日本は「中国の属国」になるのか?
――自由と平等は要求し、戦わなければ、永遠に手に入れられない。アメリカでは黒人も、女性も、ゲイも、マイノリティも熾烈な権利闘争を経て、自由と平等を獲得したのだ。だが、日本人はどうだ? 現状をただ大人しく甘受しているだけではないか。なぜこうまで無抵抗なのか、全く理解できない。もっと抵抗すべきだ。首相も大臣も官僚もアメリカの統治に協力する地方行政官に過ぎない。独自の憲法を掲げているが、それも植民地でしかないという現実から目を背けさせるためのファンタジーに過ぎない。だから、この国の施政者たちは率先して、憲法を軽視するのだ。
これは『パンとサーカス』に登場するCIAの東アジア地域の責任者グレイスカイが部下の寵児を挑発する台詞である。リベラル派はまだ憲法や民主主義の理想を捨てていない。憲法や民主主義は極右の独裁的悪政、新帝国主義の力による支配に対する最後の砦ではあるが、その原則を遵守するには政治的教養が必要とされる。反知性主義や事なかれ主義の蔓延が憲法や民主主義の軽視という事態を招いている。グレイスカイはさらにこんな未来を予言する。
長い占領時代に終止符を打ち、米軍基地を撤退させてみるがいい。アメリカは中国と戦争をする気はないし、日中戦争が起きても、日本を守る気もない。アメリカは世界の産業の主軸である中国を金蔓にするために、巧みに中国共産党をハンドリングするだろう。日中、中台の戦争には第三者として介入し、日露戦争の時のように漁夫の利を得る。それがアメリカだ。日中戦争になれば、日本の敗戦は確実だ。80年前の日中戦争とは侵略の構図が逆転し、日本は沖縄から中国に占領されてゆくことになるのだ。中国との対決姿勢を強める極右政権に任せていたら、20年後にはそうなっている。リベラルの平和主義者が政権を取ったら、戦争は回避するだろうが、中華帝国の植民地になってゆくことに変わりはない。善良な人間には国家の舵取りなど無理だ。その資格があるのは帝国の悪魔の狡知に対抗できる者だけだ。
国民国家は戦争機械である。独裁的権力を保持するのに最も有効な手段、それが戦争だともいえる。数千万、億単位の国民を危機意識で統合できる。集団ヒステリー状態を演出することで世論を統一する。その定石通りに事が進めば、一番損害を被るのは国民であることは歴史が証明している。
世界史は、根本的に過去への回帰、反復によって作られるが、日本が戦前の大日本帝国を志向したところで、そのポテンシャルは失われているので、前近代に回帰するほかない。つまり、中華帝国の友好国として対等な地位を保ち、文化的自立を維持できればいいが、最悪、属国化することになりかねない。