――世界観は固まったものの、ゲーム部分についての構想は、まだなかったんですね?

安藤なかったです。なんでもアリかなと思ってました。アクションもできるかもしれないし。 RPGもありかもしれない。でもRPG は『幻影異聞録#FE』を作り終えたばかりだし、しばらくはいいかなーと(笑)。それに、大人から小さいお子さんまで誰にも遊んでもらえるものにするなら、RPGではないほうがいいかなと。

山上僕は、話がしっかりしているのでアドベンチャーもおもしろそうだな、と思っていました。

――そこから、どうやって構想を固めていったのでしょう?

山上ここからいろいろな開発会社さんに、「こういうテーマがあるんですが、これをゲームにしていきませんか?」とお話をしていきました。そこでいろいろご提案をいただいて、アクションシューティングを考えてくれた会社さんもあったりしたのですが……でも、ちょっと違うかなと。そうやって4社目に訪れたのが、本作の開発を担当してくれることになるインディーズゼロさんだったんです。

――インディーズゼロさんは、最初からいまの形を上げてきたのでしょうか?

山上いえ、違います。ただ、インディーズゼロさんが、初めてパズルゲームというアイデアを提案してくれたんです。なるほど、確かに『パネルでポン』でも、パズルとパズルのあいだにちょっとしたお話を挿入していましたし、小話部分をちゃんとした物語にして、要はRPGのバトルがパズルだと思えば、スケールの大きなシナリオも成り立つな、と。ただ、提案していただいたパズルは、いまのものとは違うものでした。

任天堂から生まれた『超回転 寿司ストライカー』なぜこんなゲームができちゃった!?_03
インディーズゼロから提案されたアクションパズルの企画書。皿を敵にぶつけるというアイデアはこの時点で生まれているが、全体的には完成形の『寿司ストライカー』とは別物だ。

――企画書を拝見すると、皿を投げるというアイデアは、この時点で生まれているんですね。

山上回転寿司のレーンに流れて来る寿司の中から同じ寿司を見つけてシュートするというパズルでした。実質的にはアクションゲームですよね。もう少しパズル寄りにできればと感じてはいたものの、ここからどう発展させるかも思いつけなくて、一瞬どうしようかと思ったのですが……、このとき僕が“回転寿司のレーンでパズルをする”視点にビビッと来て。昔『パネルでポン』のシステムを思いついたときと似たような感覚(※)で、二十何年ぶりかで閃いたんです(笑)。

※編集部注:山上氏が、当時の上司である故・横井軍平氏に15パズルのルールを説明されていたときのこと。ホワイトボードに描かれた16マスの絵を見て、パネルが回転して落ちていくイメージを思いつき、そこから名作パズルゲーム『パネルでポン』が生まれた。

――おお!

山上そして、興奮気味にパズルの絵を紙に書きながら「要はな、複線なんだよ、複線!」、「複数の寿司レーンがあったらパズルゲームができるじゃないか。2本だと足りないから3本用意するんだよ」、「寿司レーンが交互に動いてる時にお皿をつないだら、ほらパズルゲームができるじゃないか!」と、テンション高めに語ったんですが、その場にいたスタッフ全員がポカーンって(笑)。

安藤は、はぁ……そうなんですか? という感じでした(笑)。

山上そんな状態でも安藤がなんとなく、「それなら敵とお寿司の取り合いがしたい」と言ったので、真ん中に共通レーンを置いて、敵と味方がどっちからでも取れる取り合い要素も入れようとなりました。そのときにはみんな、全体像がわからないなりに、「山上さんがここまで言うならばパズルとしてできているだろうから、とりあえず作ってみよう」と思ってくれたみたいです(笑)。

任天堂から生まれた『超回転 寿司ストライカー』なぜこんなゲームができちゃった!?_13

安藤ただそこで、山上が『パネルでポン』のシビアなタイミングを愛していることをすごく知っていたので、「私はあんな本格的なパズルゲームはできない。そうじゃなくて、ちょっと工夫したら勝ちにつながるような要素が、ちゃんと自分で考えられるようにしたい」と言いました。

――難しいパズルにしたくはなかった、と?

安藤はい、自分がそこまでパズルゲームが得意ではないので(笑)。でも、自分なりに考えた挙句に猛者を倒したときの楽しい気持ちっていうのも、もちろんわかるんですけどね。

山上とにかく安藤に言われたのが、「山上さんに任せて難しい本格パズルゲームになるのがイヤだ」、「私はお話を進めることをちゃんと大切にしたい」と。

――安藤さんが、パズルの匠としての山上さんの手腕をよくご存じだからこそ、逆に心配されたんですね(笑)。

山上でも、パズルって、難しくするほうがたいへんで、やさしくするのは簡単なんですよ。だから安藤には、心配するな、と納得させて(笑)。世界観とパズルの仕様を全部まとめた企画書をインディーズゼロさんに作ってもらいました。そして、満を持してそれを僕の上役に持って行ったら……なんて言ったと思います?

――うーん……よくわからないな、とか?

山上「山上が持ってきた企画でいちばんおもしろそうや」って。 え、いままであんなに企画書を出してきたのに、それらはおもしろくなかったと思ってたの!? と(笑)。

――なんと! いままであれだけのヒット作品を手掛けているのに!?

山上いえいえ、そんなことはないですけど。まぁ、でも褒めてくれたし、じゃあこれで行こうね、って試作を作ることになりました。

――ということは、企画段階での社内の評判は、「なんじゃコレ?」というのではなくて、すでに好感触だったんですね。

山上“寿司を食べる”といういままでにない題材で、お話もしっかりしている。そして何より寿司レーンを使ったパズルゲームという、作品の“世界観”と“遊び”がちゃんとつながっている。すでにゲームの完成形が見えていましたから、僕はこれを反対されることはないだろうと思っていました。

安藤やっぱり、お寿司はエンターテインメントなんで!

山上そのキャッチフレーズは、最初の企画書からずっと書いてたよね(笑)。

――安藤さんにとって、そこを表現するのがいちばん大事だったんですね。

安藤そうですね。お寿司の話をしていたら、たいていみんなうれしい気持ちになるので。その「お寿司はエンターテインメントだ」という気持ちが、ゲームで作業に変わってしまうのが嫌だったんです。そこはスタッフ全員がすごく敏感になっていたときがありました。

山上寿司を何らかの形でゲームにするにあたって、寿司をいじること自体が、このゲームの中の一部として楽しくなければだめだね、と。そこには本当にこだわりましたね。

任天堂から生まれた『超回転 寿司ストライカー』なぜこんなゲームができちゃった!?_02