新しい遊びが詰まった『オクト』のコンセプト

――『スプラトゥーン』シリーズで初となる、有料追加コンテンツ『オクト・エキスパンション』が配信されました。改めてコンセプトをお聞かせください。

『スプラトゥーン2』1周年&『オクト』配信記念! 郷愁を誘う『オクト』の元ネタや8号とイイダの関係性など、秘話満載の濃厚インタビュー!_08

天野 もともと『2』の開発が始まるときから、タコを使いたいという話はありました。ただ、いきなりタコを出してしまうと、なぜイカの世界にタコがいるのか説明がないままになってしまい、プレイヤーも混乱すると考えて。もし、タコを使えるようにするなら、イカ世界にタコが現れた理由やプレイヤーがタコに感情移入できるもの、そしてテンタクルズの話を入れたいと考えまして、それ一本ですべてを説明できる追加コンテンツを作りたいと考えたんです。『オクト』をプレイしていただくとわかりますが、どうやらイイダはタコだったらしいんです……!

――えっ、あっ、はい。公然の秘密だったのかと……。

天野 いつかは言わないと(笑)。もともとのヒーローモードはアオリとホタルの物語になることが決まっていましたし、それに対するものとして、先ほど言いましたタコが現れた理由、タコに感情移入できるもの、そして、テンタクルズが物語に関わってくるもの、という3つの点が成立したコンテンツを作ることがコンセプトでした。

野上 『2』から始める人もたくさんいらっしゃるので、 “イカのゲーム”であるというべースは崩しませんでした。そのうえで、タコを使うという構想をどう昇華させるかを考えていました。

――なるほど。ちなみに、『オクト』の構想はどのタイミングから考えていたのでしょうか?

天野 『2』を作り始めたときから、タコを使いたいという想いはチームの中にモヤモヤとありました。

――ハイカラスクエアに地下鉄の入り口があったり、最初にオクタシューターが出てこなかったのも、やはりすでに今回の構想があったからこそ……?

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天野 ご想像にお任せします(笑)。

――1年くらい前のインタビューで、テンタクルズの物語を作る予定をお聞きしていたときには、言えないもののすでにあったと……!

天野 頭の中にはありました(笑)。

――なるほど……! 続いて、ゲーム内容についてお聞きします。どのステージも、ガチマッチなどに向けた実践トレーニングのような雰囲気があるように感じました。

天野 『スプラトゥーン』のプレイヤー操作で可能な遊びのバリエーションを、できるだけたくさん入れてみようと考えた結果ですね。ガチマッチ用の育成ということは意識していないです。

野上 もちろん、『オクト』を遊んで新しい魅力に気づいて、使ったことがなかったブキを使ってもらえればうれしいとは思いますが、まずはゲーム自体を楽しんでもらいたいですね。

――そうなんですね。難度がかなり高めですよね?

天野 これまでのヒーローモードは、スタートがあってデンチナマズを取るというゴールがあるという遊びだったんですが、『オクト』にはいろいろなクリアー条件があるので、慣れが必要かもしれません。前作のヒーローモードは阪口(阪口翼氏。前作で天野氏とともにディレクターを務めた。最近では『Nintendo Labo』のディレクターを担当)が担当していたのですが、ヒーローモードをどういう遊びにするかがまだ決まっていなかったときに、阪口がいろいろとアイデアを出して実験していたんです。結果として、初めて『スプラトゥーン』をプレイする人が、いろいろなクリアー条件のステージをプレイすると難しいと感じてしまうのではないかということで、スタートとゴールがある遊びにまとめることになりました。ただ、実験中に出ていたアイデアもおもしろいものが多くて、もったいないなと思うものもあったので、今回『オクト』でそういったアイデアを拾いつつ、新しいものを入れていきました。その影響で、『オクト』では、ステージごとにお題が違うので、慣れないと戸惑う人は多いかもしれません。

野上 ブキの慣れも必要ですからね。ブキの特性を理解していないと難しいステージもありますから。

――エイトボールを運ぶときに、わかばシューターだと弾がバラついて運びづらかったり……。

天野 体で押せば微調整できるので(笑)。細かい位置調整は体を使ってください。

――初めてプレイしたとき、予想以上にトライ&エラーで進むような作りになっていて驚きました。

天野 実験施設で、与えられたお題に対してトライ&エラーをするという設定があるので、ある程度は何度もチャレンジしてもらうようなレベルデザインになっています。

――目標に失敗すると、ナマコ車掌に「チャレンジ失敗でス」と突然爆発されるのもビックリしました……。

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天野 じつは、ミスの判定をどう表現するのかが難しくて。ヒーローモードはデンチナマズを回収するまでにやられたら終了なのでわかりやすいんですが、『オクト』では時間制限だったり、特定の条件下になったりすると失敗になるので、個別にミスの演出を作るのはなく、ひとつにまとめる結果としてナマコ車掌による爆発になりました(苦笑)。

――すべてはナマコ車掌の判断(笑)。

野上 でも、ナマコ車掌は悪い奴ではなくて、職務に忠実なだけなんです(笑)。バトルでやられると、イカの魂がスタート地点に戻ると思うんですが、それと同じようにタコも復活すると思ってください。

――映像的にはかなり強烈でした(笑)。

天野 ステージ開始時にブキを選ぶ筒状の設備がありますが、あのドレッサーの中で、失敗すると爆発する“検体キット”を取り付けられることになります。あくまで実験ですからね。

――ステージで一定回数失敗した後、リトライ時に改めてポイントが必要になるなど、そういう点も難しく感じる要因なのかと思ったのですが?

天野 ポイントについては、難しくするためという意図はありません。トライ&エラーを基本とした、1ステージが短いレベルデザインにすることを決めていましたので、挑戦するたびに増えたり減ったりする要素がないと、トライ&エラーの体験が平坦になってしまいます。そのトライ&エラーの体験に緊張感と言うか、感情の変化を作るための演出として、NAMACOポイントの仕組みを入れています。たとえば、ポイントが高い駅と低い駅があれば「高い駅は難しそうだからこっちのルートから行こう」といった選択も生まれますし。たとえお金がなくなっても、ヒメがお金を貸してくれたり、何度か失敗すればヘルプで助けてくれたりと、“プレイヤーとテンタクルズが協力してストーリーを進める”という演出にもつなげています。

――以前、ヒーローモードをクリアーできない人も多くいるとお聞きしましたが、そういったプレイヤー向けにスキップ機能を導入するなど、おもてなしの機能も用意されていますよね。

天野 スキップさせる機能もありますけど、テンタクルズの活躍の場という側面もあります。

野上 クリアーすればタコを使えるという要素もありますので、そういった部分を多くの人に体験してもらうためにスキップ機能を入れていますが、ひとつひとつ自力で乗り越えたほうが、最後にたどり着いたときの感動は大きいと思います。うまく路線を選べば、なんとかたどり着けるようにしているつもりですが、どうしても無理なステージは躊躇なくスキップしてもらえればいいと思います。

――必要ポイントが多いステージと少ないステージでは、緊張感が違いますよね。

天野 それも演出の狙いですね。ステージごとにポイントも違いますが、残機数もそれぞれ異なっていて、これはゲームセンターでコインを入れると一定のプレイ回数がもらえるイメージです。3000ポイントでチャレンジ回数1のステージと、500ポイントで3回やられても大丈夫なステージといった具合に、ステージごとに特色を出すようにしています。ですので、演出で得られる効果以上にポイントで難度が上がってしまうことがないように、いくらでも借金しても大丈夫なようになっているんです。

――なるほど。ちなみに、借金額の上限はあるのでしょうか?

天野 ないです。ヒメはお金持ちなので(笑)。とくに返済しなくても大丈夫ですが、みんなからは白い目で見られていると思います。

野上 一応、叱られるタイミングはありますが(笑)。

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天野 ちなみに、実験場のステージで失敗をくり返した場合、イイダのハッキングでスキップできますよね。でも、終盤のステージに関しては“グルーヴチャージ”といって機能が違うんです。じつは、終盤のステージはプレイヤーの残り数がなくて、やられると本当に命を落としているんです。

――えええ!?

天野 実験場のほうはバトルと同様に、やられると復活地点に魂が戻ってくるんですけど、終盤のステージは開始時点に時間が巻き戻っている……という設定ですね。このあたりの演出はかなりこだわって作っています。

――衝撃の真実でした……。ステージのギミックはとても多くの種類がありますが、アイデアは前作や『スプラトゥーン2』のヒーローモードから温めていたものが多いのでしょうか?

天野 『オクト』のレベルデザインは、『2』でヒーローモードを制作したメンバーが引き続き担当しています。ですから、『2』のヒーローモードでネタを出しきった感があった後に、メンバーに「『オクト』をやります」と伝えたら、「マジですか? これをまた作るんですか……?」と(笑)。

――必要な通達とはいえ、恐怖の連絡ですね(笑)。

天野 そういった状況でもあったので、「クリアー条件は何でもいいし、一発ネタでもいいから、ヒーローモードにはないネタを一度出してみましょう」と提案したら、スタッフもみんなおもしろがって、結果として150個くらいアイデアが出てきて、「あれ? これは逆に多すぎるな」と(笑)。そこから、クリアー条件ごとに整理して、チーム全員で遊んでからアンケートを取りました。その中から、全員の評価が高いものと、評価は分かれるけど、ものすごく好きなスタッフのいるステージのネタを選別して、いろいろとつぎはぎしていったところで手応えがあったので、“オクト”にちなんで80個にしようと決めたんです。

――ギミックの幅が広いですよね。開発の中で人気のステージはありますか?

天野 “アウ東部ガン中学校駅”はけっこう人気がありますね。マトが乗ったインクリーナーが近づいてくるので、限られたインクで全部壊すステージです。

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井上 あれ、クリアーできないです(笑)。

――マトを壊す系のステージは、難しいものが多いですよね。

天野 でも、レールに乗ってマトを壊していく“テヘペー路駅”は、最初はもっと難しかったんですけど、だいぶ簡単にしたんです。

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――いやー、いまでもけっこう難しいステージだと思いますが……。

天野 ジェットスイーパーを使えば、だいぶ楽だと思います。ブキの選択はいちばん左が簡単になっていますから。

――オススメがいちばん簡単なのかと思っていました!

天野 オススメは、あくまでネル社のオススメなんで(笑)。実験施設を作った人が使ってほしいと思っているブキなんでしょうね。

――じゃあ、難しいと感じたらいちばん左のブキを選ぶといいんですね。ちなみに、開発内で難しいと思われるステージはどこでしょうか?

野上 “ジョシリョ区駅”ですかね? タコゾネスがたくさん出てくるステージです。

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天野 僕は“ジョシリョ区駅”失敗したことがないからなぁ。

野上 対戦が得意な人はそうでもないかもしれないですね(笑)。あとはやっぱり“テヘペー路駅”でしょうか。

天野 さっきも言いましたけど、“テヘペー路駅”は、ジェットスイーパーを使えばだいぶ簡単にクリアーできる調整になっていると思います。難しいというか、一度ハマると抜け出せなくなるのは“オール内藤駅”ですね。弾を避け続けるだけのステージ。

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――ああ! あれも何度もやり直しました。

野上 私が開発中に初めてプレイしたときはスッとクリアーできたんですが、しばらくして遊んだら全然クリアーできなくて。作ったスタッフに「これ難しくした?」って聞いても、「何も変えてないです」って言われました(笑)。

――似たものでジェットパックで避け続ける“ゲキマ部駅”というステージがありますが、あれは地面の横を塗って時間まで張り付くという方法が話題になっていましたね。

天野 あれは、わざと残しています。横に張り付いて耐えるのも細かい操作が必要なので、ふつうにクリアーするよりも難しいかもしれません(笑)。

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野上 “ジョシリョ区駅”も裏技みたいなのがありますよ。戦わずして勝つみたいな。

――えっ、あのステージがそんな簡単に?

天野 簡単というか……。スプラチャージャーを使ってタコゾネスが出てくる前に倒せるんです。ただ、照準を合わせるとすぐに跳んできちゃうので、狙いを外したままチャージして、一瞬だけ照準を合わせて撃つというドラッグショットを活用すれば相手が向かってくる前に全部倒せます。ただ、かなり難しいので、それができるならふつうにクリアーできると思います(笑)。

――それは……。でも、裏技のようなものがけっこうあるんですね。

野上 『オクト』は全体的にレトロな雰囲気があるのですが、ゲームの内容もレトロな部分がある気がしますね。くり返し遊ぶところだったり、裏技があったりする部分も、自分自身は楽しんでいます。

――『オクト』には“ファミコン時代の難しさ”みたいなイメージがありますよね。難易度調整はかなり細かくやっていったのでしょうか?

天野 ひとつの基準としては、前作のヒーローモードのラストバトルは超えないように、ということを意識しました。これまで『スプラトゥーン』を遊んでくれた人に向けて『オクト』を作っていたので、あのへんの手応えを基準にして、ひとつひとつにやり応えがあるように調整しています。難しいと感じている人も、遊んでいるうちに慣れるようになっているとは思います。

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――ちなみに、皆さんはもう全ステージクリアーされたのでしょうか?

峰岸 私は開発の段階から苦戦しまくりで(笑)。やむを得ずテンタクルズにたくさん頼ってしまいました。

――やっぱり難しいですよね。開発内では難しいという意見は出ないのですか?

天野 ある程度は難しいという認識ではいます。難度をどこまで下げるべきかという戦いだったので。有料追加コンテンツなので、ヒーローモードに比べて、手応えは必要だと考えていましたし、あとはムダなところを削って、できるだけ短いステージ構成にするように努力したつもりです。

野上 難しいと手応えは紙一重だったりしますから、すべての人にとってちょうどいい調整は難しいですね。

――なるほど。『オクト』のステージも一度クリアーできると、2回目以降は楽にクリアーできたりしますしね。

野上 そうなんですよね。謎解きのようなステージも多いので、解法がわかればわりといけると思います。

天野 ステージごとのコツがわかれば、意外とすんなり進めると思います。