2022年12月1日(木)
主張
赤木さんの裁判
岸田首相は真相明らかにせよ
森友学園への国有地払い下げ問題で、公文書改ざんを強いられ自死に追い込まれた財務省近畿財務局職員・赤木俊夫さんの妻・雅子さんが「真実を知りたい」と当時の佐川宣寿理財局長に損害賠償を求めた訴訟で大阪地裁は先週末、雅子さんの請求を退けました。違法な作業を強要されて苦しみ命を絶った公務員の遺族の痛切な思いにこたえない冷たい判決です。雅子さんは控訴する意向です。そもそも岸田文雄政権が再調査を拒み、究明に背を向けていることが大問題です。首相は直ちに姿勢を改め、全てを明らかにすべきです。
佐川氏の尋問も行われず
雅子さんは2020年、真相究明のため、国と佐川氏を提訴しました。国は21年末、それまでの争う姿勢を一転させて賠償を受け入れる「認諾」を一方的に表明し、裁判を終了させました。審理が進むことを妨げ、解明の道を閉ざす卑劣な幕引きでした。雅子さんが求めていた佐川氏らの証人尋問は行われず、当事者本人の口から改ざんの動機や経緯は一切語られていません。
国有地が鑑定価格から約9割も値引きされ森友学園に売却された疑惑は17年2月に発覚しました。安倍晋三首相(当時)は、同学園が開設予定の小学校の名誉校長に妻・昭恵氏が就いていたことなどを国会で追及され、「私や妻が関係していたら、首相も国会議員も辞める」と答弁しました。この答弁の後、交渉経過などを記録した文書の改ざんが行われ、昭恵氏や政治家の名前が削除されました。
18年に公表された財務省の内部調査の報告書では、佐川氏が「改ざんの方向性を決定づけた」と認めました。しかし、誰がどのように改ざんを指示したのかなど具体的な中身は書かれていません。
雅子さんが裁判の中で要求し、国がようやく開示した「赤木ファイル」には、佐川氏から国会答弁を踏まえて文書を修正するよう「直接指示」があったと記された本省からのメールが含まれていました。しかし、「赤木ファイル」では黒塗りされた個人名が多く、組織的な指揮系統などは闇に包まれたままとなっています。
雅子さんは昨年10月、首相就任直後の岸田氏に、第三者による再調査を行うことを求める直筆の手紙を送りました。岸田首相も手紙は読んだと国会で答弁しましたが、財務省がすでに説明しているなどと主張して調査に応じませんでした。今回の判決についても「コメントを控える」と人ごとの姿勢に終始し、全く誠意がありません。岸田首相の「国民の声に耳を傾ける」との言葉はあまりに空疎です。首相に説明責任を果たさせることが重要になっています。
「負の遺産」一掃こそ
国民の財産である国有地が不当な安値で売却されたり、その経過が隠ぺいされたりすることは許されません。国民共有の知的財産である公文書の改ざんは、民主主義の根幹を揺るがす重大問題です。国会で虚偽答弁が繰り返されたことは、行政監視機能を大きく損ないました。国会として岸田政権に説明させることが不可欠です。
森友学園疑惑は、加計学園疑惑、「桜を見る会」疑惑とともに、国政私物化とモラル崩壊を引き起こした安倍政権の「負の遺産」の象徴です。解明をこのまま終わらせることはできません。