E3の世界大会、そして第5回スプラトゥーン甲子園

――続いて、E3での世界大会について聞かせてください。GGBOYZが2年連続で世界一となりましたが、海外勢が非常に強くなっている印象がありました。

野上オーストラリア・ニュージーランド代表も健闘していましたが、アメリカ代表とヨーロッパ代表は相当強かったですね。決勝戦の後に日本代表のGGBOYZに話を聞いたら、「マジで強かったです。やばかった!」と言ってて。最終結果は4-2でしたけど、ガチアサリは延長で逆転、ガチエリアもラストまできわどくて、よく勝ったなと。

『スプラトゥーン2』2周年インタビュー。「テンタクルズは個人で戦わせたくなかった」、野上Pが語る怒涛の2年間と、これからの展開_01

――フジツボスポーツクラブでのガチエリアの対戦がすごすぎました。

野上あれ、最後、本当によく取り返せましたよね。ファン目線の話になっちゃうんですけど(笑)、直前のスペシャルでの打開がうまく行かずに、チームでスペシャルが溜まっている人がいなくなって。あの瞬間に負けるかな……と思ったんですが、あそこからたいじ選手が倒されずにエリアを塗りながら粘って、えとな選手が援護して押し返すっていう。あれはL3リールガンを2枚入れた戦略が刺さっていましたね。

――連敗スタートだったので相手も相当強いんだなと思いました。

野上アメリカ代表のShak!選手は対面が強く、カバーもうまくて、たいじ選手やえとな選手、やまみっちー選手もかなり落とされていました。ふだんはダイナモン選手のところまで相手が接近してくることが少ないんですけど、入りこまれる場面も多かったですよね。Ice!選手も長射程ブキの精度が非常に高く、ハイパープレッサーの使いどころもうまくて、GGBOYZが強い形を崩される場面が多かったです。個々の力はかなり高く、連携もすばらしかったと思います。

――もし6戦目を落とすと、7戦目がガチヤグラだったので、危なかった可能性も……。

野上どうなるかわからなかったと思います。ガチヤグラはアメリカのお家芸ですから。

――予選での戦いは盤石だったので、すごく驚きました。

野上ナワバリバトルは日本が圧倒的に強いですね。1戦目のオーストラリアとのマンタマリア号での試合も、最後に3人落とされても勝っていましたし。自陣を隙間なく塗り上げて、中盤で攻め上げて相手陣を汚しておいて盤面全体で勝つという、いかにもナワバリという試合でした。

――現地の盛り上がりはいかがでしたか?

野上前回大会もすごかったんですけど、今回もすごかったです。アメリカチームへの声援がすごくて、GGBOYZはアウェーだったと思います。アメリカはスポーツを観戦する文化が根付いてて、観客が盛り上げてくれるので、選手はすごく乗れると思うんですが、敵に回すと脅威ですよね。

――日本では第5回スプラトゥーン甲子園の開催が発表されました。参加者が前回の1.5倍になります。

野上いままでよりも多くの方に参加いただけるようになっています。NPB大会では
Libalent Calamariがリーグ優勝、日本一がハイパービームと、GGBOYZに土が付いた形になりました。また新しいヒーローも生まれてくるかもしれません。もちろん、いままで活躍していた人もがんばってほしいんですけど、新しい人にも活躍してほしいと思います。

――ちなみに、前回はイカとタコの並んだ大会ロゴでしたが、今回はタコがいなくなっていますね。こちらは何か意味があるのですか?

野上前回は『オクト・エキスパンション』の発売もあったので(笑)。BGMも『オクト』で固めていたり、タコ尽くしでした。2018年はタコの年でしたしね(笑)。でも今回は、原点に返ってイカのゲームですよ、と。

――改めてのイカアピール(笑)。参加者が増えることで、大会のレベルも上がりそうです。

野上頂点を目指してもらいたいと思う一方で、いろいろな人にも参加していただきたいと思っています。ご家族や友だちで参加して、それが思い出になって、『スプラトゥーン』というゲームでいい思い出を作ってもらえればと。もちろん、せっかく出たからには勝利を目指してほしいですけど、身近なメンバーで集まって参加していただきたいですね。

――家族で出られるというのがスプラトゥーン甲子園のいいところですよね。

野上しかも、どんどん家族チームのレベルが上がっていて、九州地区大会では家族でベスト4に入ったチームがありましたからね。ああいうチームを見ていると、うらやましくもあり、うれしくもありますね。コミュニケーションの接点にゲームがあるといいなとつねづね思っているので、ゲームがきっかけで仲間や家族との会話が生まれたなら、僕らとしてもうれしいです。

――第4回スプラトゥーン甲子園決勝大会の前日には、テンタライブもありました。シオカラーズがいない初めてのライブでしたが、ご覧になっていかがでしたか?

野上2018年のハイカライブは2組のミックスのライブでしたから、テンタクルズのカラーは出しつつも、シオカラーズとのコラボレーションという形で、最後は4人が並んで登場する形でした。それが今回はテンタクルズの単独ライブということで、ふたりのカラーが全開になりました。シオカラーズはアイドルなのでアイドルらしい盛り上げかたですが、テンタクルズはアーティストなので、アーティストらしいステージの盛り上げかたをしています。

――サイリウムを振るというよりも、体全体でノリノリになるというか。

野上もちろんサイリウムを振っていただいていいんですけど、「カッコいい!」と思える演出にしたいと思って。ヒメはふだんはちんちくりんで偉そうなことを言っているだけに見えるかもしれないんですけど、ライブになるとめちゃくちゃ男前です。初めて観た人はまったく違う印象になるんじゃないかと思います。ゲームのキャラクターの違った側面を見せられるというのは、ふだん僕らがあんまりやっていない部分なので、おもしろい取り組みだったと思います。

――テンタクルズはライブが本業ですからね。

野上そうですね。ハイカラニュースが副業です(笑)。

――ヒメの傍若無人さも、アーティストのカッコよさを演出しますね。ラストにセンパイキャノンを撃たれたときは最高潮でした。

野上ドワンゴの橋口さん(橋口雄樹氏。シオカライブやテンタライブの演出を歴任)と「せっかくだから大仕掛けがほしい」と話している中で、曲の流れも『オクト・エキスパンション』を意識している構成になっていたので、「最後にセンパイキャノンをやりたいんです。いいですか?」と提案されたので「じゃあやりましょう!」と。センパイキャノン受けると本当はイカは溶けちゃうんですけど、会場では力をセーブしていたようですね(笑)。

――全力だとたいへんなことに(笑)。冒頭も、バンドがステージBGMを演奏うするライブもありましたね。

野上サプライズではないですが、出だしから雰囲気を変えたいと思っていたのと。バンドの皆さんにもスポットライトを当てたいと思って、最初に時間を作りました。テンタクルズが出てくる前に会場をあっためてもらって、という流れですね。また、バンドの皆さんのテクニックを存分に見せてもらいたかったという狙いもあります。テンタクルズが登場すると裏方になっちゃうんですけど、本当にすごい皆さんなので。バンドの皆さんも楽しんでいただけるようなステージを用意したかったんです。

――そして、2019年7月24日にはテンタライブのライブCDが発売となり、初回限定盤のBlu-rayには振り付けをしっかり観られる“振り付けVer.”の映像が同梱されますが、こちらを入れることになった経緯は?

野上ライブだとカメラワークの都合などで全部のカットが観られないんですよね。でも以前から、踊りを練習するために振り付けをちゃんと見たいという声をいただいていたので、今回クローズアップしました。

――シオカラーズバージョンが欲しいという声もありそうです。

野上そういう声もあると思います。ただ、テンタクルズはカット割りで見えないシーンが多かったんですが、シオカラーズはけっこう見えていたのと、彼女たちはシンメトリーの振り付けなので片方の踊りがわかれば踊れると思うんです。テンタクルズはふたりで動きが違いますから。

――たしかに。いきなりヒメが座って、観客を煽り出したりしますからね。

野上レッドホット・エゴイスト』の冒頭でも、ヒメが急に踊るのをやめて、「おぉ? お前ら何やってんだ?」という感じで客席を煽りに行くんですけど、そこはあまり映っていなくて。やっぱりイイダがショルダーキーボードを弾いているので、そちらに注目しちゃうんですよね。ですので、そういったあまり見えなかった部分を堪能していただけると思います。

フェスでもテンタクルズ対決はさせたくない

――フェスについてお話をうかがいます。Splatoween、FrostyFest、SpringFestなど、1周年以降に大きなフェスが行われるようになりました。これは世界を意識してなのでしょうか?

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SpringFestの告知イラスト。

野上これは、もともと予定していなかった部分で、1周年の“イカ VS タコ”フェスを終えてから、いままでと趣向を変えて、盛り上げたいと思いました。加えて、できれば全世界同時にやりたかったので、世界中の人が楽しめるテーマを考えたときに、まずはハロウィンだろうと。世界中の人がいっしょに盛り上がれるテーマで、いつもと違う大きなお祭りにできないかと考えたのがこれらのフェスです。ハロウィンは、日本でも浸透して近年盛り上がっていますし、アメリカでは年間通していちばん盛り上がるお祭りなので。海外の人にも喜んでもらえましたし、世界中でいっしょに盛り上がれるのがいいなと思いました。

――特別なギアも配られて、より参加をうながす雰囲気になっていましたね。

野上イメージとしては、お祭りのときだけ身に着けるアイテムという感じです。FrostyFestの年号が書かれたメガネ(ニューイヤーグラスDX)なんて、現実でも年越しのときにしかかけられないですよね(笑)。その場でだけ許されるようなアイテムを用意して、よりお祭りに参加しているという実感を持ってもらいたかったんです。

――ちなみに、大型フェスは参加人数は増えるのでしょうか?

野上フェス自体が参加率が上がるんですけど、大型のときは全世界で盛り上がるのでさらに増えますね。

――そして、ついにファイナルフェスを迎えます。今回はラストではなくファイナルなんですね。

野上前作では日本はラストフェスで、海外がファイナルフェスだったので、統一しようと思いまして。

――今回はSPLATOCALYPSE(スプラトカリプス)と銘打たれて、“混沌 vs 秩序”という重いテーマになっていますが……。

野上「何を急にマジメになっとんねん!」と言われそうですが(笑)。ずっとふざけた感じだったので、最後くらいマジメな感じでいこうかなと。

――直前が酢豚にパインを入れるのはアリ、ナシですから(笑)。

野上あれが本来のフェスです(笑)。テーブル上の戦いで本気になれるのが、『スプラトゥーン』のフェスですから。

――そこから、急に壮大なテーマに。

野上ちょっとノリが違うのでどう受け取られるかと思いましたが、前作で“愛 VS おカネ”という少し重いテーマでフェスをやったところ、皆さん真剣に考えてくださって。ふだんのフェスでは見られないような流れも見られておもしろいなと思っていました。とはいえ、本来のフェスは日常の話題をナワバリバトルで決着をつけるというものなので、基本的にはそちらにフォーカスしていたんです。でも今回は最後なので、壮大なお題で、皆さんに語ってもらえればおもしろいと思っています。

――前作のラストフェスがシオカラーズ対決だったので、今回もテンタクルズ対決かと思っていました。

野上そう思われているだろうな、とは感じていました。でも、僕ら開発スタッフとしては、テンタクルズはあまり個人として戦わせたくなかったんです。シオカラーズはそれぞれ才能があって、お互いにコンビでありライバルである関係性なので、敢えて対決させようと考えました。でも、テンタクルズはひとりでは成り立たなかったふたりが、出会って初めて花開いたという背景があります。シオカラーズ以上にふたりでひとつという性格が強いユニットなので、対決させたくなかったんです。

――ああ、なるほど。それは納得できますね。スプラトカリプスはアポカリプス(黙示)がテーマなんでしょうか?

野上そもそもイカ世界が、ポストアポカリプスみたいなものですが、最終決戦や最後の審判といったイメージですね。

――前作では、ラストフェスの結果が『2』のヒーローモードに影響がありました。今回もそういった要素はあるのでしょうか?

野上うーん、それはあるのやらないのやら……(笑)。

――楽しみにしておきます! キャラクター集合のキービジュアルも含めて、専用のものが作られていますよね。

野上それぞれのキャラクターが混沌か秩序のどちらを主張するかを考えて配置しています。井上(井上精太氏。本作のアートディレクター)に聞いたところ、公式ホームページにあるキャラクターの相関図と併せて見るとおもしろいらしいですよ。

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相関図。大きいサイズのものは『スプラトゥーン2』公式サイトでチェック!

――ビゼンは秩序側なんですね。

野上クラゲは個ではなく群体として調和した意思を持っているので。ちなみに、真ん中にいるのは中立派です。

――なるほど! 基本的にイカが混沌側、タコが秩序側になっています。

野上イカは享楽的で自由を好み、タコは規律を重んじるタイプなので。

――3号やアタリメは、タコ世界をパトロールをしているので秩序寄りといった感じなんでしょうか?

野上そうですね。アタリメはもともとタコに対して理解のあるイカなんです。アタリメは偉大な人物で、イカとタコの大ナワバリバトルの英雄で、レジェンド的な存在なんですが、戦争中でも調和的な思想を持っていたんです。イカ側の将軍ではあったんですけど、「すべての種族が仲よくできればいいのに」と考えるようなタイプでした。第1作では悪さをするタコをこらしめに行きましたが、『オクト・エキスパンション』では困っているタコを助けようと地下世界に残ります。ですので、イカではありますが秩序側に入っています。

――逆にタコワサ将軍は混沌なんですね。

野上タコの代表で、アタリメと対立するイメージですね。

――タコワサ将軍はアオリの影響なのかなと思いました。

野上それもあるかもしれないですね(笑)。基本的にタコは勤勉でルールに従って生きているんですけど、タコワサはそのルールを作る立場なんですよ。むしろタコとイカの世界の調和をひっくり返そうとしているので混沌ですね。

――ギアもそれぞれの陣営のものが登場します。

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ファイナルフェスに合わせて配布されたギア。

野上いままで配っていたギアは、急ごしらえでお祭りに参加しているという裏テーマがあったんですが、今回は最後なのでしっかりしたものを作ろうと。混沌側は荒廃した世紀末な雰囲気、秩序側は統制された未来のような雰囲気のギアになっています。ただ、混沌と秩序を、それほど重い言葉として捉えてもらわなくて大丈夫です。

――フェスがどういう結果になるか楽しみです。今回は72時間という長期間になった理由は?

野上今回、すべてのミステリーゾーンを出そうと思っていて、すでに23ステージあるので、2時間ごとに回しても2日かかるな……と(笑)。でも、新しいステージも出したいと考えたら72時間になりました。

――長丁場ですね(笑)。フェスが終了すると、スーパーサザエの入手方法がランクが上がったときのみになります。新たな入手方法を導入する予定はありますか?

野上サザエは非常に希少価値が高いので……。今後はランクが上がったときのみになるので、サーモンランでチケットをもらって、効率よくランクを上げてもらえればと思います。

――サーモンランの報酬ギアも終わるのでしょうか?

野上7月のギアで新規追加は終了になります。8月からはそれまでのギアが登場するのですが、月ごとに変わるのではなく、開催ごとにループしていくので、過去のギアが手に入りやすくなると思います。

――その後、Ver.5.0でミステリーゾーンがプライベートマッチで使えるようになると。

野上少しお時間はいただきますが、7月末までには導入する予定です。

――インク色を選べるので、ユーザー大会のフェスにも使えそうです。前作だとフェスが終わった後に購入した人は、フェスの雰囲気を味わうことができなかったので。

野上僕らの手でフェスは開催しなくなりますが、お客さんの手でぜひ開催してもらえればと思っています。

――改めてお聞きしますが、Ver.5.0をもって要素の追加は終了ということでしょうか。

野上そうですね。ブキやステージの追加、フェスの開催は終了となります。でも、先ほども言いましたが、バランス調整は必要に応じてやっていきますし、ツキイチ・リーグマッチは継続していくつもりです。オンラインサービスはまだ続いていくので、そこは安心してください。

『スプラトゥーン2』2周年インタビュー。「テンタクルズは個人で戦わせたくなかった」、野上Pが語る怒涛の2年間と、これからの展開_03

――お答えできないとは思いますが、最後に。今後、追加のDLCや次作の予定はありますか?

野上『2』の制作は『1』の発売直後くらいから動き出していて、『1』のアップデートと並行して進めていました。『2』では『オクト・エキスパンション』の制作もあったんですが、アップデートに全力を注いでいます。いまもまだ(編注:インタビューは6月中旬)ファイナルフェスの準備をしている真っ最中で、正直なところ、先のことはまだ考えられていない状況です。今後のことは、すべてが終わってからじっくりと考えようと思います。何かをお約束できる段階ではないんですが、これだけ多くの方に応援していただいているので、僕らも何かの形でお返しできればと思っていますし、継続して応援していただけたらそれが実現するのかなと思います。くり返しになりますが、まだ『2』のオンラインサービスが終わるわけではないので、ツキイチ・リーグマッチやスプラトゥーン甲子園など、お客さんが活躍していただける機会をできるだけ作れたらと思っていますので、これからも楽しんでいただけるとうれしいです。