防衛省が、陸上自衛隊那覇駐屯地に拠点を置く第15旅団の増強を検討している。

 15旅団は、南西諸島の防衛を担う陸自の部隊。その中の普通科連隊を現行の一つから二つに増やし、トップの階級も陸将補から陸将に格上げする方針を示す。

 実現すれば、実質的な「師団」に相当する組織となる。師団は軍事作戦を遂行する能力を保有する基本的な作戦部隊だ。上陸を想定した態勢が一気に進むことになる。

 部隊増強には、在沖米軍との連携強化の狙いも透けて見える。

 県内では自衛隊と米軍の共同訓練が相次いで実施されている。陸自のトップが陸将に格上げとなれば、県内の駐留米軍を束ねる米軍第3海兵遠征軍の司令官と同格になり、連携もスムーズにいくというわけだ。

 しかし「台湾有事」を想定した連携は、自衛隊が米軍の「先遣隊」となる危険性もはらむ。ただでさえ広大な米軍基地を有する県内での配備増強は、かえって周辺国を刺激することにもつながりかねない。

 現在、約2千人の隊員をどの程度増やすかは検討中というが、師団となれば約5千~8千人に膨れ上がる。地域住民の負担増加は避けて通れないはずだ。

 それなのに県民のあずかり知らぬところで部隊の大幅な増強方針が検討されている。今の動きは異様でさえある。

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 15旅団は2010年、第1混成団を格上げして発足した。

 背景には、中国や北朝鮮を念頭に防衛強化を打ち出した政府の防衛大綱がある。離島侵攻を想定した部隊の運用を掲げ、当時から南西諸島の配備増強は既定路線だったと言える。

 かつては沖縄本島より西側にはなかったが、旅団化後の12年の間に与那国島、宮古島で相次いで駐屯地が発足した。来年3月までには石垣島駐屯地の開設が予定されるなど増強の一途をたどる。

 一方、想定されてきた脅威の実態はいまだに見えない。

 尖閣諸島の領有権を主張する中国との間で懸念されているのは、海上警備の偶発的な衝突であり、戦争ではない。

 安倍晋三元首相は昨年「台湾有事は日本有事」と言及したが、台湾有事に日本は本当に加担するのか。

 何のための防衛強化なのか、あいまいなまま危機感だけが醸成されている。

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 この間はっきりと見えるのは、先島諸島へのミサイル配備をはじめ沖縄の基地負担が増している事実である。

 そして、実際に緊張が高まれば、危険にさらされるのは広大な米軍基地と、師団並みの部隊を有する沖縄の住民だ。

 しかし、そうした疑問に対する説明はいまだにない。沖縄戦を経験した県民には自衛隊に特別な感情を持っている人も多い。

 政府は県民の懸念に向き合うべきだ。