みんなが想うそれぞれのシオカラーズ
“アオリvsホタル”ラストフェスが生んだ余波
――とくに思い入れが強い曲、好きな曲は何ですか?
菊間心をわし掴みにされたのは『シオカラ節』です。マイナーから入るあのカッコいいサウンドで、初めて聴いたときからこれはしっかり歌いたいって思って、とくに力を入れました。
――「『シオカラ節』は、ヒーローモードのこういう場面でかかる曲なんです」といった説明はありましたか?
菊間いえ、まったく受けてません。だから、ゲームで『シオカラ節』がかかるシーンに差し掛かったときは、全身鳥肌、目から涙で、夜中にひとりで大騒ぎしちゃいました(笑)。ゲームで初めて『シオカラ節』を体感したのは、ユーザーの皆さんといっしょなんです。本当に感動しましたね。
――ヒーローモードの終盤は、歯応えもありましたし、感動もひとしおですよね。
菊間そうなんです。私には難しくて。だからこそ、クリアーしたときの達成感や感動はすごかったです。そのあとに『マリタイム・メモリー』が流れたときにも涙が流れました。
keity私がいちばん好きな曲は『マリタイム・メモリー』です。シオカラーズはこういう感じの曲もいけちゃうのか! って感じで、すごく好きです。
――『スプラトゥーン』の発売後、ソロ曲(『トキメキ☆ボムラッシュ』と『スミソアエの夜』)の追加がありましたが、こちらのレコーディングはいかがでしたか?
菊間曲の難度がすごく上がった印象でしたね。
keity『トキメキ☆ボムラッシュ』の収録のとき、私は臨月だったんですよ。お腹の子といっしょに歌ってました。
菊間ホタルちゃんの『スミソアエの夜』とは対極の曲で、めっちゃかわいかったです。「これぞアオリちゃん!」って思いながらレコーディングを聴いてました。
keity『スプラトゥーン』の収録から少し間があったので、アオリちゃんの特徴を思い出しつつ、とくに何も練らずに私の素のままで歌ったら、そのままOKをもらいました。歌い手としてテクニックに走りたくなるんですが、アオリちゃんの歌はいつも私のしゃべりかたそのものという感じなんです。あとレコーディングの後に、作曲をされた藤井さんから、「keityさんの歌声が入って、この曲がすごくしっくり来ました」と言ってもらえてよかったです。
――菊間さんの『スミソアエの夜』はいかがでしたか?
菊間これまで以上に民謡テイストで、スローな曲だからこそ見せ場がいっぱいあって。そのよさを裏切るわけにはいかないので、どこで盛り上げるかを緻密に計算して歌いました。何週間か家でシミュレーションして、ダメだったら直してもらおうと思ってたんですが、この曲もほぼ1発でオーケーが出て。私の中にあるホタルの色と言うか、キャラクターや歌いかたを汲み取ってくれたんだと思います。そもそもソロ曲が出ると思っていなかったので、うれしかったし、絶対に成功させたいと気合を入れて臨みましたね。
――ユーザーも追加曲があると思っていなかったでしょうし、反響も大きかったですね。続いて、『スプラトゥーン2』での収録もお聞きしたいのですが。
菊間『スプラトゥーン2』の収録は怒涛のようでした。でも、その前に私たちにとってはものすごい大きなイベントとして、『スプラトゥーン』のラストフェスがあったんですよ。
――ああ! “シオカラーズ国民投票! アオリ vs ホタル”ですね。
菊間そう。あのときの我々は、もう気が気じゃなくて……。ふたりで手を取り合って「どうしよう」って言ってました。フェスで投票されることを知らなくて、皆さんと同じタイミングで情報を得たわけですよ。しかも、ホタルちゃんが勝っちゃって……。
keityわかってたよ! ホタルのほうが人気だってことは(笑)。
菊間いやいや(笑)。アオリちゃんは小学生の人気とかスゴいじゃない! で、そこでちょっと気持ちを揺さぶられたところに、『スプラトゥーン2』の発売に向けて、公式Twitterでふたりのストーリーがアップされ始めて。私たちもそれを見て、いろいろ知っていくわけですよ。それで、「もしかしたらもうアオリちゃんは出ないんじゃない?」ってふたりで話したりして。
keity「私のことは気にしないで、まりさんだけでもがんばってください!」って言ったこともありましたね(笑)。
菊間本当に毎日ドキドキしていたんですよ(笑)。そんなときに、ついに任天堂さんからお声がかかって、『スプラトゥーン2』のお仕事の説明を受けるんですが、そこで初めていろいろなことを聞いて。そこで涙が出るくらいホッとしましたね。「うわー、そういうこと?」みたいな。
keityニュースは別のキャラクターがやりますとか、アオリちゃんがボスになりますとか、聞くものすべてが衝撃的で。「シオカラーズは人気が落ちちゃったのかな?」と思っていたんですが、むしろ「国民的な人気で殿堂入りのような扱いです」と言われて、すごくホッとしました。
ただ、そういったことを知っていく中で、私たちとスタッフの方々だけでなく、ファンの方のあいだでも、それぞれのシオカラーズ像ができあがっていたことがわかったんです。現実の2年と『スプラトゥーン』の2年、みんなの2年で、シオカラーズがどういうキャラクターに成長していたのか。みんなが納得する『スプラトゥーン2』のシオカラーズに寄せていく作業が、本当にたいへんでした。
ボイスの収録も、前作より任天堂さんの熱量がすごくて、ストーリーをマンガにしたものを見せてくれたりもしたんですが、どう演じるべきかをすごく悩みましたね。
菊間苦しんでたね。
keity前作よりもアオリちゃんの感情が強く出ていたので、求められるハードルがとても高くて。しかも、それがイカ語だから、より難しい。前作で一度録ったものも、もう一度録り直したりしました。
菊間私はそこは見ているしかできなかったんですが、がんばれがんばれって思いながら聞いてました。
――なるほど……。前作のゼロからスタートだったものから、大きな人気を獲得した作品になったこともあって、影響が大きかったわけですね。
keity各キャラクターにみんなが思い入れを持っていて。本当にすごいレコーディングでした。一生忘れられないくらいの。
――歌のほうもたいへんだったんですか?
keity歌もすごかったです。
菊間歌のほうが感情が爆発したよね。不安だから朝練をしようってことで、ふたりでカラオケに集合して、何回か歌ってから収録に向かったんです。ストーリーがストーリーですから。アオリ対ホタルと4号、あの躍動感をどう出そうか、みたいなことを検討しました。
keityあ、でも収録は『あさってColor』からだったよね。
菊間そうだった。ふたり仲よく笑顔で歌えたんですけど、その後からがすごかったんです。『ボムラッシュの夜』で、先にkeityさんが録っているのを見て衝撃を受けました。
keityあの曲は、イカとタコのあいでだ苦しんでいるっていうイメージで、必死で歌って。
菊間keityさんの声の表現力がすごくて、テクニックも含めて圧倒されましたね。
keityでも、正直「こういうテクニックを使おう」とか、そんなことは1ミリも考えていなくて。ただもうアオリちゃんとして歌う、“アオリちゃんを憑依させる”っていう言葉がいちばん正しいかもしれません。収録時の記憶もほとんどないですから。
菊間とにかくすごかったです。それを見て、私も感情が爆発してしまって……。
keity私のレコーディングが終わって、スタッフの方から「いま憑依してたね」って言われたくらいで、終わった後放心していたんです。そうしたら、今度は「いまブースにいるのホタルちゃん本人だよね?」っていうくらい、まりさんのすごい歌声が聴こえてきて。まりさんは、ほぼ泣きながら歌ってましたね。その1発目の歌声を聴いて、全員でこれしかないって話していたんですが、まりさんはこだわりがすごくて、その後も何回か録り直していました。
菊間感情を抑えられないのはプロとしてはどうかと思うんですけど、そのときは抑えきれませんでしたね。いま思い出しても泣きそうです。
keityエモかった。相当エモかったですよ。
菊間“アオリちゃんを助けたい”っていう一心で歌いました。こんなに苦しいレコーディングはないってくらい、気持ちを上げた状態で歌ったんですよね。しかも“こぶし”をいれなきゃいけない。ある種、いちばんたいへんなレコーディングでした。
――おふたりとも気持ちの入りかたが尋常ではなかったんですね。
keityそれで、最後に『濃口シオカラ節』のターンになって、完全に私たちの力を出し切ったんです。
菊間もう「私たちって無敵だよね!」って感じで、すべてを吹っ切って歌えました。
keity歌い終わった後、抱き合ってふたりで泣いちゃいましたね。
菊間スタッフの皆さんも泣いてたから、誰もそのときの写真撮れなかったんだよね(笑)。みんなの気持ちがひとつになった瞬間でした。