自動車技術で地震の揺れ吸収 浜松の会社が制振装置強化
アルミ建材の千博産業(浜松市)が分社化したevoltz(エヴォルツ、同)は、木造住宅向けの制振装置の販売を伸ばす。自動車のサスペンション技術を応用し地震の揺れを吸収。建物への影響を軽減する。制振への認知が高まるなか、分社化で経営資源を集中させ需要に対応する。新製品も投入し、2025年に15億円の売り上げを目指す。
地震対策で一般的な耐震が建物を頑丈なつくりにするのに対し、制振は建物の内部に部材を取り付けることで揺れ自体を吸収する。耐震性の高い住宅でも地震が何度も起こると、接合部分が緩むなど徐々に建物が傷む原因になる。エヴォルツの渥美幸久社長は「この10年ほどで制振への認知が広がり、家を建てる時に考慮されるようになった」と話す。
同社が展開する制振装置「エヴォルツ」シリーズ(1棟分で約80万円)は長さ2.2メートルの鋼製の部材で、柱と柱の間に斜めに設置する。延べ床面積100~125平方メートルの住宅の場合、1階部分に6本ほど使う想定だ。
開発にあたり、路面からの振動や衝撃を吸収する自動車のサスペンション部品「ショックアブソーバー(油圧式ダンパー)」の仕組みを応用した。ショックアブソーバー製造大手の独ビルシュタイン社で開発に当たった人材を迎え入れ、千博産業の一事業だった頃の15年に開発した。名城大学が研究で協力した。
ショックアブソーバーの基本構造を採用しつつ、何十回も試作するなど細部に試行錯誤を重ねた。それまでの制振装置は大きく揺れた場合に揺れを止めようとする減衰力が働くのが一般的だったが、小さな揺れでも大きな減衰力を発揮できる仕組みにした。製造はビルシュタイン社と浜松市の企業に委託する。
エヴォルツは千博産業が10月、制振装置事業を分社化し設立した。企画・開発や販売を担う。制振装置の売り上げは14年の2億円から21年の9億円に大きく伸び、千博産業の売上高の約8割を占める事業に成長した。伸び盛りの事業に経営資源を集中させ、意思決定も速める。渥美社長は千博産業の社長を兼ね、新設した持ち株会社が両社を束ねる。
制振装置は主に中小の住宅会社を通じて販売する。大手ハウスメーカーが自前で制振装置を手掛けるなか「大手以外の市場に商機がある」(渥美社長)。展開先を全国に広げており、9月には大阪に営業拠点を新設した。本社には揺れを発生させ製品の性能を体感できるショールームを設けている。製品を取り扱う住宅会社の全国約40拠点でも体験できる。
23年初夏には新製品を発売する。サスペンション部分の長さを42センチから47センチに延ばす、などにより減衰力を約25%高める。現在は年間約3500棟で採用されており、25年に5000棟を目指す。(北戸明良)