2022.11.25
【島田雅彦 特別寄稿】「安倍銃撃」を通して明るみに出た「日本を売るエリートたち」という大問題
今年3月に刊行された島田雅彦『パンとサーカス』(講談社)が、7月の安倍晋三元首相の銃撃事件後、大きな注目を集めた。日本社会の現実をフィクションの力で鋭く描き出した本書には、「要人暗殺」という出来事が描かれているからだ。著者の島田氏は、事件後の日本社会をどうみているのか。
暗殺事件の余波
虐げられた者の怒りを解き放てば、そこから「世直し」の連鎖が起き、支配層の人間を怯えさせることくらいはできる。
以下、太字は『パンとサーカス』からの引用
2年前の7月末から東京新聞で一年間連載していた『パンとサーカス』では悪政に対し「世直し」を希求する声を掬い上げ、政治テロが実行される様態を具体的に描いた。もし政府関係者がこれを連載中に読んでいれば、有効な治安対策も講じることができたかもしれないが、人文科学を抑圧してきた政府が小説家の妄想にまともに取り合うはずもなかった。
暗殺が「奇跡的に」成功したことにより、今まで隠蔽されていた不都合な真実が露呈し、バタフライエフェクトのように、自民党自体の屋台骨が揺らいだ。おそらくは山上徹也容疑者さえ意図しなかった形で政治テロとなった。戦争やテロはさまざまな偶然が連鎖した結果、因果律を超えた想定外の現実を切り開いてしまうものだ。
山上容疑者の取調べが異様に長引いているのは、これ以上、政権に不都合な真実が露呈するのを避けたいからだろうし、自民党による内部調査も大甘になると予想される。北朝鮮のミサイルなど、ほかの事件で統一教会問題を覆い隠し、世論がこの件に飽きるのを待ち、いつものように説明責任放棄で一件落着を図りたいところだろうが、まだしばらくは事件の真相を暴く側にアドバンテージがある。統一教会問題のさらなる追求は紀藤正樹弁護士や鈴木エイト氏、有田芳生氏の粘り強い戦いに期待する。