春秋
仕事が同じなら、同じ賃金を払う。という「同一労働同一賃金」の考え方には、じつは歴史がある。1955年に日経連(現経団連)が著した「職務給の研究」に同じ言葉が見える。賃金は「同一労働、同一賃金の原則によって貫かるべきものである」と明記している。
▼当時日経連は、年齢や生活費で給料が決まるのは不合理だと主張した。景気の波が激しく、人件費の膨張を抑えたい思いがあった。着目したのが賃金を仕事の内容の対価と考える職務給だ。結局、配置転換をするたびに賃金が変わるのは不便とされ、職務給は広がらなかったが、もとの問題意識には理解できる点があった。
▼安倍政権が同一労働同一賃金の実現に向けた議論を始めた。ただ眼目は、仕事があまり変わらないのにパートと正社員で賃金に開きがあるなど、非正規社員と正社員の待遇格差を改めることにある。もちろん重要テーマだが、正社員の間に職務に応じて賃金を決める仕組みを広げることも課題だろう。古くて新しい論点だ。
▼職務給に背を向けた企業には長く勤めるほど賃金が上がる年功制が普及した。社員の会社への帰属意識を強めた一方、ぬるま湯体質を生んだとの批判がある。今も年功制は根強く残る。「職務給の研究」は、賃金制度は生産性向上を促すものであるべきだと説く。賃金をめぐる議論の肝は、60年余り前に既に示されている。