2021年度の事業として特筆するべきは、「まちなか保健室」の移転と拡張である。
2020年4月、コロナの緊急事態に合わせたように開室した「まちなか保健室」(正式開室は緊急事態宣言が明けた7月だったが、既に開室準備が整っていたので、小さく開けて居場所・行き場所のない女性を細々と受け入れた)だったが、やはり手狭だったので、1年で近くの一軒家に移転し、2021年4月、新装開室した。さらに、これに合わせるように、東京都の若年女性支援の委託事業を受けることができ、まちなか保健室を拠点に、女性たちの日中の居場所支援と秋葉原やお茶の水を中心にアウトリーチをすることが実現できた。その内容と実数は本報告書本文を参照していただきたいが、「少女の街」秋葉原と「学生の街」お茶の水の中間に位置する場に設営できた「まちなか保健室」は、地の利を得て、連日複数の女性たちが利用し、それぞれの需要に応えることができた。スタッフはシフト制ではあるが、福祉や看護、教育の有資格者もしくは有識者であり、女性の個性も困難も多様であり、一人として同じではない複雑多様なニーズにこたえることができている。学校にあったような保健室が街中にあったらいいな、との思いから始めた「まちなか保健室」、時機とニーズに適った取り組みとして多方面から関心を持たれ、メディアでの紹介や、視察も多く受け入れた。若者が気兼ねなく立ち寄れ、ホッとできて、有用な情報をゲットできて、少しだけでも元気が出る場所、そんな場所が日本中のどこにでもあるようになればいいなと、思う。
開所して丸3年を経過したシェルターとしての若草ハウスは、常時満室で、しばし入所依頼をお断りすることが続いた。また若草ハウスを通過した退所者も累積し、時に入所中には見えなかった困難が退所後に判明するなど、若年者支援の難しさをつきつけられた。この経験を踏まえ、今年度、自前のステップハウスを設けた。ステップハウスでは、若草ハウススタッフの支援を受けて一人暮らしに慣れていけるよう、見回り的な支援を実現した。シェルターからステップハウスに移り、常時生活を共にする見守り支援から、時々覗く見回り支援を継続し、基礎的な生活習慣や生活のリズムを学び、出来たら多少の蓄えをしてから自立していくという道である。なかなか絵に書いたようにはいかなくても道筋を作ることによって目標を明確にすることができるようになった。
私たちも支援しながら学ぶ。ライン相談やハウス、まちなか保健室の女性たちの直接の声に耳を傾けながら、何が必要かを探り続けている。この意味で、今年度のシンポジウムに「少女たちが世界をかえる」をテーマとし、広く若者の声を聞きながら、上野千鶴子氏の講演と対話を持つことができたことはとても有意義だった。
コロナ禍で女性たちの困難はますます過酷を極め、統計上にもその実態が明らかになってきている。3年目に入る今、まだまだ収束は見えず、更なる困難が続くことが予想される。若草としても、私たちの強みである専門性と企業連携をさらに強化して、複雑かつ多様な女性たちのそれぞれの困難に対処し得るよう、私たち自身の心身の健康に留意しながら、今年度事業の成果を次年度事業につなげていきたいと思う。
なお、本年度、当法人代表呼びかけ人である瀬戸内寂聴先生が逝去された。氏に励まされてここまで来たことに心から感謝している。そして、これからも「貴方たちなら未来は変えられる」との遺言メッセージを心に留め続けていきたいと思う。これは当法人のみならず多くの女性への励ましであり、エールである。引き続き代表呼びかけ人として、さらに一歩進めるための旗手であり続けていただきたく思う。