京都大学の教育学部には「学士入学」という制度があります。あんまり知られていない制度です。ネット上を探してみても、ほとんど情報が転がっていません。私は昨年、この制度を利用して、やっとこさ試験に合格し、今年の4月から教育学部に「編入学」することになりました。しかし周囲に学士入学の体験者がいなかったものですから、情報不足と、そこから生じる不安と焦燥には、ずいぶんと苦しめられましたので、ここに受験体験記のようなものを、まあ自分が知る限りのことを断片的に書き連ねるだけですが、残しておこうと思います。

なお、私が受験したのは教育学部に3つある「系」のうちの「教育心理学系」です。しかも、いわゆる教育学の方ではなく、臨床心理学に主な関心をもっています。ですから、以下、だいぶそういう方向に偏った記述になりますけれども、その点はごめんなさいね。

さて、学士入学というのは何かといいますと、「学士」つまり大学を卒業したことのある人(あるいは卒業見込みの者)だけが受けられる試験がありまして、それを突破しますと、教育学部の「3回生」として編入学できる、という制度です。順調に行けば、2年で学部を卒業でき、二つ目の学士がもらえます。

「自分は教育学部で○○を学びたい!」という意思がある人にとっては、とってもおトクな制度だと思います。というのも、もしイチから教育学部に入ろうとするならば、共通テスト(以前のセンター試験)だの京大入試だの、なかなかの難関を突破しなければなりませんし、なによりも、高校生たちにまぎれて、あの受験戦争のピリピリした空気の中へ飛び込んで行くというのは、考えるだけでもうんざりさせられることですから、そうした道を経ずに入学できるというのは有難いことです。ちなみに、京都大学ではふつう「一般教養科目」と「専門科目」の二種類の単位をたくさん取得しなければ卒業できません。しかし学士入学生は、このうち「専門科目」のみで卒業できます。(というより、そうでなければ2年で卒業などできません)。一般教養科目というのは、たとえば外国語であったり、あるいは自分の専門外の科目を「広く浅く」学ぶものですから、これらをパスできる、というのも、よいことですね。

さて、まず毎年6月頃に「学士入学入試説明会」があります。いろいろと質問もできますので、これにはぜひ参加しておきましょう。教育学部のサイトの「学部受験生の方へ」のところなどを、4月頃からちょくちょくのぞいておれば、お知らせを見つけることができるでしょうし、気になる人は、教育学部の教務へ電話をしてみれば、きっと教えてもらえるでしょう。

次に、教育学部の教務に行って、願書をもらいましょう。証明写真を貼ったり、受験料を払ったり、いろいろありますが、厄介なのは「志望理由書」の作成です。これは面接試験の際に重要なアイテムとなるものですが、600字以内という厳しい字数制限があります。私の場合、臨床心理を学びたいと思う理由、今まで何を学んできたか、今は何に関心があるか、入学したいと思ったきっかけ、なぜわざわざ京大の教育学部なのか、入学したら何を学び研究したいか……というのを、きっちきちに盛り込んだので、推敲に推敲を重ね、友人に読んでもらい、また修正して、の繰り返しでした。

なお教育学部には3つの系がありますが、そのうち第一志望・第二志望というかたちで出願します。私は教育心理学にしか行く気はありませんでしたが、第二には現代教育基礎学系、と書いておきました。

ぶじ願書を出し終わると、8月末に一次試験(筆記試験)です。試験会場に行くと、思ったよりたくさんの受験生がいて、ぞっとしますが、これはどうも同日に行われている大学院入試の受験生のようでした。ここ数回の〔志願者数/入学者数〕を紹介しましょう。〔20/6〕〔20/5〕〔16/6〕そして私の時は〔15/9〕でした。だいたい倍率は3倍ぐらい、私の年はかなり運がよかったようですね。一応、定員は10名らしいのですが、どうも、10名きっかりとることはなさそうです。

試験の過去問は、教育学部の教務で見ることができます。受験を考えているならば、できるだけ早いとこ見に行きましょう。過去8年分の過去問がファイルされていて、持ち帰りは禁止ですが、近くに学生の休憩ルームがありますので、そこでパシャパシャ写真を撮ってしまいましょう。

試験は「英語和訳75分」と「専門科目記述90分」です。英語は長文を読み、下線部をとにかく訳すだけ。レベルは大学入試ぐらい、結構むずかしかったです。複雑な語彙もあり、構文もなかなかさくっと和訳できない文章です。私の解答は結構ボロボロだったとは思いますが、分からない単語はごまかしごまかし、なんとか日本語の文に仕立て上げました。それで合格だったのですから、きっと完璧に訳せなくても大丈夫なのだと思います。辞書をひきひき英語論文を読むための、最低限の英語読解力があればOKということでしょう。

専門科目は、自分の第一志望と第二志望の「系」に即したお題(つまり2題)に答えます。一問一答やら穴埋めはありません。過去問をご覧になるとお分かりかと思いますが、毎年かなり、アバウトというか、なんとも人をうならせるお題がでます。私の時は「教育において信頼はどのような役割を担っているか」「対人コミュニケーションについて心理学ではどんな研究が行なわれてきたか」というものでした。つまり、生半可な知識をひけらかしたりなんかしなくてよいから、あんたの思う教育だの心だのについて語ってみな、という感じです。ですから、普段からどれだけ教育や心について考えているか、それをパッと論理的に表現することができるか、が問われているのかな、と思います。私の場合は、論理的にはぐっちゃんぐちゃんだったと思いますが、とりあえず、「こういうことかもしれません、しかしこういう考えもあるでしょう、いや、こうも考えられます」という風に、とにかく色々な発想を殴り書きしました。

なお、試験のために参考になりそうな本などについては、別の記事にまとめておきますので、そちらをご覧ください。

ちなみに服装の規定はありませんでしたが、スーツを着ておられるかたも結構おられました。私は、真夏ですから、アロハシャツのようなものを着ていったのですが、さすがにちょっと恥ずかしかったです。しかし、年に一回の試験なのですから、自分が一番リラックスできる服装でかまわないと思います。15人の受験でしたが、そのうち2名は、そもそも試験会場に来られていませんでした。

さて、9月の初めに一次試験の合格発表があります。そして9月中旬に二次試験(面接試験)、9月下旬にやっと最終の合格発表があります。というわけで、9月はまるまるドギマギして過ごすことになります。

さて、面接は30分。さすがにスーツを着ていきました。待合室でしばし待たされてから、部屋に向います。面接官は3人。教育学部の講師の方ですので、事前に学部のパンフレットを見ておくと、あ、○○先生だ、と分かって、少し気が楽になるかもしれません。面接の内容ですが、これは「中央ゼミナール」という京都の予備校のサイトに「面接体験記」というのがありますので、そちらを読むことをおすすめします。

面接について特筆すべき点をいくつか。まず、一問一答というよりは、かなり自由に話が展開します。私のちょっとした発言をどんどん深堀りされたり、志望理由書に付け足したい点があったら自由に話してみて、と言われたり。確かに「あなたの考えてることをもっと教えて」という和やかな面接ではありましたけれど、しかし、まあ当り前のことですが、たとえ虚勢を張ってうわべだけの回答をしても、すぐにメッキが剥がされていくような、そういう恐ろしいところもありました。ですから、たとえば、どうしても曖昧な答えしか思いつかない時には、素直に、「うーん、はっきりと明確に答えることはまだできませんが……しかし、こういうことかもしれません」とか、「その点については、これからもっと色々なことを学んだうえで考えてゆきたい」などと言うのが、一番誠実だと思います。

集中的に聞かれるのは「2年で卒業というタイトなカリキュラムだけど大丈夫か」「入学後どんなことを学びたいか」「なぜわざわざ京都大学の教育学部なのか」ということでした。想定される質問には、しっかりと答えを用意しておきましょう。

面接において大切かなと思った点をいくつか。まず、相手の質問を的確に聞き取ること。この人は私に何を聞いているのか、を頭の中でいったん整理したうえで答えないと、とんちんかんな答えを返してしまうことになります。それから、答えを長くし過ぎないこと。とくに志望動機だとか、自分の関心事などについては、ぺらぺら話したくなるものですが、落ち着いて、今じぶんは何を話しているのか、その次は何を話すべきかをしっかり意識しながら話せば、適切なタイミングで答えを終えることができると思いました。