●ラストフェスでひと区切り
――先日、最後と銘打ったラストフェスが行われましたが、これで本当に終わるんでしょうか?
野上 もともとフェスは1年間と決めていたんです。発売前のSplatoon Directでは宣言していたんですが……(苦笑)。
――そ、そうでしたか。まったく覚えていませんでした……。
野上 結果として1年を少し超えましたが。じつは“アオリVSホタル”というお題も、最初はもう少し早い時期に使おうとも考えていたんですが、どんどんシオカラーズに興味を持ってくださる方が増えてきて、このお題はやすやすと使えないぞ……と(笑)。そのあと、シオカラーズamiiboの発売が決まったので、ラストフェスという形でふたりの対決をお題にしました。1年間のお祭りの総仕上げというか、ラストフェスがエンディングのようなイメージでしょうか。

――なるほど。追加のアップデートは終わったにしても、なんとなくフェスは継続していくイメージがあったので、フェスも終わるのは衝撃でした。運営はたいへんだと思いますが、やはりフェスも相応の苦労があるのでしょうか?
野上 内情の話になってしまいますが、それなりに手間や時間がかかりますね。とくに他社様とのコラボフェスは、自社だけでは完結できませんし、日本の場合はそのコラボフェスが16回中9回ありましたから。最初の“赤いきつねVS緑のたぬき”や“午後の紅茶 レモンティーVSミルクティー”は発売前から計画していたんですが、それ以降のコラボフェスは、発売後にコラボ先様とご相談させていただきながら決めていました。お客さんからの要望が多かった“きのこの山VSたけのこの里”や、シオカラーズ対決もやったので、もうお題は極まった感がありますね。
――たとえば、海外のフェスにあった“海賊VS忍者”のようなお題もやろうと思えばできると思うんですが、しっかりと区切りをつけて終わらせたほうがいいと?
野上 はい。毎回「お客さんにどう反応していただけるんだろう?」と様子を見ながらお題を決めていたので、継続を目的にするよりは、フェスらしいお祭り騒ぎができているうちに、区切りをつようと考えていました。
――確かに継続するだけではプレイヤーの減少も避けられないでしょうし、人が減っていく中でフェスを続けていくと、参加する人も寂しくなりそうですね。
野上 そうですね。あと、フェスを開催すると、その期間はずっとナワバリバトルになってしまうので、ガチマッチを遊びたいという人のことを考えると、相応の盛り上がりができないのであれば、無理にフェスを継続することはよくないだろうとも考えました。ただ、ラストフェスは2日間合計で過去最高の参加人数を記録して、それだけ多くの方に参加していただけたことは予想外でしたね。
――これまでのフェスで、とくに盛り上がったものや、思い出深いものはありますか?
野上 いちばん思い出深いのは、いい面でも悪い面でも、第1回の“ごはんVSパン”ですね。いろいろと不備があって申し訳なかったですが……。
――あのときは、人数が少ない陣営がマッチングしにくい状態でしたよね。
野上 はい。このままではマズイと、すぐに修正をして、なんとか第2回のフェスを迎えることができました。あの時期は必死でしたね……。その甲斐もあって、第2回の“赤いきつねVS緑のたぬき”では、とても盛り上がって、その後も継続して多くの方に参加してもらうことができたと思います。
――予想外なフェスも多かったと思います。
野上 最初に“ごはんVSパン”というお題をやって、そういった傾向のお題が来ると見せて、2回目でいきなりコラボが来るといったように、毎回、お客さんに「えっ!?」と思っていただけるような、驚きがあるフェスを目指していました。
――何の前触れもなく、ほかのゲームとコラボが発表されたのも驚きました。
野上 ちょうど『ドラゴンクエスト』が30周年、『ポケットモンスター』が20周年というタイミングだったので、「いっしょに何かしませんか?」とお話になりました。僕らとしても、できるだけ多くの方が「俺はコレ!」と宣言できるようなお題を選びたいと思っていました。たとえば『ポケモン』ならば、20年前に子どもたちが『ポケモン 赤・緑』で「俺は『赤』!」、「『緑』がいい!」と話をしていたので、その盛り上がりを再現できるようなお題にして。ただ、実際にフェスをやってみたところ、「『ポケモン』は知ってるけど、『赤・緑』って何?」という世代のプレイヤーも多かったみたいですね(笑)。
――Miiverseを見ていると、『青』や『ピカチュウ』派だった人も結構いましたよね(笑)。
野上 『ポケモン』に限らず、第3、第4の勢力がMiiverseを中心に盛り上がってくださって、とてもおもしろかったですね(笑)。あと、印象に残っているフェスとしては、やはり“きのこの山VSたけのこの里”です。発表時に関連するワードがTwitterのトレンドに入ったりして、非常に反響が大きかったですね。
――ネット上では「聖戦だ!」と、盛り上がっていました。
野上 プレイヤーの皆さんも、フェスがあるならいつかは“きのこたけのこ対決”が来るんじゃないかと思っていらっしゃった方も多かったようで、僕らもやりたいお題のひとつだったので、実現できてよかったです。
――発売前から準備していたわけではないんですね。
野上 他社様とのコラボなどは発売前にお話をさせていただいたものもありますが、皆さんの反応を見ながら、フェスのお題を決めていました。あと、プレイしてくださる方々の年齢層が幅広いので、どんな世代の方にも選ぶときに悩んでいただけるものや、自身の体験を思い出せるようなものにしましたね。夏休みの終わりに、宿題をやったかどうかというのに合わせて“アリVSキリギリス”をやったり、急にマジメな質問で“愛VSお金”を提案してみたりと、予想しやすいものから、少しだけズラすものも含めてやっていました。
――“愛VSお金”は、ファミ通編集部の『スプラトゥーン』班にはお金派しかいなくて、投票率も偏るかと思っていたら、実際にはかなり拮抗していたうえに、“愛”のほうが多くて驚きました(笑)。
野上 愛あってのお金だとか、お金あっての愛だとか、いろいろな意見があって盛り上がりましたね。あのときは、第3勢力も登場せず、あのときはプレイヤーの皆さんがMiiverseで真剣に愛かお金かで議論してくださっていたのが印象深かったですね。
――フェスが終わるとなると、スーパーサザエの入手法はどのようになるのでしょうか?
野上 すでにご存じの人もいると思いますが……、たくさん勝ってジャッジくんに話しかけるといいことがあるみたいですよ。
第2回スプラトゥーン甲子園でニューヒーローが出てほしい
――では、第2回スプラトゥーン甲子園についておうかがいします。8月6日に詳細が発表されましたが、第2回の開催を決定したのはいつごろですか?
野上 第1回が終わったころから、ドワンゴさんとのあいだで第2回の話は挙がっていました。正直なところ、第1回があそこまで盛り上がるとは予想していなくて、最初はすごくハラハラしていました。
――地区大会から多くの人が集まっていた印象ですが……?
野上 九州地区大会や北海道地区大会も多くの方に来ていただきましたが、東海地区大会や近畿地区大会くらいから、会場の盛り上がりが一段階上がった気がします。とくに東海地区大会は視聴者もとても多くて、熱い戦いも見られたので、あそこで手応えを感じました。申し訳なかったのが、参加の倍率が予想以上になって、いちばん高いところだと10倍を超えていました。「まずは0回戦を突破するのがたいへん」と言われていたのですが、大会中に募集方法を変えるわけにもいかず……。その反省を踏まえて、第2回大会では可能な限り参加人数を増やして、1.5倍くらいの方に参加してもらえるようになりました。
――地区大会の数と場所は同じですよね。
野上 はい。基本的には、前回と同じように全国8ヵ所を回って、地区大会の勝者が最終的に決勝戦を戦う形は変わりませんが、参加人数の多い地区大会については、準優勝のチームも本戦への参加資格が得られるようにしました。
――ルールはナワバリバトルで変わりませんが、ギアが自由になりましたね。
野上 そこが大きな変更点ですね。前回はギアを固定という形にしていましたが、今回は、すべてのブキとギアが出揃ったということで、自分が「これ!」と思うものを選んでもらうことで、プレイヤーごとの特色が出るのではないかと思っています。
――前回の統一ギアは、甲子園だから学生服というお話がありましたが……。
野上 恰好から入ったところもあったのですが、大会のイメージがある程度定着したと思いますし、今回はギアは自由でいこうと(笑)。
――サブギアパワーはどうなっているんでしょうか?
野上 ついているのはメインのギアパワーだけですね。サブのギアパワーはありませんので、同じメインギアパワーの中からどれを選ぶかといった、コーディネートの楽しみもあると思います。
――決勝はナイターで行われるというのも楽しみです。フェスが終わって、夜ステージでバトルする機会がなくなってしまったので。
野上 各地区の決勝戦だけはナイターになります。ちょうど日が暮れるころなので(笑)。
――盛り上がりそうですね。そのほか、第2回大会ということで、前回のチャンピオンをどこが倒すのか、はたまた新チームで登場するのか、見どころが多そうです。
野上 とても楽しみですね。前回活躍したプレイヤーが再挑戦してくれるのも期待していますし、ニューヒーローが現れることも期待しています。ただ、シード枠は設定していないので、前回のチャンピオンでも抽選からということになります。完全に公平な条件で開催しますので、がんばって勝ち上がってもらいたいと思います。
――今回、ステージをニコ生のアンケートで8つ選ぶ型式にした意図は?
野上 ステージが全部で16になったわけですが、16ステージ全部を対象にするとあまりに幅が広すぎて練習もしづらいと思いますので、ステージを絞ろうと。でも、それならば我々が決めるよりも、お客さんがどのステージを見たいかを選んでいただくほうがいいなということで、ニコニコ生放送で決める形になりました。
――選ばれたステージを見て、ご感想は?
野上 前回の甲子園でも登場したステージがふたつ、新しいステージが6つと、バランスのいいラインアップになったんじゃないでしょうか。ギミックのあるステージも多いので、いろいろな意味で前回とは違った戦いが見られそうで楽しみです。
――ブキチセレクションの新ブキも追加されてギアも自由になったことで、甲子園で新たな戦略も生まれそうですよね。
野上 第1回大会でも、大阪大会の決勝でヒッセンが活躍した直後は、ナワバリバトルでヒッセンを使っている人が多くなったりしました。「あ、こんな使いかたができたのか!」とか、「こんな攻めかたもできるとは知らなかった」ということが、多くの人に広まるキッカケになるので、甲子園でブキのトレンドが生まれるのもおもしろいと思います。
コラボ企画は店員さんの愛情が溢れていた
――これまでいろいろなコラボがありましたが、最近だとタワーレコードと組んだコラボが実施されました。お話を聞いたときはどんな気持ちだったのでしょうか?
野上 タワーレコードさんとは、去年『スーパーマリオブラザーズ』でコラボをしていたんですが、「今年は『スプラトゥーン』で」とお話をいただきました。タワレコと言えば、僕らの世代にとっては、ある年齢になったら一度は行ってみたい聖地のようなイメージがあったので、お話をいただいたときは素直にうれしかったですね。それに、一年前に放映した『スプラトゥーン』の最初のCMが渋谷の街を塗るところから始まったので、タワーレコード渋谷店をインクでデコレーションするというアイデアが出たとき、“帰ってきた”というイメージがありましたね。
――渋谷店以外も全国の店舗でやっていましたよね。タワーレコード内で特別な説明があるのではなく、キャンペーンのひとつとして、当然のようにインクでペイントされていたのがおもしろいなと思いました。
野上 だからこそ、『スプラトゥーン』を知らない方にも「あれは何だろう?」と目に留めていただけたのかなと。何店舗か拝見しましたが、「あのタワレコが『スプラトゥーン』のインクまみれになっている!」と、感動しましたね。サントラやシオカライブのCDも出していましたし、タイミングもよかったと思います。やはりCDというのは、僕ら世代だと単純に音楽を聴くツールではなくて、そのアーティストを好きだと証明するためのアイテムという側面もありますから。
――ああ、新譜が出たらとりあえず買うみたいな(笑)。
野上 はい(笑)。そういうイメージがあるので、単純に音楽だけを提供するのではなく、アイテムとして持っておきたいものとして、ラストフェスのタイミングでライブCDを発売できたことも大きいですね。ゲームの中だけではなく、世の中全体に波及して盛り上げられると思うので。
――世の中に波及したといえば、ラストフェスの応援企画として、多くのお店で国民投票応援合戦をやっていましたよね。全国の店員さんが『スプラトゥーン』のことが好きなんだろうなと思える企画でした。
野上 店員さんが自作のPOPを作ってくださると、熱量や愛が伝わってきますよね。全国の店員さんの「ほかの人に薦めたい!」という気持ちが全面に溢れているのが、すごくありがたいと思いました。
――『スプラトゥーン』は、ユーザーだけでなく、クリエイターや販売店など、あちこちにそういったファンが多いですよね。
野上 たくさんの店舗の方も喜んでくださった企画だったようなので、とてもうれしいですね。店舗には、ユーザーさんが自由にイラストやコメントを書けるスペースがあって、じつは、任天堂の近くにある京都のとある店舗に僕と井上のイラストがあるんですが、井上のものにはかなりの反響をいただいたそうです。
――井上さんの絵を見たら「これ、本物!?」ってなりますよね(笑)。その店舗はホタル派だったと思うんですが、おふたりともホタル派ですか?
野上 いえ、どちら派かということはナイショにしておきますが、不平等にならないように、アオリ派のお店にもお邪魔してイラストを残しています(笑)。ファミ通さんで行っていただいたアンケートでは、ホタル派が少し多かったんでしたっけ?
――はい。2回アンケートを実施して、2回ともアオリが47%、ホタルが53%と、拮抗した数字でした。
野上 ラストフェスでの投票も拮抗していましたよね。あくまで印象としてですが、アオリは元気なキャラクターでお子さんに好かれていて、ホタルのファンは年齢層が高めかと思っていたのですが、どちらも変わらないくらいたくさんのファンがいました。
――みんな真剣に悩んでいました。
野上 ギリギリまで投票しなかった人も多かったみたいですね。「ホタルちゃんもアオリちゃんも好きなのに、何でこんなヒドイことするの!」という声もいただきました(笑)。でも、そこまで言っていただけるほど、シオカラーズのことを愛してくださっているということだと思うので、本当にありがたいですね。まぁ、あのふたりはどちらが人気かはそんなに気にしていないと思いますけど(笑)。
――確かに(笑)。そして、今後の『スプラトゥーン』についておうかがいしたいのですが、今後の展開や展望があればお聞かせください。
野上 アップデートについては、正直、やり切った感があります。フェスやアップデートは、いったん区切りとなりますが、スプラトゥーン甲子園などのイベントで、今後も盛り上げていきたいと思っています。
――あと、これは聞かないわけにはいかないのですが、続編を望む声が非常に多いと思います。続編などの展開は?
野上 『スプラトゥーン』は、やっとの思いでこぎ出したタイトルですが、発売後には皆さんにもたくさん支持していただいて、僕らもそれに応えられるようにアップデートをして……と、皆さんといっしょに育ててきたコンテンツだと思っています。ですので、これからも大切に育てていきたいと思っています。
――ありがとうございます。ひとまずは、第2回スプラトゥーン甲子園を盛り上げて、これからも多くの方に継続して遊んでもらうのが大事になりますね。
野上 そうですね。発売直後の“社長が訊く”(任天堂公式サイトにある、故・岩田聡前社長が開発スタッフに開発秘話を聞くコーナー)で、「自分たちでも底が見えない」という話をしたんですが、実際に自分たちもここまで遊んできても、いまだに「こんなことが起きるんだ!」と思うこともあります。だから、スプラトゥーン甲子園のような舞台では、また新しい発見があるんじゃないかなと。新戦略が生まれて、それに対抗する手段が生まれて、さらにその対策が……となることを期待しています。そういった部分をイカ研究員として研究させてもらって、今後の研究成果に活かしていきたいと思います。
――第2回大会はギアが自由に選べますし、ブキも出揃ったので、新戦術などの研究がはかどりますね!
野上 最初からあるブキもまだまだ活躍していますので、新ブキが追加されたことで、従来のブキが再評価されたりと、新鮮さとオーソドックスさが合わさった、新たな戦いが見られる大会になるのではないかと思います。
――熱いバトルに期待したいですね。では最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
野上 たくさんの方にまだまだ遊び続けていただいていて、応援もたくさんいただいているので、本当にありがたく思っています。発売から1年以上やってこれたのは、プレイヤーの皆さんが支えてくださったからにほかなりません。ここまで応援していただいたお返しというとヘンですが、僕たちとしても『スプラトゥーン』の研究は続けていくので、どこかで成果が見せられればと思います。まずは第2回スプラトゥーン甲子園などの応援をお願いします!
――ありがとうございました!