現在活躍しているフリーランスの方々に「事業が軌道に乗ったポイント」を教えていただくインタビューシリーズの第3弾。今回は、社会人3年目でフリーランスの個人事業主として独立し、半年後に法人化を果たしたMA(マーケティングオートメーション)コンサルタントの久泉陽さんにお話に伺いました。なぜ久泉さんは、短期間で仕事を軌道に乗せることができたのでしょうか。そのポイントを見ていきましょう。
MAというニッチな領域で存在感を発揮。短期間で多くの顧客を開拓し、独立から半年後に法人化を達成
氏名 | 久泉 陽 |
---|---|
職業 | MAコンサルタント |
フリーランス歴 | 1年目(2020年8月に独立) ※取材日時点 |
前職 | MAツールの開発・販売会社にてコンサルタントとして勤務 |
2020年8月に独立した久泉さんは、社会人になるときから「3年以内に独立する」と決めていたそうです。独立志向になったきっかけは、体育会系のサッカー部に所属していた学生時代の成功体験。毎日練習に明け暮れる中、時間を見つけてアルバイトに勤しむチームメイトたちの姿を見て、「もっと効率よく稼ぐ方法はないか?」と考えた久泉さんは、ご自身でハイブランドファッションの販売事業を立ち上げました。その事業が成功したことで、「自分で事業を回せる」という確信を得て、独立を目指すことに。そんな久泉さんが大学卒業後に就職したのは、地元の関西エリアにある地方銀行。そこで1年半、個人の資産運用や法人融資の審査・格付業務などを経験されたそうです。その後、東京にあるMA(マーケティングオートメーション)ツールの開発・販売会社へ転職し、MAコンサルタントとして活躍。1年間で10数社のMAツール運用代行やインサイドセールスの立ち上げに携わり、その経験を武器に2020年8月に独立。個人事業主としてスタートしたものの、すぐに1人では回せないほどの案件を抱えるようになり、独立から数週間で法人化を決意。2021年2月にGENNE株式会社を設立し、MAを中心としたセールステックによる営業活動の効率化やインサイドセールスの構築支援などを手がけています。
久泉陽さんが挙げる「私の仕事が軌道に乗ったポイント」
「仕事が軌道に乗ったポイント」として、久泉さんが挙げたのは上記の3点でした。それぞれのポイントが、どのように事業の成長につながっているのか、詳しく語っていただきました。
ポイント1:損益計算書(PL)や貸借対照表(BS)が読める
──最初に久泉さんが「仕事が軌道に乗ったポイント」として挙げたのは、「損益計算書(PL)や貸借対照表(BS)が読める」ということでした。PLやBSは、いわゆる決算書の中で財務諸表と呼ばれる書類です。こうした決算書類を読めることが、どのように事業の成長につながっているのでしょうか?
久泉:PLやBSが読めると、数字に基づいた事業計画を立てることができます。実際に、私も独立する前にPLやBSを作成して、事業の見通しを立てました。「これくらいの売上があれば赤字にはならない」「このタイミングでこれくらいのキャッシュがあれば資金はショートしないだろう」といったシミューレーションを行い、数字目標を明確にしたんです。そして、その目標から逆算して、月間で必要な受注件数や商談数、見込み顧客数などを決めてアクションを起こしました。「なんとなく頑張る」のではなく、こうして計画に沿って1つひとつ根拠のある行動を取ったことが、事業をスムーズに立ち上げることができたポイントだと考えています。今のところ、事前に立てたプラン以上に順調に進んでいるため、都度PLやBSを作り直しながら数字目標を上方修正していますが、逆に計画通りにいかないことも想定し、年商がいくらに届かなかったら手を引くという「事業撤退ライン」も決めてあります。事業を成功させるだけでなく、大きな失敗をしないという意味でも、PLやBSを読めることは非常に重要だと思います。
──PLやBSを作成して数字目標を明確化することで、効率よく合理的に動けるということですね。ちなみに、「PLやBSが読める」という強みは、どのように身につけたのでしょうか?
久泉:大学在学中にハイブランドの販売事業を立ち上げたんですが、その事業を通じて収支のバランスや資金繰りを考えているうちに、おぼろげながらPLやBSの概念を掴みました。ただ、そのときは「読める」というレベルではなく、完全に習得したのは地方銀行に就職してからですね。法人融資の審査・格付業務などを担当していましたから、数多くの中小企業の決算書に目を通しました。単に書類の見方を覚えただけでなく、決算書の数字から企業のポテンシャルなどを読み取る力も身につけることができました。
──地方銀行に勤めた経験が、今に活きているわけですね。
久泉:「活きている」というよりも、「活かすために地方銀行に入った」と言ったほうが正確ですね。就職活動ではメガバンクや大手人材会社などからも内定をもらっていましたが、大学を卒業後3年以内には独立しようと思っていたので、必要なノウハウを得るために地銀に就職したんです。中小企業を主要顧客としている地銀であれば、スタートアップ企業が成長するために必要な経営や資金繰りの方法を学べるかなと。中でも、他行よりも融資金利が高く、利益率の高い地元・関西の地銀を選びました。高い金利で貸し出して、しっかりと利益を出しているということは、融資先に対するコンサルティング力が長けているに違いないと思ったんです。実際に、在職していた1年半で多くの知見を得ることができました。
──なるほど、地銀に就職したのは、最初から独立を見据えた選択だったんですね。
ポイント2:ニッチな領域を攻めている
──続いて、2つ目のポイントについてお伺いします。「ニッチな領域を攻めている」ということですが、これはどういう意味でしょうか?
久泉:MA(マーケティングオートメーション)は新しい市場なので、私のような個人や小さい会社でも顧客を開拓できる余地がたくさんあるということです。そういったニッチな領域で勝負したからこそ、短期間で事業を成長させることができたと考えています。
──確かに、「MA」や「マーケティングオートメーション」という言葉は、あまり耳馴染みのあるものではありません。そもそもどのような領域なのか教えていただけますか?
久泉:MAとは、「マーケティング(集客)」と「オートメーション(自動化)」を合成した言葉です。簡単に言うと、メールやWebを活用して顧客を開拓する営業活動を自動化し、可視化することを言います。「営業活動を自動化したい」というニーズをお持ちの企業に対して、MAツールの導入支援や運用代行、MAを活用したインサイドセールスの構築支援などを行うのが、私の役割ですね。
──なるほど。では、どういった経緯でMAという領域に着目したのでしょうか?
久泉:MAを意識したのは、地銀を辞めて転職するときですね。次の転職先は、独立に直結する知見・ノウハウを学ぶ場だと位置付けていたので、自分の市場価値を高める経験が積めるかどうか、という観点で検討しました。そのときに、まだ一般的には浸透していないけれども、これから確実に成長していく領域としてMAに興味を持ったんです。企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の国内市場規模(投資金額)はすぐに年間1兆円を超えると言われていましたから、MAでその0.1パーセントでも獲得できれば年商10億円が見えてくるなと。
──それで、MAツールの開発・販売会社に転職したわけですね。
久泉:そうですね。元々、地銀での経験から自己資本がなくても会社を回せる仕事として、コンサルタントやマーケッター、SaaSのセールスなどに注目していたんですが、転職先として選んだ会社はMAツールのメーカーでありながら、拡販するにあたって「コンサルティング」にも力を入れていました。MAの領域でコンサルタントとしての経験が積める。その一点で、入社を決めました。
──最初から会社には独立の意思があることは伝えていたんですか?
久泉:もちろん、伝えていました。面接の時点で独立を考えていることは話していましたし、最終面接で「今こういう事業を構想しているんですが、見てもらえますか?」と、社長に事業計画書のレビューまでお願いしていました(笑)。
──それでよく採用されましたね(笑)。結局、その会社にはどれくらい在籍されたのでしょうか?
久泉:1年くらいですね。5〜6名のコンサルタントで30数社のクライアントを回すような環境でしたが、私1人で15社ほど担当していました。他のコンサルタントの3〜4倍の経験値を一気に積むことができたので、もう独立しても大丈夫かなと考えて、約1年で退社しました。社会人になって2年半で個人事業主として独立し、3年目が終わる直前に法人化できたので、ギリギリ目標を達成できた感じですね。
──そして、計画通り「ニッチな領域」で事業を軌道に乗せているわけですね。先ほど、「新しい市場だから顧客開拓の余地がある」というお話が出ていましたが、実際のところ競合他社は少ないのでしょうか?
久泉:少ないと思いますが、まったくいないわけではありません。誰もが知る大手企業も、MAツールの導入支援サービスを行っています。ただ、現時点で10数社以上の支援実績があるコンサルタントはそう多くはいませんし、いたとしても単価が高いというのが実情です。その点、私の場合は法人と言っても小さな規模ですから、低い単価でも十分な利益を出すことができます。高い品質のコンサルティングサービスを、低価格で提供できる。これが私の強みであり、競合他社に優っている部分だと思います。
──なるほど。大手も参入はしてはいるものの、プレイヤーが少ない市場だから競合優位性を発揮しやすい環境なんですね。今のお話は、3つ目のポイントである「営業力」にも通じる部分かと思います。続いて、「営業力」について詳しく教えてください。
ポイント3:営業力
──「営業力」と聞くと少し抽象的な言葉のように感じますが、久泉さんが考える「営業力」とは、具体的にどういうことなのでしょうか?
久泉:わかりやすく言えば、企業に「納得してもらう力」という感じでしょうか。少し露骨な言い方をすると「口説き落とす力」と言っても良いかもしれません。私に限らず、単価の高い商材を扱うBtoBのビジネスにおいては、この力は必須だと思います。
──久泉さんは、その「納得してもらう力」をお持ちということですね?
久泉:先ほどもお伝えした通り、会社員時代も含めて積み上げてきた実績が数多くあることが、お客様との商談において大きな武器になっています。お客様の状況や課題に合わせて、事例をもとに説明することができるので、MAツールがどのようなものなのか、具体的なイメージを持っていただきやすいんです。
──確かに、事例があると説得力が違いますよね。
久泉:そうですね。ただ、いくら多くの事例があると言っても、お話だけではご納得いただけないお客様もいらっしゃいます。そういう場合は、ご縁がなかったと諦めて商談をストップすることもありますが、「MAツールがあったほうが絶対に良い」と感じたお客様に対しては、お試し期間としてツールの導入・運用代行サービスを無償で3カ月ほど提供することもあります。
──「無償」というのはすごいですね。
久泉:自分の労力がかかるだけなので、 MAツールの価値を感じていただけるなら安いものかなと。実際に導入・運用してみると、ほとんどのお客様が手放せなくなって、正式な受注につながることが多いですね。
──無償提供も、納得してもらうための手段なんですね。ちなみに、久泉さんは前職時代も10数社の企業を担当されていたとのことですが、独立後も当時のクライアントとのお付き合いはあるんですか?
久泉:いえ、前職時代の顧客は一切引き継いでいません。独立後は、完全にゼロからスタートしました。
──では、独立後に取引しているクライアントは、すべて新規のお客様ということですね。見込み顧客の開拓、いわゆる探客活動はどのように行っているんですか?
久泉:Twitterを使っています。一般企業でマーケティング部長や営業部長として働いている方のアカウントを探して、DMを送って直接アプローチするんです。月に数十件DMを送って、良い反応が返ってきたら商談をセッティングする感じですね。この手法で、平均すると月に40件ほどの商談を入れることができています。独立直後は、Twitterでの探客活動も自分でやっていましたが、ノウハウが貯まって安定的にアポイントが獲得できるようになってからは、大学時代の後輩に声をかけて、手伝ってもらうようになりました。法人化した今は、その後輩には取締役として参加してもらい、引き続き探客活動などの業務を任せています。
──Twitterを活用するのは、ユニークというか今っぽいですね。ただ、その手法だと大手企業へのアプローチは難しい印象を受けますが、実際にはどうなのでしょうか?
久泉:そうですね。大手となるとTwitterでのアプローチに限らず、直接取引すること自体が簡単ではありません。そのため、大手企業に対しては「間に1社挟む」という戦略を取っています。大手企業と取引実績があるSEOコンサルやWeb広告系の会社に「クライアントへ提案する商材の1つとして、MAツールを加えてみませんか?」と提案し、その会社と協業する形で大手企業にアプローチするんです。実際に、この手法で大手企業を開拓することができており、再委託先という立場ではありますが、現時点で東証一部上場企業4社の支援を行っています。
──なるほど、攻め方も工夫しているんですね。単に「納得してもらう力」があるだけでなく、クライアントへのアプローチ戦略も含めて久泉さんの「営業力の高さ」を感じました。
フリーランス初心者やフリーランスを目指している方へのアドバイス
──最後に、これから独立してフリーランスになろうとしている方や、独立したばかりの初心者の方に向けてアドバイスをお願いします。
久泉:これまでお伝えした内容とも重複しますが、早いうちにご自身の「市場価値」について考えたほうが良いと思います。今後成長が見込めない分野や、すでに多くのライバルがいる領域で「常に求められる存在」になるのは、容易ではありません。安定して高い収入を得るためには、ニーズが高く、かつ競合が少ない領域で勝負することが重要です。例えば、エンジニアの方であれば、どのような案件の単価が高いのか、どのプログラミング言語のニーズが高いのか、その言語を 使える人の割合はどれくらいなのか、そういった情報を集めて自分が進むべき道を決めると良いのではないでしょうか。
──「できること」や「やりたいこと」ではなく、「求められること」という切り口で自身が身につけるべきスキルや専門性を考えるということですね。確かに、その視点は非常に重要だと思います。その他に、アドバイスすることはありますか?
久泉:あと、重要なのは人脈ですね。人脈が仕事や収入に直結する時代だと感じているので、人脈を広げる意識は常に持っておくべきだと思います。
──久泉さんは、どのような方法で人脈を広げているのでしょうか?異業種交流会や勉強会でしょうか?
久泉:完全にSNSです。個人的に交流会や会食などのイベントは好きではありません。どういう人に会えるのか未知数な部分が多く、時間効率が非常に悪いと感じています。私の場合、SNSで直接気になる人にアプローチして仲良くなるというパターンがほとんどですね。例えば、私がTwitterで投稿した内容に対して、意見を返してきた人がいたら、「この人は、この分野に知見があるに違いない」と判断して、こちらからDMを送って色々と教えてもらっています。そうやってSNSでつながった相手から、信頼できる人を紹介してもらって、どんどん人脈を広げている感じですね。
──探客活動だけではく、人脈づくりもSNSなんですね!
久泉:そうですね。特にTwitterはビジネス目的で利用している人が多い印象なので、仕事関係のネットワークを広げる手段として非常に有効だと感じています。それから、自分の知見やスキル、パーソナリティーをアピールする場として、noteを活用するのもおすすめですね。コメント機能などもあるので、そこから人脈が広がることもあると思います。私自身は独立してからnoteの投稿を休んでしまっているんですが、そろそろ再開しようと考えています。
PROFILE
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