2019.04.17
2019.04.17
Twitter、Instagram、Facebook、TikTokなどSNSの利用者数は、年々増加しています。2018年にフェイスブックジャパンが開催したイベント「Instagram Day」では、日本国内におけるInstagramの月間利用者数が2900万人と発表されました。
Facebookの国内月間利用者数である2800万人を超えたことで、Instagramはマーケティングにおいても重要なツールとなっています。取り組む企業が増えるなか、方向性に迷ったり、フォロワー数が伸び悩んだりと、課題を抱えることも少なくないようです。
今回は、わずか1年で10万フォロワーを得ただけでなく、ブランド貢献にも着実な成果を出しているという、サントリーのInstagramアカウント運用担当者であるサントリーコミュニケーションズ株式会社の神藏ほのかさんにお話を伺いました。また、サントリーをはじめとした多くの企業でソーシャルメディアマーケティングを支援しているオプトの鵜ノ澤直美さんも同席。お二人の話から「企業がInstagramアカウントの運用で大切にすべきこと」を見つめ直しました。
2015年です。TwitterやFacebookの運用はしていましたが、20代から30代女性にアプローチできていない課題があったんです。
当時のInstagramの利用者は20代から30代の女性が多く、うまく活用できればアプローチしたい層とコミュニケーションを取れると考えました。
サントリーは『ほろよい』『オールフリー』『ボス』など多くのブランドを持っています。Instagramを通じて自社の商品を認知してもらうため、複数のブランドを掲載できるコーポレートアカウントの運用をはじめました。
サントリーコミュニケーションズ株式会社 デジタルマーケティング本部 SNS担当 神藏ほのかさん
私がコーポレートアカウント全体を統括しています。各ブランドが発信したい内容のヒアリング、Instagramアカウントに載せるべきコンテンツ案の精査、できあがったコンテンツの最終チェック、それを持って各ブランドとの調整を経て、投稿します。
投稿するコンテンツは鵜ノ澤さんたちのチームと考案しています。アカウント運用の戦略からコンテンツに必要な撮影のディレクションなど、クリエイティブ面のサポートもしてもらっていますね。
運用開始2年5ヶ月である2017年11月の時点で、フォロワー数は4万人でした。サントリーのTwitterやFacebookのフォロワーが何十万といたため、数字を比べられると見劣りしますよね。それで、社内にInstagramの運用意義を伝えるのが難しいという課題があって。そこで、鵜ノ澤さんたちと改めて目標を引き直したんです。
株式会社オプト 鵜ノ澤直美さん
すでにいるフォロワーはどんなコンテンツが好きなのかを知るために、フォロワーのプロフィールや投稿しているコンテンツ、他にフォローしている人などをリサーチしました。
それと同時に、様々な切り口でコンテンツを投稿して反応を見つつ、「ファンに愛してもらえるコンテンツ」の傾向を掴んでいったんです。
季節感に合わせたものやユーザートレンドを取り入れた投稿に反響があることがわかりました。
クリスマスの時期であればアドベントカレンダーを取り入れた投稿や当時トレンドだった、輪切りにしたフルーツの断面を綺麗に並べた投稿を参考に作成したコンテンツが人気でした。
そこで、その世界観に馴染む写真を投稿するために、実際にInstagramで活躍されているクリエイターにお声掛けして、コンテンツ作成も行いました。現在は作成しているコンテンツのおよそ半分を、クリエイターと一緒に作っています。
2018年5月から7月にかけて行った、ほろよいキャンペーンです。20代から30代にかけてのファンが多い「音楽フェス」をイメージしたコンテンツを投稿し、Instagram上で擬似的にフェスを開催したんです。
すると、フォロワー数が約5.5万人、月の平均エンゲージメント数も約2千増加した結果となりました。そして約1.3万ものハッシュタグ投稿数が集まり、ユーザートレンドにあった施策を実施できたと思います。
ほろよいキャンペーンの時期に、実際に全国10か所以上で音楽フェスが開催したこともあり、「#音楽フェス」といった関連ハッシュタグからの流入数も非常に多かったですね。
はい。各ブランドによってファンとのコミュニケーションを変えています。
たとえば、『新しい地図』の稲垣吾郎さんと香取慎吾さんがCMに出演してくださっているオールフリーは、フォロワーにもお二人のファンが多く、Instagram上でもファンたちが会話を楽しむ傾向が多いようです。なので、オールフリーに関してのクイズを載せたコンテンツを投稿して、会話しやすい空気を作っているんです。
あるいは、あるブランドのファンではいるけれど、コメントや投稿をしないで見る専門の方もいらっしゃいます。普段はフィード投稿しない方たちに向けて、手軽に投稿を楽しめるようにストーリーズのテンプレートを配布することもあります。
アカウントによって、手に入れたい情報やフォローしている人、発信している内容を分けているんです。それぞれ違うコミュニティに所属している感じというか。正直、仕事でやっているというよりは、Instagramが好きだから気づいたら見てしまっている部分が大きいんですけどね(笑)。
日本国内だけではなくて、海外のトレンドも見ています。海外の方が流行が早い場合もあるので。いいと思った投稿は、オプトのSNSコンサルタントチームのSlackチャンネルでも共有して、コンテンツ案を検討するときの参考にしています。
やっぱり、普段からSNSに慣れ親しんでいるメンバーだからこそ、よりユーザー目線になったコンテンツを作れています。
私たちのアカウント運用チームの平均年齢は25歳なんです。運用メンバー自身がターゲットユーザーなので、私たちが作ったコンテンツに「楽しいか、楽しくないのか」を感じるのも、投稿の判断基準のひとつです。
嘘をつかないこと。たとえば、あるブランドの商品を押し出したいからといって、インスタ映えのために本来は合わないレシピコンテンツなどは絶対に作りません。
あくまでコアターゲットである20代から30代の女性に合う商品を掲載し、ファンが楽しんでくれるコンテンツを投稿する方針を大切にしています。
そうですね。当初は社内でも「コーポレートアカウントなのに、掲載しない商品があるのはどうなのか」と議論がありました。
各ブランドにはその結果やユーザーの投稿事例を共有して、Instagramの特性を粘り強く説明しました。それを続けた結果、今では「Instagramアカウントはどういう場所なのか」を社内でも理解してもらえています。
アカウントを運用するにあたって、担当者は編集権を持っているべきです。掲載したいと言われた情報を全部出してしまったら、それはちゃんと運用できているとは言えないと思うんです。
Instagramに合わないものを掲載してしまうと、結局はファンにとっても、商品にとってもメリットはありません。私はサントリーのInstagramアカウント「だからこそ」ファンにも商品にもやるべきことをやりたい。今後も担当者である限り、編集権とファンへの愛をもって、判断していくつもりです。
私はサントリーの社員として、各ブランド担当者の思いを知っているので、ついついその思いをファンに押し付けたくなってしまうときがあります。
併走してくれることでサントリーが伝えたいことを入れつつ、ファンが見たくなるものを作るために必要な「客観的視点」を担保できているんです。
私がコンテンツ案を検討する際にお願いしているのは、「サントリーだけでは考えられないもの」を一緒に考えること。提案をもらうことで、サントリーのこだわりや発信に取り組む意義を見つめ直す機会にもなっています。
さらに、中長期的に併走してもらうことで、客観的な目線は担保しつつも、各ブランドの特徴を理解したコンテンツ案を考えていけます。お互いにやりとりを積み重ねてきたからこそ、仕事のしやすさが日に日に増しています。
SNSの専門家としてプロフェッショナルであることです。誰より早くInstagramのアップデートやユーザートレンドをキャッチして、運用のための戦略やコンテンツ案に活かせないかどうか日々考えています。
ファンに愛されるコンテンツをデータで検証しつつ、PDCAを回して運用することも大切にしています。「私たち自身がターゲットユーザーだから、私たちがいいと思うコンテンツを出せばいい」と高を括るのではなく、客観的に数字を分析した上で、感覚的な部分を活かすのがいいと思うんです。
Written by木村和博
Editor長谷川賢人
Photographer加藤甫