2021.11.26
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マーベルユニバースの背景にある壮大な「宇宙観」

『マーベル:レガシー』『エターナルズ』

11月5日に公開され、大きな話題を呼んでいるマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)第26作『エターナルズ』。
映画化発表時、ドキュメンタリー系作品で評価の高いクロエ・ジャオ監督の起用への期待など、様々な反応はありましたが、多くの人にとって、このヒーローチームの映画化は予想だにしていないものだったのではないでしょうか。
恐らく熱心なコミック読者ほど「まさか」と驚き、未読の映画ファンの方は「有名ヒーローのいない作品が、なぜ?」と訝しく思った事と思われます。
実際のところ、ヴィレッジブックスから刊行されてきた、マーベルヒーローが集結する大型クロスオーバータイトル内でさえ、メンバーの姿を探すのは結構難しいのが『エターナルズ』と言えます。
そんな彼らではありますが、マーベルユニバースの根幹となる「世界設定」という面においては、これはもう絶対に外すことのできない超重要作品なのです。MCUもフェーズ4に入り、さらなる世界観の拡張を目指すのであれば避けては通れないと判断されての映画化だったのかもしれません。
このコラムでは、エターナルズの成り立ち及び、ヴィレッジブックスの近刊で特に関連している『エターナルズ』『マーベル:レガシー』の紹介をいたします。
以下、映画『エターナルズ』の直接的なネタバレはありませんが、コミックからの「ヒント」を多く含む内容となりますので、映画未鑑賞で事前情報をなるべく入れたくない方は、ぜひ鑑賞後にもう一度いらして頂ければと存じます。

◆ジャック・カービーが生み出したマーベル創世神話

『エターナルズ』第1シリーズの刊行開始は1976年。
ライターとアーティストを兼任するのは、ジャック・カービー。キャプテン・アメリカ、ファンタスティック・フォー、ソー、ハルク、X-MEN…数々のマーベルヒーローの創造に関わってきた「キング・オブ・コミックス」です。
当時のカービーは、1970年にDCコミックスへ一旦移籍、紆余曲折を経て75年に再びマーベルコミックスへの復帰を果たしたばかり。
DCコミックスでは、『ジミー・オルセン』誌などを手掛ける一方、自らの企画である『ニューゴッズ』誌をはじめとした「フォース・ワールド」シリーズの連載を、ライター兼アーティストとして担当。
このフォース・ワールドシリーズは、ニュージェネシスとアポコリプスという善神達と悪神達の闘争を描いたもので、特にアポコリプスの支配者にして、全宇宙の生命を意のままにできる「反生命方程式」を追い求めるダークサイドは、DCコミックス内でも宇宙規模の影響力を持つ屈指のスーパーヴィランとして、現在においても大きな存在感を発揮するキャラクターとなりました。
マーベルコミックス復帰後、『エターナルズ』誌を立ち上げたカービーには、5年間のDCコミックス在籍時にやや中途半端な形で終えざるを得なかったフォース・ワールドシリーズを、もう一度新しい形で仕切り直そうという思いがあったと言われています。

『エターナルズ』の物語は、アンデス山中にある失われたインカの宇宙神の遺跡を、考古学者のダニエル・ダミアン博士とその娘マーゴ、そしてアシスタントである謎の青年アイク・ハリスが見つけ出すところから始まります。アイク・ハリスの正体は(非常にわかりやすい変名ですが)エターナルズの一人、イカリス。この遺跡を探し出すため博士の探索行に協力していた事を明かした彼の口から、遺跡に祀られている宇宙神、セレスティアルズの秘密が語られる事となります。

――まだ地球が獣だけの星だった太古の昔。
地球に降り立った巨大なる宇宙神セレスティアルズは、猿を捕まえて三つの種族を創り出した。
 ●遺伝と能力のバランスが取れた種族であり、破壊も平和も創り出すことのできる人間……知っての通り、世界を継承した種族。
 ●少数の民からなる神の如き力を持つ不老不死の一族、エターナルズ。人間の発展を助け、かつて神と崇められた彼らは今、人の世から離れ、隠棲している。
 ●繁殖力が高く、突然変異体のみを生み出す一族、ディヴィアンツ。かつて神に挑み敗れたが、新世代が捲土重来を図る。
 
地球にこの三種の知的生命を生み出したセレスティアルズは、一度去った後、自らが生み出した者達の価値を見定めるため、これまでに二度、来訪していた。そして今再び四度目の審判を下すため地球を訪れようとしている――

イカリスによる説明が終わるや、セレスティアルズを地球に呼び寄せる遺跡のビーコンを破壊するため、ディヴィアンツクロが遺跡へと乱入。イカリスと一触即発の自体になりますが、続く#2ではすでに起動していたビーコンに導かれたと思しきセレスティアルズの巨大宇宙船が現れ、戦いは中断。イカリスは遺跡に隠されたインカの暗号装置を見つけ、エターナルズの一員、エイジャックが装置から復活します。神々との交信者エイジャックはセレスティアルズの降臨装置を起動させ、ついにアリシェムがその台座に巨大なる実体を現します。
アリシェムはこれより50年かけて、全ての生命の価値を量り、地球を滅ぼすか存続させるかの審判を下すのです。
同時にアリシェムの立つ装置ごと遺跡が封印される事をエイジャックに告げられたイカリスは、遺跡の研究を望んだ博士を残し、マーゴを連れて脱出、人間の世界へと戻るのでした。二人を待つのは他のエターナルズと復讐を誓うディヴィアンツ、そして人間達。果たしてアリシェムはいかなる審判を世界に下すのか……。

宇宙人が古代地球に来訪し、彼らの干渉が歴史を変えた、そして宇宙人の来訪は神話という形で現代に残っている……というのは、1968年にエーリッヒ・フォン・デニケンが上梓し、世界中で一大ブームを起こした『Erinnerungen an die Zukunft(未来の記憶)』(英題は『Chariots of the Gods?』)という本の影響によるところが大きいとされていますが、カービーはこの本以前から、それこそ戦前、初めてマーベル(当時はタイムリーコミックス)で手掛けた『Mercury In the 20th Century(20世紀のマーキュリー)』の頃から、神話と現代を繋ぐキーとして宇宙人やスーパーヒーローがいるというアイディアを温めていました(ちなみにこの『20世紀のマーキュリー』のマーキュリーは、エターナルズのマッカリの初登場エピソードとして後から整理されています)。
天使と悪魔のごときエターナルズとディヴィアンツの闘争の物語、というだけであれば、DCコミックスで手掛けたフォース・ワールドとの差異は少ないのですが、エターナルズ最大の特色はやはり、知的生命の創造者にして目的不明の巨大な宇宙神、セレスティアルズの存在でしょう。

マーベルコミックスの世界に壮大な宇宙観という奥行きを創り出した『エターナルズ』ですが、本来マーベルユニバースとは別モノとして進行したかったらしきカービーと、売り上げのためにも既存の人気ヒーローとの絡みを要求する編集との間の齟齬などもあり、結局#19で連載は終了してしまいます。
作中で「50年後」に下されるはずだったフォース・ホストの審判も、カービー自身の手では描かれる事がありませんでした。

◆『エターナルズ』――ニール・ゲイマンの挑戦

ジャック・カービーによって生み出されたエターナルズとディヴィアンツ、そしてセレスティアルズのキャラクターと設定は、彼の手を離れた後、当然ながらマーベルユニバースの歴史へと吸収され、『ソー』誌などに舞台を移し、アリシェムの審判等、その後の物語も他のクリエイターの手によって紡がれていきました。
とはいえ、あまりにも壮大な上に、カービー自身マーベルユニバースとは別の世界のつもりで作った節がある『エターナルズ』の設定は、マーベルの敏腕ライター達にとっても使いやすかったとは言えなかったようです。セレスティアルズこそコズミック系の大ネタ要員として定着しましたが、肝心のエターナルズとディヴィアンツは、神々に等しい力のヒーローチームや異形のヴィランが溢れるマーベルユニバースでは、あまり頭角を現す事ができずにいました。
カービーの第1シリーズ終了後、85年に始まった第2シリーズも#12で終了。その後長い間、チーム誌自体が休眠状態になっていたのです。

そうした状態を解消したい、というのが2006年のエターナルズ第3シリーズでライターを担当したニール・ゲイマンの狙いの一つでした。インタビューによれば、自分の担当シリーズで壮大で複雑な設定の整理を行う事で、他のライターにも使いやすく、何よりマーベルユニバースでさらに活躍できるキャラクターにしよう、という思いがあったとのこと。
小説『スターダスト』『コララインとボタンの魔女』『アメリカン・ゴッズ』『グッド・オーメンズ』(テリー・プラチェットとの共著)と軒並み作品が映像化している超人気作家ゲイマンは、コミックファンならご存じの通り、DCコミックスで『サンドマン』(こちらも映像化決定済!)を、マーベルコミックスでは『マーベル1602』を手掛けたコミックライターでもあります。
そのゲイマンが『マーベル1602』の次に『エターナルズ』を手掛ける事になったのは、当時の編集長ジョー・カサーダの発案でした。もとよりジャック・カービーの大ファンで、刊行をリアルタイムで追っていたゲイマンに取っては非常に嬉しく、やりがいのある提案となったようです。このあたりの経緯は、邦訳版『エターナルズ』巻末所収のロングインタビューに詳しいので、ぜひ読んで頂ければと存じます。

カービーの『エターナルズ』、そしてその後の関連タイトルを熟読したゲイマンは「ジャックの手掛けた物語の中で自分が使ってもいい、現在のマーベルユニバースの”公式見解”は?」という確認を取りました。『マーベル1602』は17世紀を舞台としたいわばパラレル作品でしたが、『エターナルズ』はアース-616の「正史」。作家性だけでなく現行シリーズとの整合性、世界観が共通している事が求められます。
結論から書くと、ジャック・カービーの作った設定の中で、現在のマーベルコミックス編集部からNGが出たのは、一点「セレスティアルズが猿から人間を創り出した」というところ。

ので、ゲイマン版『エターナルズ』及び現在のマーベルユニバースは、カービー版から概ねの設定を引き継いでいますが、
 ●セレスティアルズが創造したのはエターナルズとディヴィアンツのみ
 ●創造の素材となったのは、猿ではなく原人(すでに人類の祖と言えるまで進化している状態)
この二点が現在のマーベル”公式見解”という事になります。

歴史あるアメコミシリーズでは「あるある」の設定改変が、エターナルズでも行われた事になります。
こうした改変の例の中でも大きなものを挙げると、1963年の『テールズ・オブ・サスペンス』で初登場したアイアンマンは、当初ベトナム戦争の渦中で誕生したヒーローでしたが、2004年の第4シリーズ『アイアンマン:エクストリミス』で、ベトナム戦争はアフガニスタン紛争へと時代を未来へ送る形で変更されています。
レトコン(後付け設定)やリトールド(再解釈)は、時に議論を呼びますが、現代をキャッチアップし、フレッシュであり続る事で、逆にあらゆる時代に通じる不滅のヒーローを描こうする、ヒーローコミックの原動力の一つでもあると言えるのではないでしょうか。

エターナルズの設定に関する大きな改変は上記の二点ですが、その他にもゲイマンがより現代の読者に親しみやすくなるようアレンジを加えた箇所は多々あります。ゲイマンはこうした改変について「読者が良くない、と思ったら、また次のライターが変えればいいんだ」というコミックファンとしての率直な思いと共に、ヒーローコミックの持つダイナミズムへの信頼を語っています。

現代における伝奇・幻想小説の大家ニール・ゲイマンがカービー愛を込めて再構築したマーベルユニバース創世神話。
ゲイマンがこのシリーズを通じて、セレスティアルズという善悪を超越した宇宙的存在や、永遠を生きるエターナルズの面々に持たせた新たな方向性もまた、カービー版とは異なるインパクトがあり、現代の読者の要求に答えるリアルな問題提起も含んだ、マーベルファンはもちろん、アメコミファンならぜひとも一読をお勧めしたい作品と言えるでしょう。
また本作は当然ながら「ニール・ゲイマンの作品」のひとつとしても素晴らしく、特に『アメリカン・ゴッズ』を既読の方は、どこか共通したものを感じるところもあるのではないでしょうか。
現代において人間の世界に生きる神々という『アメリカン・ゴッズ』のテーマや、数千年を同じ姿で生き続けてきた天使と悪魔の物語『グッド・オーメンズ』が好きなゲイマンファンの方にも、自信をもってお勧めできます。
そして何よりジョン・ロミータJr.のアートワークが非常に素晴らしく、率直に言ってアートだけでもお勧めできるほどの一冊です。

エターナルズ(2021/10/28発売)

 [ライター] ニール・ゲイマン
 [アーティスト] ジョン・ロミータ Jr
 [訳者] 石川裕人 今井亮一
 [レーベル] MARVEL
 3,740円(税込)/B5/256P
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 ⇒書籍詳細

<『エターナルズ』あらすじ>
全米の超人達を二分する事となった超人登録法が成立した時期。
病院の救急科でインターンを務める青年、マーク・カリーは、眠るたび同じ夢を見ていた。天を覆う巨大な神、悪魔の如き姿の敵との戦い、空飛ぶ青年に命を救われる……
慌ただしい日々の中、特にその夢を顧みる事のなかったマークの前に、ある日夢の中の空飛ぶ青年にそっくりな男が現れ、こう語りかけた。
「実は君は異星人が地球を保護するために留め置いた不死身の超人なのだと言ったら…君はなんと答える?」

そしてその日から、マークの周りには奇妙な事件が続発するようになるのだった……

◆現代のマーベルユニバースにおけるセレスティアルズ、エターナルズの位置づけ

では、ゲイマン版『エターナルズ』以後、マーベルユニバースの中でエターナルズの設定はどのように使われていったのでしょうか?
エターナルズというヒーローチームの物語は続いていますので、ここでは一旦割愛しますが、彼らの生みの親であるセレスティアルズに関しては、以降様々な設定が付加されて行きました。
冒頭でも少し触れたように、ヴィレッジブックスで刊行しているクロスオーバータイトルを読んでいる方にとっては、コズミック系イベントによく出てくるセレスティアルズは、むしろエターナルズよりも馴染み深いかもしれません。

一例をあげると、『シビル・ウォーⅡ』#1では、これまで登場したセレスティアルズとはあまり似ていない、黒いセレスティアルズが倒されていました。作中、Dr.ストレンジが「セレスティアル・デストラクター」と名前を呼んでいましたが、これはどういった立ち位置の存在だったのでしょうか?

実はこの黒いセレスティアルは、『アルティメッツ』誌(キャプテン・マーベルが率いる宇宙規模の事象に対応するヒーローチームのシリーズ。マイルス・モラレスの出身アースであるアルティメット・ユニバースとは無関係)で初登場した「アスピランツ」という一族。これまで地球へ来訪していたセレスティアルズとは少し異なる存在なのです。
2016年の『アルティメッツ』第2シリーズと、2019年『ヒストリー・オブ・マーベルユニバース』を相互参照しながら最近のマーベルコミックスの”公式見解”を確認すると、セレスティアルズは始原の単一存在「ファースト・ファーメント(第一宇宙自体が意志を持った擬人存在)」が孤独ゆえ創り出した最初の生命群という事になっているようです。
ファースト・ファーメントが創り出したセレスティアルズの中で、黒い姿の者達がアスピランツ。アスピランツはファースト・ファーメントを崇拝し、それ以外の存在を不要と見做していましたが、アスピランツとは別の、色とりどりの姿をしたセレスティアルズ(カービーが生み出したセレスティアルがこれにあたります)は宇宙に生み出された生命の進化を望み、この二派の間に宇宙で最初の争いが起こりました。
セレスティアル・ウォーと呼ばれた戦争は、紆余曲折の末に色とりどりのセレスティアルズが勝利しますが、戦いによってファースト・ファーメントは引き裂かれ、そこから第二番目の宇宙にして最初のマルチバースが誕生する事となったのです。宇宙/マルチバースはその後も幾度か滅亡と再生を繰り返し、現在のマーベルユニバースは当初第七宇宙/第六マルチバースを舞台としていましたが、『シークレット・ウォーズ』によって宇宙の再統合が起きたため、以降は第八宇宙/第七マルチバースになりました。
つまりセレスティアルズは、マルチバース誕生以前から存在する「進化を望む者達」である、というのが現在の”公式見解”という事になります。
『シビル・ウォーⅡ』#1に登場したアスピランツは、第七-第八宇宙/第六-第七マルチバースそのものの意志が凝結した擬人存在「エタニティ」への憎悪を募らせたファースト・ファーメントの使者として、その中心地アース-616に送られてきた存在だったのです。

 

急に話が宇宙一つ分より大きくなった上に、コズミック系タイトル以外ではこうした設定はほとんど表に出てこないので、見慣れない単語だらけになっていますが、現在のマーベルユニバースにおいて、例えばMs.マーベルがニュージャージーの平和のため戦う裏では、こうした宇宙の歴史があるという事になります。
ちなみに宇宙魔神として知られるギャラクタスはどういう位置なのかと言うと、「滅亡した第六宇宙のたった一人の生き残り」なので、エタニティの誕生時には既に存在していた、という事になります(フェニックス・フォースもギャラクタスと同郷)。

ジャック・カービーによって生み出されたセレスティアルは、意思疎通不能の巨大で、絶対的な力を持つ、貌無き宇宙神。地球を滅ぼす力を持ちながら、審判の基準も不明。シンプルですがそれゆえに底知れぬ畏怖を覚える存在でした。
その後のマーベルユニバースの歴史の中で、いくつもの描写を経て設定が付加されたセレスティアルズは、一番最初に登場した時点とは畏怖の方向性も異なっているように見えます。
ですが、現在のマーベルユニバース、特にその中心となる地球において、セレスティアルズが超重要な存在である事は変わりません。
まさにその事を描いたのが、次に紹介する『マーベル:レガシー』になります。

◆『マーベル:レガシー』――地球がマーベルユニバースの特異点である理由

ジャック・カービーの『エターナルズ』、そしてその後のマーベルユニバースでの展開において、セレスティアルズは地球に四度訪れた事になっています。

 ●ファースト・ホスト:100万年前に地球を訪れ、エターナルズとディヴィアンツを創造した。
 ●セカンド・ホスト:人類有史以前の来訪。ディヴィアンツに審判を下し、彼らの築いたレムリア王国を滅ぼした。
 ●サード・ホスト:千年前、地球の支配種族となった人間の信仰を試すため地球を訪れたが、当時人間達の信仰を集めていたのは、超常の力を持つ神話の神々だった。その代表であるオーディン、ゼウス、ヴィシュヌの三神がアリシェムと対峙したが、彼らは力の及ばぬ事を悟り、セレスティアルズの計画への不干渉を代償に審判の猶予を得た(『ソー』v1#300)。
 ●フォース・ホスト:地球に最後の審判を下すため、再びアリシェムが8体のセレスティアルズと共に地球に訪れた。オーディンはセレスティアルズ対策として建造したデストロイヤーにアスガルド神族の力を結集させ、またエターナルズはユニ・マインドで一体となって彼らに対抗しようとした。だがセレスティアルズの絶大な力の前にデストロイヤーもユニ・マインドも倒れ、最後に残ったソーが独りの戦いを挑む事となる。ソーは力を振り絞り、アリシェムの台座を崩して彼を転倒させ、剣を突き刺すが、アリシェムは剣を溶かして無効化してしまう。その時、瀕死のソーを守るため、彼の実母である地母神ガイアが現れ、地球に存続の価値がある証拠として未来ある12人の人間をアリシェムに捧げる。アリシェムはその価値を認め、セレスティアルズは12人の人間と共に宇宙へと帰って行った(『ソー』v1#300)。

上記のように、カービー版で描かれなかったフォース・ホストの審判は、1980年『ソー』誌に舞台を移し、#300記念号で、後のマーベルコミックス編集長マーク・グリュンワルド(&ラルフ・マッチオ)の手によって書かれました。つまりアース-616正史の流れを継ぐゲイマン版『エターナルズ』は、このフォース・ホスト到来後、つまり最後の審判後の世界という事になります。
ではセレスティアルズはもう二度と地球には来ないのでしょうか?
本作『マーベル:レガシー』は、なんとファースト・ホスト以前にもセレスティアルの来訪があった、というところから物語が始まります。そのセレスティアルを迎え撃ったのは、原始のアベンジャーズ!
メンバーは以下の通りです。

オーディン
フェニックス
初代ソーサラー・スプリームであるアガモットー
スターブランドの力を宿した穴居人(外見はハルク)、
高度な智慧と技術を持つブラックパンサー
崑崙の守護者アイアンフィスト
マストドンに騎乗するゴーストライダー

そう、100万年前にも、地球最強のヒーロー達が結集していたのです。
この隠された事実を突き止めたのは、オーディンの昔語りを覚えていた悪戯の神ロキ。原始のアベンジャーズによって討たれたセレスティアルを復活させ、宇宙に散る全てのセレスティアルズに影響を及ぼし、地球を危機に陥れる陰謀を企むのでした。
これに対峙するのは、『オリジナル・シン』ソーが「資格」を失い、『シビル・ウォーⅡ』トニー・スタークは昏睡状態に、『シークレット・エンパイア』キャプテン・アメリカはハイドラ総帥に……と、近年アイデンティティを揺るがす試練にばかり遭い続けてきたビッグ3。

久しぶりの円満復活に、アベンジャーズ結成のきっかけとなった敵ロキが再び立ちはだかるのも運命的と言えるでしょう。
物語の終盤には、マーベルユニバースを揺るがす恐るべき事実も発覚、これまでマーベルコミックスの展開を追ってきたファンであれば読み逃す事のできない超重要イベントとなっています。
また何より、カービー版『エターナルズ』からの変遷を追った上で改めて『レガシー』を読むと、まさにキング・オブ・コミックスの輝ける「遺産」をしっかりと継いだ物語であることが実感できる事間違いなしの一作です。
『エターナルズ』と『マーベル:レガシー』、どちらか片方だけ読んでも、両方それぞれ一冊でまとまった物語となっていますので、満足できる作品ですが、ぜひ両方読む事で、マーベルユニバースが紡いできた歴史と遺産の素晴らしさを深く味わって頂ければと思います。

マーベル:レガシー(2021/10/28発売)

 [ライター] ジェイソン・アーロン
 [アーティスト] イサド・リビック 他
 [訳者] 秋友克也
 [レーベル] MARVEL
 3,520円(税込)/B5/216P
 ⇒Amazonで買う
 ⇒書籍詳細

<『マーベル:レガシー』あらすじ>
「シークレット・エンパイア」の衝撃が未だ冷めやらぬ世界。
大いなる試練を経験したヒーロー達は、それぞれに己が継ぐべき、残すべき《遺産》に想いを巡らせていた。そして、その思索の旅は遠く百万年前にも及んでいたのである。
百万年前、天空神《セレスティアル》の襲来に、オーディンら強者達が結集した。後のアベンジャーズを思わせる彼らは何を成し、何を残したのか…

そして現在、宇宙規模の事件を扱うチーム、アルティメッツのリーダー、キャプテン・マーベルは何者かの攻撃を察知し、迎撃に向かっていた。
地球上でもヒーロー達が、異変を感じ、それぞれに動き始めていた。一連の事件の裏にあるのは、人々の想像を絶する存在……そして、マーベルユニバースの根幹を揺るがす新事実が明かされる!