1 女神の託宣
魔王が現れた。
なので、俺は旅立つことになった。
8歳のときにお師匠様にひきとられてから、はや十年。
ようやく山奥の修行ライフから、解放されるのだ。
今日で見習いは卒業。オレは、百一代目の勇者様だ!
お師匠様であるシエルに憑依した女神様のお告げによれば、百一代目魔王は『タカダ アキヒロ』。異世界人だそうだ。
異世界からきた魔王というのは、案外多い。
アキヒロとやらで、80人目ぐらいだったはずだ。
生まれ育った世界で不幸だった者が心の闇に囚われ、この世界に落ちて来るらしい。非常に迷惑な話だ。
『彼女いない歴=年齢的なやつ。一方的にリアカノ認定してた子からガチ無理されて、魔王パワーに目覚めちゃった。男を皆殺しにして、奴隷ハーレムをつくりたいみたいなの』
お師匠様に取り憑いた女神が、異世界の言葉を交えながら話す。
なんつーか……変な敵だ。
歴代勇者が残してきた『勇者の書』を読んでるから、これまでどんな魔王が居たのかも知っている。しかし今回の魔王は、悪い意味だが色々個性的な魔王のようだ。
魔王同様勇者も異世界人が多く、かれこれ七十人を超えている。
『勇者の書』とは、勇者の日記帳だ。勇者の生きざまの他に、出身世界の情報や魔王のことなんかも書き記されている。
勇者の数だけ『勇者の書』はある。
オレは勇者見習いだったんで、百冊ぜんぶに目を通してきた。歴史に加えて、異世界通でもある。
『魔王と勇者の決戦は伝統通り、変更無し。 ロラン君、それはわかるよね?』
お師匠様に降りている女神様に、俺はうなずく。
その一。
勇者となる予定の人間(女でも男でもいい)が十五才を過ぎてから老衰で死ぬまでの間に、世界に魔王が現れる。
その二。
魔王は出現と同時に百日の眠りにつく。魔王としての力を溜める為と言われていて、眠っている間は完全無敵だそうだ。
だから目覚める日、つまり百日目が決戦日となる。
その日を逃すと、世界は魔王のものになってしまうらしい。
まあこれまでの魔王はぜんぶ百日目に倒されてるんだけどね。
その三。
倒すと、ご褒美がもらえるらしい。望みを何でもかなえてもらえるようだ。
それからよその世界に転移するか、不老不死の賢者となってこの世界に留まるかを決める。
不老不死といえば聞こえはいいが、賢者は唯一無二の職業。不老不死ったって期間限定の能力だ。次の勇者が賢者を希望したら、前の賢者はただの人間に戻る。
オレのお師匠様は、九十六代目勇者だった。賢者になった当時のまま、若く美しい。
『それじゃあ、勇者の使命を伝えるわね。いい?』
魔王が寝てる百日の間に、勇者は『勇者の使命』を果たす。
女神様から魔王を倒す方法を教わり、準備しておくのだ。
その通りに戦わないと、魔王は倒せないらしい。まあ女神様がそう言ってるだけだが。
『ロラン君、君は12の世界を旅して、100人のヒロインを仲間にするの。でもジョブ被りはだめよ』
「ジョブ被りってなんですか?」
『例えるなら一度戦士を仲間にしたら、戦士の仲間はもう作れないってこと』
「それきつくないですか?」
『まあ狂戦士とか魔法戦士とかいろいろあるから大丈夫じゃない? あともう一つ条件があって、愛しき伴侶じゃないとだめ』
「愛しき伴侶……」
『オレの嫁たんマジ天使! って悶えられる相手じゃないとだめってことよ。そして100人の伴侶に一回づつ攻撃してもらって、魔王倒すってこと。ロラン君も攻撃できるから、101回も攻撃できるわ。魔王のHPは、従来通り1億ね。100人も居るんだもん、楽勝よね?』
「いやいやいや、無理だから!」
俺は思わず叫んだ。
勇者として育てられた俺の目は、『仲間や敵の、攻撃値と残りHPを見る』能力を持つ。
だから知っている。魔王戦を想定した、魔法木偶人形に対して出した俺のダメージを。
「おれ、クリティカル出てもせいぜい6000ダメなんですけど……」
『大丈夫、女の子たちに100万ダメ出せばいいだけの話。いろんな魔法や技術もあるから。攻撃力とかクリティカル率上げたり、魔王の防御力下げたりすればいいのよ。伝説の武器もってる子いるかもだし、異世界の女神様とかゲットしちゃえば1億なんて軽い軽い。肝心なのは、キミの萌え。ジョブが被らなきゃ強制的に伴侶枠入りだもん。百人なんて、すぐなっちゃう』
相手の意志は、ガン無視なのか。
オレが萌えりゃ、伴侶にできるってことは……
オレの事を何とも思ってない相手でも、めちゃくちゃ嫌っている子でも、伴侶にできちゃうわけで……
それなら……何とかなるか……?
百日で百人、集められるかも……?
『いざとなったら、究極魔法つかえばいいし。大丈夫よ、ロラン君』
「究極魔法……?」
『勇者だけが使える魔法よ。4999万9999の固定ダメなの』
すげえ大技じゃないか!? さすが勇者だ!
『今まで何人も、これ使って勝ってるの。単純な呪文よ、誰でも覚えられるわ。でも、いま唱えちゃダメよ。発動しちゃうから』
「どんな呪文ですか?」
『さらば、愛しき世界よ! さらば、愛しき世界よ! 大事なことだから二回言ったわ』
「それって……自爆魔法?」
『うん。火の玉になって魔王に突っ込んで、ドカーンって感じ』
女神様はニコニコ笑っている。
『大丈夫。優秀な女の子を100人仲間にすれば、そんな究極魔法を使わなくても勝てるから。それに君が魔王に負けちゃえば、この世界もキミも滅びるんだし。それに君が唱え損ねても、シエルちゃんが『この世界の礎となってくれ、勇者よ!』って言ったら、キミはドカーン。すぐ終わるから、君は痛みを感じる暇はないわ』
全然大丈夫じゃないお言葉を残し、女神様は天界に戻って行った。
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