ポリーンの秘話から『ゼルダの伝説 BotW』との共通点まで

『スーパーマリオ オデッセイ』小泉Pに訊く、心に刺さる驚きを目指した“箱庭マリオ”の革新と、名作が続く任天堂開発の秘訣_34

――近年の“3Dマリオ”のストーリーは、イラストだけで説明しているユニバーサルデザインのものが多かったですが、今回はクッパが本気で結婚式を挙げようとしていたり、セリフやイベントシーンも豊富に入っていたりと、ストーリー面を非常に強化している印象があります。

小泉 驚きをテーマにしているので、そのテーマを実現するのに、お客さんにプレイしていただくためのモチベーションになるものを強めに設定したいと思っていました。その中で、開発スタッフのほうから、クッパとピーチ姫の結婚式というテーマが出てきたんですが、さすがに結婚式まで行くと、何度もピーチ姫を救っている方々にとっても放っておけないはずだと(笑)。そう思えるいい踏み込みでしたので、お客さんに気持ちを高ぶってもらえるような驚きに仕上げるために、適切に言葉で説明するためのストーリー演出を入れることにしました。

――各国で出てくるウサギのブルーダルズが、中ボスのような存在だと思うのですが、彼らはウェディングプランナーなんですね。

小泉 ブルーダルズは、いい結婚式を作り上げるお仕事をしているので、クライアントであるクッパさんの結婚式を成功させるべく、さまざまなトラブルを解決する役割になっています(笑)。

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――じゃあ、結婚式を阻止しようとするマリオは、完全に邪魔者ですね。

小泉 ブルーダルズからしたら、結婚式を止めようとする人ですから、それは敵対しますよね。だから、そんなに悪い人たちじゃないんです。

――なるほど(笑)。ブルーダルズがうさぎで、集めるものがパワームーンとなっていますが、これは『スーパーマリオ64』のスター、『スーパーマリオサンシャイン』のシャインからの流れでしょうか?

小泉 そうですね。スターとは別のものにしようという話もしていましたが、最終的にはゲーム中のさまざまな要素が絡み合い、パワームーンが最適となりました。

――今回、都市の国でシリーズ初のボーカル曲が入りましたが、これも“驚き”というテーマの一環でしょうか?

小泉 そうですね。マリオは、任天堂の大事なキャラクターですし、多くの方に知っていただいていると思いますが、当然ながらすべての方がマリオを知っているというわけではなくて。ゲームは遊んだことがないけれど、マリオという名前や姿だけ知っているという方などもいらっしゃると思うんです。これからゲームに触れる方も含めて、そういったマリオを知らない方たちにゲーム以外の方法で振り向いていただけるものを考える中で、多くの方が驚き、心に刺さる要素のひとつとして、耳に刺さるものを作ろうと思って、今回の歌を作ったんです。『Jump Up, Super Star!』という曲名なんですが、マリオの飛び跳ねるテンポ感を表現している曲を作ろうと、ジャズ調のカッコいい曲に仕上がりました。

――歌の中に“ジャンプ”や“コイン”といった、マリオらしい詞が出てきますね。作詞、作曲はどなたが?

小泉 作曲の担当は、今回コンポーザーを務める久保直人です。作詞の担当は、サウンドデザイナーの鈴木伸嘉で、まず日本語で原案を考えてくれました。“1up”という言葉を歌詞に本当に入れていいのか、といった会話が行われていましたね(笑)。その原案をベースにいろいろな人たちと議論して、整理していったものをまとめて、さらに、Nintendo of Americaのローカライズメンバーから「アメリカではこういった言葉を選んだほうがみんなの心に刺さるよ」と指摘をもらったりして、完成させました。

――都市の国で『Jump Up, Super Star!』を歌っているのはポリーン(初代『ドンキーコング』で“レディ”として登場したヒロイン。のちにポリーンという名称がついた)ですが、彼女や、都市の国にモチーフとして『ドンキーコング』が入っていることに驚きました。これは、どういった経緯で入れたのでしょうか?

小泉 ポリーンや『ドンキーコング』ありきで作ったわけではなく、都市を舞台にしたレベルデザインをしたいという想いが最初です。現実世界の中で、「あのビルとビルのあいだを壁ジャンプしたい」と思ったりするときがありますよね。そういった街を舞台にしたアクションを考えるために、摩天楼のようなビル群を作るといったレベルデザインをしていました。そして構築していった摩天楼の世界が、ニューヨークに似ていたんですね。ニューヨークと言えば、「マリオの初舞台でもある『ドンキーコング』だよね」というつながりでイメージが連想されて、「それならポリーンもいるんじゃない?」という流れで彼女を登場させ、市長という役割をつけていったわけです。

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――予想以上に『ドンキーコング』のオマージュが入っていて驚きました。任天堂タイトルで、過去のタイトルをここまでフィーチャーをするのは珍しいですよね?

小泉 そうですか?(笑)。以前から従来の音楽やドット絵を使うことはあったんですが、最近はとくに現場のスタッフに『スーパーマリオ』で育った世代が入ってきているので、音楽に『スーパーマリオブラザーズ3』の曲を使ったりと、そういった遊びが増えてきているのかもしれませんね。あまりにそれが多いのは問題かもしれませんが、今回は相性がよかったということもあって、スッキリとまとめられました。

――このオマージュは、『ドンキーコング』を作った宮本茂さんにもお見せしたんですか?

小泉 はい。特別な反応はなかったですね。でも、そういうときって、だいたい喜んでいるんですよ。

――そういうものなんですか?(笑)

小泉 難しいでしょ?(笑)。20年以上いっしょに仕事していると、「これは大丈夫だな」とわかるんです。『ドンキーコング』を扱うということは、宮本も気にしていましたが、とくに違和感がなかったのでそのまま進められたんだと思います。

――今回、マリオの衣装がいろいろとありますが、その衣装もいろいろなタイトルで披露してきたマリオの姿になっていたりしますよね。先ほどのお話にもありましたが、やはり当時ユーザーだった人が開発スタッフに入ってきた影響はあるのでしょうか?

小泉 そういった衣装を入れる必然性がないとダメなので、国と連動する衣装にはしていますが、そういう格好をさせたいという思いがあるということは、それだけスタッフの心に刺さっていると思うんです。自分が遊んだ『マリオ』シリーズのゲームの格好を形にしたいという、スタッフの情熱が出ているのは間違いないので、それはやはりユーザーだった世代が入ってきた影響でしょうね。

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――では、さまざまな年代のスタッフがいるんでしょうか?

小泉 ベテランから若いスタッフまで、今回は幅広かったですね。若いスタッフだと、初めて遊んだゲームが『スーパーマリオ64』だったりして、上のスタッフがショックを受けたりしていました(笑)。それぞれの世代で心に刺さった『マリオ』が異なるので、『スーパーマリオ オデッセイ』にはそれをうまく盛り込めたんじゃないかなと思っています。

――世代交代などは意識的に行っているんですか?

小泉 特別そういった意識はしていませんでしたね。突然行うことはなくて、10年くらいかけて、みんなにいろいろな役割を担当してもらって、それぞれに「『スーパーマリオ』とはこういうものだ」というのを自分で吸収してもらいながら、ディレクションしてもらったり、各パートでのリーダーシップを発揮してもらったりする機会を作っています。

――『スーパーマリオ オデッセイ』のような規模のタイトルになると、若手のアイデアもベテランの手腕も必要になると思います。以前、ニンテンドースイッチ本体のインタビューのときに、若手の意見を積極的に取り入れるようにしたというお話がありましたが(インタビュー記事は→コチラ)、今回もそういったものがあったのでしょうか?

小泉 いまの若い人たちがゲームをどう思っているのだろうかということは、常日頃から気にしています。ゲームだけでなく、どういう娯楽や刺激に触れているのかが相対的にゲームにも影響しますし。とくに『スーパーマリオ』シリーズは多くの人に遊んでもらいたいという気持ちがあるので、いまの人たちの、いまのゲームの触れかたに合った内容に変えていくということは意識的にしています。今回ゲームオーバーでコインが減るというアイデアや“おたすけモード”を入れたりといった要素もそうですし、いろいろな人に楽しんでもらえる要素を散りばめてモチベーションを切らさずにご褒美を受けられるようにするといったことも、これまでの『スーパーマリオ』だったら様式美として決めていたことをあえて崩してでも、変える必要がありました。とくに今回は、携帯もできるニンテンドースイッチというハードでもありますから、ちょっとした時間でも遊べるゲームになっていないといけないということで、ちょっとだけでも、すぐ遊べるようなテンポ感を気にして作っています。若い人たちはそういうことに慣れているので、若いスタッフが楽しめるようにするのも大事ですね。

――ここは変えない、という部分もありますよね?

小泉 基本的なメインストーリーの構造は変えていなくて、最終的には一本でつながるようなデザインになっています。ただ、たくさん寄り道を作っているので、あまりそれが強調されていなくて。また、ちょっとした寄り道でもすごいものが手に入ったりするというのは、これまでになかった変えた部分ですね。

――確かに実際にゲームを遊んでいると、いろいろと寄り道をしたくなるようになっていましたが、こういったレベルデザインはどのように構築されたのでしょうか?

小泉 試作をしてモニターを取って……のくり返しですね。『スーパーマリオ オデッセイ』に限らず、10年近く前からいろいろなシリーズで同様のことをしていますが、一度じゃ正解は見つからない。プランナーが意図したものとは違う方法でクリアーされてしまうこともありますし、でも、それを修正するのではなく、むしろ参考にしながら、おもしろさを第一に柔軟に作っていきました。

――小泉さんは試作品をプレイする中でいろいろと意見を出されたりしたんですか?

小泉 僕は、細かいことを言うので逆に言わないようにしていました(笑)。うちには同じように細かいことを言う人が、もうひとりいますし。

――それは、やはり宮本茂さんでしょうか……?

小泉 はい(笑)。宮本は、「幅跳びの飛びかたはこうじゃない」とか言うんですよ(笑)。マリオのアクションを作ってきた本人なんで手応えをいまで覚えていて、「ちょっと違う」とか「いまの人はこれがいいならこれにしよう」とか、まだあと10年は言うんじゃないかな。

――歴代のディレクターの方々がいろいろなこだわりを。

小泉 いまの開発スタッフはたいへんだと思いますよ。うるさい上司がいっぱいいて。

――(笑)。寄り道したくなるゲームデザインとしては、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』も同じように寄り道したくなる作りになっていましたが、ノウハウを共有するといったことはありましたか?

小泉 どちらのソフトも、僕が担当部長なので開発を見ていますが、特別な交流をしたことはありません。僕の視点からの意見ですが、どちらもニンテンドウ 64時代に3Dのゲームを出していますが、あれから20年くらい、3Dの空間の中でどんなことをしたらおもしろいのかをずっと研究してきたチームでもあるんです。特別な交流はなくとも、それぞれのチームが、それぞれの主体となるプレイヤーのイメージを追い求めていった結果、行き着いたところが近かったんじゃないかなと。

――時代背景などはあると思いますが、近いタイミングで同じような革新が行われているというのは、おもしろいですね。

小泉 おそらくそういうものに気づくためにいろいろなトライがあったと思うんですが、これが似たタイミングで出たのは、ニンテンドースイッチというハードが要因のひとつになっているのかもしれません。開発者がトライしてきたものを表現できるハードになっているということもあるでしょうし、そもそも、どちらのチームにも「ちょっと遊んですぐやめられるようにしてほしい」と伝えていましたので。

――なるほど。今回の箱庭が表現できたのも、やはりニンテンドースイッチの性能面の影響があるのでしょうか?

小泉 ある程度広くないと歩き回りたいと思えないですし、広いとさまざまなものを密度濃く置こうとしたときに性能が必要になってしまうので、やはり性能の影響はあると思います。また今回は、3Dの空間を表現するためのプログラムが進化していて、広くても密度の濃いネタをちゃんと設定できたことも大きかったですね。

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――箱庭タイプのゲームとして15年の空白があったのは、それだけハードスペックが向上するまで寝かせていた側面もありますか?

小泉 15年ぶりになった理由はいくつかあります。ひとつは、お客さんが遊びやすい『スーパーマリオ』を作ろうという“共感”のテーマがあって、たとえば『スーパーマリオ 3Dランド』や『スーパーマリオ 3Dワールド』でゴールポールを復活させたりと、誰でも満足できるような内容を追い求めている期間がありました。また、3Dの空間を広く使った遊びを作っていた当時の宿題でもある、カメラの操作などの解決がまだ終わっていなかったということも理由のひとつですね。15年ぶりに箱庭に踏み切った経緯としては、ハード性能もありますし、多くの方がカメラを回す操作に慣れたことや、カメラのプログラムの向上といった背景があって、いまならできるんじゃないかと取り組んでみました。