うおっ乳デカいね♡ 違法建築だろ   作:珍鎮

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兵は神速を貴ぶ ついでに人生が消し飛ぶ

 

 

 明らかに自宅ではない匂いが鼻腔を突き、飛び起きる。

 起きた時には見覚えのない内装の部屋でベッドを占拠しており困惑したが、目を覚ましてからの一発目の行動はスマホの探索だと直感した。

 寝起き一番に、なんにしてもまずは今日遊ぶ約束をしていた山田に連絡を入れなければと焦燥感に駆られたのだ。やるべき事など委細承知よ。

 

 幸いにも探し物は充電のコードに繋がれた状態で枕元に置かれていた為すぐさま電話をかける事ができた。

 すると電話口の向こうから聞こえてきたのは、がやがやと騒がしい雑踏の環境音に交じった友人の声であった。

 

『おう脱水貧弱ボーイ、体調は大丈夫かな』

「……何で俺の状況を知ってるんだ?」

『鬼電してたらダンディな声のおじ様が代わりに応答してくれてね。脱水症状で死にかけた後、バイト先の店長さんの家に運び込まれたんだって?』

 

 俺が寝ている間に着信していた電話に出てくれた人がいた、との事だが疑問が残る。

 ──はて。店長とは。

 記憶が正しければ俺は蒸し暑い濃霧の中で六時間ほど彷徨し、何やかんやあって二人の少女に助けられた後、その少女の実家で休息を取らせていただく形になったはずだが。

 いつの間にバイト先の店長の家へ匿われたのだろうか。

 連絡も入れてないばかりか、お世話になってはいるもののプライベートでの付き合いは皆無なはずだ。

 

『お大事にね。出かけるときは僕みたいに飲み物を十本くらい持っといた方がいいよ』

「あ、あぁ。今日は悪かったな」

『こっちはこっちで用事できたから気にしないで』

「そういや何か騒がしい……いまどこにいるんだ?」

 

 人混みで少々声が聴き取りづらい。

 

『駅前のデパートだよ。この前のレースでの上位二人がトークショーに出るらしいんだ』

「この前の、って事はスペシャルウィークさんとマンハッタンさんか」

『そうそうそう! 特にマンハッタンカフェはサイレンススズカと同じくらい推しだし、生で見るの初めてだからマジでクソ楽しみ……じゃあそろそろ始まるからまたっ』

「あっ……切りやがった」

 

 有無を言わさない勢いで電話を切られたが、いつものことなのでもう慣れた。

 山田は基本的には付き合いの良い友人なのだが、推しウマ娘の事となると優先順位が分かりやすくそちらへ傾いてしまうタイプの男なのだ。

 集合に遅刻するときは推しの配信や特番を見ていたというのが大半であり、そういう部分を知ってて一緒にいるので文句は無い。

 寧ろこういう時は早々に気持ちを切り替えてくれるので助かるまである。

 そのフットワークの軽さ、アンナプルナ。

 

「失礼します」

 

 通話の切れたスマホを枕元に放り投げると、程なくして部屋のドアが開かれた。

 入ってきた黒髪の少女は見紛うことなくマンハッタンカフェその人だ。

 かわいい♡

 バイト先の店長に匿われたという身に覚えのないここまでの経緯とは異なり、しっかりと会話の内容と手助けしてもらった記憶が残っている彼女の姿を目にしたところで、俺は漸く安心することができた。

 

「おや……よかった、目を覚まされたのですね」

「あ、はい。ここまで運んでくれた……んですよね? ありがとうございます」

 

 友人でも何でもないのでタメ口にならないよう気をつけつつ応答すると、マンハッタンカフェはふわりと小さく微笑んでベッドのそばまで寄ってくる。

 

「敬語は結構です……同い年ですから」

 

 じゃあそっちも──と言いかけたところで彼女は首を左右に振った。

 

「私のこれはクセみたいなものなので……それより、スポーツドリンクをどうぞ。きっとまだ水分が足りていませんので」

「あぁ、ありが──」

 

 マンハッタンカフェが身を乗り出してペットボトルを手渡してきたため、近づいた都合上自然と彼女の髪の匂いが香った。

 瞬間ふわりと珈琲のような匂いを感じ取り、あぁ確かにこの既視感のある香ばしい珈琲の匂いはあのバイト先だなと一人勝手に納得した。確か店そのものが店長の自宅だったはずだ。

 ──どうしてバイト先の匂いがマンハッタンカフェから香るんだ。状況判断が大切だ。

 

「…………」

「……?」

 

 なるほど。

 拙い仮説ではあるが、一つ思い浮かんだ。懊悩するよりまず仮説。多分これが一番早いと思います。

 

「……ここ、マンハッタンさんの実家だったりする?」

「はい」

 

 言うと彼女は頷いた。はい名推理。

 

「濃霧の迷宮から抜けた時に言った通り、秋川さんには私の実家まで来ていただきました」

「あっ」

 

 そういえば先に『実家が近いから案内する』と言われていたんだった。名推理もクソも無かったな。名前や年齢も店長から聞いたのだろう。

 しかし何とまぁ、世間もなかなか狭いというか。

 店長がたまに自慢していたあの中央で走っているという娘さんの話は、どうやら目の前にいるこのマンハッタンカフェの事であったらしい。

 確かに直近のレースで一着取る程度にはめちゃ速いし、普通にビビるほど美少女だ。正直目を合わせるのも辛い。

 

「秋川さん、体調の方は……」

「あー……まだ少しダルいけど、出歩けはすると思う」

「であれば……申し訳ありませんが、早めに秋川さんのご自宅まで戻りましょう。()()()()の件といいあまり時間の余裕が無いかもしれません。二人きりの状況でないと情報の共有も難しいのですが……どうでしょうか」

「わ、分かった。とりあえず帰ろう」

 

 俺が彷徨っていたあの濃霧の住宅街を”迷宮”と呼称しているあたり、現在俺が直面している状況はこれまでの常識が通用しない──いわゆる超常現象というやつなのかもしれない。

 流石にガチ目な命の危険に晒されている以上は中二病だの妄想だのと言っている場合ではないだろう。

 あるものはあるのだ。

 今なら幽霊の存在であろうと信じることが出来る。助けが無ければ一生出られない住宅街に閉じ込めるカラスがいるのだからソレくらい実在しても不思議ではない。

 

「秋川さん。……その、やらなければならない事があるので、今夜は泊まらせて頂いてもいいでしょうか」

「え゛。……あぁ、いやでも必要な事……なんだもんな?」

「はい。とても重要な」

「……なら、それで。何よりこっちは助けてもらってる立場だし、断る理由なんて無いよ」

 

 どうしてマンハッタンカフェがこの事態について詳しそうなのかは分からないが、ひとまずは彼女の指示に従っておこう。

 ほぼ初対面の女子が自宅に泊まる事になろうとも、超常現象の解決に必要なのであれば頷く他ないのだ。マジで心臓バックバクだがポーカーフェイスを保たなければ。

 

「ところでマンハッタンさん。そのデカいレジ袋の中身は……?」

 

 彼女が部屋へ入ってくる時に持ってきた荷物の中身が気になった。大きなレジ袋二つと中々の量だ。

 

「冷えピタやスポーツドリンクなどです。脱水症で体調を崩されているので、必要なものを先ほどあらかた買い揃えておきました」

「えっ! 悪い、お金どれくらい──」

「いえ、気になさらないでください。……そもそも貴方を巻き込んでしまったのは私ですし……」

 

 事情を知らないため『巻き込んでしまった』という部分には疑問符が浮かぶばかりだが、食料や消耗品をタダで貰えるのは素直に嬉しい。

 

「あっ、店長」

「やあ秋川君。体調のほうは大丈夫かな?」

「はい、おかげさまで」

 

 ベッドから降りて彼女から受け取ったスポーツドリンクを飲みつつ身支度をしていると、部屋にダンディなおじ様が入室してきた。店長だ。

 

「ごめんね秋川君。家まで車で送ってあげられたら良かったんだけど、ウチのが遠出に使ってしまってて……」

「い、いえそんな、ここで休憩させて頂けただけでも本当にありがたかったですし、歩いて帰れるんで平気です」

「そうかい? もう少しここで休んでいっても──」

 

 大人の優しさに甘えないよう自制心を働かせ、何が何でも今すぐ帰るという意思表示をもって彼の提案を全て断った。強敵だったぜ。

 

「カフェ。秋川君を自宅まで送ってあげて」

「最初からそのつもり……あと一応()()()があるから、今夜は彼の家に泊まらせて貰うね」

「────えっ」

 

 至極当然かのように告げたマンハッタンカフェの一言を受けた店長は何故か固まってしまった。

 

「……ちょっといいかい」

「どうしたの、お父さん」

 

 程なくして彼女を連れて一旦部屋の外へ出ていく。

 何か楽しい事が起きている気がする。

 

「か、カフェ、秋川君とは前から面識が?」

「……? うん、少し前に助けてもらったの。学園で使っている部屋の鍵を見つけてくれて……」

「それ、だけで……?」

「むっ……それだけなんて、言わないで。炎天下の中で一緒に探してくれたし……何よりあのレースの日、彼は身を挺して──とにかく、心配なんてしなくていいから」

「…………さ、最近の高校生、進んでいるな……」

 

 部屋の外に出て小声で話しているのだが、ドアが閉まり切っていないせいで会話がほとんど丸聞こえだ。

 すげぇ勘違いが起きている気もするが指摘するのも面倒なので放っておこう。誤解もそのうち解けるだろう。

 

「すまない、カフェ。野暮を承知で一つだけ言わせてほしい。親がこういう事を指摘するのは、とても良くない事だと分かってはいるのだが……」

「何……」

「か、仮に、だが。……()()()()流れになりそうになったら迷わず薬局かコンビニへ行って、恥ずかしがらずにちゃんと買ってくれ」

「……?」

「もちろん秋川君が温厚で優しい少年だという事は分かっているよ。お客さんからの評判だって良い。言えば、きっと彼も待ってくれるはずだ」

「……彼を待たせるも何も、必要な物はさっき薬局で全部買ってきたってば」

「ッ!!?!?!?」

「買い足す必要ないくらいの量を買ったから大丈夫」

「……っ!!? ……ッっ!?!!?!?」

 

 うおっ急にすげぇ勘違い……コントかな?

 店長が言っている『買うべきもの』は、恐らくマンハッタンカフェの考えているものではない。

 で、彼女が買ったから心配ないと語るそれは、先ほど俺に見せてくれたスポーツドリンク類のことだ。

 普通に考えればすれ違う事の無い内容ですれ違っているらしい。楽しい。

 

 と、まぁ何やかんやありつつマンハッタンカフェの実家兼バイト先を出発し、あれよあれよという間に生まれて初めて自分の家に女子をあげることになったのであった。

 

 

 

 

 

 

 帰宅し軽くシャワーを浴びてジャージに着替え、いつもより多めに水分を取って布団の上に座る。

 以上の一連の行動を終えるまでに、俺はマンハッタンカフェから今自分が置かれている状況と、出演予定だったトークショーを急遽辞退してまで彼女が俺に協力してくれる理由等のあれこれを聞き出した。

 

 と言ってもあまり複雑な事情が重なっていたわけでもなく、どうやら聞いた限りでは単に俺が偶然マンハッタンカフェにとって都合の良い行動を起こしたというだけの話であったらしい。

 

 マンハッタンカフェが『彼ら』と呼ぶ謎の存在──平たく言えばホラー映画に出てくるような類の怪異なのだが、俺を襲っている超常現象の正体がそいつらだとの事だった。

 俺のチケットを奪ったあのカラスがソレだったらしく、ついでにマンハッタンカフェの担当トレーナーもターゲットにしていた所、俺が暴力を以って乱入したため標的が俺だけになった、と彼女は語る。

 チケットを狙った理由や担当トレーナーを襲った理屈が何なのかが気になるところだが、マンハッタン曰く『特に理由は無い』らしく、強いて言えば無造作に悪意をばら撒く傍迷惑なカス共なので、深い理由を考えるだけ無駄なようだ。

 

「……で、今のこれは何?」

 

 現在の状況を説明しよう。

 お互いシャワーを浴びてジャージに着替えた俺とマンハッタンカフェが、布団の上に座って向かい合っている。

 それ以上でも、それ以下でもない。

 この状態になっている理由は未だ説明されておらず、ビビる程かわいい女子と二人きりで顔を突き合わせているこの状況に、ただの一般男子高校生でしかない俺はひたすらに狼狽するばかりであった。

 

「基本的に彼らの呪いは精神の上層に押印されます……なので、呪いを吸い出す為には肉体と精神に隙間を作らなければなりません」

「……????」

「もう少し簡単に言うと、道端で踏んでしまって靴底に付着したガムを引っ張って剥がすという事です。隙間を作るというのは、つまり靴を脱いで靴の裏を確認すること……といった感じですね」

「……なるほど」

 

 まぁ何となく分かった。

 要するにコレも事態収束に必要な事だというだけの話だろう。

 

「まずは……はい、このペンダントをかけてください」

 

 言われるがまま黒曜石がはめ込まれたペンダントを首にかける。

 するとマンハッタンは俺に渡したものとは異なる乳白色の宝石が特徴的なネックレスを身に付けた。

 

「その黒いペンダントを装着している間は肉体と精神の結びつきが弱まります……脳による理性(ブレーキ)が利きにくくなってしまいますが、隙間を作る道具はそれしかありません」

 

 マジ? 確かにコレを首にかけた瞬間から頭がポワポワしてきた気がする。何でこんなもん持ってるんだよ。

 

「私が身に付けた方は……言うなれば掃除機ですね。これで秋川さんの中に押印された呪いを吸い出します」

「……わかっ、た。じゃあ、頼む……」

 

 この脳がフラつく感覚は形容し難い。

 ギリギリ似たものを例えるとすれば、以前アルコール入りのチョコを食った時と似たような状態だ。

 頭が重いような、眠いような、視界がボヤけてしまいそうな多幸感──あぁ、何だろう。死ぬのか?

 

「では失礼します……」

「……え? えっ、ぇ」

 

 マンハッタンが背後に移り、後ろから首に腕を回してきた。

 人はこの行為の事を『抱き締める』と呼ぶと思うのだが、俺が間違っているのだろうか。

 

「おいおいおいおいおい」

「ご心配なさらず……苦痛を伴うような方法ではありませんので……」

 

 急にハグしてきてご心配なさらねぇワケないだろアホか? 顧客満足度が不足しているよね。

 

「時間にして……一時間ほどです」

「何がだ」

「触れ合う長さ……でしょうか。私の白い石が黒くなるまで、なるべく秋川さんの精神が近しい肉体の部位を私と密着させなければなりません」

 

 マジで何言ってるか分からん。

 

「大抵の人であれば……精神が近い場所は心臓……つまり胸部です。ですが個人個人で場所が異なる場合もあるので、宝石の濁り具合を見ながらいろいろな箇所に触れ……確認しなければなりません。

 ……どうやら秋川さんの精神体は胸部には無いようですね」

 

 そう言って今度は正面に回るマンハッタンカフェ。

 流暢に説明できてGOODだよ、だが男子への理解が足りない!

 俺を怒らせたいのか? 背中に密着されただけでも好きになりそうなのに、これ以上俺の理性が働かない状態で別の箇所を触れてみろ。結婚するぞ? 結婚しよ♡

 ……待て。俺、いま大丈夫か?

 

「タキオンさんなどは足の裏などでした。申し訳ありませんが……こちらの方も確認しますね……」

 

 白皙やわらかお手手が僕の足の裏をモミモミしているよぉ!

 何だその手つきはしゃぎ過ぎだろ、覚悟しろよおい。さすが中央のエリートだ……。

 

「ここも違う……膝……いえ、太ももでしょうか……」

 

 ──マズい気がする。

 先ほどの説明によれば彼女から受け取ったこのペンダントを身につけた状態の俺はまともではない。

 必要以上の肉体的接触を続けられてしまったら、いよいよ自制が利かなくなって良からぬ方向に走ってしまうかもしれない。

 果たしてマンハッタンカフェに襲ってきた男をブチ殴って消滅させるだけの度胸と切り替えの速さは備わっているのだろうか。

 この行為が、彼女の内心が、それらのどれにも邪な部分など欠片も無い事は百も承知だがそういう話では無いのだ。俺の問題だ。

 

「背面は全部違った……肩でも手でも顔のどこでも無い。あとは……お腹……?」

 

 質問です。マンハッタンカフェさんに男子の腹部を直接触れることに対して抵抗や懊悩は無いのでしょうか。

 解答。ありません。これは健全な治療行為であるため。

 は?

 

「よかった、ここですね。秋川さんの精神体はお腹にあるみたいです」

「……ま、マンハッタンさん……あの……」

「頑張ってください、あと数十分の辛抱ですから」

 

 おい!話を聞けよプリティーガール、立てば芍薬座れば牡丹。

 これはまずい。

 無自覚セクハラアスリートがよ。頭脳明晰でタイプだよ♡

 

「……トレーナーさんは、レースを走る上でとても大切な存在です。彼がいなければ私は……だから、そんな人を我が身を顧みず救ってくれた貴方を、今度は私が救いたい。

 ……何より()()()一緒に鍵を探してくれたのは、貴方だけだった。だから……」

 

 なんかしんみりと語ってるけど内容が何も入ってこない。脳が終わってる。

 

「さわさわ……」

「っ゛……ッっ゛゛ぉ°……」

「秋川さん……?」

「まだ!?」

「ご、ごめんなさい、もう少しです……がんばって……」

 

 おい下手に応援するな妙な気分になる。非核三原則。

 

「……腹筋、硬いですね。男らしくてカッコいいと思います」

 

 ビョルルン♡ビッピョロルロパロ♡

 おい!!!!!! いい加減にな。怒ってるワケじゃないから下手に褒めて機嫌取ろうとしなくていいよ♡

 やめろ!!! やめろ!!!!!!!

 

「ホントごめん、もう終わるまで喋らないでマンハッタンさん……」

「え、ぁ、はい……すみません……」

 

 本当に脳内がぐちゃぐちゃになってしまっているらしい。

 いま絞り出した一言が俺に残っていた最後の理性だ。もうこれ以上は耐えられない。

 

「…………あ、ペンダントが最大量に達したみたいです。外しま……ひゃっ!」

「────」

「……秋川、さん?」

 

 達してるのは俺の方なんだぞと言わんばかりの勢いでマンハッタンカフェを押し倒した。

 じゃあ今から言う要求に従ったら俺の女な♡高嶺の花♡ ゆくぞ……!

 

「名前」

「えっ……?」

「名前で呼べ。秋川じゃなくて下の、俺の名前を」

 

 葉月です♡是非ともこの際に呼んでください♡

 呼んでくれ!! 心からの願い。

 

「……葉月、さん」

 

 よし、晴れて夫婦だな。

 これは子供できたな……お前との明るい未来しか視えねぇぞ。悪法もまた法なり。

 ほっぺ触っちゃお。

 

「はわ。……ぺ、ペンダント、外しますね……」

 

 白い頬ムニムニすべすべで気持ちいいよ♡

 甘ったるい女の子臭がク──

 

 

 

 

 

「………………………」

 

 

 

 

 

 …………。

 ………………。

 

「あき──ぁ、いえ、葉月さん。ペンダントを外しましたが……落ち着きましたか……?」

「…………」

 

 ………。

 ……、…………。

 ………………………なるほど。

 

「あの、葉月さ……えっ! ぁ、まっ、待って、土下座なんてやめて……っ!」

 

 ──恐らくこれまでの人生で最も心と身体が合致した、誠心誠意の真心を込めた土下座の姿勢をとったまま、俺は一ミリも微動だにする事なく無言で許しを請うのであった。死。

 

 


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