この臨時国会初となる憲法審査会が開会されました。10月3日に召集されて3週間以上を経てようやく開会されました。定例日には開いて議論するという、通常国会で当たり前となったはず「慣例」は守るべきです。
今回は通常国会からも参院選を挟んで時間があいたので、「前回までのあらすじ」としてダイジェスト的な内容をお話ししたほか、防衛費の増額についても「もうひとつの憲法9条」とも言われている海上保安庁法第25条を取り上げ、考え方を述べました。
憲法審査会発言メモ(2022年10月27日)
■今後の審査会運営について
まず今後の本審査会の進め方について申し上げたい。毎週定例日には開催するという慣例は守ってほしい。また、これまで、緊急事態条項、9条、国民投票法などについて議論を行ってきたが、言いっぱなしにならないよう、一つのテーマについて一定の意見集約を行ってから、次のテーマに進むことを求めたい。そのための分科会方式や小委員会方式を提案したい。
■緊急時の議員任期延長改正案
特に、緊急事態条項、とりわけ、議員任期の特例延長の必要性については、本審査会で概ね合意が得られていると考えられることから、具体的な改正案について議論すべきだ。国民民主党として条文イメージ案を取りまとめているので、資料を配付の上、改めて説明させて欲しい。まずは、緊急事態の定義(4類型)についてコンセンサスを得ることを求めたい。
■外国勢力による情報戦への対応
参考人招致についても改めて提案したい。憲法改正の国民投票におけるネット広告規制について、インターネット事業者等から意見を聴取して欲しい。さらに、SNSの個人情報を利用して内心の自由を操作し、選挙に介入した「ケンブリッジ・アナリティカ事件」の当事者であるブリタニー・カイザー氏からのオンラインも含めた意見聴取も優先的に行ってほしい。ロシアによるウクライナ侵略でも、フェイクニュースなどによるサイバー空間における情報操作、いわゆる「ディスインフォメーション」の影響が指摘されている。情報の発信者やプラットフォーマーに対する規制、外国勢力の影響を排除するための規制、ファクトチェック機関の創設などの議論をより具体的に深めていきたい。
とにかく、税金をいただいて議論することを仕事とする国会議員として、言いっぱなしではなく、山積する憲法上の課題に一つ一つ結論を出していく運営をお願いしたい。
■憲法9条について
次に、憲法9条について一言述べたい。国民民主党としては、「自衛隊」という組織を明記するかどうかの形式的な議論の前に、その自衛隊にいかなる自衛権の行使を憲法上認めるのか、そして、その自衛権の行使を行う実力組織は「戦力」あるいは「軍隊」なのかという本質的な議論が必要との立場だ。なぜなら、この議論を避けている限り、仮に自衛隊という行政組織名が憲法に明記され、「存在」の違憲性が解消されても、その自衛隊による自衛権の行使という「行為・行動」の違憲性の疑義が残り続けるからである。
ここで、改めて自民党の新藤幹事、日本維新の会の馬場幹事に伺いたい。両党の憲法改正案による改正後の自衛隊は、「戦力」あるいは「軍隊」なのか、そうでないのか。そして、今後の解釈変更によってはフルスペックの集団的自衛権が認められる改正になっているのか伺いたい。特に、前回、足立康史議員が「芦田修正」を取り入れるとの趣旨を発言したと思うが、日本維新の会として、芦田修正を採用する考えなのか。そうであれば、依然として自衛権の範囲が解釈に依存することになり、条文と現実のギャップを解釈で埋める「解釈の迷宮」から抜け出せないのではないか。党としての考えを聞きたい。
今後、政府・与党においても、反撃力、いわゆる敵基地攻撃能力の保持について議論を深めていくと思うが、相手領域内の軍事施設等を狙って誤爆した時に、業務上過失致死に問われる可能性もあるが、業務上過失致死の国外犯規定は日本の刑法にはないし、そもそも、軍事作戦にまつわる過失等を平時の法体系である刑法で裁くことが適当なのかという問題がある。その意味でも、もう自衛隊が「戦力」あるいは「軍隊」なのかという議論を曖昧にし続けるべきではない。
■防衛費の増額と海上保安庁法25条
関連して防衛費の増額について申し述べたい。国民民主党は国を守るために必要な防衛費の増額には賛成の立場である。一つの参考となるのがNATO、北大西洋条約機構が加盟国に要求する国防費の対GDP2%だ。これに関して、海上保安庁の予算など安全保障に関わる予算を足し合わせれば、日本でもGDPの1.24%程度になるとの主張があるが、これは誤解を招く議論である。そもそも「NATO基準の国防費」には明確な定義があり、それは「軍隊の要求を満たす経費」であって、「軍事戦術の訓練を受け、軍隊としての装備を保有し、展開オペレーションの際に、直接、軍の指揮下で行動でき、現実的に、軍を支援するために国家の領域外に展開可能な部分についてのみ計上する」ことになっている。
一方、海上保安庁法25条は「この法律のいかなる規定も海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認められるものと解釈してはならない」と定めている。また、実態としても有事を前提とした自衛隊と海保との連携訓練は一度も実施されていない。したがって、海上保安庁予算も「NATO基準の国防費」に含めたいのであれば、海上保安庁法25条の削除が必要だということは指摘しておきたい。
重要なことは、都合よく「軍隊」の定義を使い分けるのではなく、ロシアによるウクライナ侵略が長期化し、北朝鮮が何十発ものミサイルを我が国周辺に着弾させ、台湾統一を悲願とする中国の習近平総書記が3期目に入った今、我が国の主権と領土を守るために必要な「armed forces」とは何かという本質的な議論が必要だ。
いずれにせよ、自衛隊が対外的には軍隊だが国内的には実力組織であるといった説明は日本でしか通用しない。憲法改正するのであれば、自衛隊が「戦力」あるいは「軍隊」なのかどうかというガラパゴス的議論に終止符を打つべきではないか。形式的で中途半端な9条改正は将来に禍根を残すことを指摘しておきたい。
以上