うおっ乳デカいね♡ 違法建築だろ 作:珍鎮
「──んっ」
バイト先では客が来るとすぐに分かる。
入り口付近に小さな小窓があり、路地裏からこの店へ入店する際は必ずあそこを通る為、足音とその窓を通過する人影からいつお客様がご来店されるのかが瞬時に判明するのだ。
そしてそれは直前まで客のいない店内で雑誌に載っている有名むちむちウマ娘のピンナップに夢中になっていた俺のようなカス従業員にとっても、大いに役立つシステムである。
雑誌をサッとカウンターの下にしまい込み椅子から立ち上がれば、もうどこにでもいる普通の店員さんに早変わりだ。いらっしゃいませ。
「いらっしゃ……あぁ、どうも」
「えっ、あっ。……秋川くん?」
俺の読書タイムを終焉へ導いたのはつい数日前に知り合ったばかりな栗毛のウマ娘──サイレンススズカであった。困惑顔かわいい。
とりあえず席まで案内し、オロオロする彼女にそっとメニュー表の場所を教え、一旦裏まで戻っていく。
すると程なくして呼び鈴が鳴った。
「ご注文は」
「えぇっと……珈琲とチーズケーキを」
時刻が十六時過ぎというのもあり、ちょうど小腹が空いてくる頃だったのだろう。
この店ではあまり人気の無いチーズケーキの注文に内心小さく喜びつつ、待たせないようササっと提供を済ませた。お客さんの待ち時間を極力短くし店内でゆったりとリラックスしてもらう、というのが店長からの教えなのだ。
「……秋川くん、ここでバイトしてたのね」
「まぁ。サイレンスさんはウチ来るの初めて?」
「一人で落ち着けるお店を知り合いに教えてもらって。……でもまさか秋川くんがいるなんて思わなかったわ」
「ゴメンね。飴ちゃんサービスするから許して」
「そ、そんな別に、私は……」
一人でリラックスしに来たら知り合いがいた時の居心地の悪さは計り知れない。誰とでも打ち解けられる柔和で渋いイケおじな店長がいてくれたらだいぶ違ったのだが、あいにく急な買い出しで今は俺一人しかいないのだ。
店は問題無く回せるが、老舗の喫茶店的な趣深い雰囲気は店長不在の今は皆無に近い。すまぬ。
サイレンススズカはチーズケーキを平らげてから、珈琲を少しずつ舐めながらチラチラと此方の様子を窺っている。
もしかすると下手に距離を作って店員さん対応をする相手ではないのかもしれない。
「脚、もう大丈夫なのか」
「っ! え、えぇ、おかげさまで。……その、あの時はありがとう」
話しかけると彼女は露骨に嬉しそうな顔をした。は? かわいいね。
どうしてそんな表情になったのかを考えたが、恐らく彼女は礼儀正しく生真面目な性格をしているので、一応手を貸してもらった相手である俺には一言礼を言っておきたかったのだろう。欲しかったのはきっかけだ。
連絡先は交換していても今日までメッセージの一つも送らなかったのは、単に話の切り出し方が分からなかったのだと思う。
別に『今日はありがとうございました。後日氷嚢を返しに行きます』くらいのメッセージでも十分だと思うが──と、そこでメジロドーベルの言っていたことを思い出した。
女子高ゆえに同年代との異性との交流が生まれづらいトレセン学園において、全体的に男子と関わりたいと考える雰囲気が伝播し始めているという、アレだ。
それを鑑みるとサイレンススズカは『周囲に勘違いされたくない』という意識から、俺への連絡を戸惑っていたのだと推測できる。
何しろ彼女、普通にテレビで姿を見るほど有名で強いウマ娘だ。走り一本のアスリート然とした雰囲気からして、色恋沙汰などという俗っぽい話題には興味も関心も無さそうに見える。
俺に連絡することで周囲の女子から男子に現を抜かしていると思われるのを危惧していたのだろう。
だがこの喫茶店に来たのが運の尽きだ。俺と楽しそうに会話しているところを他の女子に見られて勘違いされてほしい。そうすると俺が気持ちいい。
「……あっ、テレビあるんだ」
「つけるか? 無音の字幕放送だけど」
彼女が頷いた後、店の端に設置されたレトロな見た目のテレビの画面を映した。俺のトークスキルが炸裂する前に意識をテレビに向けられてしまったな。少し泣く。
店内が見渡せるいつもの定位置に腰を下ろすと、テレビに映っている映像に目が引かれた。なんかデカい乳が揺れている。
「この前のレースのハイライトか。確かサイレンスさんも出てたんだよな」
「……えぇ」
彼女が一着をもぎ取ったレースだ。
それはそれはめでたい事だが、俺の視線は別の場所に注がれている。
あの、二着のホッコータルマエというウマ娘。
彼女はあまりにもデカすぎ案件に突入している胸部の果実もさることながら、全体的なムチムチ加減がふざけすぎている。国家反逆罪だ。
動くたびにムチッ♡ムチッ♡ と鳴ってそうな淫猥ボディはついつい目を奪われてしまう不思議な引力を発生させていて、目が離せないとはまさにこの事だろう。
「すっげぇ……」
「──」
サイレンススズカと横並びで走っている映像でより鮮明に肉体の卑猥さが露になっていた。
もはやホッコータルマエの方が不正な身体強化を施しているのではないかと疑いたくなるボディの差だ。アスリートとグラビアアイドルが一緒に走っちゃダメだろ。
「……凄いって、何が?」
「えっ」
テレビを一瞥し、俺の方を向くサイレンススズカ。
急なことで驚いてしまい、童貞は緊張してテレビを見続けるしかない。
「走りの姿勢だよ。後ろのウマ娘たちは辛そうな表情してるのに、サイレンスさんはまったく体幹がブレてないだろ」
「ブレ…………そ、そうかしら」
体幹のブレが無いからこそ、何も揺れないサイレンスと全身揺れまくりプニまくりのホッコータルマエの肉付きの違いがより鮮明に見えるのだ。
「勿論速いってのもあるけどな。後続と何バ身差離れてるんだコレ」
実力は圧倒的だった。余計なものが何も無く研ぎ澄まされたサイレンスと、余計なもんが付いた状態での走法を熟知しているホッコータルマエの二人による独壇場だ。揺れない、揺れる、揺れない、揺れる──うわうわうわ揺れすぎ何だアレ。
とても平たく言うと、対比があまりにもえっちであった。フェルマーの最終定理。
「すげぇカッコイイよ、あのサイレンスさん」
「……私、は」
映像が切り替わり、興味が失せた俺は空いているテーブルを拭き始めた。
サイレンスは先ほどのハイライトを見て何かを思い出してナイーブになっているようなので、踏み込まないようにしなくてはならないのだ。話はしても必要以上の詮索はしないように、と店長から言いつけられている。
「……また来るわ」
「あ、うん。またどうぞ」
思いつめた表情のサイレンスはピッタリお代分の金をテーブルに置いてそそくさと退店していった。この店に来るウマ娘の中にレジで会計してくれる奴はいないのだろうか。
……
…………
『はい。追い付かれ、横に並ばれてしまう先行に意味はありません。なので私はより速く、より先頭に。とにかく周囲の圧で
それは……あの、一人だけ、ヒントをくれた友人がいたんです』
今日も客がほとんどいない喫茶店のテレビを眺めていると、チャンネルを切り替えるとともにサイレンススズカが画面にでかでかと映し出された。
画面の右上を見れば至極当然のように一着を取ったことが分かる。ちょっと強すぎないかアイツ。
ホッコータルマエは今回も二着だったようで、二ヵ月前の雪辱を果たすには至らなかったらしい。
あの日この店に来てから、サイレンススズカが顔を見せに来ることは一度も無かった。
当たり前のことだが彼女は一流のトップアスリートなのだ。友達未満でただの知り合いでしかない男子がいる喫茶店になど足を運ぶ理由が無い。
どぼめじろう先生も間近のレースの準備に忙しない都合上、俺がバイトをしている日に訪れるウマ娘はいなくなり、いつものカウンター席には高校のクラスメイトである男子が座っていた。
「おっ。秋川もウマ談買ってたんだ」
「話題のマルゼンスキーが水着解禁、って文字に釣られた」
デカ乳ウマ娘なら節操なく好き。そんな理由で雑誌も買う。
「フフ、いい事教えてあげようか。今週のウマ談、今テレビでやってたレースの一、二、三着のウマ娘との握手会の応募用はがきがくっ付いてるよ」
「ッ……!!?」
という事はつまり、ホッコータルマエの違法なバカデカ乳を間近で眺めることが出来る……?
ついでに柔らかおてても触れるなんてこの上ないチャンスだ。早速応募しよう。
「僕も応募するからコレ一緒にポストに投函しといて」
「り」
そんなこんなで期待を込めて人生初の応募はがきの投函をしたわけなのだが、やはりというか結果は惨敗であった。
◆
二週間後。『秋川ッ!!! サイレンススズカと握手した!! 握手会で僕が一人目だった!!!! 三秒で終わったけど最高でした。』というクラスメイトの男子からのウザいメッセージを既読無視し、俺は帰路に就いていた。
漫画作家先生はレースで忙しなく、俺自身も期末試験でアルバイトにも行けずてんやわんやしていたため、ここ最近の生活はバイトを始める前の華が無い日常に戻ってしまっている。
男連中と過ごす高校生活も存外悪いものではなかったのだが、やはり何か足りないという感覚は拭えない。
テストが終了し夏休みを目前に控えているにもかかわらず、俺は疲弊とため息を帰り道に零していた。
ゆえに、注意力も散漫になっていたのだろう。
後ろから迫ってきていた自転車に気がつかず、焦って避けるとバランスを崩してそのまま高架下の河川敷をゴロゴロと転げ落ちていく。
べちゃっ、と不快な感触が手のひらに広がり、尻もちをついたまま手を確認してみれば、いつの間にか泥で汚れてしまっていた。体を庇う際に、先日の大雨でぬかるんだ地面に手を突っ込んでしまったようだ。
「──だ、大丈夫ですか!?」
はぁ最悪だ、と呟こうとしたその時、河川敷の上から声が聞こえてきた。
夕方の逆光でよく見えないが、中央トレセンの制服を身に纏っていることは確認できる。
「お怪我は……」
その少女が間近に迫ってきてようやく顔を視認できた。何だか見覚えのある顔だ。
「…………秋川、くん?」
「うぉっ。……ひ、久しぶり」
思わず面食らった。まさか今や世間を騒がすスーパーウマ娘と化した彼女と、こんなところで鉢合わせるとは夢にも思っていなかったのだ。
手を差し伸べてくれた少女は、喫茶店で話したあの日以来会うことの無かったサイレンススズカその人であった。
「とりあえず手を……」
「悪い、助かっ──」
で、彼女の手を掴んでから気がついた。
ついさっき泥だらけに汚したばかりの手のひらで、絶対に汚してはいけない女子の手を握ってしまったことに。
……あぁ、やった。
しまったコレは許されない。
サイレンスの握手会に参加した人全員に殴られても文句は言えない。
「………………ごめん」
「えっ? ──あ、私の手の事なんか全然気にしないで。秋川くんだって
「……そ、そう」
それとこれとでは話が違うと思うのだが、食い下がっても迷惑なだけなので納得しておく。
たぶんどんな清純な心を持っていても差し伸べた手を泥で汚されたらキレると思うのだが、サイレンスは心底こちらを心配するような眼差しを向けてくれている。精神の造形が美術品のようだ……。
「怪我は無いから大丈夫。そこで手ぇ洗って帰るよ、ありがとうサイレンスさん」
「ちょっと待って、秋川くん」
まくし立ててそのまま退散しようとしたら、泥だらけの手を俺が汚した泥だらけの手で掴まれた。何だこの状況。
「そこの川あんまり綺麗じゃないの。私いま石鹸持ってるから、すぐ近くの公園で手を洗いましょう」
「あ、あぁ、分かっ──え、あの、サイレンスさん……?」
そして互いに泥でコーティングされた手を離さないまま、サイレンスは有無を言わさず俺を付近の公園の水道まで連行するのであった。
到着するや否や、彼女は汚れていないほうの手でカバンから石鹸を取り出した。
なぜ常備しているのかと聞くと、トレーニング中に汚れることが多々あるから、とのことで。
流されるまま手渡された石鹸で、俺は手を洗い始めた。
「……あ、そうだ。サイレンスさん」
呼ぶと目の前にしゃがんできた。近い近い。
「この前の握手会、一人目に眼鏡をかけてる太った男子来なかったか」
「え? ……あー、そういえば確かに。どうして知ってるの?」
「あいつ俺のクラスメイトなんだ。握手会に参加できてスッゲェ喜んでたよ」
「そう。それなら良かった」
会話も無く公園まで来たため、なんとなく気まずい雰囲気があった。
なので持てる手札で唯一彼女と共有できる話題を持ち出した次第だ。サンキュー山田。
「やっぱ凄いなサイレンスさんは。SNSでもテレビでもよく見るし、学校の連中が推すのも頷けるっていうか──」
「……ね、ねぇ、秋川くん」
サイレンスが俺の話を遮り、ほんの少し強張った声で質問の声音を投げかけてきた。
まさか向こうから話題の転換をしてくるとは思わず、つい緊張がぶり返す。
「どした」
「えっとね。その……ぁ、秋川くんは、握手会には来たの?」
何やら俺以上に緊張しているように見えるが、どうしたのだろう。
もしや『握手会に行ったのに覚えてないのか』的な当てつけをされているとでも考えているのだろうか。そこに関しては何の心配もないというのに。
「応募はした。ダメだったけどな」
「……行きたくはあったんだ?」
「そりゃあ勿論」
あまりにも愚問。ホッコータルマエの巨乳を目の前で見られるなら大金はたいてもいいくらいの気持ちだった。応募は一人一回だったから砕け散るしかなかったわけだが、俺個人としては何が何でも参加したかったのだ。
あわよくば連絡先を手に入れるくらいのモチベーションに包まれていた。握手会でそれをやっていたら恐らく出禁になっていただろうが。
「絶対に行きたかったよ」
「……」
「目の前で言いたい事とか、聞きたい事とかたくさんあった」
「……っ!」
「握手会だしちゃんと握手もしたかったな。そりゃもうしっかりと」
「……~ッ」
もう終わったイベントの事なので恥も外聞もなく何もかも詳らかにしていく。
サイレンスに関しても、どうせこの公園から出たらもう金輪際コミュニケーションを取ることはできなくなるのだ。ゼロだった好感度がマイナスになったところで痛くも痒くもない。
ただ思った事や抱えた後悔をとにかく吐露しまくってやる。誰も止められない。
「………………それ、なら」
──それは一瞬の出来事だった。
「……代わりに、いま」
いつの間にかサイレンスが、石鹸を持った俺の手を握っていた。
「秋川くんだけの、握手会……」
サイレンスには先に手を洗っていいと言われていたため、彼女から受け取った石鹸で泡を出し汚れを落としていた。
なるべくすぐに終わらせ、手洗い場をサイレンスに譲るはずだった。
交代に手を洗う。
水道が一つ、石鹸も一つであれば当たり前のことだ。
「私も手を洗いたかったし、ちょうどいい……でしょう?」
しかし当たり前の事が覆された。
今俺の目の前で、落ちてきた雨が空へ戻るのと同じくらいあり得ない事態が発生している。
手を握られた。
石鹸の泡で滑りが良くなった手を、まだ泥で少し汚れていたサイレンスの手が包んできたのだ。
──何の言葉も出なかった。
ただ呆けるばかりで脳内が茫漠としている俺の状況を知ってか知らずか、少女は『あなただけの握手会』と称して、緊張した面持ちのまま赤くなった頬を隠そうともせず、泡で包まれた俺の手を洗い始める。
「小さい頃、母親とコレをやった事があるの。一緒に手を洗えて一石二鳥……」
「……ほ、本気で言ってるのか?」
「ぁっ、え。……えと、半分くらい……」
石鹸が手から滑り落ちた。
だがそんな事を気にしている余裕は無かった。
サイレンスは変わらずぬめぬめの泡で俺と自分の手を洗い続けており、急な事態に脳の処理が追い付いていない俺は狼狽するばかりだ。
「握手会の代わりになれば、と思って……」
何でそんな事を──そう言いたげな俺の表情を読み取ったのか、彼女は聞かれるよりも先に口を開く。
「……私があの日のレースに勝てたのは、秋川くんのおかげだから」
そんな馬鹿なことがあるか。
俺は変わらず自分の生活だけを送っていたのに、何がサイレンスの益になったというのか。
「秋川くんが、私の走りに感嘆してくれた。……見落としていた自分の強みにも気づかせてくれた」
「……そんなの、担当のトレーナーがいつもやってくれている事だろ」
誰よりもサイレンスの事を見ていて、強みも弱みも知り尽くしている大人がいるのだ。
そんな人が傍にいて、強くなった理由が俺なんかであるはずがない。あり得ない。
「トレーナーさんは確かによく見てくれているわ。とても頼りになる理解者で、私の事を分かってくれている大人の男の人……でも」
ちなみにそろそろサイレンスの言葉が耳に入らなくなってくる頃だ。
とんでもない方法で性癖を捻じ曲げに来られてまともに応対できる男子などいるはずがない。心臓の振動数がとんでもないことになってるぜ。60Hzくらいかな。
「以前のレースでの一着のとき……私はタルマエさんにほとんど追いつかれてた。トレーナーさんは危機感を覚えていたし、私の焦った表情を見て他のウマ娘のみんなも心配してた」
ぬるぬる、さわさわ、ぐちょぐちょ。
性的じゃないのに性的なことされてる錯覚に陥る。二人で手を洗うのヤバすぎないか?
こんなスケベ一歩手前な事しながらほんの少しシリアスな空気出すとか無理があるだろ。シャレになってないよ。
「これまではずっと後ろを離したレースしかしてこなかったから、ファンのみんなも……でも、あなたは」
「っ°……ッ゛゛」
マズい脳がショートする。これはもう明日の一面はスケベすぎるこの栗毛ウマ娘で特集を組むしかないな? ビューティー・コロシアム。
「秋川くんはただ私の走りを見てくれた。喜んでくれた。自分でも気づけなかった、精神的に揺さぶられていたあんな状況下でも私が持っていた強みに気づいてくれた。
……だから秋川くんのおかげなの。あの日、私が勝てたのは──」
うわぁ! 僕の手を通じてサイレンスさんの熱が伝わってくるよ! 熱伝導率=500W/(m・K)。
「……秋川くん?」
「ごめん、ごめんごめん。あの、その、俺が悪いんだけどさ。スゲェ嬉しいしありがたいんだけどさ。
その……そろそろ手を洗い流してもいいか」
「──ハッ。ぁ、え、えぇ! 水で流しましょうか……!」
後の事はあまり良く覚えてない。
自分が何て言って誤魔化したのか、どういった雰囲気で解散したのか、脳が茹で上がった俺にはその日の記録を残せるほどのキャパは残っていなかったのだ。
よく分からん過大評価でサイレンスに認められ、少なくとも友人という枠には入ったらしい事を知った俺は、帰り道の途中で送られてきた『サイレンススズカとすれ違った!!!やばっ!!!!』という山田からのメッセージに反応する余裕もなく既読無視して自室のベッドに倒れ込むのであった。
それから、翌日。
久しぶりにバイトへ向かうと、喫茶店にはサイレンススズカの姿があった。なんで。