CIAにはCSIS(戦略国際問題研究所)という下部組織があり、その日本支部には防衛省や内閣官房職員、新聞、通信会社、ジェトロの職員なども出向している。作中では「アジア政策研究センター」となっているが、そこに日米合同委員会の会議録なども保存され、実質ジャパンハンドラーたちのオフィスになっている。
主人公はその組織に配属されるが、やがて内閣情報調査室に出向することになり、首相とも直属の官僚ともダイレクトに話ができるようになる。主人公は最初のうちはCIAの忠実な犬として、日本政府との間を取り持ち、ジャパンハンドラーの一人として振舞うが、やがて組織を裏切る。最も効果的に組織を裏切ることのできるのは内部の人間である。
戦略的対米追従を進めるには、独自の外交、防衛戦略を考え、対等なパートナーたりえなければならないが、『パンとサーカス』の主人公はその高いハードルを飛ぼうとする。CIAの協力者の立場を利用し、官房に入り込み、アメリカのジャパンハンドラーの中核との攻防戦を通じ、彼らにも利益を供与しつつ、国民に最も利するという形で国益を追求し、かつ戦争を回避し、主権回復を達成する、そのようなサーカスは果たして、現実には可能なのか?
権力は被支配者の自発的な服従に根ざしているが、もし、主人公の御影寵児のような人物が現れれば、従来の対米隷属のエリート奴隷ではなく、主権国家のリーダーになり得る。留学経験もあり、アメリカの高官との接点も持つ人材は実際に少なからずいるが、大抵はジャパンハンドラーとなり、アメリカの国益に奉仕する結果になり、なかなかリアル寵児は現れてくれない。