【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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16章~キアランの公女(後編)~

キアランの西にそびえる山の麓。民家の影に隠れるようにしてその部隊はいた。ヘクトルを中心とする部隊である。

 

「ったく、いつまで待ってりゃいいんだ」

「ヘクトル様、忍耐も強さの一つです」

「わーってる。だから、そんな睨むな」

 

ヘクトルの後ろにはオズインとギィ、それと衛生兵としてプリシラがいた。

 

「ギィさん。怪我してますよ」

「ん?ああ、さっき森を通った時に枝で切っちまってさ」

「ちょっと待っててください・・・はい、これで大丈夫です」

「こんなの怪我のうち入らねぇってのに・・・まぁ、いいや・・・ありがとうな」

 

そんなことをしてるうちにも、ラウス兵は動きを始めていた。ラウス兵は円を作るように陣を組み、森の中に入っていく。各々が確実に連携を取れる距離を保ち、森を確実に進んでいく。視界の悪い森で各個撃破されるのを防ぎつつ、敵を包囲殲滅する戦術だ。確かに理にはかなっている。

 

「それじゃ、そろそろ移動するか」

「ああ、そうだな・・・って、うおわ!ハング!いたのか!!」

「でかい声だすな。フロリーナがビビってるだろうが」

 

ハングの隣にはフロリーナいた。どうやらペガサスに乗って山を越えてきたらしい。

 

「しかし、ヘクトル。お前の荷物やけに重そうだな」

「あ、ああ、そうなんだよな。ハングの指示か?」

「いや、そんなことを頼んだ覚えはねぇぞ」

「そうか・・・まぁいいや」

 

ヘクトルが敵の部隊に視線を移すと、敵の後続が森に入ったところだった。

 

「さて、いくか」

「おう」

 

ヘクトルとハングは散歩にでも行くかのように気楽に立ち上がった。

 

「敵の砦まで走り抜けて一気に制圧する。送れたやつは自然と俺らの背中を守る肉壁になっから頑張れよ」

 

ハングの最後の言葉はヘクトルとオズインに向けられていた。当然二人もそうなることは覚悟していた。

 

「んじゃ、行くか」

 

ハングは一気に物陰から駆け出した。それに続くようにギィが走り出し、低空でフロリーナが駆けていく。

そして、ハングはほぼ同時に紅の鎧をまとった騎士と緑の鎧を着こんだ騎士が飛び出してくるのを見つける。それを指揮しているのはサカの民。

 

「さすがに心得てるな・・・」

 

ハングはほくそ笑む。

 

「遊撃隊が出てきたぞ!」

「出城を落とす気だ!引き返せ!」

 

森の中から多数の声が聞こえてきていた。

 

だが、残念だ。もう手遅れだ。

 

「火だ!火の手があがってるぞ!」

「奴ら、森に火を放ちやがった!退路が断たれた!このままじゃ焼き殺されるぞ!」

 

随分と派手に森から煙があがっていた。

 

「逃げろ!焼け死ぬぞおぉ!」

 

森からは混乱している気配が伝わってくる。

それを見ながらギィが口を開いた。

 

「エリウッド様はうまくいったみたいだな」

「そりゃな・・・」

 

ハングは少し難しい顔をしながらそう答えた。

森の中からは盛大に煙はあがっているが、炎自体は見えない。

そして、恐怖を煽る声は森のいたるところであがっていた。

 

「あのマシューを敵兵に潜り込ませてる。さすがに流言の類は上手いな」

「あぁ、なるほど!あの野郎か」

 

すぐさま頭に血を上らせたギィを横目にハングは目を細める。

 

「・・・・・・・」

 

確かにマシューの声はよく通り、敵兵を混乱させるのに十分な効果がある。

 

だが、ハングとしてはそれ以上にエリウッドの手腕の方が恐ろしかったりする。

火をつけるタイミング、煙をあげる位置。全てが完璧だった

 

「狸貴族め・・・」

「なんか言ったか?」

「いやなんでもないよ。とにかく、役割を果たすぞ。さっさと砦を制圧しちまおう」

「おっし!先行くぜ!」

 

ギィは門が開け放たれたままの目の前の出城に突っ込んでいった。隣の砦にもすでにセインとケントが飛び込んでいる。ハングも剣を引き抜き、混乱の中にある出城へと飛び込んだ。

 

ギィが素早い動きで確実に衛兵を仕留め、ハングがその後方を支援。フロリーナが高所を制圧していき。後詰のヘクトル達が確実に安全地帯を広げていく。

 

ここからは策はいらない。ただの制圧戦である。

 

砦という要所を攻略し、そこを足掛かりにすればキアラン城への道は開けたも同然である。

森に入った部隊は既に混乱の中で離散している。統率を失い、地の理を失ったラウス軍に勝ち目などなくなっていた。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

バウカー将軍を粉砕し、城門の制圧を行ったのはリンディス達であった。

ハング達は森の中で散兵となったラウス兵達を確実に仕留めるために一度後退している。

城門前に集まるリン達。そこでフロリーナとリンは再開を果たしていた。

 

「リンディスさま!」

「フロリーナ!!無事だったのね。よかった!・・・本当に」

「私、少しは役にたてた?」

「もちろん!助かったわ、ありがとう」

 

ハングの配慮でフロリーナだけこちらに先行させたのだ。

 

そして、戦いを終えたエリウッド達もすぐにリンに合流を果たした。

まず、城門前に現れたのはマーカスとオズインを護衛に引き連れたエリウッドとヘクトルだった。

 

「リンディス、『久しぶり』になるのかな?」

「エリウッド!」

 

リンはエリウッドに駆け寄る。

 

「ありがとう。助かったわ」

 

リンはそう言いつつもエリウッドの周囲に視線を回す。だが、見慣れた癖のある黒髪を見つけることはできなかった。

エリウッドは彼女が探す相手を知っていたが、あえてそのことには触れなかった。

 

「僕らがラウス侯を追い詰めたせいでこうなった・・・助けるのは当然だ」

「そんな、キアランに起きたことはあなたのせいじゃない。気にしないで」

「ありがとう。でも、城を取り戻すまでは僕の責任でやらせてくれ」

 

そんなエリウッドの強い誠実さをを目の当たりにして、リンは苦笑しながらもエリウッドに甘えることにした。

 

「ええ、お願いするわ」

 

二人が会話している間にも他の人達も続々と戻ってきている。

彼等が挨拶をかわす中、やはりそこにあのくたびれたマントは無かった。

 

「あ、あの・・・エリウッド・・・」

 

リンが軍師の所在を聞こうとしたその時。

 

「おい、エリウッド!さっさと城に入ろうぜ」

 

少し離れた所から豪胆な声がした。リンがそちらを見ると黒い鎧で身を固めた男が立っていた。

 

「エリウッド・・・あの人は?」

 

リンがエリウッドにそう尋ねる。それで、エリウッドは二人が初対面であることを認識した。

 

「ああ、そうか。紹介するよ。ヘクトル!」

 

彼の名はヘクトルというらしい。

 

まだリキア諸侯の詳しい人物関係を把握していないリンはそれだけではどこの誰かは判断できなかった。

 

「ヘクトル、彼女はリンディス。キアラン侯爵の孫娘だ」

「ん?へぇ・・・」

 

そのヘクトルがリンをまじまじと見つめた。彼から下心は見えなかったのでリンは特に気にはならなかったが、なんとなく興味の対象になっているらしかった。

 

「ふぅん・・・なるほどな・・・」

 

そして、一人で納得してしまう。

 

なんだろう?なにか前情報でもあったのだろうか?

 

リンはそう思いながら首を傾げた。

 

「リンディス、彼はヘクトル。オスティア侯の弟だ」

「え?侯弟!!?本当に?」

「ああ?」

 

リンの驚き、その反応にエリウッドは驚いた。

 

「リンディス、どうしたんだい?」

「あ、えと、ごめんなさい。戦い方とか、振る舞いとか貴族に見えなかったものだから」

「ハハハハハ!」

 

笑い声がした。三人がそちらを見る。

坂の下から二人組が登ってきていた。

ハングとマシューだった。

 

「ハング!!」

 

リンが名を叫ぶ。

 

その声を聞いただけで、エリウッドとヘクトルは顔を見合わせた。

ヘクトルが苦笑いし、エリウッドが肩をすくめる。

 

なにせ、リンの声は今までとはまるで違っていたのだ。

 

リンには今まで疲労感が溢れていた。夜通し逃げた後での戦いだ。それが当然である。

だが、ハングが姿を見せた途端に顔には生気が戻り、声には疲れが見えなくなった。

 

見る者が見れば一発でわかりそうなものである。

 

「よう、リン。なんだ、生きてたか」

 

そんなリンに片手を上げて軽口を叩くハング。

 

エリウッドとヘクトルは再び顔を見合わせた。お互い、笑を堪えるのに必死である。

 

なにせ昨日からずっと取り乱しっぱなしだったハングだ。

その彼が今や『何の心配もしてなかったぞ』という態度でいる。

 

内情を知ってるエリウッドとヘクトルは可笑しくて仕方がなかった。

もちろん、ハングの矜恃の為に二人は何も言わなかったが。

 

「マシューも久しぶりね」

「人違いです!・・・って言いたいんですけどね・・・まぁ、またよろしくお願いします」

「マシューはオスティアの密偵だ」

「え!?」

「冗談に決まってるじゃないですか~!やだな~ハングさん」

 

挨拶も終わり、ハングはヘクトルの姿をもう一度視界に収めた

 

「まぁ、やっぱり山賊の方がしっくりくるよな」

 

さっきのリンの話の続きだ。

今すぐにハングの暴露大会を開きたくなったヘクトルである。

 

「しかし、若様。リンディス様の言い分ももっともですよ」

「ヘクトルはただただ力押しって感じだしな。無意味に斧を振り回すから周りが大変だしさ」

「お前らなぁ!」

 

声に怒気をはらませるヘクトルだが二人は全く気にしない。

 

「まぁ、二人とも。ヘクトルの戦いは確かに力押しで、危なっかしくて、近くで戦うのは少し怖いけど」

「助け舟になってねぇぞ、エリウッド」

 

ヘクトルを黙殺してエリウッドは続ける。

 

「だけど、彼程頼りになる味方はいないよ。周りを全く見てないような素ぶりだけど、ちゃんと見ているしね」

「お、おい・・・そこまで褒めすぎると逆に嘘くせぇぞ。エリウッド」

 

ヘクトルは褒められて自分の後頭部をかきむしる。

そんなヘクトルにハングが一言。

 

「ヘクトルは肉壁役だよな」

「お前はもっと言葉を選べねぇのか!」

 

がやがやと言い争う三人を見て、リンは笑った。

それが合図だったかのようにして、ヘクトルがリンに手を差し出した。

 

「まぁ、そういうわけだ。よろしくな」

「ええ、あらためてお願いするわ」

 

固く手を結ぶ二人。

 

その二人を見ながら、ハングは城の方を一瞥する。

 

ここにいるのは総勢20人。ハングにはキアラン城を落とす算段は既についていた。


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