2022カタールW杯【日常雑記】

W杯開催するんかい、と、まずびっくりした。

日本代表がグループリーグでおそらく死すであろうということは知っていた。

なんで前者にはびっくりして後者には冷静なんだよ。不思議ですね。

 

www.jfa.jp

 

公式サイトがどこなのか分からない。これでいいのかな。

今のご時世に大きなスポーツの大会をやるということ。カタールという国が抱える問題。参加する各国が抱える問題。やらない方がいいのかもという個人的な感情。

色々あるけど、東京オリンピックに反対していた時みたいにものすごい剣幕で怒れなかったのは、他国での開催であるということ、そして私がサッカーというスポーツを愛している、というふたつの理由からなので、そう、これはただの身勝手な感情なのですね。そんな身勝手を抱えて私はテレビの前に座ってサッカーの試合を見る。

 

好きな国はアルゼンチン、チリ、イタリア。今大会にはアルゼンチンしか出ていない。好きな選手はクリスティアーノ・ロナウド。分かりやすいですね。今大会が最後になるロナウドのために、ポルトガルに優勝してほしいなぁって思って見ている。あとプレイの感じとしては欧米より南米のサッカーがすごく好きです。

 

昨日は試合をふたつ見た。

ロッコ×クロアチア戦。どっちの国も嫌いではない。どちらかというとクロアチアが好きかもしれない。革命や戦争でバラバラになってしまった国の心の支えがサッカーである、というストーリーが好きなのかもしれない。また身勝手。

試合の結果は引き分け。モドリッチ率いるクロアチアの攻めは優雅で、モロッコの守りは堅牢であった。良い試合を見た。

 

続いてドイツ×日本戦。

いやもうね、80点取られて負けると思ってましたからね。無理だよ。同じグループにいるスペインもコスタリカも鬼強いって知ってるけど、特にドイツは容赦がないもん。私という人間は個人的に(これは理由があって)サッカーのドイツ代表を忌避しているためできるだけ自国の代表とは当たってほしくなかったんですね。というのもそもそも自国日本のナショナルチームについても常に不満があり、全然応援できないというか好きだったことが1秒もないので…そんな、好きじゃない国(日本)vs忌避してる国(ドイツ)の戦いをどういう気持ちで見守ればいいんですか? でもドイツが日本からバカスカ点をとって浮かれまくってるのはムカつくんだよな……というような超複雑な心境で、「日本はグループリーグ突破できなくてもドイツを沈めたら尊敬する」ってTwitterに書いたりしてました。

 

そしたら。前半いきなりゴールに突撃する選手がいるじゃん。すごい。オフサイドだったけど。そんでそのあとドイツに一点取られても、私が知ってる日本代表みたいにシオシオになってパス回しだけして逃げたりしないじゃん。後半二点取って逆転したよ!? すげー!! 常に攻めて常に守って90分超えの地獄を走り回って、えっ、昔の日本代表って歩いてる選手めっちゃいたよね? 昨日は誰も歩いてなかった! すごい! あとキーパーのミラクルセーブが凄まじくて、あの守りでディフェンス陣がやる気を取り戻すのドラマ見てるみたいだった。

 

そしてドイツを沈め、日本は勝ち点3をもぎ取って戻ってきた。めちゃくちゃ拍手したし尊敬した。こんなことあるのか。すごいなぁ。見ててよかった。あと知ってる選手が本当に全然いないので顔と名前をちゃんと覚えよう(尊敬すると約束したので)と思いました。キーパー控えの川島さんぐらいしか分からないので……。

 

前の日記に書いた通り、メンタルがまだ腐っている。でもサッカーを見ると元気になる。サッカーを見ると精神が安定する。ガブリエル・バティストゥータが好きだった頃。イタリアリーグの生中継を毎晩見て大騒ぎしていた頃。あの頃も私は腐っていて、腐っている私を人間に戻したのがサッカーだった。サッカーを見て人間に戻って、どうにか生活をしていた。思えば母が大病をして手術のために入院し、結婚したばかりなのに実家に呼び戻されて(その当時私と母親の関係は最悪だった)実家で猫を撫でながら腐っていた時もW杯をやっていた。実家で留守番をするだけの私には昼も夜もなかったから、試合がある時間に起きてサッカーを見て、人間に戻って家事をやり、猫を撫で、生存した。

 

カタール大会、どうなるんだろう。どこが優勝するのかな。日本代表を「私の」と言えるほど応援してはいないけど、次も粘って見せてほしい。尊敬したから。

 

www.sponichi.co.jp

 

笑っちゃった記事。イタリアの分まで気張ろうな。

世は地獄【日常雑記】

タイトルのままである。

有益なことは何も書かない。

 

9月頃からメンタルの調子が地を這っている。秋が深まるにつれてどんどんひどくなる。

毎年のことだ。

11月の、自分の誕生日周りで地獄は最高に深まる。何もかもがいやになる。世界のすべてが腐って見える。希死念慮が押し寄せてくる。

毎年のことだ。

生まれてこの方ずっとこうだ。

慣れない。

 

ここ2年はメンタルの腐れに重ねて新型コロナウイルスという現実の地獄とも戦わねばならず、一度も罹患していないのがせめてもの救いといえば救いだが、まあ、なんだ。良くはない。

 

明るく楽しく、観劇の記録や映画鑑賞の覚書、あと好きな音楽のことを書くブログにしたいと思っていたけど、腐ってることを書いてもいいじゃんと思ったので書いた。デッドストック・テキストだもんな。

 

後日見返して「おお、腐っていたなぁ」と思えたら、わりと良い。

ある秋の日【遊覧文庫vol.1 下北沢のみち/阿佐ヶ谷スパイダース(2022)】

2023年11月14日の記録です。

大好きな阿佐ヶ谷スパイダースが、11月23日までこのような企画をやっています。

 

asagayaspiders.com

 

企画概要を見た時には驚きました。これは…今年は…演劇ではない…?

でもなんか面白そう。再開発後の下北沢にもほとんど足を運んでいないし、タイミングが合いそうなイベントは覗いてみようかな。そんな気持ちで何枚かチケットを予約しました。

イベントのメインとなっている(と私が感じた)のは劇団員たちによる『ソロ読み』。タイトル通り、阿佐ヶ谷スパイダースの劇団員ひとりひとりが小説とか色々なものを持ち寄って読む企画だと思っていたのですが──

 

◇11月14日16時開演・富岡晃一郎『スチュワーデス物語

 

15時半の開場時刻を少し過ぎた頃に劇場『楽園』に入ると客席はまあまあまばら。平日の昼間ですし。などと思っていたら劇団関係者や富岡さんのお友だち?がいっぱい来てくれたみたいで、開演する頃にはほぼ満席だったそうです。

 

ドラマ『スチュワーデス物語』(私は未見)と原作の『スチュワーデス物語』の違いをさらっと説明した後、ソロ読みスタート。主人公のスチュワーデス候補生も教官も地の文もぜーんぶ富岡さんです。何せソロ読みなので。「50分ぐらいあるかも!」「トイレ行きたくなったら言行ってね」「電話かかってきたら出ていいよ!」というゆる〜い上演前諸注意があったのですが、始まってみたらあっという間の50分。まず意外とソロ読みじゃない! 映像で村岡希美さんが出演してる! さらに主人公女性(富岡さん)との掛け合い相手の教官として村松武さんが映像出演…そ、そんな無茶な…。更に行間を表すため?の謎パフォーマンスコーナーもあり、富岡さんの突然の生着替え(!)もあり、最終的にはずっとスチュワーデスの制服姿(!!)でラストまで駆け抜け、最終的にはファーストテイクまで…こんなに面白くていいのか…という気持ちで拍手しまくってました。ほんとに楽しかった。原作読みたくなりました。

 

アフタートーク村岡希美さん&松村武さんをゲストにお迎えしての『演劇団体のスタートアップを語る』というテーマで、こちらもまた面白かったです。劇団ってどうやってできるのかなぁ、と思ってる人全員に聞いてほしい、富岡さんの『ベッド&メイキングス』、村岡さんの『酒とつまみ』、そして松村さんの『カムカムミニキーナ』の誕生秘話。

個人的には(トークの内容からは少し逸れるのですが)富岡さんのソロ読みステージがあまりに豪華仕様だったため、阿佐ヶ谷スパイダース主宰の長塚さんに「三日ぐらいやるの?」と訊かれたというエピソードと、ソロ読み本編中にシャンパンが暴発したのが演出ではなく本気の暴発だったところがめちゃくちゃ面白かったです。劇場の床、無事でよかった。

 

◇同日19時開演・森一生『「演劇の街」をつくった男 本多一夫と下北沢』

 

舞台上に色々なものがいっぱいあった富岡さんのソロ読みとは打って変わって、テーブルと椅子とMacBook、それに映像投影用のスクリーンがあるだけのシンプルなステージに私服?と思しきさらっとした格好に眼鏡姿の好青年、森さんが登場。

ソロ読みタイトルからして本多一夫さんの半生を追うような内容になるのかな?と予想していたら、まさかの『下北沢』という土地を縄文時代から掘り返す!というめちゃくちゃスケールの大きな講演会でした。そう、これはソロ読みではない…講演会…っていうかソロ読みの定義が何なのか分からないので、森さんの講演会もまたソロ読みで正解なのかもしれません!分からぬ!

 

ダイダラボッチの足跡と思われる池から始まる物語、それに京王井の頭線小田急線が交差することで現れる十字架、結界が張られているような土地…と民俗学に詳しい人ならわくわくして踊り出しちゃうような森さんの語る『下北沢』。私はその辺りあんまり詳しくないのですけど、仏教や神道が日本に根付く以前に存在していた巨人信仰=ダイダラボッチの存在はなんとなく信じているような部分があるので、今もこの、再開発によって変化しつつも常に『下北沢』という特異な空間である場所をダイダラボッチが見守っている、というようなお話をニコニコしながら聞かせていただきました。

そして本多劇場の大将こと本多一夫さん! 『「演劇の街」を〜』を森さんが朗読し、その後ご本人と長塚圭史さん、それに舞台監督の福澤諭志さんが登壇されるというとっても豪華なトークイベントが行われたのですが、なんかもうめちゃくちゃ…めちゃくちゃ面白かったです…うまく書けないんですが本多一夫さんの演劇愛とか、「公共劇場ではできないものを本多グループで受け止める」とか、本多劇場柿落とし公演で唐十郎さんが大量のリアル水を使って階下の飲食店に浸水させたとか(大事故である)おもしろエピソードの嵐…。そして今ブログを書いていて気付いたんですが、本多一夫さんはもう88歳というとってもご高齢。にも関わらずお話しされる際にはすごくハキハキしていて、演劇のことを語るときのキラキラした瞳が印象的でした。お体大切に、いつまでも下北沢にいらしてほしいです。

森さんがおっしゃっていた、本多一夫=ダイダラボッチ(下北沢を開拓し見守る者)というのもあながち大げさな表現ではないのかも……。

 

それから、ソロ読み前には本多スタジオで行われている『遊覧文庫』にもお邪魔してきました。古書を売る幻の書店というコンセプト、とっても素敵です。思わず色々買ってしまいました。最近は本を読むとなると電子書籍ばかりなので、久しぶりに紙の本をじっくり読みたいな〜って思いました。あと、時間が合わなくて出てきてしまったんですけど、紙芝居も見に行きたい!

↑買った本!

 

そんなこんなで『阿佐ヶ谷スパイダース遊覧文庫vol.1 下北沢のみち』、来週まで続くのでお時間ある方にはぜひ遊びに行ってみてほしいです。盆踊りもあるらしいよ!11月15日〜17日は休演、18日から再開です。

「どうして?」の嵐【貞子DX(2022)/邦画】

池内博之くんが好きなので見てきました!

 

movies.kadokawa.co.jp

 

公式サイト。意味分かんないですね。

予告編も見たのですが「池内くんが躍動しているな…」ということしか伝わってこなくて。『IQ200の天才が挑む呪いの方程式』っていう惹句も謎でしかなくて。確認してきました。

 

以下、ネタバレも含みつつ。

 

まず前提として私は邦画ホラーをほとんど見てません。『リング』も子どもの頃に一回見たっきりです。だって怖いから。でも『山村貞子』という女性のことは知っているんですよね。なぜなのか。ひどい人生を送った人だということも知っているし、そりゃ世の中を呪いたくなるよね…みたいな感想も抱いています。

 

で。今回の『貞子DX』。子どもの頃の『リング』ぶりの山村貞子さんです。1時間40分というコンパクトな上映時間の作品でした。ふつうに楽しめました。でも、映画館を出る時に一緒に見た人と言い合いました。「これ、貞子じゃなくて良かったよね?」「うん。貞子である必要はなかった」。なんなんだよ。

 

呪いのVHSが令和の世に蘇り、変死者が続出、その謎に挑むのは小芝風花さん演じるIQ200の天才大学院生&川村壱馬さん演じる自称占い王子のへっぽこハンサム──というお話だったのですが。いや。もう全然山村貞子さんである必要ない。白い服を着た髪の長い人間を全部『山村貞子さん』として出すのはやめろ。本当にやめなさい。山村貞子さんに謝れ! ばか! ちゃんとしろ! みたいな感じでした。

 

ホラーとしてはたぶん本当にダメです。笑っちゃう。山村貞子さんはそんな動きしないだろ。あと台詞が全部ギャグ。後半は特に振り切れてて、ああもう笑わせにきている……って気持ちでゲラゲラ笑いながら見てました。木村監督、『リング』見てないでしょ!? なんか雰囲気で撮ってるでしょ!!?? 『リング』シリーズが好きな方や、山村貞子さんに対してきちんと向き合っているホラーが好きな方には本当に怒られるやつだと思いました。

 

ただ、良かったなーと思う演出もそれなりにあって。

『占い王子』を自称するへっぽこハンサムは本当にへっぽこで何もできない男なんですけど、主人公に命を救われたことで呪いの解明を手伝いたい! 力になりたい! ってぐいぐい来るようになるんですね。でその時の主人公とのやり取りで、主人公(女性)のことを「王子様みたいだった」「俺はお姫様の気持ちだった」みたいなことを言うんですが、ああ、現代だ…男の子が女の子を救って無条件に恋に落ちるような世界観じゃない…(実際ふたりは恋に落ちない)…ってニコニコできてとても好きでした。

 

それから黒羽麻璃央さん扮する謎のツイ廃が主人公に何かと情報をくれたり協力してくれたりするんですけど、彼は十年自室から出ずに生きてきた引きこもりで、情報はくれるけどリアルの世界では手を貸してくれなくて。でも主人公たちの言葉でなんと呪い渦巻く現地(なんなんだよ現地って…ナンバープレートが富士山のタクシーで辿り着く現地…)まで助けにきてくれたり、映画のラストでは彼自身の人生観も変わったりして。

 

一方池内博之くん扮する人気霊媒師はもう、本当に前時代の燃え滓みたいなキャラ設定で来るからこう…推しだけど全然擁護できないな…フフッ…見た目はすごくいいのに…と心の中でろくろを回しながら見ていました。つまりこの映画は、前時代のどうしようもない人間がばら撒いた呪いをエゴの塊のような若者たち(IQ200も王子もツイ廃も初登場時点では正直結構好きになれないキャラとして描かれていたので)がお互いを思い合って、歩み寄って、手を取り合って完全解決は無理でも手探りで妥協点を、生き抜くための未来を探す、そういうお話だったのではないかと──

 

そう思うと、

完全に山村貞子さんじゃなくていいんですよね!!!!!!!

 

山村貞子さんではなく新しい呪いを描けばもうちょっとホラーとして成立したのでは? とも思うのですけど、山村貞子さんはネームバリューがすごいから「これまでのあらすじ」をやらなくて良いんですよね…だからどうしても出てきてほしかったんだろうな、山村貞子さんに…結果「貞子さんを出す必要は全然ないちょっとホラーっぽいノリの全体的には元気いっぱいなバカ映画」になってしまったんですけど…。

 

私はわりと嫌いじゃない作品でした。100分飽きずに見れたし。オチも無理やりだけど嫌いじゃない。呪いと共存し、汝隣人を愛せよ、みたいなラスト、良かったです。ほっこりした。あと池内くん扮する霊媒師の衣装や所作がいちいちセクシーで良かったです。

 

しかし本当に山村貞子さんにはお疲れ様ですと言いたい。なんかもう…ねえ…。

ごめんね。【ヘルドッグス(2022)/邦画】

9月9日に鑑賞。パンフがお品切れだったので通販で到着するまで感想保留にしてました。

 

www.helldogs.jp

 

公式。

見ない予定でした。正直。理由はこれ。

 

youtu.be

 

ビビりません? ひどくて。

絶対面白くないよこの映画…早く公開始まってくんないかなこの予告編見たくない…(若本ボイスは嫌いじゃないけどこの予告編に於いては最悪)ってずっと思ってました。

で、それとは全然関係なく『沈黙のパレード』を見て、あっそういえばヘルドッグスって北村一輝村上淳と酒匂芳さん出てるじゃん? ほぼ沈黙のパレードじゃない? って気付いて、翌日見に行ってしまいました。

すごくよかった。ビビった。

あの予告編はなんだったんだ…ってぐらい面白かったです。

 

私はそもそも原田眞人監督作品と相性が悪いのですが、時折『検察側の罪人』みたいなめっちゃ面白いな!っていう作品に出会うことがあって、そういう時は大抵キャストが大変素晴らしいんですけど、今回もそういう感じで。

 

ネタバレします。

 

坂口健太郎さんすごい良いですね!? テレビドラマでちらちら顔を見る程度の俳優さんだったので、とにかく演技の圧がすごくて素晴らしかったです。隙あらば文句を挟んでしまって申し訳ないのですが、あのキャラ設定の人物を『サイコボーイ』って称するのはちょっと…かなりデリカシーがないのでは…!? とは思いましたけど…もっと冒頭からぶっ飛んでて目が合ったやつ全部殴るみたいなキャラだと思っていたので、家庭環境やメンタル面の問題、それに例の集会場での振る舞いなどを見ていると、室岡をサイコって言うな!! っていう怒りがものすごくて…見てる間ずっと…。別にサイコじゃない室岡が三神(はんにゃ金田氏名演技でしたね)をアレするシーンでようやく『サイコボーイ』っていう呼称の意味が出たというか、そんな予告編で連呼していい響きじゃないだろ! っていうか……。

 

アクション面ではやっぱり圧倒的に岡田准一なんですが、個人的にはこれは坂口健太郎の映画だな、と感じました。どこにも居場所がなくて、どこにいても生きていくのがしんどかった男の子が、兼高という唯一無二の相棒を(たとえそれが仕組まれたものだとしても)得ることで裏社会できちんと生きていけるはずだったのに──という。

兼高が十朱の秘書に抜擢されて「コンビ解散」を土岐に告げられた際の呆気に取られたというか、絶望の二歩手前、もしかしたら室岡はそれまで本当の「絶望」を知らなかったのではないか…と思わせる表情が圧巻で、室岡には本当に兼高しかいなかったのだな、と。土岐だってそれを知っているはずなのに、あまりにもあんまりな…。

 

ラストの十朱を巡る超展開は結構「あーやっぱり」って感じで、正直に言うと潜入捜査官多すぎ。とりあえず潜入させりゃいいってもんじゃないだろ。十朱でしくってるんだから次々投入するなよ愚かか! って感じでした。落ち着いてほしい。演じているのか酒匂芳さんなのでギリギリ愚かに見えない感じでしたが、いやでもねえ…潜入したやつがどんどん寝返る可能性だってあるでしょうが…。

みやびさんは俳優ではないからこその威圧感がすごくてとても良かったです。圧倒的な美貌ととんでもない殺意と。十朱、良い役柄でした。

 

私がすごく好きだったのは、三神を殺害逃亡後の室岡が土岐のところに戻ってくるシーンで、「オヤジに、ごめんね、って言いにきたら……」のとこでした。あの台詞ですべてに納得してしまったというか。室岡という青年が抱えていた空虚を埋めていたのは間違いなく兼高であり、土岐であり、東鞘会という組織そのものであり、それらすべてが瓦解して手のひらからこぼれていく瞬間、室岡にはもうあのラストシーンしか用意されていなかったのだろうな、と。

 

女性俳優陣も頑張っていたと思うのですが、やはりどうしても男性の世界。食われてしまいますよね。松岡茉優さんは好きな俳優さんなのですが、「わー! 邪魔!」という気持ちを禁じ得ませんでした。ごめん。逆に普段あまり見ることのない大竹しのぶさんは流石の貫禄だな〜という感じで、もしかしたら監督側は松岡茉優さんをファムファタルとして設定していたのかもしれないけど、私にとってのヘルドッグス運命の女は間違いなく大竹しのぶさん扮する典子先生でした。大前田との距離感もよかった。最後ああなるって大前田も分かってたでしょ……。

 

村上淳さんがあまりにも村上淳さんで、なんなら沈黙のパレードと若干キャラかぶってて笑いました。なんでだよ。全体的に全員セリフがもごもごしてる(これはさすがにわざとだと思うけど)作品の中で、セーラー服に言及する村上淳さんの発声だけが異様にハキハキしてて「!?!?」ってなりました。好き。役名が『番犬』なのも好き。スピンオフしてほしい。

 

ちょっと文句、というか疑問点。

パンフが手に入るまで感想書くのを控えていたんですが、ざっと読んでみた感じ「この作品のオマージュ」とか「この作品を参考にした」ってタイトルがめちゃくちゃ出てくるんですよね。原田監督だけでなく、原作の深町氏のインタビューを読んでいても。私は各分野の作家が口にする「オマージュ」は大体「パクリ」だと思っているんですが、ヘルドッグス、こんなに面白いのにあれもこれもオマージュ≒パクリで作られているのか? オリジナルなのは役者の演技と美術だけなのか? と少しばかりがっかり…してしまい…。オマージュとパクリの違いってなんなんでしょうか? たとえばとても素晴らしいノワール映画を見たとして、「俺もあのラストシーンやりたい!」という目標で書かれた作品は、オマージュを捧げてるんでしょうか? それともラストをパクっているんでしょうか? 線引きめちゃくちゃ難しくないですか?

だいぶ難しい問題だなと思いました。でも好きな映画はあるのです、ヘルドッグス。

 

あと。2022年10月現在改修工事に突入しているため2024年まで閉館状態のさいたま芸術劇場がロケ地として使われていて座席から落ちそうになりました。さい芸ことSAF、今年いちばんぐらい通った劇場なので…びっくり…ヘルドッグス、もしかしたら改修前のさいたま芸術劇場を見ることができる最後の映像作品になるのかもしれないな〜と思いました。記録映像としての価値が爆上げです。

あの頃渋谷で見ていたような。【グッバイ・クルエル・ワールド(2022)/邦画】

2022年9月9日に見ました。公開初日ですね。

ふせったーに感想を伏せていて、伏せるだけだとなんとなく勿体無い気がしたのでサルベージします。ネタバレしてます。

 

happinet-phantom.com

 

公式サイト。

以下、ふせったーから回収した文章。

 

- - - - -

 

・オープニングですぐに「あっこれはかつての日本映画へのラブレターのような作品だな」と感じた。


大森立嗣監督は今年52歳で邦画黄金期というか90年代〜00年代の所謂インディー映画が躍動していた時代に存在はしているんですけど、デビューは2005年だから実際にあの時代に作品を発表してはいないんですよね。でまあ実際デビューしてからは割と規模の大きい作品を手掛けがちというか、才能がすごいからそうなっちゃったんだろうけど、『ああいう』映画を撮ってない立嗣監督だからこそ…改めて自分の手でやりたかったんじゃないかな、と…。(デビュー作『ゲルマニウムの夜』は『ああいう』映画の一端ではあるけど、荒戸さんパワーとかもあって立嗣監督ソロでの作品ではないような気がするので)

 

・序盤の女性蔑視台詞と過剰な女性への暴力行為

 

こはちょっとゲッとなって終始この調子で行くなら無理やな…と思ってたけどちゃんと回収されていて、2022年の作品だ!!と思えて良かったです。玉城ティナさん扮する役に暴言を吐いたり暴力を振るったりする斎藤工扮する役が、かなり早めにきちんとティナさん(&氷魚くん)に始末されるんですよね。めっちゃいい。90年代や00年代の女たちにはできなかったことを映像でちゃんとやってくれてる。安心しました。
また、斎藤工という俳優は映画好き俳優というイメージがあり、立嗣監督がモチーフにしたであろう黄金期邦画もきっと通っているだろうから、自分の役の理不尽さやかなり早めに命を落とすダサい悪役であることを理解して演じてるんだろうな〜さすがだぜたくみ〜ってこれはもう完全に贔屓丸出しなんですが、とにかくたくみが死んだ時に「きちんと報いを受けてる!」とニコニコできて良かったです。

 

・主演俳優西島秀俊


いやこれは…私の好みの問題もあるけど、西島さんって演技下手じゃないですか…? それでもアミール・ナデリ監督の『CUT』という名作に出演した実績はあるんですけど、同時期に撮られた伊勢谷友介監督の『セイジ〜陸の魚〜』ではマジのクソ演技なんですよね。セイジは作品そのものもクソなんですけど(余談)。なのでこの人を使う時には監督の力量がすごく出るなと常々思っていて。で今回の西島さんは主演というかなんというか、群像劇の真ん中にいるので一応主演ということになってはいるけど主人公じゃないなって思って。なのでいつもの棒読み演技でも特にストレスは感じなかったです。特に印象にも残らなかったけど。ていうか『引退しためっちゃ怖いヤクザ』って設定あんまり活きてなかったですよね!? なんだったの????

 

・ホモソ要素が見当たらない


これすごい面白かった。黄金期邦画を参考にしたら絶対男と男のサムシングが出てくるじゃないですか。ないんですよ。すごい。徹底してない。強いていうなら鶴見辰吾さん扮するヤクザと大森南朋さん扮する汚職刑事のあいだにある関係がそれに近いのかなと思うんだけど、ない。で、その代わりに光っているのが玉城ティナさんと宮沢氷魚さんの関係なんですよね。恋愛、共犯、共感、愛情、信頼、友情、その全部を男女のあいだに成立させてる。サイコー。2022年です。

 

・めちゃくちゃスローテンポに進む物語


予告編のあのものすごい勢いはなんだったのだ…と思うぐらい展開がゆっくり。ヤクザのカネを奪ったメンバーがお互いに全然興味がないから、強奪後のそれぞれの人生をバラバラに描くしかないっていう…ここも2022年って感じだなー。結局最後までお互いを信じていたのはティナ&氷魚ペア(氷魚くんは強奪に参加してない)で、穏便に終わりそうだった西島&三浦ペアは破滅して終わるっていう…。90年代だったら男女破滅、男男ハピエンが定番だったような気がするので。気がするだけですが。

 

三浦友和鶴見辰吾奥田瑛二


あの時代と21世紀を結ぶ俳優陣。こういう題材の作品ならもっとこう……あの人もこの人も出てくるのでは!? となりそうなところをシンプルにこの三人に任せていて見やすかったです。

 

大森南朋


お兄ちゃんa.k.a.監督からの贔屓がすごかったです。悪くて薄汚れていてしょぼくれていて光の当たらない道を背中を丸めて歩いているキャラなのに、信じられないぐらい可憐でした。あんな潤んだ瞳の上目遣いを────────なぜ?

 

・ラストシーン


パンフに正解が書かれてて笑った。

 

そんな感じかなー。こうやって書き出してみると結構楽しんでますね。おもろかったです。また時々こういう映画が作られるようになるといいな、日本映画界!

善なる者【沈黙のパレード(2022)/邦画】

お友だちの爆推しを受けて見てきました。

ネタバレしてます。

 

前提として、私は映画『沈黙のパレード』の原作者である東野圭吾という作家が好きではありません。なんかもうびっくりするぐらい人の心がない。びっくりする。でも、人の心がない作品を書く作家、という意味ではめちゃくちゃ信用しています。そんな人間が映画を見た感想です。

 

galileo-movie3.jp

 

公式サイト。

あらすじとかはここで。

 

「沈黙は、連鎖する──それは罪か、愛か。」

 

……いやまあ、カッコ良くいえばそうかもしれませんが!?

 

東京のたぶん端の方にある小さな町。その町の住民みんなに愛されていた少女が失踪し、殺害される。容疑者として浮上したのは15年前にも殺人事件を起こし、完全黙秘で逃げ切った男。今回も完全黙秘で逃げ切るかと思われたが──みたいな話だと思っていたんですが。

 

もう、出てくる人間が全員気持ち悪くてびっくりしちゃった! そんなことあるのか!? ぐらいエゴイストのパレードでいやいやいやいやちょっと待ってくれ…ガリレオ映像版に触れるのは容疑者Xの献身ぶりですが、あの時もみんな気持ち悪いな! 怖い! って思ったけど、今回も「全員キモいぞ! 覚悟しろ!」みたいな感じで来られてびっくりしました。

 

「沈黙」することで皆守りたいものがある。自分自身だったり、家族だったり、対象は色々だけれど、結局のところ帰結する場所は「エゴ」でしかなくて、誰も少しも救われない。なんなら殺人を犯した人間すら、その殺人によって何を手に入れたのか、何を守れたのかといえば何も手に入れてないし何も守れてないし、そこにあるのはただ虚無だけじゃないですか。いいのかそれで。相変わらず血も涙もなくてすごい、東野圭吾。(血も涙も〜については劇中でもちょいっとコントのようなやり取りがありましたが、原作者のことじゃんそれ、って思いながら見てました)

 

そんな全員怖いぞ地獄絵図の中でひとり燦然と輝いていた善なる者、この物語の守護神であり十字架を背負ったキリストのような男、それが北村一輝さん扮する草薙さんです。私はもともと北村さんのファンではあるのですが劇場で見るのは久しぶり、50代になった北村さんは若い頃から持ち合わせていた色気と可愛らしさに渋さが加わって、繰り返しになりますが登場人物全員気持ち悪いヤバ空間にひとり健気に光を放っておられました。

 

役どころとしても『草薙』というひとりの刑事の悔恨がなければ事件自体ここまで誰も掘ろうとしなかった(特に湯川は絶対に動かなかった)と思うと、この事件・作品は草薙さんの物語であり、主人公も草薙さんで、草薙さん……草薙さんがいてくれて良かったよ、でも善なる者は常に悪意を持つ者に負け続け、いずれきっとボロボロになってすべてを失ってしまう。それでも草薙さんという人間は刑事で在ることを望む、正しく、善良で、傷付いた者を掬い上げるために手を差し伸べ続ける、その結果自分の手が汚れ壊れてしまったとしても、と思わせる、なんていうんでしょう、とにかく北村一輝さんめちゃくちゃ良かったです。

 

柴咲コウさんより北村一輝さんを美しく撮ってるな…本気だな…みたいな気持ちにもなりました。

 

その他雑惑。

 

椎名桔平さん

後半の気持ち悪いブーストが強すぎて倒れそうになりました。椎名桔平さんのこういう演技大好きなのでもっとやってほしいです。エゴの塊。エゴイスト大賞第一位。

 

岡山天音さん

めっちゃ好きな俳優さんなんですよね。今回も良かった。爽やか好青年と見せかけて、しれーっと高校生の恋人を妊娠させてるのヤバくないですか? 全部他人のせいみたいな顔してるけどきみの責任でもあんねんぞ! ラストのお墓参りのシーンで蝶々が飛んできて大団円みたいな演出にしてましたが、いやちょっと待てそれは……ってなりました。

 

・酒匂芳さん

大好き!!!!! 出てくるとわくわくする俳優さん。いっつも悪役とかクズ役とかばっかりなので(それも好きだけど)、今回の役柄最高だなって思いました。「俺には、妹なんかいない」のシーン泣けてしまった…ラストも…妹さんと姪御さんの分まで、というのは難しいかもだけど、自分の人生を生きていってほしいと思えた数少ない登場人物でした。愛しい。

 

村上淳さん

予告編だとむらじゅんがベストオブキモいみたいな感じだったのに……違った……いや気持ち悪いのは気持ち悪いんですけど、終盤の椎名桔平のヤバさに全部持っていかれちゃってどうしよう。「どうなるんでしょうね」、良かったです。

 

・女性俳優さんの見分けがつかない問題

これ……私だけかもしれないんですけど、全員メイク同じじゃなかったですか? なんで? 全然見分けがつかなくてずっと「????」ってなってました。柴咲コウさんは分かった。それと捜査チームに女性の刑事さん? 鑑識さん? がいるのめちゃ良かったです。

 

・被害者兼ヒロイン

怒られるかもしれないんですけど、新倉妻と揉めるシーンで「キッッッッッモ!!!」って思ってしまっ……て……被害者まで気持ち悪いのすごいななんか、東野圭吾……ってなりました。もうねえ誰にも同情できなかった。オープニングであんなに「みんなに愛される心優しい素敵な少女!」を押し出してたのに終着点がここかよ! 性格悪い!(褒めてます)

 

結論としては草薙さんが主人公でヒロインで唯一の光でただひとりの善なる者。でも善なる者は他人を救うことはできても自分を救うことはできない。そんな気持ちになった作品でした。