうと最初から決めていたのだ。乗ってくれて助かった。

 マンハッタンに『食べてきたから別にいらない』といった旨の発言をされたら凹むところだったので今日は運がいい。

 

 ──俺と彼女は超常の存在に巻き込まれた、という点でしか繋がりを持っていない。

 無論、この少女の献身によって解呪がなされた時にはそれが消滅し、俺たち二人が交流する理由は綺麗さっぱり消えてしまう事だろう。

 そして、特にこれといった理由が無い状態でも交流する事ができる関係性を、この世界では友人と呼ぶ。

 

 俺はこの呪いが消え去ってしまう前に、マンハッタンカフェと友人になりたいのだ。

 一度は自分から身を引こうとした相手だが、彼女から引き止めてくれた事実も加味して、友人になれる可能性はまだ残っているはずだ。

 お友だちになってください。

 了承してくれ! 心からの願い。

 

「お待たせ」

「どうも……いただきます……」

「ハヅキ、私もちょっと食べたい」

「俺のやるから小皿取ってきな」

「はい」

 

 この家の小さな丸テーブルを三人以上で囲んだのは初めてだ。素直に嬉しい。

 というか山田以外で俺の家で一緒に飯を食ったのマンハッタンさんだけ──いや、そもそも自宅に上げた事のある女子が彼女だけだ。

 どんどん俺の初めてを奪っていくね♡

 しかしやり過ぎくらいがちょうどよい。出過ぎた杭。

 

「……あなたが何かを食べているところ、初めて見た」

 

 サンデーを見つめながら小さく呟くマンハッタン。

 二人は昔からのお友だちとの事だが、意外にも一緒に飯を食う距離感ではなかったらしい。

 放課後にちょっとだけ遊ぶこともある別のクラスの知り合い程度の感覚なのだろうか。

 

「ん。私が一緒に食事をした場合、はたから見ればカフェの近くで食べ物が急に浮いて消える怪現象になってしまう。カフェが不気味に思われてしまうのは避けたかった。ので」

「そ、そう……」

「でもここにはカフェとハヅキしかいない。だから大丈夫」

 

 人気のない場所や自宅でも万が一を想定して一緒に食べる事はなかったようで、サンデーがどれほど本気でマンハッタンに対する周囲の目に気を配っていたのかが、少しだけ理解できた。

 自分が特異な存在だという自覚を忘れない姿勢には感服の一言だ。

 

「……ここなら、あなたと一緒にご飯を食べられるんだ。……でも、別に私はどこでも……」

 

 だがマンハッタンの様子を見るに、彼女は周囲からどう思われるかよりも、サンデーと一緒に食事をしたい気持ちが大きかったように思える。

 

「カフェはトレーナーにスカウトされても私の話ばかりするから、最初は全然担当が決まらなくて。結構心配だった」

「だ、だって……あなたは、ここにいるのに……」

 

 何だか過去にいろいろあったらしいが、結果だけ見ればマンハッタンカフェは現在優秀な担当トレーナーと契約し、日本中でファンをポコジャカ生みまくりなスーパー大人気ウマ娘になっている。

 彼女をそこまで育成できるトレーナーという事はサンデーの事も大体は知っているはずだ。

 その人の前でなら別に一緒にメシを食う事もできたのではないか、とつい邪推してしまう。

 

「ハヅキ。余計なお世話」

「いや勝手に心読むなって。思考しただけで口には出してないだろが」

「食べ終わったのならお皿洗う」

「聞けよ……」

「カフェも、ほら」

「あ、うん……よろしく……」

 

 まるで平然と家事担当みたいな顔をしているが、コイツは今朝お気に入りのマグカップを一個割っている。許さん。

 

「その節は、ごめんなさい。何でも言うこと聞きます」

「ほう」

 

 じゃあ次何か破壊したら耳くすぐるからな。覚悟しておけよ。

 

「セクハラ。えっち」

「……風呂までついてきた女が何言ってんだ、俺の方がプライベートを侵されてるだろ。えっち野郎はお前だぞ、距離感バグ女め。恥知らず」

「むむ」

 

 マジで性欲を発散する隙が無い。

 狭い家で唯一プライベート空間な風呂場にまで入ってくんじゃねぇよ。控えおろう。

 この煩悩を乗り越えることが出来たら、きっと俺は修行僧を通り越して仏になれる事だろう。

 風呂の件だけではなく、俺が寝そべってたら急に頬とか指で突っついてきたりもしたからな。

 そんなに俺からの折檻が恋しいのか?

 とんでもないモラルハザードだよ。

 

「…………」

 

 軽く口喧嘩をしていると、マンハッタンがジッと俺たちのほうを見ている事に気がついた。怒らせてしまったのだろうか。

 別にサンデーを非難しているわけではないのだ。最低限の節度を持ってほしいだけで。

 怒らないで♡ ごめんなさい♡

 

「……葉月さんは、本当にあの子が視えているのですね……」

「えっ?」

 

 マンハッタンの表情は怒りではなく困惑だった。

 コイツの存在は昨晩既に伝えてあるはずだが。

 

「どんなに目を凝らしても、誰の目にも映らない……私以外の誰にも……認識されない……トレーナーさんでさえも、そうでした」

 

 ガシャン! とけたたましい音が響いた。

 また割ったなアイツ。貸し一つプラスです。

 マンハッタンがシリアスに語ってる最中なので、もう怒らないから一旦静かにしていて欲しい。きみの話だぞ。

 

「……タキオンさんやトレーナーさんは……彼女の存在を信じてくれています。受け入れてくれる方たちがいる……」

 

 一拍置いて彼女は続ける。

 

「それだけで十分すぎるほど、恵まれている。たとえ視えるのが私だけでも……それは間違いなく、私にとって一番の……そのはずでした。

 これ以上を求めてはいけないと……ここから先はただの欲望、願望……あまりにも身勝手なワガママだから……」

 

 マンハッタンはサンデーの後ろ姿を見つめ続けている。

 彼女は変わらず洗い物をしているが、俺たちの会話に耳を立てていることは明白だ。耳がピクピク動きすぎている。

 

「でも、葉月さんは──……どうして、なのでしょうか」

 

 どうして、と言われても困る。

 俺が特別何かをしたわけではない。

 

「……その、悪い。マンハッタンさんの言ってること、多分あんまり理解できてない」

 

 ここはもう正直に言ってしまおう。

 知ったかぶりをすると後が怖い。

 

「まず特別視えるって部分が実感できてなくて……あいつ()()()()()()()()そこにいるし」

「……当たり、前……」

 

 普通の人間を前にして、他の誰かがそいつを見える事に驚いたとして、こちらとしては塩がしょっぱい事くらい当たり前なので困惑するだけなのだ。

 

 そもそもサンデーの外見に問題がある。

 彼女がいかにも非現実を思わせるような風貌をしていれば話は別なのだが、あまり汗をかかない事と、真夏にクソ暑そうなロングジャケットを着ているという部分以外に特別なところがほとんどない。

 まず透けているとか、露骨に半透明な体をしているわけでもなく。

 プカプカと幽霊みたいに浮遊するという事もない。

 極論、触れるし体温もある。

 一見するとちょっとミステリアスな雰囲気を纏った美少女というだけなので、要素だけ考えればマンハッタンとほとんど変わらないのである。

 

「……そう、ですか。葉月さんにとって、彼女は当たり前……なのですね……」

 

 距離感は全然当たり前の範疇じゃないけどな。

 お布団温めるとか平然と言うタイプだぞ。

 

「──あの子は……ここにいる。特別でも何でもなく……ただそこにいるだけの……──ふふっ」

 

 マンハッタンカフェの笑った顔、あまりにもかわいいので眩暈がした。弱点を検知。

 

 どうやら彼女にとってサンデーは、俺が考えているよりもはるかに大切な存在であったようだ。

 他の人間やウマ娘がその親友を認識できない状況は──まず、俺には欠片も想像できない。

 ……まぁ、いろいろシリアスな展開があったんだろう。

 そこは俺の知るところではない。

 マンハッタンカフェが抱えていたそういう部分を解きほぐすのは、きっと同じ学園に通うウマ娘や担当トレーナーなどの仕事だ。

 彼女には彼らとの物語があるのだろうし、恐らくそっちが本筋だ。

 俺はあくまで特殊な事情で偶然知り合っただけの、ただの男友達。

 ここにいるのはサブイベント的な寄り道。

 

 それでいいのだ。

 何もマンハッタンカフェの特別な存在になりたいと考えているわけではないし、なれるとも思っていない。

 彼女の大勢いる友達の中の一人になることが出来ればそれ以上は望まない所存だ。

 俺にだけサンデーを視認できる力があるのは謎だが、まぁ一つくらいは他の人には無い”共有できる何か”があってもバチは当たらないだろう。

 

「……葉月さん」

「ん?」

「私は……あなたと出逢うことができて良かった。……心から、そう思います……」

「そ、そうすか」

 

 笑顔が眩しいね♡ どういうおつもり!?

 普通に言ってて恥ずかしくなるセリフだと思うのだがそんな事ないのだろうか。ウマ娘なんも分からん。

 事あるごとに男の純情を弄びやがってよ。蝶よ花よ。

 この勘違い量産美少女に一泡吹かせる方法、何かないかな。

 

「──っ? あの、葉月さん。その箱は……」

 

 テレビの横に置いといたサイレンスのフィギュアにようやく気がついたマンハッタン。

 同級生がフィギュア化されてる事に関してどう思ってるのか少し気になる。

 

「すっ、スズカさんの、フィギュア……? ……ぇ。えと、これは……」

 

 意外な反応だ、かなり動揺している。サイレンスのあれが出たことを知らなかったのかもしれない。

 ウマ娘の中ではフィギュア化がハチャメチャに名誉な事である可能性が高まってきたな。マンハッタンさんのもあれば欲しい。

 ところでメイショウドトウとかホッコータルマエ辺りにフィギュア化の話は来てない?

 

「それ友達から貰ったんだ、誕生日プレゼントって。前倒しだけど」

「なる、ほど……そういう……」

 

 ふむふむ、とテレビの前でフィギュアを観察した後、スマホを取り出してテーブルに戻ってくる。

 何となく挙動が忙しない。

 フリフリと動く尻尾、センシティブ♡ ふざけるな。

 

「……ちなみに、なのですが。葉月さんの誕生日は……」

「八月五日。えーと……今週の金曜だな」

 

 午前中にバイトをして以降の予定は何もない。

 山田は用事があり、ちょうど本家の人が来ると親から連絡がきた為実家に帰る選択肢もない──つまりいつも通り。

 ダラダラと過ごし続ける最高に怠惰極まった一日を過ごすわけだ。

 ちょっとお高めな美味しいものを買ってから家に帰るだけであり、あまり特別な日という感覚もない。

 

「……金曜日。なるほど……」

「あっ、悪いマンハッタンさん。全然気にしなくていいから」

 

 なんか誕生日プレゼントをそこはかとなく欲しがる人みたいになってた気がする。

 そういうつもりでは無かったのだ。

 まだお互いの名前を憶え合ってから一週間も経ってない関係なのに、誕生日とか聞かされても困るだけだろう。普通に貰い物とだけ言えばよかった。

 

「さて、じゃあそろそろ解呪のやつを始めよう」

「……えぇ、そうですね」

 

 さっさと話題を転換して誤魔化しつつ、本来の目的にササっと取り掛かった。

 ペンダントの対策として用意したものはジグソーパズルや知恵の輪などの、集中して時間をかけるタイプの玩具だ。

 前回マンハッタンを押し倒してしまったのは目の前に彼女しか映っていなかったのが原因であり、理性がない状態でも何かやるべきことが手元に残っていればそれに注力するはず。

 それに布団の上で向かい合うといういかがわしさ全開の体勢で事に及ぶ必要もないので、マンハッタンには背後から手を回して腹部に触れてもらう事にした。

 その間俺は自分が用意した難問を解いていく──これなら一時間程度は余裕なはずだ。

 

「ひゃうっ……」

「尻尾が蠢いているぞ! ハニー! そんなんでは恋人は名乗れんぞ! 可愛いね♡ 全体重付加」

 

 あれ。

 

「お耳を触っていい? いいって言え」

「……ど、どう、ぞ……」

 

 この被暗示性、驚異的ワオの一言。ちょっと怖くなってきた。

 恋心を持っていかれないように注意。

 

「モフモフだね、耳も喜んでいるよ。呆れたわ」

「っ……♡」

 

 可愛い! 自慢の恋人! 友達にも自慢しちゃおっかな~! 従順なメスを手中に収めたとな。

 

「ん、カフェ? 早くペンダントを外さないと」

「あっ……う、うん」

 

 ──どうやら何もかも上手くいかなかったようだ。失敗の達人。

 

 

 

 

 

 

 翌日、真夏らしくクソ暑い快晴の日。

 集合場所の駅前でサイレンスを待ちつつ、俺は直近で仲を深めた三人のウマ娘たちとの関わり方について缶コーヒーを片手に思案していた。

 

 まずマンハッタンカフェについてだが、儀式におけるペンダント使用時の俺自身への対応を早急に用意しないと、解呪が成功したその瞬間から彼女との縁は断ち切られてしまうものだと考えている。

 昨日のアレで再認識できた。

 いくら何でも俺が粗相をしすぎなのだ。

 変な超常現象から助けるために手を貸しているのに、毎回その相手から押し倒されていてはたまったものではないだろう。

 優しい少女でも堪忍袋の緒が切れる事はある。

 昨日なんて顔がちょっと赤くなってたくらいだ。余程怒っていたので、いつ見限られてもおかしくないし、常識的に考えて怒らせるような事しかしていない。半分詰んでる。

 とりあえず次回の解呪の際は布団とロープでグルグル巻きにされておこう。

 

 次にメジロドーベル。

 ウチに来る日程が決まっていないらしく、あの日以来会っていない。

 しかし彼女との関係は現時点ではそこそこ良好なものに思えるため、こちらはあまり心配しなくてもよさそうだ。

 気兼ねなく連絡を取り合える現状を考えると、友人としての距離は一番近いと思う。

 

 最後のサイレンスは──

 

「秋川くん、おまたせ……!」

 

 少々焦った様子で待ち合わせ場所へやってきた少女は、帽子にサングラスと一見すると誰だか分からない格好をしていた。

 

「おはよ、サイレンス。まだ集合時間の十分前だからそんなに焦んなくても」

「えぇと……あはは、久しぶりに会うから変に急いじゃって」

 

 軽く身なりと整えると、彼女はこちらの顔を覗き込んで不思議そうに首を傾けた。

 

「あれ? 秋川くん、今日は眼鏡をかけてる……」

「あぁ、これは……その、何だろう。変装っつーか」

 

 ──そう、最後にこのサイレンススズカとの付き合い方についてなのだが、何よりもまず彼女の知名度が気掛かりだった。

 マンハッタンもドーベルも非常に人気の高いウマ娘ではあるものの、デビューしてから活躍するまでがあまりにも早すぎたサイレンスは名前の波及が頭一つ飛びぬけている印象がある。

 なんせ彼女だけは既にフィギュア化までされているのだ。

 一般人が思い浮かべる人気ウマ娘の中でいの一番に名前が挙がるほど、メジャーな存在になってしまっている。

 

 というわけで以前みたいにおいそれと二人きりで往来を歩くことは出来ないわけだ。街に出るだけで注目を浴びるであろうことは確実なので。

 そういう事情を考慮して、俺は今回伊達メガネをかけてきた。

 サイレンスは前に『友達と一緒にいるだけだからどう思われようと関係ない』といった旨の発言をしていたため、一旦彼女の心境を考慮するのはやめて、今日は自分のために伊達メガネを用意した。

 別に周囲にサイレンスの恋人か何かだと勘違いされる可能性に関しては問題視していないのだ。優越感が勝って気持ちよくなれるから。

 

 ただ、山田には未だに『バイト先にサイレンススズカがよく来る』という話をしていないため、それを共有するよりも先に一緒にいる姿を目撃されてしまうと……何というか、困るというか、今後が怖いのだ。

 あいつとはずっと気兼ねなく話せる仲でいたいが、人一倍サイレンススズカに入れ込んでいる事も知っている。

 そのサイレンスと知り合いだという事を隠していた──と思われてしまう事だけは避けたいわけだ。

 だから今後面と向かって話す機会があるときにさりげなく事情を共有し、お前も喫茶店に来ればサイレンスに会えるぞ的な話をするまでは、彼女の隣で歩く姿を彼に見られるわけにはいかない。

 

 そんな諸々の事情を含めての伊達メガネなのである。

 

「変装……そっか」

 

 ただ、十中八九サイレンスからの好感度ダウンが起こるであろう点に関してはマイナスポイントだろう。

 俺と違って彼女はわざわざ変装する必要など無いと考えるほうのタイプだ。

 

「ふふっ。秋川くんも私と同じ気持ちだったのね」

「……?」

 

 どういうことだろうか。

 そういえばサイレンスは帽子とサングラスを身に着けており、ぱっと見では変装に見えなくもない。

 ファッションだった場合は失礼過ぎるからまだ何も言っていないが……同じ気持ちって何のことだ。

 

「ファンのみんなが声をかけてくれるのは嬉しいけど……今日は二人きりの時間を大切にしたいなって」

「──」

 

 ()()()()()()()とか平然とのたまいやがって言葉遣いの距離感バグ女め!

 そういうとこ好きだよ。

 

「……じゃあ、シューズを買いに行くか」

「うんっ」

 

 破顔を無理やり抑えたポーカーフェイスで先導し、落ち着かない一日がスタートした。

 

「そうだ秋川くん、日傘を持ってきたから一緒に入りましょう」

「は、はい」

 

 欲しがりやでとってもお可愛らしいね♡ 肩を密着させて俺を殺す気か?

 

 


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