郷愁を誘う『オクト』の元ネタ
――ストーリーやビジュアルについて聞かせてください。8号やタコガール、タコボーイのデザインのコンセプトを教えてください。
井上 生き物としての“タコ”の特徴を活かそうと考えて、クネクネしている感じや、丸みを取り入れています。また、性格的な側面からもイカと対照的にしたかったので、享楽的なイカに対して、勤勉なタコは表情も固めにしていますね。
――イカと比べて、キリっとしているように感じます。
井上 そうですね。イカとタコが対照的になることを意識していて、髪型が直毛なイカに対してタコはパーマっぽくしたり、耳に見える器官もイカは三角っぽく、タコは丸くなっているんです。イカはエンペラ(三角形をしたイカのヒレのこと)なので三角なんですが、タコは漏斗とよばれる移動時に使う水の噴出孔を模しているので、片側にしかくぼみがないんですよ。
――こ、細かい! ボーイの髪型はパンキッシュなイメージですね。
野上 海外ではモヒカンもアフロも人気のある髪型ですからね。
井上 本当はデフォルトの髪型をアフロにしたかったんですけどね。個人的にはアフロだけでもいいくらいだったんですが(笑)。
――アフロはギアごとに形が変わるのがすごくかわいいですけど、インクの当たり判定が違ったりするのでしょうか?
井上 当たり判定は変わらないですが、ギアによって形が変わるようになっています。アフロの人が帽子をかぶるならこうだろうというロマンがあるので(笑)。
――ひとつひとつ設定するのは、ものすごくたいへんですよね……?
井上 アフロをやるからには、やらざるを得なかったです(苦笑)
――強い決意! タコガールが公開されたときに、ファンのあいだで「かわいい!」という声が多かったように思いますが、その反応はどのように感じましたか?
井上 デザインの段階で、自分たちでもかわいいと感じていました。ですので、すぐに「amiiboも作ってください!」と担当部署にお願いして。通常、新しいキャラクターのamiiboはある程度人気が出てから考えるのですが、タコに関しては「これはかわいいものなので!」と(笑)。
野上 わりと早い段階で決めましたね。
――ちなみに、ヒト型のタコと言うとタコゾネスが浮かびますが、タコゾネスのバイザーを取ると8号のような顔をしているのでしょうか?
野上 タコゾネスは8号よりはもう少し年上なので、見た目もちょっと変わっているかもしれませんね。
天野 ヒト型のタコボーイとタコガールがいて、タコガールの中の精鋭がタコゾネスになっています。ですから、タコガールが全員タコゾネスになるわけではないです。
――タコトルーパーといったタコは……?
天野 あれは別物ですね。
井上 総じてタコ族ではありますが、切り離されています。
――ということは、イカのほうにもヒト型になれないイカもいるのでしょうか?
井上 いまのところ発見はされていませんね。どこかにいるかもしれないですが。
――イカ界にもまだまだ謎が多い……。ちなみに、タコガールは動きがイカよりもクネクネしていますよね。これもタコのイメージでしょうか?
井上 そうですね。あと、イカはちょっとボーイッシュだったりするので、少し色っぽい感じにしています。
――確かに、少し大人びた印象を持ちました。
井上 タコは勤勉なので、そういった印象を持ちやすい見た目になっていると思います。
――でも、年齢はイカと同じく14歳くらいなのでしょうか?
井上 そうですね。同じくらいだと思います。記憶がなくて初めて来た街なので、少しボーっとしている感じを意識しています。
――街に来ている8号たちは、ハイカラスクエアに憧れているのでしょうか?
天野 あー、8号たちというのはなくてですね。一応、8号はひとりしかいません。ほかのタコたちは別のルートから上がってきた、別のタコなんでしょうね。
佐藤 イイダのように、ふつうにハイカラスクエアに来たタコもたくさんいるんだと思います。おそらく深海メトロに行くこともなく、ハイカラスクエアまで来たみたいです。
野上 プレイヤー視点では自分が8号で、それ以外はすべてほかのルートで街まで来たタコたちです。
――なるほど。ちなみに、タコたちは簡単に街までやって来られるものなんですか?
天野 いやー、結構しんどいです(笑)。
佐藤 覚悟がないと来られないと思います。勤勉なタコたちが、規律を破ってやって来るわけですから、相当カルチャーショックを受ける出来事があったんではないでしょうか。
――いったい何が……。ちなみに、『オクト』のロゴやアート、BGMなどはすべて1980年代を意識しているように感じたのですが、そういった意図はあったのでしょうか?
井上 もともと記憶のないタコが最新の街を目指す物語なので、それと対照的に、舞台になるのは最新ではなくなった場所というイメージで作っています。1980年代に限定はしていませんが、ちょっと前の時代の忘れていたようなものを選びました。そういった意味で、駅名が死語になっていたりします。狙いとしては、8号も記憶がないですし、プレイヤー自身も忘れていたものを思い出すので、無意識に8号と同調できるというか没入感が高まるのではないかと思って入れています。世代によって感じかたは違うと思いますが、“ゲーム&ウオッチは知らないけど懐かしいのはわかる”という風に思ってもらえればいいかなと。
――ああ。ゲーム&ウオッチを懐かしいと思う人もいれば、ニンテンドウ 64を懐かしいと思う人もいると。
野上 そうですね。いろいろなところに引っかかって懐かしんでいただければいいなと。
――『オクト』の発売後、元ネタに対する考察がネット上で盛り上がっていますが、ご存知ですか?
野上 はい。皆さんの反応は拝見しています。盛り上がっていただいて、とてもありがたいですね。
――ラストの部分やテンタクルズの私服など、元ネタの特定が行われていますよね。今回、知っている人が見れば、元ネタがわりと判明しやすくなっているように感じます。
井上 たとえば、“子どものころに友だちと遊んだ、ふるさとの大きな森”を見て懐かしい気持ちになる人がいると思います。それと同じく、幼少期に友だちとスーパーファミコンで遊んでいた人は、スーパーファミコンを見て懐かしいと感じると思います。ものは全然違っても、友だちと遊んだ幼少期の思い出という意味では同じです。懐かしい気持ちになるために背景に森を描く必要はなく、スーパーファミコンやカセットテープが背景でもいいと。そういった発想で“忘れていたもの”という方向性のひとつとして、いろいろな人に刺さるものを用意しているので、元ネタに大きな意味があるわけではありません。
――なるほど。いろいろなプレイヤーの心に刺さるような、それぞれの郷愁を用意しているわけですね。そういったネタのひとつとしては、各駅の名称もありますね。あれは海外ではどのような名称になっているのでしょうか?
井上 ローカライズは思想だけ伝えて、あちらで懐かしいと感じるものを入れてもらいました。
天野 最初は仮で直訳したものが入っていたので、あれはあれでおもしろかったですけどね(笑)。わけのわからない言葉が並んでいて。
――ローカライズで言いますと、海外だとネル社が“Kamabo, Co.(カマボ・コーポレーション)”という名前になっていますよね。
井上 海外の名前はすごくいいなと思ったんですが、日本ではさすがにネタバレすぎるだろうと。
佐藤 ネル社なら、初めて聞いた段階では練り物とは気づかれないと思いましたので。
――駅名の死語を考えるのも大変そうです。
天野 考えるのはすごく楽しかったです。ボツネタも大量にありましたけど。ヴァン・ギャヘド・ヴァンとか(笑)。没になったんですけど……。
井上 途中で駅名がスベっていないかと気にしていたんですが、9割スベっていたので「じゃあ大丈夫かな」と(笑)。
――(笑)。ネリメモリーの短歌についても、皆さんで考えたのですか?
天野 死語とは別で、フェスのテキストを担当しているスタッフが考えてくれました。
野上 あれも元ネタがあったりなかったりします。
天野 1ヵ所だけ、僕が種田山頭火が好きなので入れてもらいました(笑)。
井上 ネリメモリーは、8号目線の短歌になっているのですが、ハイカラウォーカーという雑誌を見て、思いを馳せている短歌になっています。「きっと地上はこうなんだろうなぁ」と。
野上 そもそも、ネリメモリーは記憶の断片なので、実際には見ていないこともハイカラウォーカーを読み込みすぎて脳に刷り込まれているわけです。
佐藤 もちろんタコに関することなどは、8号自身の体験に基づくものもありますけど。
野上 ちなみに、ネリメモリーのイカの眼つきが悪くなっているのは、タコ目線のイカだからですね。
天野 いままで敵だと信じていたので。
――なるほど! 敵だけど地上には憧れがあるわけですね。イイダとの関係性を感じられるネリメモリーもありますが、ふたりは昔から知り合いだったのでしょうか?
天野 あれは8号が一方的に知っていると言いますか、イイダがタコ社会の中で有名な存在だったんです。戦略タコツボ兵器もいくつか開発しているエリートだったので。
井上 最終的にタコワサ将軍のワサビ補給部隊に属していました。ですので、2年前の戦いのときに現場にいたんだと思います。
――そのときに『シオカラ節』のグルーヴに……!
野上 飛び級しまくって昇進していた天才なんですが、あるとき突然いなくなった伝説の人物です。
――すごいエリートだったんですね。ネリメモリーの短歌もステージ分あるので、考えるのはたいへんですよね。
天野 これまで主人公の気持ちがテキストになったことがなかったので、苦労した部分はあります。3号も4号も、生まれたときからプレイヤーそのものなんですよ。でも、8号に関してはそれまでにバックボーンがあって、記憶喪失になった瞬間からプレイヤーと同化するので、そのあたりがうまくつながるように考えました。
井上 ネリメモリーのテキストについては、すべて詩(うた)なので、オクトの物語の発端となったシオカラーズの歌や、テンタクルズ結成のきっかけとなった歌のエピソードともリンクするようになっています。
――『オクト』が動き出したときから詩や歌を絡ませるというのは決まっていたんですか?
天野 アタリメ司令のラップはありましたね。もともとネリメモリーの短歌にしても、ボーイとガールがいるので、テキストにすると主語を“僕”にするか“私”にするかでややこしくなるのですが、短歌にすれば主語を明確にしなくていいという部分もあって(笑)。
――なるほど(笑)。
天野 気持ちがそのままセリフになっているよりも、文学的なフィルターを通すことで、プレイヤーの気持ちとの乖離も少なくなると思います。そういった候補の中でいちばんおもしろそうだったのが短歌だったんです。
井上 難しそうかなと思っていたのですが、やってみたらできちゃったという感じで(笑)。担当者の素養が活かされたのでよかったと思います。
――駅名や短歌を海外版にローカライズするときは、専用のテキストを作っているのでしょうか?
井上 そうですね。ローカライズは向こうの担当者がいいと思うものにお任せしていますが、韻を踏んでもらったりしています。
野上 ネリメモリーの短歌については、海外版はタコに合わせて8音節で詩を作っているらしいです。
井上 年配のアタリメ司令がラップ好きで、若い8号が短歌好きというのが個人的に気に入っています。
――すごく細かいことなんですが、ネリメモリーはカマボコなどの練り物なのか、消しゴムのねり消しなのか、どちらなんでしょうか?
井上 消しゴムと思ってもらって大丈夫です。
天野 8号はもともと記憶喪失なんですが、実験施設をクリアーすると記憶の断片が戻って来て、その過程でプレイヤーが8号に感情移入していく流れで作っています。そして、なぜネリメモリーがもらえるのかというと……実験体は最終的に約束の地に行くとたいへんなことになるのですが、そのときにネル社の総帥が“その実験体がこの世に存在していた証”を形として残しているのがネリメモリーなんです。
――それはネル社のやさしさ……なんでしょうか?
天野 そうかもしれないですね。ネル社はそんなに悪い奴じゃないので(笑)。
――ということは、10007個分のネリメモリーがどこかにあるのでしょうか?
野上 どこかに保管されていると思います。ただ、途中で止めてしまった人もいるので、数は明確ではないですね。
天野 電車内にいるグソクさんは2ステージで止めてしまっていますからね。
――それでも過去に約束の地に行った実験体がたくさんいるわけですね。その場合、4つのアレはまた再配置されるのでしょうか?
天野 そうです。毎回置き直しています。
――毎回セッティングたいへん(笑)。実験場に出てくる消毒済みの青いタコたちは、過去の実験体なのでしょうか?
天野 あれはネル社の培養液から生み出されたもので、消毒されることでゾンビのように自我を失った存在です。
野上 実験施設に配備するために消毒しているので、消毒されると実験対象としては不適切になります。
――実験場のギミックの一部として配置されているイメージでしょうか?
天野 そうですね。
――『2』のヒーローモードの終盤の展開は、井上さんが演出の指示としてマンガを描かれていましたが、『オクト』の終盤の戦いでもマンガを描かれていたりするのでしょうか?
井上 はい。今回も描きました。今回は、天野がやりたいことをテキストでもらって、僕が絵にした感じですね。
天野 僕が担当していたサーモンランの作業が一段落したときに、妄想していたストーリーやセリフを全部テキストで羅列したものを井上に渡して、「ちょっとカッコよくして」と伝えました(笑)。
井上 前回は鉛筆で描いたんですが、今回はパソコンで描きました。
――またすごいものが!
井上 やれるかどうかは別にして、やりたいことをそのまま描きましたが、8割くらいは実現できたと思います。また30ページくらいになりましたけど、開発期間も短かったので「これを実現させましょう」という感じでお願いしました。
――イメージが統一されてやりやすそうですね。
井上 方法はいろいろあると思いますが、マンガにすると見開きのコマは重要っぽく見えて、重要度もいっしょに伝わると思うので。
天野 遊びとストーリーをセットで作ろうと思ったので、レベルデザイナーと話しながら作りましたね。今回は数字にもこだわっていて、80のチャレンジステージと8個のストーリーステージで88にしたかったんです。ですので、終盤も潜入ミッションがあって、エネルギーコアを手に入れて運んで……と、セリフと併せて先行して作成していました。
野上 制作段階から8という数字にこだわっていたので、『オクト』を発表したNintendo Directでも「2018年はタコの年!」と、数字の8を前面に押し出していました。
――なるほど!
天野 最終バトルに関しても、最後は●●●●バトル(大きなネタバレのため伏せ字)にしようと決めていました。このバトルが“8号が初めて挑む●●●●バトル”になるので。
――ああ、そんな意味も込められていたとは!
天野 前作のときから“巨大なものをインクで塗りつぶす”というバトルがやってみたかったのもあります。
井上 今回の『オクト』はアニメの劇場版のように、本編の物語とは少し離れているけど最強の敵と戦うというシナリオになっています。本編を知らなくても完結していて、『オクト』だけでも楽しめるものを意識して作りました。
野上 “劇場版スプラトゥーン”といったイメージですね。
――いろいろなアイデアの積み重ねがここに集結したわけですね。
天野 遊びのシステムもヒーローモードと違うものを短時間で作らなければいけなかったので、ある程度決め打ちで作っていきました。そうでないと、整合性が取れないことがあるんです。たとえば、ヒメがタコのことを知らないという設定なのに、ヒメがタコの名前を言ってしまうとおかしなことになってしまうので。
野上 ヒーローモードと『オクト』は、同じくらいの時間軸で起きている出来事なんです。ですから、ヒーローモードと『オクト』のストーリーはお互いに干渉していませんし、どちらからプレイしてもらっても大丈夫です。ただ、『オクト』がリリースされ、街にタコが増えてきたことで、『スプラトゥーン2』の世界の時間が、少し前に進んだイメージです。『オクト』をやっていなくてハイカラスクエアを見ているだけの人は「変わった髪型が増えたなー」くらいの感じなんです。イカは享楽的なので、タコが来ているとは気づいていない(笑)。
――ネタバレついでにいろいろお聞きしたいのですが、タルタル総帥を作った博士は、ジャッジ君をコールドスリープした人物と同じなのでしょうか?
天野 同じ人物です。いろいろと深い設定があるのですが、ひとつだけヒントを言うと、『オクト』の“ハン・パネッ州駅”で木箱を同じ形に破壊するステージがありますが、あれのモデルはジャッジ君なんです。
――えっ!? あの犬みたいなやつですか?
天野 犬みたいに見えるんですが、ジャッジ君です。それがヒントになるかなと思います。
井上 ヒントになるかな?(笑)
天野 僕の研究内容はあるんですが、まだ発表する段階ではないので(笑)。
――まだまだ謎に包まれた部分もあると……。タルタル総帥が実験体のことを「新人類のタネ」と呼んでいて、それを憂ううちに今回の騒動になったわけですが、イカも実験の中から生まれたのでしょうか?
天野 そうではないです。イカはふつうに進化したみたいです。もともと博士がタルタル総帥を作ったのは、人間が犯した過ちを10000年後に現れる知的生命体に対して「同じ過ちを犯してほしくない」と思ってやったことです。だけど、10000年ものあいだタルタル総帥は孤独だったので、思考がおかしな方向へ行ってしまったという感じです。
――なるほど……。
天野 そして最後に、優秀だと思っていた8号に自分の意見が理解されずに拒否されて怒っちゃったわけですね。
――孤独がゆえの行動だと。ちなみに、タルタル総帥が倒れたときにタコ足がついているのですが、総帥もタコなんですか?
井上 あれは練ったタコの残骸ですね。3号についていたのと同じ感じですね。
野上 あらびきだったんでしょうね(笑)。
――(笑)。電車内にいる生物は実験体とは関係あるのですか?
井上 グソクさんはチャレンジしたと言っていますが、実験体というわけではないです。深海メトロ全体がネル社が作った大学都市のようになっていて、そこで生活している人たちですね。
――タコ世界とも別の場所ですか?
井上 そうですね。
野上 あそこにはあそこの社会が構築されています。路線によって乗っている乗客が違うのも、ビジネス街だったり学生が多い場所だったりしているわけです。
――ナマコ車掌は職務に忠実という話がありましたが、車掌はネル社の社員なんでしょうか?
井上 そうですね。
野上 実験もしながらあのあたりのインフラも運営しているのがネル社です。
天野 『オクト』に登場する人物は、全員孤独な部分を抱えているんです。アタリメ司令はひとりでずっとタコと戦っていましたし。
井上 全員ポエマーなのもすごいですよね。アタリメ司令はラップをやるし、8号はネリメモリーで短歌を詠んだり。
佐藤 グソクさんもなかなかのポエマーですしね(笑)。
野上 グソクさんは、憧れがあってステージに挑戦したけど、自分には達成できなく憧れだけが残っているんですよね。登場人物でポエマーじゃないのは、ナマコ車掌だけですかね? 彼はネル社の一部なので(笑)。
――ドライですね(笑)。最後のバトルでヒメが「最近本気を出していない」という発言がありますが、あれは本人も破壊する力の自覚があるのですか?
天野 彼女の歌声は破壊の力というわけではなく、ヒメの声にはよくも悪くも力があるんです。ヒメのデビューが遅かったのは、本気を出すと観客に影響が出てしまって自分の力を発揮する場がなく孤独を感じていたんですが、イイダの曲と調和されることでちょうどいい感じになっているんです。
――ああ、そういうことなんですね。
峰岸 ヒメの声に関しては、イイダのCHAT★ROOMにある過去の音源をよく聴いてもらうと、本人に悪気はないのに破壊をしてしまっているところが垣間見られると思います。
佐藤 ちなみに、バッテラストリートの橋が石橋になったのも、ヒメの声の影響という設定がありますね。
――そんな裏設定が! 『2』のミステリーファイルにも、ヒメの声に関する情報がありましたよね。
天野 そうですね。歌声で迷惑をかけることもあるので、人里離れたところにヒメの練習場があって、そこでイイダと出会ったんです。
――出会いのところは『オクト』で若干紹介されていますね。ちなみに、あの音源は改めて収録し直したのですか?
峰岸 デモ版の『フルスロットル・テンタクル』ですね。いいえ。あれは、ボーカルのAliceさんが本収録前のウォーミングアップに歌っていたのが残っていたので、それを採用しています。
――ウォーミングアップ用のものが。
峰岸 それを、おもちゃのキーボードにのせて作っています。イイダがポンコツのキーボード1台で作ったのを表現するために、伴奏をわざとチャチい感じにしてみたんです。また、もうひとつポイントがありまして………そのころはイイダの内面にいまよりもまだタコ世界の名残りのようなものが残っていて、タコのテーマメロディが出ちゃっている部分があるんです。
――えっ!
峰岸 前作からヒーローモードでしばしば聴こえる「タン♪タン♪タタタン♪」というタコの象徴のようなフレーズがあるんですが、それが入っちゃっているんです。
――ああ、ヒーローモードでステージクリアーのときに流れる曲ですよね?
峰岸 そうです。あのフレーズがつい出ちゃうので、デモ音源にも入ってしまっているわけです。ともあれ、あの音源がキッカケで、ヒメが自宅にある豪華な機材をイイダに使わせてあげるようになって、テンタクルズが結成されたわけなんですね。
――テンタクルズの結成秘話ですね! 音楽の話が出ましたが、『オクト』の楽曲のコンセプトを聞かせていただけますか。
峰岸 実験場であるチャレンジステージのBGMと、テンタクルズの新曲、という2本柱があります。チャレンジステージは、全体的にこれまでよりもコンパクトな中で、トライ&エラーをくり返すことになるので、そこにフィットすることを最優先で考えています。ともするとストレスを与えかねないので、ウンザリしないように楽曲でフォローしていきたいと思いました。テンタクルズの新曲については、これまでの楽曲とは違った魅力を感じてもらえるような心掛けで作りました。
――テンタクルズの楽曲は、よりアーティスティックになった印象があります。
峰岸 はい、より尖っている印象が目立ちますよね。ただ、しっとりしている部分や、引き続きポップな面も出していきたいというところで、“幅が広がった”感じになればと。
――ラストバトルの楽曲はテンタクルズ版の『シオカラ節』のようなイメージなのでしょうか?
峰岸 位置付け的にはそのようになりましたが、シオカラーズファンのイイダは恐縮するかもしれませんね(笑)。この曲にできるだけ唐突感を与えないように、Aメロをチャレンジステージのクリアージングルとして、またBメロを4つのアレゲット時のジングルとして切り分けて、ここにいたるまでに何度も聴くことになるようにしました。「数々の試練を越えてきたのだから、きっとがんばれる!」と感じながら戦っていただけたらなあと。
――おなじみのフレーズが流れてくるのはうれしいですよね。チャレンジステージの楽曲はくり返してもウンザリさせないようにというお話でしたが、どういった工夫をされているのでしょうか?
峰岸 一見矛盾しているように聞こえるかもしれないのですが、これまでのヒーローモードの楽曲と比べると、ストイックというかミニマルというか、曲として完成しすぎていない感じに留めました。たとえば、ふつうに曲を作る場合、Aメロがあった後に、展開があってサビがあるといったように完成度を高めていきたくなるんですが、今回はあえて最初の部分をくり返すだけにしてみたり、音を重ねてゴージャスにしたくなるところを、わざとベースを抜いてみたりしています。よりスッキリ、よりシンプルにすることを中心に考えました。それでも、前にどんどん進んでいきたくなるようなリズムやノリを保つのは忘れないようにしたつもりです。
――わかりやすいメロディーは今回は少ないですよね。BGMらしいBGMと言いますか。
峰岸 そうですね。と言いつつ、思いっきりクセの強いのもあったりしますけど(笑)。
――ヒーローモードでは、タコを統率するための一定のビートを刻むというのがありましたが、『オクト』でもそういったコンセプトはあるのでしょうか?
峰岸 『オクト』のチャレンジステージの曲は、Dedf1sh(デッドフィッシュ)という消毒されてしまったタコの女の子のDJがプレイする楽曲になっているんですが、彼女は誰かに聴かせるといったことを考えるよりも、自分の内面から出てきたものを他人が受ける印象は気にせず形にしていて、それが実験場で流れているんだと思います。
井上 もともとBGMとしての設定だったので、キャラクターを付ける予定ではなかったのですが、僕がめちゃくちゃ好きで。すごくいい曲だなと。BGMなのであまりフィーチャーされないんですが、ああいう風に設定を立ててあげることでより世界観に広がりがでますし、そこから派生して好きになってくれるといいなと思いました。
天野 リトライが多いゲームなので、曲が途切れないというか、始まりがあって終わりがあるものではなく、ミニマルっぽいものがミスした演出も含めて、ずっとくり返し流れるものをお願いしました。
――そういう意図なんですね。ちなみに、電車に乗っているときに『シオカラ節』が流れていると思います。ハイカラスクエアで聞こえる電車の発車音も『シオカラ節』でしたし、イカ世界の電車はみんな『シオカラ節』が関係しているのでしょうか?
峰岸 深海メトロの中で聴こえる『シオカラ節』のメロディは8号の幻聴というか、記憶が戻ってきたことで心の中で流れている音楽が聴こえてきてしまった……という主観的なものです。なので、『オクト』を始めたばかりのころは流れていないんですよ。
――あっ! 最初は流れてなかったんですね。気づいたときには流れていたので……。
峰岸 例の装置をいくつか集めると流れてきます。
井上 今回、世界観として絵も音も“内向的なものの輝き”を伝えたいと思いまして。ハイカラスクエアでナワバリバトルをしている人たちはいわゆる“陽キャ(陽気なキャラクター)”なんですが、そうではない美しさを最大限に出したかったので幻聴だったり、背景のモチーフもひとりで聴くウォークマンだったりと、そういうものを選んだりしています。
野上 ハイカラスクエアとの対比した世界ということで、陰と陽という感じを意識しています。みんなオンラインでいろいろな人と遊んでいると思うので、たまには家でひとりでゆっくりゲームを楽しむということで。
井上 ねり消しもひとりで楽しむじゃないですか(笑)。そういうのがいいなと思って。
――確かに(笑)。ハイカラスクエアにはたくさんのタコが現れていますが、クリアー率は把握されているのでしょうか?
野上 まだそれほど高くはないですが(インタビューは6月下旬に行われた)、思っていたよりは高いですね。
――スキップ率はいかがでしょう?
野上 自力でクリアーしている人のほうが多いですね。
佐藤 いろいろなタイプの人がいて、80ステージすべてクリアーしないと約束の地に行かないという人も多かったです。
野上 そこまで思いつめずに、4つのアレを集めていただいて、先に進んでもらっても大丈夫です。早くタコを使いたい人もいるでしょうし。
――ある程度予想通りというわけですね。バトルに行くと結構タコ率が高く感じます。
野上 うまい人ほど早くタコになっていると思うので、ウデマエが高い人ほどタコの遭遇率が高いと思います。私はちょくちょく見た目を変えるタイプなのですが、同じような人はほかにもいると思いますので、しばらくするとタコを見かける割合も変わってくるかもしれません。
――現状はタコが4人になったりしますからね。新ブキが追加された直後のナワバリバトルは同じブキの人が多い現象と同じ感じですね(笑)。
野上 そうですね(笑)。
――細かい質問ですが、8号の姿でタコツボキャニオンに入ると4号になりますが、これは理由はあるのでしょうか?
野上 ヒーローモードは、イカが主人公の物語なので。逆に『オクト』にはイカでは入れません。あくまで4号と8号は別の主人公です。
――ギアパワーのイカダッシュ速度アップは、タコダッシュ速度アップにするかという議論はあったのでしょうか?
天野 最初に、何をイカにするか、何をタコにするかというのは整理しました。本人を示すものはできるだけタコに、イカダッシュ速度アップはイカ世界のシステムであって個人に付くものではないので、イカのままになっています。
佐藤 ギアに付いているギアパワーにはイカ用の説明が書いていますが、ちゃんとタコが着たら速度が上がるので大丈夫です(笑)。
――よかった(笑)。あの世界にタコが増えたとしても、イカたちはあまり気づいていないんでしょうか?
佐藤 ハイカラスクエアにいるイカたちは、タコのことをちょっと変わった髪型くらいにしか思っていないので、タコたち本人以外はあまり気づいていないと思います。
天野 タコ自身も慣れてきちゃって、自分たちがタコなのかイカなのかわからなくなってるかもしれないです(笑)。
井上 野上から、“『スプラトゥーン2』の世界の時間がちょっと進んだ”という話がありましたが、これから先の展開については、イカ世界にタコが入ってきたということ前提にやっていきたいと思います。
――ああ、だからこそ、第4回スプラトゥーン甲子園のロゴにもタコが描かれているわけですね。
井上 そうですね、タコであっても、ナワバリバトルではイカしたヤツが正義なので。