諸先輩方からは「甘~い!」(某お笑いタレントのキメゼリフとは別の意味だぞ)と怒られてしまいそうだが、そろそろオレは人生に疲れてしまった。
一体何に疲れたかというと、ウェブサイトの運営に携わっていると競争が激し過ぎ、日々の数字に追われるのが苦しくなってしまったのである。この記事によって誰かを傷つけるかもしれない……、訴えられちゃうかもしれない……、と思い、さらには問い合わせフォームには「このクソ偏向報道極左メディア、さっさと死ね、ボケ!」みたいな罵倒が連日のように寄せられる。
文章を書いても「こんなヘタクソな文章でカネもらいやがってww」と言われ、「あぁ、神様、もっと文章を上手にしてください!」と星に祈るも生粋の文章下手なオレの文章が上手になるわけもなく、このままライター・編集者としての人生が閉ざされた、と絶望しているのである。さらに、Wikipediaには「TBS泥酔追放騒動」を書かれて、一生アル中としてのそしりを避けられない。
となれば、最近話題の「移住でロハスな生活」でもすっか!という話になるのだが、その準備の機会が訪れた!
ある日、東京・代々木八幡の飲み屋でくだを巻いていたところ、声をかけてきた男性二人組がいた。一人はどこかで会った人だ……。どこだろう……。
「中川君、元気だった?」と彼は言った。あっ! そうだ、15年前に下北沢の飲み屋で会った田口幹也さんだ!
「オレらも一緒になっていい?」と言われ、星海社の今井雄紀編集者とオレの飲み会の席に田口さんともう一人のいかつい男性が入ってきた。
「も、もちろんです」
と人見知りのオレは言うのだが、「ブログ読んでるよ」や「ツイッターで暴れてるな」といった話になり、田口さんがオレのことを覚えていてくれたことに感激したのであった。そんな中、田口さんが現在は下北沢のバー経営を辞め、故郷である兵庫県豊岡市にUターンし、現在は「城崎国際アートセンター」の館長を務めていることを伝えられた。もう一人の男性は豊岡市役所大交流課の谷口雄彦さんだったのだ。この流れ、わざとらしく聞こえるかもしれないが、実際の流れだからな。
田口:「そう、人生に疲れたの? だったらYou、豊岡に移住しちゃいなYO! 城崎温泉も近いし、いい場所だよ。夏はとんでもなく暑い日はあるし、冬は雪がちょっと多いけどね」
中川:「おぉ! 城崎温泉といえば、『号泣議員』『ののちゃん』こと野々村竜太郎・元兵庫県議が年間196回も出張していたという場所じゃないですか! すばらしいですね! あんな逸材も通うほど魅力的な場所なんですね! ンァッ! ハッハッハッハー! この日本ンフン……(略)!」
田口:「バカ野郎! そんなことより、志賀直哉の『城の崎にて』を思い出すのが先だろ!」
中川:「失礼しました!」
谷口:「なんとなく中川さんが疲れているのは分かったのですが、移住って本気で考えているんですか?」
中川:「そうですよ。あと5年ぐらいは東京で必死に仕事しようとは思うのですが、その後は別の場所に行きたいですね」
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今井:「僕と会ってもいつもその話になるんですよ。僕は(今井の故郷)滋賀県をオススメしてるんですけどね。琵琶湖の水、飲み放題ですし、琵琶湖のマリーナって僕が悩んでいた時期、毎日湖畔を眺めていた青春の場所なんです」
谷口:「いい話ですね。滋賀県は確かに魅力的ではありますね。ところで中川さん、移住するなら、どんな条件ですか?」
中川:「畑があって、海の魚も山の魚も釣ることができて、クワガタが獲れる場所ですね。仕事についてはあまり考えていません」
田口:「だったら一回豊岡、来てみる? 案内するよ」
谷口:「そうですね。一度来て頂いて、移住するかどうかを判断するのもいいのでは。ご案内しますよ。今井さんもどうですか?」
今井:「えっ! 僕もいいんですか!」
谷口:「ぜひ、お越しください」
というわけで、今井編集者とともに、「コウノトリの里」として知られる兵庫県豊岡市への「視察旅行」が決定! 行く日程は6月13日~14日となった。この原稿を書いているのは10月6日、なんとオレは4ヶ月も原稿を放置してしまったのだ、ガハハハハ! ごめんなさい!
その後、以下の案内を田口さんからメールでいただいた。
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豊岡への飛行機は朝と夕方の2便しかありません。ご都合が合えば、13日 7:30羽田発 伊丹で但馬便に乗り換えでいらしていただくと10時には豊岡市にはいれます。
で、14日の18時の便で豊岡を出ると、ほぼまる二日滞在が可能です。(東京羽田には20時40分頃着)
上記飛行機で来豊の場合は但馬空港着後、永楽館という近畿最古の芝居小屋のある出石に移動永楽館や街並み(重要伝統的建造物群保存地区)等を散策出石名物の皿そばとかを食べようかと。
その後、玄武洞やコウノトリ等を見ながら城崎に移動。アートセンター等を見た後、城崎で外湯巡り。夕食は城崎で。
で、城崎泊。翌日は豊岡旧市街をカバン産業を中心にみていただきます。
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豊岡市の産業としては「カバン」があり、ハンガー工場も有名なのだという。コウノトリも時々見ることができるらしく、海の幸だけでなく黒毛和牛の最高峰「但馬牛」などもありメシもウマい上に、風光明媚な場所らしい。よーし、我が人生後半を過ごす場所、見学に行ってきまーす!
そして、おいしいものもいっぱい紹介しますよ!
今井編集者と羽田空港で待ち合わせ、早速ビールを飲み、飛行機へ。大阪・伊丹空港で小さな飛行機に乗り換えるのですが、その間の待ち時間にもキリンの神戸工場限定醸造ビールなんてものがありましたので、ピリ辛のさつま揚げと一緒に食べたのでした。
そして、伊丹から小さな飛行機に乗り換え、コウノトリ但馬空港に到着したのでした。
待っていてくれたのは、豊岡市のマスコットキャラ、玄武岩をイメージした「玄さん」。
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空港に田口さん、谷口さん、そして大交流課の和田まゆみさんも迎えに来てくれ、車に乗せてもらいました。まずはお菓子を祀っていることで知られる「中嶋神社」で平和な「視察旅行」を祈願するとともに、おいしいものが食べられるようお祈りするのでした。
続いては、明治34年に開館した芝居小屋「永楽館」へ。ここは片岡愛之助さんが毎年公演をすることで知られています。
愛之助さんが『半沢直樹』(TBS系)でさらなる大ブレイクを果たし、さらには藤原紀香さんと結婚したことにより、永楽館の注目度も昨今上がっており、今では愛之助さんの公演ではチケットを取るのもタイヘンになったようです。「昔は取りやすかったけどね。今はすごいことになってるよ!」(谷口さん)とのこと。
オレ達が訪問していた当日は「歴史遺産の復活と活用に懸けるまちづくり」というシンポジウムを永楽館でやっていました。「こんな立派な文化的価値があるものを、イベントに使っちゃうんですねぇ~」と感心していたら、館長の赤浦毅さんは「文化財は使ってナンボや。使わなアカン! ここは2008年に改修してんねんけど、80%はオリジナルやで」と語りました。
舞台の下へ。これを人力で回すことにより、舞台上でも回転をさせるのです。
名物「出石皿そば」
腹も減ったので、豊岡の文化財が多数残る観光スポット・出石(但馬の小京都、とも呼ばれる)名物の「出石皿そば」を食べに行きます!
やたらと多くの「出石皿そば」の看板やのぼりが街中に多数あるのですが、行ったお店はココ。
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「たくみや」です!
田口さん(左)と谷口さん(右)。昼間からビール! でも本来は休日の土曜日なのでOK。「こっちは休日返上で案内してるんだ、ビールぐらい飲ませてよ!」(田口さん)
出石そばは1人前が5皿で850円。で、これをいきなり食べるのかな……と思ったら、出てきたのは……
サヨリの干物! 「そばの前はコレに決まってるでしょ!」(谷口さん)とのこと。
これがビールに合う合う! これを2匹でオレはビール4杯飲んでしまいました。
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見よ! この天使の輪が描かれる見事なビールの注ぎっぷりを!
ここのビール注ぎ店員の実力はたいしたものだ! オレが6口でビールを飲み干したのが一目瞭然であるっ!
これが薬味セット。手前右から生卵、大根おろし、九条ネギ、麺つゆ入れ(この段階では空っぽ)、トロロ。
麺つゆ入れに生卵を入れ、そこにお好みの量だけ麺つゆを入れるのです。
5人分を一気に頼み、配置した様子。鮫皮のおろし器で生山葵をすりおろします。
田口さんによると「『わんこそばに似ていますね』とよく言われますが、全然違います。あちらは、他人任せですよね。出石皿そばは自主性に任せています!大人のそばなのです!」とのことで、密かなプライドを見せつけるのでした。
追加注文もガンガンしたので、それでは、食べた皿の枚数を見てみよう。
谷口さんは11皿。
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田口さんは10皿。
和田さんは5皿。
今井編集者は21皿。シャツのしましまと皿がシンクロしてるぞ!
そして、オレは痛恨の2皿。なんというか、サヨリが美味し過ぎ、これでビールを飲み過ぎ、さらには山葵とトロロと生卵大根おろし入りそばつゆがビールに合い過ぎ、ソバを食べる余裕がなくなってしまったのでした。
食後はかの有名な沢庵和尚の墓へ。漬け物の「タクワン」の考案者でもあります。
沢庵和尚が出家した宗鏡寺は苔むしたお庭が見事なほか、鐘もつかせてもらいました。
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続いては世界中からバカ売れ!
中田工芸社が作る「中田ハンガー」本社へ。とにかく有名百貨店がこぞって採用し、世界でもそのデザインと実用性が評価されています。社長がこれまたゴーカイな人で、ロビン・ウィリアムズ似のステキなおじ様でした。
中田社長のご自宅へ。元バーテンダーの田口さんがボンベイ・サファイアのソーダ割りを作ってくれました。
中田社長とパチリ
さぁ、夕方のハイライト、天然記念物・「玄武洞」へGOです!
カニを捕獲
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城崎温泉
いざ城崎温泉へ。
おっ! コウノトリ発見! しかし、毎度コウノトリを見られるわけでもなく、「あれは鷺です」(田口さん)ということもよくあり、お約束のごとく「サギじゃないですか!」(今井編集者)
城崎温泉到着。となれば、このポーズしかないじゃないですか! 耳に手をあてるも耳が隠れてしまうという「ノノちゃんポーズ」ですね。
ンァッ! ハッハッハッハー! この日本ンフンフンッハアアアアアアアアアアァン! アゥッアゥオゥウアアアアアアアアアアアアアアーゥアン! コノヒホンァゥァゥ……アー! 世の中を……ウッ……ガエダイ!
駅近くの足湯
志賀直哉も定宿にしていた「三木屋」
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今宵の宿、志賀直哉も定宿にしていた「三木屋」へ。そういえば田口さんの下の名前も「幹也」でしたな、ガハハハハ。
社長の片岡大介さん
これが今宵のお部屋です
風呂に一旦入ったら外に出て、バーでまずはサッポロ黒ラベルの生を!
つまみはエスカルゴブルゴーニュ風。
河岸を替え、酒屋へ。店の中でも飲むことができます。
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そして、夜の飲み会は「美食遊楽とみや」へ。豊富な地酒、魚、あとは珍しい珍味、寿司に但馬牛などなど、とにかく食べ物がウマい! と評判だそうです。
谷口さんと田口さんがおいしいものを色々頼んでくれた。
お通し。フグだったかな…?
色々珍しいものがあるのでつい覗き込んでしまう
出た! カメノテ!
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厳密には亀の手ではなく、甲殻類です。東南アジアのフルーツ「ランブータン」みたいな白い身がチュルリと出てくるのでこれをしゃぶり取る。いや、こりゃ、貝っぽいぞ! いや、エビみたいな味だな。
刺身盛り合わせ
刺身で使ったアジの骨と頭の唐揚
後ろの席にいた地元客のおばちゃんが「アンタたち、メンチカツ食べなさい! 但馬牛が入ってておいしいよ! 絶対食べなさい!」としきりに勧められたので食べたメンチカツ。
うぎゃっ、ウマい! 結局3枚食べてしまいました。1つ400円也。
コレコレ! 但馬牛の串焼き!
豚のアバラ肉焼き、骨付き!
というわけで、この日はお開きとなったのですが、温泉街をブラブラと歩き、スマートボールやら射的の店にも行き、そのままグースカ寝てしまったのでした。
名作「城の崎にて」を執筆した部屋
で、翌朝は早速酒を飲み始めるのですが、その後に実に貴重な体験をするのでした。
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私達が宿泊した「三木屋」は、志賀直哉の常宿として知られていますが、同氏が名作「城の崎にて」を執筆したという部屋を片岡社長に見せてもらえることになったのです。
志賀直哉が座った椅子と外の風景
志賀直哉から旅館に届いた直筆のハガキ
チェックアウト後は田口さんが館長を務める城崎国際アートセンターへ。
城崎国際アートセンターは、舞台芸術を中心としたアーティスト・イン・レジデンスの拠点。2014年春のオープンで、様々な作品の展示のほか、シンポジウム等の実施、アーティストの宿泊なども行っています。
館内の様子
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世界中のアーティストが壁に書いたサイン
ランチはお寿司!
生ビールとお通し。
寿司! キンメダイか?
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カラスミ!
食後は、当初田口さんと谷口さんに話していた「海と川に行きたい」を叶えてもらうべく、海へ。「キレイだぞ~」(田口さん)という言葉に「でも、日本海でしょ(苦笑)」みたいに思っていたのですが、いやはや、竹野浜海水浴場、これはかなりの透明度ではありませんか。
これは「キューピー半島」こと、猫崎半島
干物の直売場
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イカが干されている
さぁ、旅も終盤へ! 豊岡市役所大交流課の「魅力伝達幹事道」、続けますよ!
映画館・豊岡劇場へ。中ではバースペースでビールやお茶を飲むことができます。かつてはポルノ映画を上映していたみたいですが、劇場がセレクトした映画鑑賞のほか、イベントもよくやっています。「ウクレレを楽しむ会」や、豊岡出身の俳優・今井雅之さんの追悼イベントなど、地域の人々の交流の場にもなっています。
ポルノ映画館の休憩所で寝させてもらったゾ!
鞄通(カバンストリート)には、豊岡ブランドの鞄が多数販売されていました。
旅の最後は豊岡市立コウノトリ文化館へ。コウノトリをいかに同市が繁殖してきたかを学べるほか、実際にコウノトリが飛来する様子を見られます。
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空港にて。この日は友人の結婚式に参加していた和田さんも見送りに来てくれたよ!
で、移住ってどうよ?
こうして濃厚な2日間を送ったのですが、いやはや、移住したい気持ちって湧くものですね。私の場合は「釣り」「農業」「クワガタ」という3つが達成できつつ、時々文章を書くような生活をしたいと考えているわけであります。
豊岡市及び城崎温泉の場合は、いずれも達成できそうな場所であり、食べ物もおいしいし、それなりのリベラルさもあるように感じられます。なんといいますか、ずっと都会で過ごした者としては、「村八分」とかを極度に恐れているわけでした、そういったものがない「ほどほどの距離感と地元感」みたいなものが感じられるのでした。住んでみなくては分からないものの、居心地の良さを感じるとともに、若い人が鞄作りに勤しむ姿や城崎アートセンター及び豊岡劇場の行う新規性の高い取り組みには「センスいいじゃん」と思ったものです。
もう一つ私に豊岡・城崎温泉はいいな、と思わせたのが、田口さんの奥さん・Aさんの存在であります。Aさんは、創作系の仕事をしている方なのですが、東京から広告代理店の人が来ては打ち合わせをするなど、クリエイティブ系の仕事の総本山・東京から離れていても仕事が成立していると語っていました。むしろ、仕事なんてものは一人でやるものが多いわけですし、こうした生き方も羨ましいなぁ……。でも、オレはAさんのレベルにはまるで至ってないしなぁ……なんて逡巡しつつも、齢42、若干東京に疲れた身には第二の人生を豊岡のような場所で送るのもいいかな、と密かに思い、コウノトリ但馬空港を後にしたのでした。
田口さんは「ここはアクセスが悪いけど、むしろそのくらいの方がいいんじゃないの? 大阪とか名古屋だとホイホイと東京に戻りたくなったりするけど、『東京に行きづらい』ということで、却って覚悟ができ、第二の人生を送れるんじゃないかな。まっ、キミ次第だけどね、ガハハハハ」と助言をくれました。
というわけで、あんなに丁寧に案内をしていただいたというのに、原稿を書くのがここまで遅くなってしまい、大変恐縮の極みではありますが、皆様におかれましてもこれからの豊岡・城崎温泉をどうかお訪ねくださいませ。季節外れの恰好をしている点や、旬の魚が異なることなど、たいへん申し訳ありません。
■撮影:今井雄紀
著者:中川淳一郎(なかがわ じゅんいちろう)
ライター、編集者、PRプランナー
1973年生まれ。東京都立川市出身。
一橋大学商学部卒業後、博報堂CC局で企業のPR業務を担当。2001年に退社し、しばらく無職となったあとフリーライターになり、その後『テレビブロス』のフリー編集者に。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などを経て『NEWSポストセブン』など様々な、ネットニュースサイトの編集者となる。主な著書に、『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)、『夢、死ね!』(星海社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。割と頻繁に物議を醸す、無遠慮で本質を突いた物言いに定評がある。ビール党で、水以上の頻度でサッポロ黒ラベルを飲む。
前回までの「今も飲んでいます」はこちら。
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