アメリカのマーシャル大学でポップカルチャーと政治を研究するジェス・モリセット教授は、”ビデオゲームに登場するジュースの自動販売機(ソーダマシン)”に関するプロジェクト「The Video Game Soda Machine Project」を2016年9月から進めている。
教授はこの度、自動販売機が登場するビデオゲームリストに登録されたタイトル数が3000本を突破したとプロジェクトのサイト上で発表した。記念すべき3000本目は、1992年発売のNES版『リーサル・ウェポン』となった。
モリセット氏が「The Video Game Soda Machine Project」を開始したのは、『Batman: Arkham Knight』で見つけた自販機がきっかけとなった。スクリーンショットを撮影し、「なぜソーダの自販機のスクリーンショットを集めたTumblrが無いんだろう」とつぶやいたところ、『Fallout 3』や『Half-Life』の自販機のスクリーンショットが他のユーザーから送られてきた。これがプロジェクトの雛形となった。
リストには海外のシングルプレイヤーゲームのみならず、『√Letter ルートレター』や『ラグナロクオンライン』など、ジャンルやプラットフォームを問わずさまざまな自販機が登録されている。その中には実際にはリリースされていないゲームも含まれており、たとえば『バイオハザード2』のプロトタイプ版もそのひとつだ。当初はペプシのロゴが入った自販機が使用されていたが、実際に発売された製品版では架空のものに置き換えられている。
自販機のスクリーンショットの多くは他のプレイヤーから送られてくることが多いが、モリセット氏自身が”ソーダマシンの存在を感じ取る本能”を駆使し、自販機を発見することもある。たとえば2002年に発売された『Gore: Ultimate Soldier』では、当時の雑誌にはゲーム内に自販機が存在することはどこにも記されていなかった。
だが「ミートマシンでトレーニングしてあなた自身を証明しなければならない!」というプロモーションの宣伝文句から、トレーニングには適度な水分補給が必要であることを連想。デモ版をダウンロードしたところ確かに自販機を発見し、自身の”ソーダマシン本能”を証明した。
モリセット氏はこれらの自販機にはある共通点があることを発見する。ナショナル・パブリック・ラジオのインタビューで、「いくつかのゲームではソーダマシンは体力回復などのアイテムを生み出し、彩度の低いゲームのアートにポップな色を加えることに用いられている。」と語っている。
また、多くの自販機は長方体のモデルでレンダリングが比較的簡単であり、その世界が自分たちの住む現実世界と共通していることを簡単に示す方法であるという。つまり一言で言えば、ビデオゲームにおいて自販機の存在は、現代性の省略表現であることが見えてきたという。
一方で、自販機の持つ現代性は、ユーモアや不安を想起させるものにも転用できる。たとえば『Fallout』シリーズのヌカ・コーラはシリーズをつなぐ役割を果たし、青く光る「ヌカ・コーラ・クアンタム」は現実でも発売された。自販機の現代性を逆転させて現実に持ち込んだヌカ・コーラ・クアンタムは、ユーモアとともに現実もいつかは核戦争で『Fallout』のような世界になるのではないかという不安をも想起させる。
このように、ソーダの自販機を集めるプロジェクトは見た目以上にビデオゲームの文化研究の重要な一端を担っている……ように思えるが、公式サイトでは「なぜソーダマシン?」という質問に対し「当時はいい考えだと思ったから」と言葉少なに答えている。
なおこのようなビデオゲームをある視点からカタログ化するプロジェクトは他にもある。ビデオゲームのトイレを集める「The Videogame Toilet Museum」や、マンホールを集める「Video Game Manholes」、あるいは犬を可愛がることができるゲームを集める「Can You Pet the Dog?」など、その切り口は多彩だ。
もしあなたがゲームでソーダの自販機を見かけたら、ジェス・モリセット教授のTwitterアカウントに教えてあげてほしい。
ライター/古嶋誉幸