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コラム
2022年12月12日

東京一極集中、ほぼ完全復活へ(2)-2022年10月まで社会減37エリア、男性の1.4倍の女性減で出生の未来に暗雲

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー   天野 馨南子

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【はじめに】

前回は2022年第3四半期までの時点で、都道府県別の男女合計の転入超過数(転入数―転出数=人口移動による純増減)がプラスとなった「人口移動の勝ち組」となっている10エリアについてランキング形式で解説した。

今回はさらに10月の状況を加味したうえで、1月から10月の都道府県別の男女合計の転入超過数がマイナス(社会減)となったエリアについて、同じくランキング形式で解説したい。
 
残念ながら、コロナ禍における人口の転出控え効果は社会減エリアが持つ根本的な課題に対して、改善という変化をもたらさなかったことが浮き彫りとなる結果となっている。

【転出超過(社会減)エリア合計、再び10万人を突破】

コロナ禍前の2019年においては、年間で転出超過が発生したエリアは47都道府県中、39道府県であった。その転出超過数の合計は16万1546人にのぼり、この半数以上(51%)が東京都における転入超過につながった。その後、コロナ禍による慎重な移動が続いた2020年~2021年を経て、2022年は3月以降、全国で移動制限が実施されることもなくなり、コロナ禍前に近い人口移動が発生している状況となっている。

2022年も残すところ半月となった12月上旬現在、総務省「住民基本台帳人口移動報告」では10月までの人口移動の結果が公開されている。このデータを分析した結果、すでに37道府県において転出超過(社会減)となっており、その合計は11万151人であることが判明した。年間の5/6が経過した段階で、コロナ禍前(2019年:16万1546人)の68%水準にまで人口の入れ替え規模が復活してきている(図表1)1
【図表1】2022年1月から10月合計 転出超過(社会減)男女合計都道府県ランキング(人)
筆者は2018年から当研究所のレポートを中心に繰り返し、地方の人口減少、つまり東京一極集中が「主に女性の移動」によって発生していることについて警鐘を鳴らしてきた。地方創生や地方における顕著な出生減について、この女性の移動が大きな負の影響をもたらしていることを人口動態の専門家として強い危機感をもって伝えてきた。

しかしながら、いまだに地方創生や地域における少子化問題の主軸が、古い時代の価値観に基づくエビデンスなきアンコンシャス・バイアスにより「学生誘致」「男性の職場誘致」「家族形成後の女性の子育て支援」「地元に残る(または夫について来た)女性前提のサブ的な仕事支援」などの対策がメインとなったままであり、「古き時代の女性像」に基づく多様性に欠ける価値観で設計されていることが人口減に直結していることを認知されていないことが残念でならない。
 
2022年の10か月間の男女別の転出超過状況を見てみよう。37道府県から11万151人の人口が移動によって失われた。そしてそのうち女性が6万3533人と転出合計者数の約58%を占めており、エリアによって差はあるものの合計では男性の平均1.4倍の女性が社会減エリアから消えている。わかりやすく言うならば、地方からの人口の社会減(地方創生)対策の6割は、女性対策でなくてはならないことをデータは示している。コロナ禍前の2019年においては、男性(7.0万人)の1.3倍の女性(9.2万人)が転出超過エリアから消えていたことを考えると、社会減規模の男女アンバランスはさらに悪化していると言える。
 
1 ちなみに2020年は12.1万人、2021年は9.7万人の移動後の人口入れ替えが発生した。

【「女性はいらないのか」とみられかねないエビデンス】

移動による人口減規模の男女格差は、地域による差が非常に大きいことも示されている。社会減が発生している37エリアの詳しい状況解説は次稿に譲るが、37エリア中30エリア、実に8割以上のエリアにおいて男性よりも女性が多く減少しているという状況である。人口の社会減エリアが「男性に比べ、女性が出ていくことを軽視している」とみられても反論できないエビデンスでもあるといっても過言ではないだろう。
 
どんなに地元の「幸福度」「出生率」「婚姻率」が高くても、それが人口の社会減が止まらない状況下で起こっているとしたら、どうだろうか。

例えば、国際会議においてある国から、幸福度が高い、出生率も高い、婚姻率も高い、といった発表があったとしよう。しかしその一方で、絶え間なく自国からの脱国が絶えない状況を示すデータが別途あったならば、「自国に合わない人間を追いやった結果、その国がもつ環境や価値観に都合のよい人間しか残らないのだから当然だ」「自己の正当性を謳うための印象操作ではないか」と世界から反感すら買うのではなかろうか。

地方自治において、「出生率」「幸福度」「婚姻率」といった「割合指標」が内包するリスクを今一度、官民でしっかり認知してほしい。

地元の環境に合う人だけが地元に残る人気のないエリア(継続的な転出超過が止まらないエリア)となっていることを省みないままであれば、環境や価値観が合わない人間が地元から次々と出ていくことによって、これらの割合指標はいくらでも上昇していくのである2
 
実際、都道府県で比較する場合、合計特殊出生率と出生数の高低増減にはすでに相関がない3。都道府県という一定以上の人口母数のある単位の間で比較しても「女性1人あたり出生数」という指標が意味を持てないほど、女性の母数が流出しているからこその無相関となっている。ましてや市町村単位ではさらにその無相関度合いが強まる。出生数は母親候補となる女性の母数に出生率をかけて計算できるが、つまりそれは、「女性の母数が地元から出ていくことで減るならば、1人当たり出生率が多少上がったとしても、その上昇分を吹き飛ばしてしまうほどに子どもの数は減る」ということでもある。
 
正しい知識とエビデンス解釈に基づいた地方の復活劇はいつになったら起こるのか、人口に関する正しい知識の普及を願ってやまない。
 
2 地元の幸福度は、地元の価値観に合わない人々が出ていく状況下では、いわゆる地元環境・価値観に対する「喜び組」が地元に残る傾向となるため、当然ながら上昇する。また出生率や婚姻率も、地元価値観に合わない未婚者が出ていくことによって、上昇傾向となる。出生率・婚姻率・幸福度等の割合指標が高いことが肯定されるかどうかは、人流と合わせてジャッジされるべきである。統計的には、日本は現時点において、転出超過エリアほど出生率、婚姻率、幸福度が高い傾向にあることを指摘しておきたい。
3 天野 馨南子,「都道府県の合計特殊出生率、少子化度合いと「無相関」-自治体少子化政策の誤りに迫る-」,2022年9月12日 ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

(2022年12月12日「研究員の眼」)

レポート紹介

【東京一極集中、ほぼ完全復活へ(2)-2022年10月まで社会減37エリア、男性の1.4倍の女性減で出生の未来に暗雲】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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