言葉に出来ない
けむり事件からちょっと後の話。
陣川さんがちょっとだけ出てきます。
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お久しぶりです!
私的理由でTwitter等活動を休止してました...すみません。
誰も気にして等いなかったでしょうが、一応ご報告。笑
話のストックやネタは色々あるんですが、中々編集しきれません。
バタバタしているうちに公式が終わってしまいましたが、次シリーズが始まるまで絶やさず小説は書こうと思っています!
冠青熱は冷め止みません。
さて、今回は短編ですが中編・長編を思案中です。
更新はだいぶ遅くなりそうですが、気長に待って頂けたら幸いです。
お気軽に意見、ご感想、リクエストお待ちしております!
今回もお粗末様でした。
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青木年男には変わった癖があった。
本人がどこまで自覚してるかどうかはさておき、恋人である冠城亘はそれをどう指摘するか苦慮していた。
情事をした明朝、一人起きた冠城は鏡に映る自分の姿を見て、愛し合った勲章というには悩ましい痕をまじまじと眺める。
「今回は酷いな...」
苦笑しながらひとつひとつなぞりながら痕の濃さを確認する。
襟や袖から隠れない物はないか、出血しているところはないか。
薄いものばかりではあるが、時折しっかりと残る歯列。
そう。青木は人一倍噛み癖が酷かった。
「言葉に出来ない」
初めて青木の癖を認知したのは、食事をした時飲んでいたソフトドリンクのストローだった。
最初は執拗に噛まれたプラスチックの尖端を見て、余程ストレスが溜まっているのかと不憫に思う程度で、然程気にはならなかった。
しかし初めて青木と口付けをした時、事は起こった。
昂る感情と共に段々と深くなる口付け。角度を変え吸い付いて絡めていると、ガチッと青木に舌を噛まれたのだ。
「ん!」
思わず呻き声を上げ口を抑えると、本人も察したのか
「わ、すみません!」
と慌てふためいた。
「いや、大丈夫」
強がってみたものの、ズキズキと痛みが走る。
青木は困った顔で冠城を覗いていた。
その顔の愛らしさから噛まれた衝撃はすぐ吹き飛び、青木に飛びついたのだったのだが。
今思えば初めての情交はキスの失態から青木も気を配っていたのかもしれない。これでもかという程緊張も伝わってきていたし、身体も強張っていた。
しかし回数を重ねていく度にその片鱗を見せ、噛む行為は段々とエスカレートしていった。
最初は愛撫する延長上で甘噛みされることが多かったが、それが次第に痛みが走る程に、脇腹、背中、太もも、どこでも構わず噛んでくる。
特に絶頂前ほど乱れ、抱きつく肩や首筋に歯を立てることが多い。すがるものが無くてわざわざ冠城の腕を引き寄せ噛む事もある。
そんな青木が可愛いくて仕方ないし、嫌な気は一切無かったのだが、流石に首筋は目立つので対策しないと、と思い始めていた今日この頃。
半袖のインナーを身につけ青木の眠るベッドへ戻る。
青木の付けた歯形をダイレクトに本人に見せない様配慮する為だ。
「冠城さん...?」
まだ眠気眼の青木が、ベッドを抜けていた冠城の袖を掴む。
「おはよう。もう起きる?」
「ん...もうちょっと」
冠城さんもここにいて、とでも言うようかの様に掴んだ袖を離さない。
すぐに規則正しい寝息が聞こえ、呼吸ですら愛おしいと思う。先程の悩みがどうでもよくなるのだから自分も相当重症だ。
*
「おはようございます!あれ?杉下さんは?」
「あ、陣川さん」
特命係に現れた声の主に冠城は目を向けた。
けむりの事件で長期の有給を取っていた陣川は、ここ最近そのシワ寄せで忙しい毎日を過ごしていたらしい。会うのは久しぶりだった。
「右京さん今日、非番ですよ」
「えぇ!!やっと時間が取れたから改めてお礼に来たのに...」
「いつでも会えますよ」
「仕方ないですね。では、杉下さんはいませんが、先輩!けむりの事件ではどうもお世話になりました」
深々と頭を下げられ、律儀な人だと微笑する。
陣川らしいっちゃ、陣川らしい。
「確かに、酔っ払った陣川さんのお世話大変でした。もう二度とご免です」
「そっちじゃないですよ先輩!
そんなこと言わずにまた飲みにいってくだいね!」
相変わらず犬の様に尻尾を振り愛想を振り撒く陣川は、一人静かだった特命の部屋を一気に明るくさせたのだった。
「げっ」
そこにタイミングが良いのか悪いのか現れた青木は陣川の存在を確認し、回れ右をした。
すかさず陣川が肩を掴み呼び止める。
「青木〜!ゴミ収集所以来だなぁ!」
絡まれたくなかったのに陣川の標的にされた青木は掴まれた手を振り払おうとする、が虚しくガッチリとホールドされた。
「元気にしてるか〜?」
「陣川さんほどじゃありませんが」
「そりゃ良かった!」
「いちいちくっ付かないでくださいよ!」
「お?お?なんだ?反抗期かぁ?」
と、陣川は青木を壁へと追い込んでいき、腕を首に絡めていく。そんな二人をハラハラしつつも止めはしないのは、陣川にとって青木が恋愛対象でないことを十分承知しているからだ。
恋人が目の前でもみくちゃにされて、本気で嫌がっている様は新鮮でもある。
「近いんです!もう!」
「本当素直じゃないなぁ〜」
するとべったりだった陣川が急にパッと手を上げて、青木を離した。
( ーーえ? )
「だいたいですね!陣川さんは、」
「喧嘩なら受けてたつぞ、はは!」
何事もなかった様に二人は距離を保ちつつ言い合いを繰り広げている。
しかし冠城の頭には焼き付いて離れない。
一瞬だったが、冠城には確かに見えた。
抱きつく様に絡む陣川の手を青木が噛みつく様に威嚇したのを。
陣川がすぐに手を引っ込めたので、実際は噛んでいなかったが、まるで子犬の様に歯を立てていた。
青木は乱れたジャケットを直し陣川を睨んでいた。
「じゃ、僕戻るんで」
「あれ?お前何しにきたの?」
「冠城さんに用があったんですけど、電話で伝えます!」
青木は強い口調を放ち特命を去っていく。
不機嫌なのをあからさまに全面に出して。
冠城はそんな青木を目で見送りつつ
「電話で済むならわざわざ来なくてもよかったのに」
と、言い放った。まぁわざわざ会いに来てくれたことが嬉しいのも事実だが。
しかし内心それどころではなかった。
冠城は恐る恐る陣川に先程の出来事を尋ねる。
「青木のやつ、陣川さんのこと噛もうとしてませんでした...?」
「あぁ。あれ、いつものことでしょ?」
「え!?いつもなんですか!?」
「まぁ実際に噛まれたことないけど、いつもああやって抵抗してくるよ。動物かってな!」
「あいつ、ちゃんと躾とかとかないと...」
「僕の予想ですけど、青木ってお酒入るとキス魔になっちゃうみたいなタイプですよね。感情が高まるとガブってしちゃうみたいな?」
「それは、、、」
「まぁさっきのは単純に僕の絡み方が嫌だっただけかもしれませんけど!」
ははは、と腕を組んで楽観的に笑う陣川を見ながら冠城は心にモヤモヤした感情が渦巻いていた。
確かに青木が歯を立てる時は感情が昂っているときだ。
それと同時に冠城自身が激しく求めている時が多い。
特に間が空いて久しぶりの時や、青木が可愛くて堪らないといった感情がピークに達して冠城が激しく求めるとき、それに呼応する様に青木は噛んでくる。
お互いアドレナリンが出まくっているので、冠城も噛まれたことに気づかない事もある。終わって鏡の前で相当の数が身体に残っていて驚く事が多々あった。
そして今回の陣川に対する態度。
それらの背景を俯瞰して考えたとき、ある一つの疑念が過ぎる。
(もしかして嫌なのか...?)
青木があまり性に対する経験がないのは分かっていたし、全てを曝け出すことに初めは抵抗していた。
冠城がなんとか溶かして溶かしてセックスが出来る様になった。
今思えば付き合うことになったのも半ば冠城が強引に返事を貰ったようなものだ。
青木自身から好かれていると思う態度は一切受けたことないし、会いたいというのもキスをするのも全て冠城からだ。
勿論好きだの、愛しているだのそういった類のことも言われた事はない。
青木を疑っているわけではないが、流されて断るタイミングをただ失っているだけで、もし自分との行為を無理しているのであれば放ってはいられない。
もし青木の反発の感情を上手く表現出来ず、無意識に噛んでいるのであれば、いつかこの関係も崩壊してしまうだろう。
その前に青木の気持ちを確認しておかないと。