建築討論
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01「アルベルティ・パラダイム」──デザインの固定化と可変性:パラダイム・シフトをめぐって

[201907 特集:これからの建築と社会の関係性を考えるためのキーワード11 |Key Terms and Further Readings for Reexamining the Architects’ Identities Today]

マリオ・カルポ『アルファベット そして アルゴリズム:表記法による建築―ルネサンスからデジタル革命へ』美濃部幸郎訳, 鹿島出版会, 2014
Marvin Trachtenberg, Building in Time: From Giotto to Alberti and Modern Oblivion, Yale University Press, 2010
ネルソン・グッドマン『芸術の言語』戸澤義夫・松永伸司訳、慶應義塾大学出版会、2017
アン・フリードバーグ『ヴァーチャル・ウィンドウ―アルベルティからマイクロソフトまで』井原慶一郎・宗洋訳、産業図書、2012

建築をめぐる幅広い批評的議論のプラットフォームを提供する日本建築学会のウェブマガジンです。

02「リレー」──建築は時間を超えた共同作業でつくられる

[201907 特集:これからの建築と社会の関係性を考えるためのキーワード11 |Key Terms and Further Readings for Reexamining the Architects’ Identities Today] — かつて、建築を作ることには膨大な時間を要し、人一人の一生涯よりも建築の作られる過程の方が長い場合が多々あった。西洋の教会堂は何世代もの主任建築家がその仕事を引き継ぎながら一つの全体像を完成させてきた。加藤耕一が『時がつくる建築:リノベーションの西洋建築史』(東京大学出版会, 2017)に記したように、通史的に俯瞰してみると、様々な名建築が既存建築の再利用、つまりリノベーションによって作られてきたことが分かる。かつての世代から受け継いだ建築に、適合性と一貫性★1を持って手を加え、新たな全体像を作りだす創造的な行為によって建築は形作られてきた。 建築はリレーのように前の世代から次の世代へと手渡され、育てられてきた。それぞれの走者は前の走者の走りを前提に次の走者の走りにつなげていく。このリレーのゴールは設定されておらず、第一走者はいるが最終ランナーは決まっていなかった。建築のオーソリティはその時点までのリレーメンバーであった。

02「リレー」──建築は時間を超えた共同作業でつくられる
02「リレー」──建築は時間を超えた共同作業でつくられる

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04「みんな」──災害ユートピアから闘技的民主主義へ

[201907 特集:これからの建築と社会の関係性を考えるためのキーワード11 |Key Terms and Further Readings for Reexamining the Architects’ Identities Today] — 東日本大震災の発生後、建築家の伊東豊雄は、被災各地の仮設住宅地などにコミュニティ施設を建てる「みんなの家」プロジェクトを展開した。震災発生から3ヶ月後の2011年6月にスタートした「宮城野区のみんなの家」に始まり、釜石、陸前高田、東松島、気仙沼、相馬などの被災エリアに建てられた「みんなの家」は計16棟である★1。プロジェクトの中心的推進者は伊東だが、乾久美子、藤本壮介、平田晃久、大西麻貴、スタジオ・ムンバイ、趙揚など、国内外の建築家も多数参与した。このうち2012年11月に竣工した「陸前高田のみんなの家」は、第13回ヴェネツィアビエンナーレ国際建築展の日本館に出展されると、最高賞である金獅子賞を受賞している。第6回の同展(1996年)では、磯崎新キュレーションによる阪神淡路大震災の瓦礫を使った展示がやはり金獅子賞を受賞しており、自然災害の多かった「平成」という時代の日本を代表する建築プロジェクトのひとつとして位置づけてもよいだろう。なお、2016年に起こった熊本地震の被災地でも「みんなの家」は数多く建てられた。

04「みんな」──災害ユートピアから闘技的民主主義へ
04「みんな」──災害ユートピアから闘技的民主主義へ

05「アクター・ネットワーク」── 「科学」としての建築学は可能か

[201907 特集:これからの建築と社会の関係性を考えるためのキーワード11 |Key Terms and Further Readings for Reexamining the Architects’ Identities Today] — アクター・ネットワーク理論による建築へのアプローチ アルベナ・ヤネヴァによる建築理論書、『Five Ways to Make Architecture Political: An Introduction to the Politics of Design Practice(建築を政治化する五つの方法 デザイン実践の政治学入門)』は、政治学者ラングドン・ウィーナーが1980年に執筆した一片の論文、『Do Artifacts Have Politics?(人工物は政治性を有するか?)』の紹介から始まる。それは1920年代のNYで活躍した都市計画プランナー、ローバート・モーゼスにまつわる衝撃的な史実をめぐるものだ。 自身が計画したジョンズ・ビーチへと続く公園道路に、モーゼスは異様な”低さ”の立体交差橋を計画した。8.5フィートの高さしかない橋が架かったその道を、低所得者を乗せた車高12フィートの公共バスは通行できない──。それは実質的に、建築を通じた人種隔離政策だったのだ。人工物そのものに政治的な性質を認めることが可能であると結論づけたウィーナーの仕事は、技術論・都市論・政治理論の領域に多くの議論を巻き起こした。

05「アクター・ネットワーク」── 科学としての建築学は可能か
05「アクター・ネットワーク」── 科学としての建築学は可能か

06「やわらかいもの」──Architects as a Service:デジタル技術が可能にするやわらかい建築家像

[201907 特集:これからの建築と社会の関係性を考えるためのキーワード11 |Key Terms and Further Readings for Reexamining the Architects’ Identities Today] — ビジネスの世界に身を置く人ほど、世の中のパラダイムが変わりつるあることを、身を持って実感していることだろう。モノが飽和し行き届いた現代にあっては、利潤を生むための差を情報的にも空間的にも生み出すのが困難であり、資本主義の拡大・成長の限界が見え始めている。すなわち、作っても売れない、差異化できない、新規領域が開拓できないという、ものづくりに携わる人々にとっては苦難の時代に突入したのである。先日のトヨタホームとパナホーム合併のニュースは、まさに市場の限界を予兆させる象徴的な出来事であった。 このような状況を好転させるには、資本の最大化を目指す社会から、価値の最大化を目指す社会(ポスト資本主義)への変貌を遂げなければならない。実際に、GAFAと呼ばれるIT企業は、目先の売上(PL思考)よりも、どれだけ将来的なキャッシュを生むことができるかという価値(ファイナンス思考)に重きを置いており、その企業価値(時価総額)と長期的な投資によって経済界の頂点に君臨する。

06「やわらかいもの」──Architects as a Service:デジタル技術が可能にするやわらかい建築家像
06「やわらかいもの」──Architects as a Service:デジタル技術が可能にするやわらかい建築家像

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岡北一孝

おかきた いっこう/京都美術工芸大学工芸学部建築学科助教。京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科修了、博士(学術)。イタリア建築史・都市史とヨーロッパの建築の保存・修復の歴史を研究テーマにしている。共著書に『ブラマンテ盛期ルネサンス建築の構築者』(NTT出版、2014年)など