JR新宿駅から徒歩10分、新宿御苑そばに小さな書店がある。古びた木彫の看板には「模索舎」の文字。一見、古書店のようだが、れっきとした新刊書店だ。店内には、天井にいたるまでびっちりと本が並んでいる。だが、この書店の品ぞろえは他とはひと味違うことで知られる。

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 天皇制、赤軍、アナーキズム、監獄・死刑、戦争責任、マルクス主義、原発など店内のジャンル区分はずいぶんトバしている。

 そこには、あらゆる情報をフラットに取り扱う模索舎の理念がある。思想信条や、メジャー、マイナーで区分はされない。実際、模索舎は左翼関係の書物ばかりでなく、右翼関係の書物も取り扱う。さらに、自主制作のミニコミや、Tシャツ、CD、DVDといった、サブカル系のアイテムも充実している。

 模索舎の歴史は1970年代初頭までさかのぼる。全共闘運動に関わる学生たちが、自分たちの出版物を新たに作り、流通させる拠点として作られた。自主制作物であれば何でもおけ、定価に対して3割の料金が委託料だ。一冊100円の商品ならば、30円が模索舎の収入となる。

「模索舎は、商業ベースに載らない本を取り扱うことを前提に作られた書店です。個人作成のミニコミや、市民運動のパンフや新左翼党派の機関紙などを各種取り扱っています。経営は厳しいですが、日本でもここにしかないものを多く取りそろえています」

 模索舎店員の榎本智至さんは語る。今回は榎本さんがセレクト、執筆した「テロ」関連文献6選をお届けしたい。ただし、あくまでもテロを推奨、礼賛しているわけではないのでご注意願いたい。

【1】『現代暴力論「あばれる力」を取り戻す』著:栗原康/角川書店

「気分はもう焼き打ち」(帯より)。今、注目の若手政治学者が独特のリズムを持つ強烈な文体で論ずる「現代暴力論」。第五章「テロリズムのたそがれ:犠牲と交換のロジックを超えて」では、ミハイル・バクーニン、無政府主義結社ギロチン社などの行動からアナキストのテロリズムを紹介する。

「ゼロになること」「共鳴を呼び起こすこと」テロリズムから民衆の蜂起へ。なぜひとはテロリズムに駆りたてられるのか、その答えのひとつがここに書かれている。角川新書というメジャーな媒体から刊行されたことも脅威。

【2】『憂国か革命かテロリズムの季節のはじまり』著:鹿砦社編集部編/鹿砦社

 鈴木邦男氏が若松孝二監督、フラメンコダンサーの板坂剛氏と語る浅沼稲次郎刺殺事件の山口二矢、嶋中事件、三島由紀夫。なお、復刻資料として大江健三郎「政治少年死す セヴンティーン第2部」、深沢七郎「風流夢譚」、「これがおいらの祖國だナ日記」が本書に収録されているのもレア。

【3】『新装版・黒旗黒旗水滸伝』 原作:竹中労、画:かわぐちかいじ画/皓星社

 反骨のルポライター・竹中労の原作、そして若き日のかわぐちかいじが描く大正アナキスト群像。関東大震災で官憲によって虐殺された大杉栄。貧民窟で蠢いていた「ギロチン社」のアナキストの若者たちは大杉栄を虐殺した国家への復讐へと動く。『大正アナキスト覚え帖 関東大震災90年』(アナキズム文献センター)もあわせておすすめしたい。

【4】『昭和の劇:映画脚本家・笠原和夫』 著:笠原和夫、スガ秀美、荒井晴彦/太田出版

 1969年、全共闘運動全盛のこの時期に東映は桜田門外の変から血盟団事件、二・二六事件まで日本のテロの歴史を描いた『日本暗殺秘録』(中島貞夫監督)を公開した。本書でのインタビューで脚本を手がけた笠原和夫はテロリストのある種の輝きを描きたかったと述べている。本映画では血盟団事件について長い尺がとられているが、小沼正を熱演する若き日の千葉真一などをスクリーンで観てほしい。

【5】『テロ 東アジア反日武装戦線と赤報隊』 著:鈴木邦男/彩流社

 1975年5月、東アジア反日武装戦線メンバーが一斉逮捕された。右翼活動家だった鈴木邦男氏は連続企業爆破事件と逮捕されたメンバーの人物像に衝撃を受け、民族派系機関紙に「"狼"たちと右翼武闘派」というルポを書きはじめ、そして初著書である『腹腹時計と<狼>』にまとめた。この本が「新右翼」運動の流れができるきっかけになったという。そして赤報隊事件について増補した『テロ 東アジア反日武装戦線と赤報隊』を刊行する。新装版である本書で鈴木氏は「テロの誘惑」の危険について冒頭で語る。

【6】『自動車爆弾の歴史』 著:マイク・デイヴィス、訳:金田智之、比嘉徹徳/河出書房新社

 1920年、ニューヨーク・ウォール街の路上に停められた荷馬車が爆発した。爆弾を仕掛けたのは仲間への政治弾圧に抗議したイタリア系移民のアナキストだった。そしてサイゴン・ロンドン、ベイルート、手頃な破壊手段として世界へ普及していった"貧者の空軍"自動車爆弾(乗物爆弾)、それは20世紀のテロリズムにおける有効な技術として位置づけられていった。アメリカの都市社会学者マイク・デイヴィスが紹介する自動車爆弾の歴史。

 インターネットの検索でも出てこない、ディープな情報にアクセスできるのが模索舎の魅力と言える。かつて寺山修司は「書を捨てよ街へ出よう」とアジテートした。現在ならば「ネットを捨てよ街へ出よう」となろうか。新宿を訪れた際は、自由すぎる書店、模索舎を訪れてみてはいかがだろうか。
(文=平田宏利)