日本国内でも接種が進む新型コロナワクチン。ウイルスの変異や研究が進むことで状況は刻一刻と変わってきています。今回は、変異株に対する効果の違いや製造元による特徴など、新型コロナワクチンの最新トピックスについてCoV-Navi(こびナビ) 副代表の木下 喬弘先生にお話を伺いました。
新型コロナワクチンには、感染予防効果、発症予防効果、重症感染予防効果があることが分かっています。特に無症状の感染と他人への感染を減らすことが明らかになっており、デルタ株出現前では無症状の感染を91%防ぐという報告がありました。
デルタ株出現前の発症予防効果はファイザーが約95%、モデルナが約94%、アストラゼネカが約70%という臨床試験結果が出ています。ただし新型コロナ未感染者の場合、ファイザーよりもモデルナのほうが接種後の抗体価が平均2.6倍上昇するといわれているため、効果が長続きする可能性があると考えられます。
ワクチンの有効性は、時間の経過とともに少しずつ下がっていきます。接種してからどれだけの期間効果が持続するのかは、まだ明確には分かっていません。
また、人によっても効果の持続期間は変わってくると思います。たとえばステロイドなど免疫を抑える薬を飲んでいる人の場合、新型コロナウイルス感染症に限らずワクチンの効果は出にくいといわれていますので、持続期間は短くなると考えられます。逆に12~15歳の若年層では、16歳以上より抗体の量が上がるため、効果も長く持続すると思います。
新型コロナウイルスの変異株には、ベータ株、デルタ株、ラムダ株などさまざまな種類があります。
デルタ株ではワクチンの効果が少し低下することが分かっており、発症予防効果はファイザーが約88%、アストラゼネカが約67%とされています。また、2021年8月にコロンビアで発見されたミュー株に対して、ワクチンの効果が下がるという実験上のデータも出ています。
ただし、実験では疑似的なウイルスを使うので、実際の発症予防効果がどの程度低下するかは分かりません。
さらに、今後も新たな変異株は出現します。ウイルスの変異は常に起こっていて、現在はその中でも人から人に感染しやすいウイルスが生き残って主流になっています。そのように、現状のワクチンが効きにくい別の変異株が今後現れる可能性も考えられます。
ワクチンを接種した人にできたオミクロン株を中和する抗体の量は、デルタ株の41分の1にまで低下すると推定されています。また、イギリスの研究では、ファイザーのワクチンを接種した人の発症予防効果は40%前後であったことが報告されています。このように、オミクロン株に対するワクチンの効果は低下すると考えられています。
重症感染の予防効果や入院予防効果についてはまだ十分データがありませんが、発症予防効果よりは高い値を維持すると予測されています。
ワクチンの効果は時間とともに少しずつ落ちてくるので、3回目の接種をすれば2回目接種後よりも抗体価は上がり、新型コロナウイルス感染症にかかりにくくなります。
イスラエルでの調査では、ファイザー製ワクチンの3回目接種後は2回接種後と比べたところ、デルタ株に対して11.3倍の発症予防効果があったという結果も出ています。また、ファイザーのワクチンを2回接種した場合のオミクロン株に対する発症予防効果は約40%ですが、3回接種した場合は約76%にまで上昇すると推定されています。
日本でも厚生労働省で議論を重ね、ワクチンの3回目接種が実施されることになりました。対象となるのは、基本的に18歳以上で2回目のワクチン接種から原則8か月以上が経過した方です。3回目接種は2021年12月から開始され、2022年9月までに順次行われる予定です。
また3回目の接種では、ファイザー製・モデルナ製のmRNAワクチンであれば、1回目、2回目のときと異なるメーカーのワクチンを接種してもよいことになっています。たとえば、1・2回目でモデルナ製のワクチンを接種していても、3回目接種の際にファイザー製のワクチンを接種することができるわけです。
ただし2021年12月の段階では、ファイザー製のワクチンのみが3回目接種の薬事承認を受けている状況のため、しばらくは3回目接種といえばファイザー製のワクチンが用いられることになります。モデルナ製ワクチンについては現在薬事承認審査中ですので、いずれ承認され3回目接種にも使用されるようになるでしょう。
まず、副反応と混同しやすいものに有害事象があります。有害事象とは明らかに接種とは関係のない事故によるけがなども含め、接種後に起きた健康上好ましくない全ての出来事のことを指します。
一方で副反応は、接種との因果関係が証明された有害事象のことをいいます。一般的な副反応としては、注射した部位の痛みや頭痛が多く、そのほかに筋肉や関節の痛み、寒気、発熱などが挙げられます。
よく挙げられる重い副反応にはアナフィラキシーがあります。アナフィラキシーとは接種後すぐに起きるアレルギー反応のことで、皮膚症状(蕁麻疹
アナフィラキシーはさまざまな薬やワクチンの投与によって引き起こされる可能性があり、新型コロナワクチンにおいては、100万回の接種あたりファイザーが4件、モデルナが1.5件と報告されています。
ワクチンの接種会場では、もしアナフィラキシーが起こってもすぐ対応できるよう治療薬などを備えていますので、指示に従い接種後15~30分待機するようにしましょう。
重い副反応では、ファイザー製とモデルナ製で起こる心筋炎や心膜炎、アストラゼネカ製で起こる血栓症が特徴的です。
心筋炎・心膜炎の国内での発生頻度は、100万回の接種あたりファイザーで0.6件、モデルナで1.6件と報告されています。ただし心筋炎は若い男性に起こりやすく、米国の能動的な疫学調査によると、12~39歳に限定した場合、ファイザーは14.4件、モデルナは19.7件発生しています。日本の疫学調査は受動的な報告システムに依存しているため、正確な発生頻度を把握するためには、今後の研究を待つ必要があると考えられます。
ワクチン接種後数日の間に息切れや胸の痛みが現れた場合は医療機関を受診するのがよいでしょう。
一方、アストラゼネカのワクチンでは心筋炎や心膜炎の報告はされていませんが、10~25万回の接種あたり1件程度の頻度で珍しいタイプの血栓症が起こるといわれています。いろいろな場所の血管に血栓ができる可能性があるため、脳に血栓ができれば頭痛が、お腹に血栓ができれば腹痛が起こるといったように症状はさまざまです。
血栓症は、接種後1か月程度以内に起こることが分かっています。何らかの症状が出たら、血栓症の可能性も踏まえて受診をしてください。
アストラゼネカのワクチン接種後に発症することがある血栓症は珍しいタイプのもので、通常の血栓症とは治療法が異なります。そのため、受診の際は新型コロナワクチンを接種したことを医療機関に伝えるようにしましょう。
そのほか、アストラゼネカのワクチン接種後、ギラン・バレー症候群(手足のしびれ、麻痺などの神経症状が起こる)や毛細血管漏出症候群(手足のむくみや低血圧などにつながる)が起こるという報告もありますが、これは血栓症よりもさらにまれです。
妊娠中、授乳中でもワクチン接種は可能です。海外で行われた調査によると、妊娠中にワクチン接種をしても、流産、死産、先天異常などの発生率は接種していない場合と変わらないこと分かってきています。
むしろ妊娠中に新型コロナウイルスに感染すると、早産のリスクが高まったり、人工呼吸器を付けることになれば帝王切開の必要性がでてきたりとデメリットが増えるので、妊娠中でもワクチンを接種したほうがいいといわれています。また、妊娠中に血中にできた抗体は赤ちゃんにも移行するので、生まれてからしばらくの間は赤ちゃんを新型コロナウイルスから守ることができる可能性もあります。
授乳中の接種についてはさらに安全で、ワクチンの成分が母乳に含まれることはなく、万が一含まれたとしても赤ちゃんに悪影響を及ぼすことはありません。
理論上は、9割くらいの人が3回目の接種を終えれば、集団免疫の獲得は期待できるかもしれません。ただし、実際に集団免疫を達成することができるかはまだ分からない部分が多いです。
感染力の指標に基本再生産数(免疫を持っていない集団で1人から何人に感染するかを表した数値)があります。仮に基本再生産数を3だとすると、1人から3人に感染するため、3人に2人が免疫を持っていれば感染は拡大せず、集団免疫が獲得できるといえます。
一方で、デルタ株の基本再生産数は従来よりも高く、より多くの人が免疫を持っていなければなりません。しかも、デルタ株に対するワクチンの効果は従来型のウイルスより落ちるため、感染拡大を防ぐのがより難しくなります。
ただ、3回目接種が広まればワクチンの効果が高まるため、集団免疫に近づけることになります。
重要なものだと、3回目の接種や、それに伴う交差接種に関する議論が挙げられます。
まず3回目接種の安全性についてですが、ファイザー、モデルナ共に、3回目の接種は2回目の接種より副反応の頻度がやや少ないということが明らかになっています。具体的にはファイザーのワクチンでは、局所の副反応が起こる頻度は2回目接種が約65%で3回目接種が約60%であり、発熱などの全身の副反応が起こる頻度は2回目接種が約63%で3回目接種が約54%と報告されています。一方、モデルナのワクチンでは、局所の副反応が起こる頻度は2回目接種が約79%で3回目接種が約67%であり、発熱などの全身の副反応が起こる頻度は2回目接種が約75%で3回目接種が約59%と報告されています。
また、たとえばイスラエルでは3回目接種後のアンケートで、88%の人が2回目接種後に比べて副反応が同等か軽かったと答えています。接種回数を重ねるごとに副反応がひどくなるわけではないと考えられます。しかし、心筋炎は1回目よりも2回目接種後に多く報告されており、3回目における頻度はまだ分からないため、しっかりと調べる必要があります
日本では2回とも同じ種類を接種することになっていますが、3回目を接種するとなると、ワクチンの在庫がなく同じ種類を接種できない可能性が出てきます。そのため、交差接種(各回で種類の違うワクチンを打つこと)についても研究が進められています。
海外では、アストラゼネカワクチンを1回接種した人に、2回目はmRNAを接種することがすでに行われていて、今のところ大きな問題にはなっていません。データとしては副反応の頻度がやや高く、抗体価の上がりはmRNAワクチンを2回打つのと同程度といわれています。
妊娠中、授乳中の人も含め、一般的にはワクチンの副反応などのリスクよりも、新型コロナウイルスに感染するリスクのほうが高いといわれています。ワクチンのベネフィットとリスクをよく理解して接種することが重要です。
また今後も研究が進んだり新たな変異が起こったりすれば、状況は変わります。不安なことがあれば、政府機関など信頼のおける発信元から情報を入手するようにしましょう。
CoV-Navi(こびナビ) 副代表
日本救急医学会 救急科専門医日本外傷学会 外傷専門医
2010年大阪大学卒。大阪の3次救急を担う医療機関で9年間の臨床経験を経て、2019年にフルブライト留学生としてハーバード公衆衛生大学院に入学。2020年度ハーバード公衆衛生大学院卒業賞"Gareth M. Green Award"を受賞。卒業後は米国で臨床研究に従事する傍ら、日本の公衆衛生の課題の1つであるHPVワクチンの接種率低下を克服する「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」や、新型コロナウイルスワクチンについて正確な情報を発信するプロジェクト「CoV-Navi(こびナビ)」を設立。公衆衛生やワクチン接種に関わる様々な啓発活動に取り組んでいる。
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