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成立した困難女性支援法
当事者中心へ発想転換
官民協働で実効性ある体制に
お茶の水女子大・戒能民江 名誉教授に聞く
性被害や生活困窮、家庭関係の破綻などの困難な問題を抱える女性に多様な支援を包括的に提供するため、超党派の議員立法で5月19日に成立した「困難女性支援法」について、お茶の水女子大学の戒能民江名誉教授(「女性支援新法制定を促進する会」会長)に意義やポイントを聞いた。
――従来、困難を抱える女性への支援は、1956年制定の売春防止法(売防法)に基づく婦人保護事業が担ってきた。その理由は。
婦人保護事業の実施要領には、目的についての記述の中に「社会環境の浄化」とある。つまり、もともとは社会秩序維持のために、売春を行う恐れのある女性を保護更生させようとして、各都道府県の婦人相談所などの仕組みが整えられた。一方で、女性を巡る問題に全国的に対応できる公的な仕組みが他になかったため、やがて対象を拡大し、事実上の支援を担うこととなった。
――現在の課題は。
売防法は「保護更生」なので「収容・保護・指導」はあっても「支援」の概念がない。困難を抱える女性を保護しても、その先の自立支援は法的根拠がなく、現場は苦労してきた。課題が多様化・複合化・複雑化しているにもかかわらず、個別のニーズへの対応や専門的支援が難しく、支援のナショナル・スタンダード(全国的な基準)がないために地域差も著しい。
婦人相談員や婦人保護施設職員などの支える側へのケアも不十分だ。
――新法のポイントは。
大事な点は、売防法を脱却し、“意思を尊重した最適な支援”や“当事者の立場に立った相談対応”といった「当事者中心主義」の考え方が明示されたことだ。また、従来の公的機関の支援にあった「上から目線・管理的な目線」を打破するため、民間団体との協働が掲げられた。これらによって、初めて実効性ある女性支援の法的な体制が整うことになった。
その上で、特に公的機関にとっては、長年染み付いた売防法の発想からどう抜け出すかが、今後の大きな課題といえる。
公明
議員立法の強い推進力、男女問わず熱心な姿勢
――公明党が果たした役割をどう見るか。
議員立法の実現には、強い推進力となる議員が必要だが、今回は公明党の山本香苗参院議員が、その一人として大きな役割を果たした。また、公明党の会合に何度か参加したが、他の多くの議員も、現場目線で考えて問題を認識しており、男女を問わず熱心に取り組んでもらったと感じている。
――今後、求められる取り組みは。
女性が困難を抱える背景にある男女格差に目を向けるべきだ。女性を巡る困難のうち、貧困、性搾取、暴力被害は、形態の変化はあっても時代を超えて変わらない課題だが、社会的に問題視されたのは比較的最近だ。コロナ禍でも非正規雇用の女性が真っ先に経済的な影響を受け、若い女性の自殺に焦点が当たった。女性の人権が長年軽視されてきたことは、売防法の抜本的見直しに66年かかった一因ともいえる。
新法制定を契機として女性の福祉増進と人権保障が図られ、男女平等の社会が実現することを期待したい。