うおっ乳デカいね♡ 違法建築だろ   作:珍鎮

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大丈夫じゃないくせに強がりやがってよ 今宵の月のように

 

 

 彼氏が欲しい──中央トレーニングセンター学園のどこかで、誰かがそう言った。

 

 国内最高峰のウマ娘育成機関に集うエリートたちには、まず異性との触れ合いに現を抜かす暇など無く、そういった意識が学園中に伝播し続けていたため彼女たちの中にある『恋愛』という概念はとてもとても小さなものになっていたそうだ。

 ()()を何者かがたったの一言で肥大化させた。

 本人からすれば日常の中での何気ない会話の一つだったのかもしれないが、その一言が学園に通う彼女たちの一流アスリートを目指すあまり忘却しかけていた恋愛方面での()()()()()としての感性を取り戻させたのは紛う事なき事実であった。

 もはや一周回って新しい概念の持ち込み。

 普段は教官やトレーナーといった歳の離れた男性としか接しない少女たちにとって、同年代との恋愛は未知数。

 トレセン学園へ入る前に小学校で多少マセていた少女たちも思春期に入る頃には既に学園の生徒となっており、中高生における一般的な恋愛というものには誰も彼もが疎かった。

 しかし、その中でたった一人だけ、とある少年と密かに交流を重ねているウマ娘が──

 

 

「……漫画の割には長くないか。前語り」

「うぇっ。そ、そう……?」

 

 退屈な授業を終えたいつも通りの放課後。

 今日も今日とて喫茶店でのバイト中に押しかけてきた知り合いのウマ娘の漫画とやらを、客のいないカウンター席に座りながら吟味していた。

 

「いや、最初の三ページ全部背景とモノローグのみってのはどうなんだろう、と」

「でも物語の導入はしっかりしないと……」

「流石にもう少し簡潔にできると思うけどな。世はまさに大恋愛時代! とかでいいだろ」

 

 漫画を読み終えてタブレットを返却すると、どぼめじろうという名前でSNSに漫画を投稿しているウマ娘の少女は、気落ちしたようにテーブルに突っ伏してしまった。

 

「後半のアドバイスは聞かなかったことにするから。やっぱり導入は丁寧に……ぶつぶつ」

「あぁ、そう」

 

 この女の名前はメジロドーベル。

 ウマッターのどぼめじろう先生のアカウントでアンチに対して半狂乱状態で返信している現場を目撃して以降、半ば脅される形で秘密を共有する仲になったウマ娘だ。

 こんなんでも一応あの名門と名高い中央トレセンの生徒らしいが、欲望が漫画からダダ洩れである。正体見たりって感じだな。

 

「ちなみに今回の漫画って元ネタあるのか?」

「……今のトレセン自体がそんな感じなの。皆はまず男の人の知り合いを作るところから四苦八苦してるみたい。おかげでネタには困らないけどね」

 

 すっかり冷めた珈琲を流し込み、漫画作家先生はお代分ピッタリの小銭をテーブルに置いて席を立った。見せたいものを見せて満足したようだ。

 

「じゃ、もう行くから。また明日」

「おう。……あー、いや明日は俺いないけどな」

「えっ──」

 

 固まるメジロドーベル。何だよ。

 

「い、いないんだ」

「前も言わなかったか? バイトしてんの火木金だけだって」

「……あ、あー。そういえばそうだった。なら明後日になるか」

「はぁ。木曜も来るつもりで」

 

 明後日て、どうしてそんな通う事前提になってるんだ。

 デビューしてからすっかりレースでも活躍してる普通のつよつよウマ娘なのに暇な時間多すぎないか。

 忙しい身であるはずなのに路地裏にあるこんな客入りの少ない廃れた喫茶店にわざわざ何度も足を運ぶなんて、作家先生の考えることは分からん。

 そんなにここの珈琲が好きになったのか、ウルトラマン。

 

「ちなみに店は明日もやってるぞ」

「…………別に、いい。コーヒーを飲みに来てるわけじゃないし」

「え、俺の漫画の感想そんなに必要か? 描けたら即投稿でいいだろ」

「そういうわけにはいかないの! コレを見せられる男子なんてアンタくらいしかいないんだから! いいから感想を述べよッ!」

 

 男女両方から完成品の感想を貰ってから手直ししてウマッターに投稿する、というのが彼女のやり方なのだが普通に結構面倒だと思う。マメというか心配症というか。

 

「とととにかく明後日また来るから──いだッ!」

 

 ドタドタと慌て気味に退店する途中ドアに頭をぶつけた。急ぐでない慌てん坊さん。犬も歩けば棒に当たる。

 

 

 というわけで本日も中央のウマ娘とコミュニケーションを交わしたわけだが、正直おっぱいしか見ていなかった。

 

 ひねりの無い程デカい乳が性癖な俺は昔から顔面とスタイルが抜群な中央のウマ娘が憧れだったわけだが、高校生になって親元を離れこの街で暮らし始めてから約一年が経過し、ようやく最近になってから普段の生活に女子の影が現れ始めた。

 全てはこの喫茶店でアルバイトを始めてからの事だ。

 バイトを探している中で偶然にも何人かの中央のウマ娘が憩いの場として息抜きに使っていたらしい老舗にブチ当たり、知り合いが増えてから時間を浪費するだけの毎日が青春へと早変わりした。

 ポーカーフェイスで普通の態度を貫き通しながらウマ娘たちの胸部をガン見する楽しい毎日だ。

 

 メジロドーベルに関しては……まぁ、何というか普通だと思う。乳の大きさの話だ。

 とても普通な大きさなので心が激しく乱されることも無く、普段から接する相手としては彼女が一番丁度良く緊張しない。

 だが俺としてはもっと胸が巨大なウマ娘と関わりを持ちたいのだ。贅沢言わないからそこだけ観察させてほしい。

 この前雑誌で見かけたデビュー直後の女子たちなどが特に丁度良かった。名前も覚えている。

 

「マッ☆ マッ★」

 

 バイトが無い日の放課後。

 件のウマ娘にでも遭遇できないかなとトレセン付近の河川敷にフラッと立ち寄ったところ、とんでもない乳を揺らしながらランニングをしているウマ娘を見つけた。

 既にデビューを果たしていて尚且つ乳がバカでかいウマ娘はリストアップしている。

 あいつは確かマーベラスサンデーだったか。

 

「マーーーーーーーーーーベラスッ」

 

 あの様子、やはり噂通り一癖あるタイプのウマ娘なようだ。小さな体躯に見合わない巨大な水風船を高いテンションで揺らしまくって何をのたまう? 何をして喜ぶ? 

 

「ふえぇ、トレーナーさんは何処にぃ……あれ、私が迷子になってるぅ……?」

 

 うわっ、デカすぎ……肩凝りそう。

 今通りかかった少女もリストに載っている。メイショウドトウはデカ乳ウマ娘界隈の中では割と有名な存在だ。

 しかしこんな間近で見ることが出来たのは嬉しいなぁ。全身淫猥警報。

 

「リッキー、待って~」

 

 ついでと言わんばかりにホッコータルマエも通りかかった。情報通りの全身もちもちムチムチ加減だ。今日の河川敷は爆乳偏差値が高すぎる。来てよかったと心底思う。

 あの中の誰か一人でいいから知り合いになりたいところだ。

 結構な頻度でバイト先の喫茶店に襲来するメジロドーベル程まではいかなくとも、二週間に一回くらいはあの喫茶店に顔を出してくれる間柄になってほしい。

 

 別にストーカーをしたいわけでも親密すぎる関係を築きたいわけでもないのだ。ただちょっと近くでお話しできたらそれが一番良いというだけの話だ。

 どぼめじろう先生曰くトレセン全体で『男子と関わりを持ちたい』という雰囲気が充満しているらしいし、こんなせっかくの機会を逃してはもったいない。

 まずは誰から関わろうか──

 

「キャッ!」

 

 遠くへ走り去っていく巨乳娘たちを眺めながら懊悩していると、後ろから小さな悲鳴が聞こえてきた。

 振り返ると、脚がもつれて河川敷の坂を転げ落ちてしまった栗毛のウマ娘がいた。

 咄嗟に彼女のもとへ駆けつけると、その少女はバツが悪そうに苦笑いをする。

 

「ぁ、あはは……お恥ずかしいところを見せてしまって」

 

 そんな事を言っている場合ではない。

 俺は途中からしか見ていないが、それでも結構な勢いでゴロゴロと落ちていた。

 

「脚、見せてくれませんか」

「へっ……?」

「救急セット常備してて。湿布くらいは貼れるから、見せて」

「い、いや、でも……」

 

 いつでも巨乳ウマ娘を助けられるよう、通学に使っているリュックの中には応急処置がいつでも可能な医療品を一式揃えてある。

 見たところ彼女は巨乳どころかドーベルの様な普通レベルすら下回っているように見えるが、流石にんなことを気にしている状況ではない。

 

「いいですか」

「……は、はい」

 

 靴を脱がせてズボンの裾をめくると、踝の辺りが少し赤く腫れていた。

 幸いな事に軽い捻挫だ。これなら少しの応急処置でどうとでもなる。

 

「湿布を貼っておくけど、もう少し冷やしたほうがいいか。コンビニで氷を買ってくるからちょっと待っててください」

「あのっ、そこまでしてもらうのは悪い──」

 

 怪我人は往々にして強がるものなので、大して気にせずコンビニまで走ってすぐ戻ってきた。氷嚢はあるが肝心の氷と水が無かったのだ。

 そこからテキパキと応急処置を済ませ、十五分ほど経ってから彼女に肩を貸して移動を始めた。トレセンの近くまで行けば学園の生徒が保健室へ連れて行ってくれることだろう。

 

「そういえばあなたの事、テレビで見た事ありますよ」

「あ、私のこと知って……?」

「すいません名前までは。でもデビューしてるなら担当もいるでしょ。トレーナーには連絡したんですか?」

「……オーバーワークで怪我したなんて話、できません」

 

 たしか以前生中継をテレビで見たときはセンターで歌っていたハイパー激強ウマ娘だったはずだ。

 名前までは憶えていないが、そんな優秀な選手でもオーバーワークしてしまう程の悩みはあるんだな、と一人勝手に納得した。

 

「じゃあ、ここだけの秘密っすね」

「ふぇっ」

 

 まぁ担当トレーナーは大人なのでどうせすぐにバレるんだろうが、同い年程度の見知らぬ男子からの説教など受けたくないだろうから、俺から何か意見するのは止めておこう。

 

「保健室行ったら湿布は貼り替えてください。あと氷嚢はあげますよ、百円の安物なんで」

「そ、そういうわけにはいきません。後日ちゃんと返しますから、連絡先教えてください」

「いやでも──」

 

 そんな意味の無い問答を続けるうちに、いつの間にか学園の目の前に到着していた。

 彼女の存在に気がつき、遠くからこちらへ向かってくるウマ娘が見える。

 

「あ、スペちゃん……」

「友達?」

「えぇ、後は大丈夫」

「良かった。それじゃ」

「ぁ、あの、ちょっと待って」

 

 話すうちにいつの間にか敬語が外れた少女を友人のウマ娘に預け、そのまま去ろうとすると後ろから声をかけられた。

 

「名前……私、サイレンススズカっていうの」

「あぁ、そういえばまだ名乗ってなかったな。秋川葉月だ。じゃあまた」

「う、うんっ」

 

 そんなわけで、爆乳ウマ娘に近づこうとしたら何やかんやあって凄く胸の無いウマ娘と知り合いになってしまったのであった。次こそデカ乳と面識を持ってやるぞ。むん。

 

 


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