東日本の鉄路の安全を支える拠点が長野市にあるんです 【祝!鉄道開業150年・経済つくるゲンバ特別編】JR東日本長野総合車両センター(上)

 鉄道が日本に開通して150周年、北陸新幹線が開業して25年となる今年。鉄道好きな息子に釣られ、記者も鉄道ライフを楽しんでいる。鉄道好きなデジタル編集部の同僚で技術職の「Mさん」から、JR東日本長野総合車両センター(長野市)で、車両のメンテナンス(点検・保守)をしたり、ブレーキ関連の部品を造ったりしていると聞いた。一ファンとしては訪れないわけにはいかない。一般公開はしていないが特別に認めてもらい、日々の運行の安全を「つくる」現場を取材した。

(伊吹あすか)

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

経済つくるゲンバ特別編・JR東日本長野総合車両センター(上) ここからの内容は

■長野県内と首都圏の車両 メンテ、改造、廃車・解体

■飯山線をメンテ 隣にあるのは常磐線!?

■「全般検査」 部品を次々と取り外し

■「車体抜き」 車体と台車をクレーンで分離

■「油まみれになる仕事」を志願

■ブレーキの摩耗が伝える地域特性

■「トラバーサー」で新鮮な「横移動」

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

■長野県内と首都圏の車両 メンテ、改造、廃車・解体

 センターは、JR東日本管内に六つある総合車両センターのうちの一つ。ちなみに長野の他のセンターは、東京(東京都品川区)、大宮(さいたま市)、秋田(秋田市)、郡山(福島県郡山市)、新幹線(宮城県)。「総合」と付くのは昔から工場部門がある施設を指し、長野県内では唯一だ。長野の総合車両センターは昔、蒸気機関車(SL)を造っていたといい、入り口には「長野工場」のプレートが付いたSLが堂々とした姿を見せていた。息子が見たら喜びそうだ。

 センターではJR東日本、グループ会社の計約400人が、車両のメンテナンスや改造、廃車・解体作業を担う。担当する車両数は県内のメンテナンス分だけでも476両。さらに、首都圏の車両も扱っている。

 これだけ多くの車両が出入りするセンターの敷地面積は、東京ドーム6個分ほどと広大だ。国鉄時代の1982(昭和57)年に入社し、車両下部の走行装置「台車」を専門としてきた加藤千典・生産技術科長(58)に、工場が立ち並ぶ南エリアを案内してもらった。

■飯山線をメンテ 隣にあるのは常磐線!?

 この日は、10日ほどかかる飯山線の気動車(キハ110系)のメンテナンスの初日だった。架線から電気を取り入れて走る電車と異なり、軽油を燃料とするディーゼルエンジンで走る列車だ。ちなみに列車内で見覚えのある「キハ」とは、車両の種類を示す記号で、気動車の「キ」、普通車両の「ハ」を指している。

 車両を構成する車体と台車を切り離す作業をする「解艤装(かいぎそう)棟」へ歩いて向かうと、敷地内を自転車で移動している従業員もちらほら目につく。広い敷地で、見かける従業員はまばらだが、「昔は1200人くらいいましてね」と懐かしそうに話す加藤さん。熱気もひとしおだったろう。

 解艤装棟に入ると、広い屋内に線路が敷かれていた。ふと隣に目をやると、改造作業中の車両が止まっていた。エメラルドグリーンのラインの常磐線だ。首都圏の列車を長野で見るのは不思議な感じだ。

 間もなく、壁のシャッターが開き、緑色のラインが入ったレトロ感のある気動車が、建物内に敷かれたレール上をゆっくりと入場してきた。どこかで見覚えのある色合いだ。棟内に入った時点で基本的には自力で走行することはなく、同じくディーゼルエンジンで動く「入換機」に押されている。

■「全般検査」 部品を次々と取り外し

 気動車が止まると、従業員たちが車体の周囲に集まってきた。地面よりも一段下がった「ピット」に入り、車体の底で何やら作業を始めた。車体と台車を切り離すため、つなげている部品を工具で外しているのだそうだ。

 「車内も見てみますか?」と加藤さんに声をかけてもらい、階段状の台を上って車内へ。普段、ホームから車両に入るときと違って、結構高さがあることが分かる。車内では脚立に上った従業員たちが、換気扇やクーラーのカバーを電動ドライバーで外していた。座席を難なく取り外した従業員は「持ち上げるだけで外れるんです」。こんなに簡単に外せるとは、知らなかった。これから洗ったり、傷んだ箇所を直したりする。

 車内で目につく部品をここまで大量に取り外すのか―と驚いたが、それもそのはず。この日の検査は、最も入念に行う「全般検査」だった。

 ばらばらにした部品が何なのか、分からなくならないか心配になったが、図面やタブレット端末で管理を徹底しているそう。基本的に従業員で構成する作業班ごとに、取り外したり、取り付けりする部品が決まっている。特に部品の組み立てや取り付けはしっかり確認し、結果をタブレット端末に入力している。

■「車体抜き」 車体と台車をクレーンで分離

 続いて、車両の車体と台車を切り離す「車体抜き」に移った。建物の壁に沿わせたレール状の「ランウェー」を走る「天井クレーン」2基で車体を持ち上げ、台車と分離し、仮台車の上に移動させる大がかりな作業だ。

 クレーンからつるされたU字形の巨大なアームを、車体にセット。車体近くにいる「合図手(あいずしゅ)」の従業員の笛が「ピッピー」と響くと、少しずつ車体が持ち上げられていく。見上げると、ランウェー近くの二つの運転台で構える2人の運転士が、息を合わせてクレーンのアームを動かしている。まさに巨大なクレーンゲーム機だ。

 十分な高さに持ち上げられた車体は前方へ。空中を走っているように見えてくる。その後、仮台車のある場所まで横移動した。見事な連係プレーだ。

 クレーンを動かす際は「合図手が絶対です」(加藤さん)。安全確保のため、下で作業している時はクレーンを動かしてはいけない―といった決まりがあるという。

■「油まみれになる仕事」を志願

 「車体抜き」が完了すると、再び従業員が車体の周囲に一斉に集まった。これから部品の検査などをする準備として、エンジンオイルや燃料などを抜いていく。

 一方、残された台車では、動力を車輪に伝える「推進軸」を取るため、かみ合ったボルトを工具で外していた。台車はオイルや土が付いており、少し触っただけで手が汚れた。「機械化できないので、手作業なんです」と加藤さん。

 電車と気動車の台車、両方の検査を経験してきた加藤さんに、どちらの作業が大変か聞いてみた。「必要な技術が違うのでね…」と言いながらも、加藤さんは教えてくれた。比較的清潔な電車に比べ、気動車の方が分解する時に油が付くなどして汚れるという。ただ、「『油まみれになる仕事をしたい』と入ってくる人もいるんです」と加藤さんは頼もしげに語る。

■ブレーキの摩耗が伝える地域特性

 「車輪もすり減ってくると、新しいものと交換するんですよ」と、加藤さんが台車を指さした。よく見ると、車輪の真ん中がすり減っている。冬場は雪がブレーキパッドと車輪の隙間に入り込まないよう、常時軽くブレーキをかけているためだという。「耐雪ブレーキ」と呼ぶ方法だ。隙間に入った雪が凍ると、ブレーキは利かなくなってしまう。すり減った痕が、安全に運行させるためにさまざまな工夫があることを伝えていた。

■「トラバーサー」で新鮮な「横移動」

 準備ができたところで、「トラバーサー」と呼ばれる大型の装置が登場。向かいにある「旅客車棟」へ車体を運び込む作業だ。入換機が車体をゆっくりと押し、トラバーサーに設けられたレール上へと移動させた。車体を載せたトラバーサーは横移動をし、旅客車棟の入り口前へ。車両が通常ではあり得ない「横移動」する姿も新鮮だ。車体は再び入換機に押され、旅客車棟内に入っていった。

 ここからは、ブレーキ関連の部品を検査したり、配管に損傷がないかを調べたりする。エンジンの他、ドアの開閉の動力となる「エアコンプレッサー」は取り外し、検査設備がある秋田総合車両センターにトラックで運ぶ。

 鉄でできている車体は、さびて塗装にひびが入った部分もあったが、さび止めを塗るなどして補修する。まだまだ序盤だが、車両には多くの人の手がかけられ、大事にされているんだと実感した。

(『中』へ続く)

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

【JR東日本長野総合車両センター】

長野市西和田2の29の1

【地図】

https://www.google.com/maps/d/edit?mid=1cSiQtZ80AFffAmQK_cEbjQEvAHmEGDU&usp=sharing

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

あわせて読みたい