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プレスリリースより

文科省からスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定されている広島県立西条農業高等学校では、生活料理科班の7人の女子生徒がフードロスと食料不足という2つの問題の改善に取り組んでいます。地域の飲食店から廃棄される野菜屑などをサステナブルな宇宙食につなげるという彼女たちの活動を、Science Portalが伝えています。

当初、飲食店で廃棄される野菜くずや出し殻を使ったメニューの開発を考えましたが、そうした試みはすでに多くなされていて「新鮮味がない」と悩んでいました。そこでメンバーの一人、島谷涼花さんは、そうした食品残渣をエサに食用コオロギを育てようと提案しました。

栄養価が高く、牛や豚にくらべてエサが少なくて済み、狭い場所での飼育が可能で、ごく短期間に安定的に出荷できるなどのメリットを持つコオロギは、次世代のタンパク源の最有力候補になっています。しかし、彼女たちのプランは単なるコオロギの飼育だけに留まりませんでした。宇宙食として利用すべく、宇宙でのコオロギの飼育に挑むことにしたのです。

生活料理班の生徒たちは、コオロギがよく育つ食品残渣を探すと同時に、宇宙の微小重力下でのコオロギのふ化と飼育の実験も行いました。そのための微小重力環境細胞培養装置(クリノスタット)も自作しています。そして試行錯誤の末、ようやくコオロギがどんどん増える環境を作ることに成功しました。



しかし、そこにはもうひとつの問題がありました。試食です。先進的なSSHでも、虫を食べることに抵抗のある人が多かったのです。生活料理班のメンバー自身も教員たちも、最初はそうでした。そこで、チョコクランチにしたり、ひじきに混ぜてみたりといろいろと工夫を重ねた末、好評を得られるようになりました。

西条農業高等学校では、2020年から「宇宙農業」を学校のテーマにしています。SSHとして10年間の活動をとおして、生徒たちの問題解決能力は高まったものの、自ら課題を見つけ出す力が育っていないと感じた教員たちは、「自由な発想が求められるムーンショット型の研究」を推進すべく、宇宙に目を向けました。そして、JAXAのオンライン講義や宇宙飛行士との交信などの活動を重ね、生徒たちの宇宙への関心を高めてきたのです。宇宙でのコオロギの飼育という発想は、そんな教員たちの努力の結果でもあります。



「宇宙農業とは、誰も知らない、情報がないことへの挑戦です」と大野佑二郎 教諭は話します。現在2年生の生活料理班7人の研究はこれからも続きます。この11月、同班は第30回衛星設計コンテストの「ジュニア賞」と「日本宇宙フォーラム賞」をダブル受賞しています。

文 = 金井哲夫

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