森友学園問題を巡る財務省を挙げての公文書改ざんは、なぜ起きたのか。法廷でも肝心な真相は明らかにならなかった。
改ざんを苦に自殺した近畿財務局の元職員赤木俊夫さんの妻雅子さんが当時の理財局長、佐川宣寿氏に損害賠償を求めた訴訟の判決で、大阪地裁の中尾彰裁判長は請求を棄却した。
判決は財務省の調査報告書をなぞり、佐川氏が改ざんを主導し、「問題行為の全般について責任を免れない」と認定した。
その一方で、国家賠償法や最高裁判例を踏襲して佐川氏個人の賠償責任を否定。自殺との因果関係にも言及しなかった。
「真実を知りたい」。雅子さんの問いに答えは出なかった。結果として解明を阻む手助けをした判断と言わざるを得ない。
森友学園への国有地売却では安倍晋三元首相が2017年2月、値引きに自身や妻昭恵氏の関与があれば「総理も議員も辞める」と国会で答弁した。
これをきっかけに理財局は、昭恵氏に関する記述の削除や交渉記録の廃棄を近畿財務局に指示したとされる。赤木さんは18年3月、自ら命を絶った。
雅子さんは20年3月に国と佐川氏を訴え、国に赤木さんが改ざんの経緯を記録した「赤木ファイル」の提出を求めた。
国は昨年6月、ようやく開示したが、佐川氏の具体的な指示内容は判然としなかった。どんな経路で指示が下りたのか。安倍氏への忖度(そんたく)はなかったのか。依然分からぬままだ。
雅子さんが提訴したのは佐川氏に直接ただし、夫の自殺の真相に迫るためだ。ところが国は半年後に突然、請求を全面的に受け入れ、一方的に裁判を終わらせた。不都合な真実を隠そうとしたとの疑念は拭えない。
佐川氏に対する訴訟だけが続き、改ざんと自殺の因果関係に加え、佐川氏個人の賠償責任の有無が焦点になっていた。
判決は国家賠償法の「公務員個人が職務で他人に損害を加えた時は国が賠償責任を負う」とする規定に基づき、佐川氏は責任を負わないとした。雅子さん側が求めた佐川氏からの説明や謝罪も「道義上はともかく法的義務はない」と退けた。
審理で裁判所は佐川氏の証人尋問も認めなかった。関係者が口を閉ざす中、全容解明に尋問は不可欠だったが、事実認定は財務省報告書やファイルの範囲内にとどまった。
司法には行政のチェックという大事な役割がある。官僚の公文書改ざんという悪質さや人の命の重さを考慮し、将来の違法行為を防ぐ観点から審理を尽くすべきだったのではないか。
雅子さんは控訴の意向を示した。9月には情報開示請求に絡む虚偽有印公文書作成容疑などで佐川氏らを告発した。真相の解明を終わらせてはならない。
民主主義の根幹を揺るがす不祥事にもかかわらず、政府は調査を身内である財務省に任せたきりだ。岸田文雄首相は「森友問題と真摯(しんし)に向き合う」としながら第三者による再調査を否定。具体的な対応をしていない。
改ざん問題が浮き彫りにしたのは、国民の共有財産である公文書を軽視する永田町・霞が関の姿勢だ。保存・管理の在り方も見直すべきだろう。安倍政権から代々押しつけられてきた「負の遺産」と決別できるかが問われている。