●おふたりのオススメソフト。そして、今後の戦略は?

――今回、Nintendo Switchを立ち上げるにあたって、社内の組織などに変更はあったのでしょうか?
高橋 一昨年の秋に社内の組織変更はあったのですが、Nintendo Switchの開発とは直接は関係ないですね。宮本が本部長を務めていた情報開発本部と、以前岩田前社長が見ていて、その後私が引き継いだ企画開発本部というふたつのソフト開発系部署が、企画制作本部というひとつの部署にまとまったんですよ。また、ハード系、システム系の開発をしていた本部も、技術開発本部という部署でひとつになって、技術共有や人の割り振りをしやすくするための環境を整えていたので、Nintendo Switchにもいい影響は出ていると思いますが、Nintendo Switchのためというわけではありません。
小泉 そもそも、Nintendo Switchのプロジェクトが、部署を横断したプロジェクトですので。ソフト開発側からもハード開発側からも、Nintendo Switchという新ハードを作るという命題のために、とくに若いスタッフに集まってもらいました。僕と河本はソフト開発者ですので、ハードやシステム開発の若い専門家たちに助けてもらいつつ、ソフト開発者たちの意見を聞きながらNintendo Switchをまとめていきました。みんなが一丸となってひとつのハードを作れる体制になっています。
――そこに若手の方を多く入れられた意図というのは?
高橋 若返りもありますが、若い人の意見をしっかり採り入れるためですね。
小泉 ひとつのチャンスでもありますから。プラットフォームを立ち上げるというのはすごく大きな仕事ですので、そこでどういう役割を担えるのかというのは若い人たちにとって、ものすごくいい経験になると思うんです。それを若いうちに経験してもらうために、意図的に入れている部分はあります。
高橋 今回は、デザインも含めていままでとイメージを変えるようにしていますので、そういうときに、若手に「いままでと違いますね」と言ってもらえるか、意見を求めることもあります。
――ああ、なるほど。たしかに、Nintendo Switchは、とても洗練されたおしゃれさがありますよね。これまでがおしゃれじゃないというわけではなく(笑)。
高橋 その言葉を待っていました(笑)。担当者も喜ぶと思います。
――ティザーの映像やプロモーション展開など、トータルの見せかたがこれまでの任天堂とは違う雰囲気に感じました。
高橋 それは、だいぶこだわりました。小泉も含めて、プロモーションも変えようという意識を持っていましたので、Nintendo Switch本体のパッケージデザインも、何回か従来のイメージを踏襲したものが出てきたのですが、「違う」と練り直してもらいましたね。
小泉 昔と違って、いまの時代は「任天堂の商品は多くの方に知っていただいている」ということはないと思っているんです。ですので、自分たちがどういったことをしたいのかを、きちんと伝わる形で伝えていかないと届かない、とスタッフにも強く言っていて。先ほどの、おもしろいゲームを作っても届かないということと同じで、このゲーム機そのものが、皆さんに任天堂を知っていただくための道具であるようにするにはどうしたらいいのか? を考えて、形にしました。見栄えもそうですが、写真の使いかたや、どういった人たちに買っていただくのかというところも含めて、かなり意識してひとつひとつのものを選んでいますね。
――ちなみに、今回のNintendo Switchは、発表のプレゼンテーションを日本で行いましたよね。最近は海外重視の発表会が多い中で、日本で発表会をされた手応えや反響についておうかがいできますか?
高橋 日本であれだけの発表会をするのは最近ではなかったんですが、E3で発表すると、どうしても日本にどれだけ伝わっているかがわかりづらい部分があるんですね。もちろん、アメリカでやることも大事ですし、今回はアメリカに宮本と青沼(青沼英二氏。『ゼルダの伝説』シリーズのプロデューサー)が行ってイベントなどを行いましたが、いろいろなところでやることが大事だなと感じました。あと、やはり日本の皆さんに実際に触りに来ていただいて、家族の方が『1-2-Switch』を遊んでくださって、お子さんが遊んでいるのを、親御さんが楽しそうな目で写真を撮ったりとか、そういうところを見ると、やはり早い時期に直に触ってもらう機会を作るのはいいことだと、改めて思いましたね。
小泉 Nintendo Switchは極秘で作っていたので、社内モニターはたくさんしたのですが、事前にさまざまな人に遊んでもらえる機会は本当に少なかったんですよ。それで、一般のお客さんにどう刺さるのかが、我々はすごく心配していたところで。日本の体験会をはじめ、ヨーロッパやアメリカなどを回って、触っていただいている人たちの目を見てきたんですが、どの国も全部いっしょだったんです。日本よりも海外の方たちのほうが、わかりやすく盛り上がっていただけることが多いんですが、今回は日本の皆さんも同じ目をしていたので、地球を1周回って、ようやく手応えを確認できましたね。
高橋 『ゼルダ』は気に入っていただけると思っていましたし、『スプラトゥーン2』もとくに日本で反響があるでしょうし、『ARMS』も行けるだろうとは思っていて、実際にその通りの反応があったんですが、『1-2-Switch』と『いっしょにチョキッと スニッパーズ』は、どういう反応が来るのかと、けっこうドキドキワクワクしていたので、とてもいい反応をいただけてホッとしました。
小泉 作っている側はいいと思っていても、実際の反応はそうじゃないもの、お客さんには届かないものってありますよね。今回は、そういったものもちゃんと届けることが仕事だったので、届かなかったらどうしようとドキドキしていたんですが、ちゃんと届いたことを確認して日本に帰ってこれたので、とてもよかったです。
――家族や大勢の人で『1-2-Switch』を遊んでいる人たちは、みんな目がキラキラしますよね。
小泉 大人も子どもたちも、ものすごい真剣に。
高橋 乳しぼりを必死でやって、画面を見ずに相手の顔を見ますから。
――“ガンマン”をやるときは、相手の目をそらせなくなります(笑)。
小泉 それで負けたらものすごく悔しがって。そういった、いわゆる原初に近いゲームの遊びかた、遊ばれかたができていたので、よかったですね。
――今回のローンチ(本体発売日)は、任天堂タイトルに絞ると『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』と『1-2-Switch』の2本になっていますが(編注:インタビュー取材の後日、『いっしょにチョキッと スニッパーズ』が2017年3月3日配信に決定した)、この2本にした理由は?
高橋 ローンチの日は2本なんですが、4月には『マリオカート8 デラックス』が出ますし、その後には『ARMS』や『スプラトゥーン2』、『スーパーマリオ オデッセイ』などがあります。また、発表していないものも多くありまして、そういったものを含めて、タイトルの発売をローンチという点だけではなく、ラインで考えているんです。そのラインは当然1年ではなくて、2年、3年のあいだに何をどう出していくかを考えていまして、それを考えたうえで今回のローンチを選びました。現在発表済みのもの以外にも、ひねったものもありますし、王道も出していきます。
――任天堂ハードの最大の魅力は、任天堂のゲームが遊べることでもあると思います。だからこそ、Wii Uのときはなかなかソフトが出ずに、ユーザーのニーズに応えきれなかった時期もあると思うのですが、今回のソフト戦略について、いまお話しいただいた短期の戦略ではなく、その先も踏まえてお聞きできますか?
小泉 自社のソフトはもちろんですが、今回はとくに、このゲーム機で動くソフトメーカーさんのタイトルも含めて、我々はいったいいつ何を出すべきなのか、という戦略を考えています。ですので、自分たちが作るものだけではなく、ソフトメーカーさん、そしてインディーのゲームも含めて、どの時期にどう出せばどう魅力的に見えるのか、ということをひとつのラインに並べて考えるようにしているんですね。
――なるほど。では、自社も他社も含めてフラットに考えると。
小泉 はい。お客さんからすると、任天堂のゲームも楽しんでくださると思いますが、それ以外にもいろいろと好みがたくさんあるでしょうし。そもそもこのゲーム機は使う人の好みに合わせられるゲーム機ですので、毎月毎月皆さんの好みに合う新しいタイトルが、任天堂のものでも、他社さんのものでも出てくるようにしたいと思ってやってきました。我々の本分であるタイトルはもちろん作っているんですが、ソフトメーカーさんと協力してゲームを用意する部門のメンバーとつねに情報を密にして、ソフト戦略について話をしています。
――それは、これまでのWiiや、Wii U以上にソフトを増やしていきたいと。
高橋 それはもちろん。ですので、開発ツールも含めて考えていまして、最初からUnityを使えるようにして、Unreal Engine 4もそうですが、かなり初期から意見をいただきながら対応していきました。だから、初期から『いっしょにチョキッと スニッパーズ』のようなゲームもできているんです。
――あのゲームはいいですよね。インディーらしい独特の発想で、おもしろい。
高橋 手前味噌で申しわけないのですが、いいでしょう(笑)。『スニッパーズ』はイギリスのチームで開発をしていまして、最初は5、6人で作り出しているはずです。
小泉 彼らには、最初はJoy-Conのことを開示していなくて。だけど、あのふたりで協力するという遊びはあったんですよね。
高橋 そうそう。最初はPCで動いたんです。
小泉 ですので、彼らにJoy-Conを見せて、「こんなものがあるんだ!」、「すごく合っているんだ」という話をして。インディーレーベルさんの中には、いろいろな奇抜なアイデアで、すごくおもしろいユニークなものを作っている方々がいますが、ぜひこの環境を使って、さらにユニークなものにしてもらいたいなと思っています。その好例として、現状で『スニッパーズ』が出るのはうれしいですね。
――リビングで遊んだら盛り上がりますよね。ただ、インディーの若い開発の方や、少人数でやっている方からすると、任天堂という名前に敷居の高さを感じる方も多いと思うのですが。
高橋 じつは高くないということを、ちゃんと伝えていきたいですし、そういったことを伝える施策も今後やっていきたいと思います。開発キットもそんなに高価ではないですから。
――また、ほかのハードでも出ているものがNintendo Switchでも遊べる、Nintendo Switchで出ているものがほかのハードでも遊べるといったマルチプラットフォームのタイトルも、これまでよりは増える可能性があるのでしょうか?
高橋 そうですね。マルチプラットフォームでも、Nintendo Switchではローカル通信のマルチ対応などができますので、おすそわけも含めて、そういった部分に反応していただけるとうれしいですね。
小泉 純粋にテレビの前から離れて遊ぶことができるという体験だけでも、同じゲームでもだいぶ違うと思うんですよ。どこにでも持って行けますから。
――いま、いろいろなタイトルの開発が進んでいる中で、おふたりから見て「これはいいよ」というゲームをぜひ教えていただきたいです。
高橋 いろいろありますよ。ただ、いまは言えません(笑)。
小泉 皆さんがご覧になっていないものはまだ言えないのですが、ただ、すごいものを作っているチームはたくさんありますね。お見せしている中では、『スーパーマリオ オデッセイ』です。これも手前味噌ですが(笑)。
高橋 小泉は、ここからモード変わりますから。Nintendo Switchのプロデューサーから、『スーパーマリオ』のプロデューサーに(笑)。
一同 (笑)
小泉 『オデッセイ』では「振り切ってみよう」という話をしていて、Nintendo Switchならではというものでもありますが、久しぶりに箱庭に戻ったこともあって。映像を観ていただければわかると思いますが、かなりハチャメチャなゲームになっています。
高橋 HD振動もいいよね。
小泉 はい。いっぱい使っています。
――そうなんですね。そこは映像ではわからないので気になりますね。
小泉 そうなんですよね。そこを伝えるのは難しい。
高橋 このゲーム機はいろいろな使いかたがあって、端的には『1-2-Switch』でお伝えしていますが、ゲームらしいゲームの中で、画面を見ながら感じるHD振動は、またちょっと違うんです。
小泉 リアリティーが段違いに変わってくるので、早くお見せしたいところなんですが……。それがオススメです!
――マリオがあそこまで外に出たことはなかったと思うので、PVはかなり衝撃的でした。
高橋 小泉のマリオはいつでもめちゃくちゃしますからね(笑)。
一同 (笑)。
――高橋さんのおすすめのゲームはどうでしょう?
高橋 ちょっと立場上、特定のものだけを挙げづらいのですが(笑)、いま言うのであれば『ゼルダの伝説』と『1-2-Switch』です。まったく系統の違う2本を、発売日にすぐに外でも遊べますから。
――ゲームファンには『ゼルダ』、みんなで遊ぶなら『1-2-Switch』ですよね。
高橋 『1-2-Switch』はいろいろな方と仲良くしたいときや、どこか飲みに行ったときにぜひ。
小泉 これは、お酒を飲んでも遊べるようにシンプルに作られていますので(笑)。
――それは盛り上がりますね(笑)。僕らゲームファンからしたら、最初から『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』が出るというのはうれしいですね。今回、『ブレス オブ ザ ワイルド』は、うちの編集者が「『ゼルダ』シリーズで歴代最高」と言っていました。
高橋 今回の『ゼルダ』は歯応えがありますから。
小泉 あれは、遊び尽くすとなると、年単位でかかるんじゃないかと思います(笑)。
――子どもの遊びすぎが心配な親御さんには、“みまもりSwitch”の機能もありますからね。
高橋 はい。規制するのではなくて、親子でちゃんとお話しして。イベントなどで“みまもりSwitch”の映像を流していると、お子さんがお母さんに「こういう機能があるから買って」と言っているのも聞こえてくるんですよね。お母さんもちゃんと反応してくれますから。「あ、そんなのあるの?」って。ぜひ、強制的に切るのではなく、話し合ってほしいですが(笑)。
――あの機能は、子を持つ親にはうれしいアイデアだと思います。
高橋 “みまもりSwitch”の基本的なアイデアはDSのときくらいにあって、ずっと話をしていたんですが、やっと形になりました。お母さんに嫌われないという位置を作るための一環ですね。
――では最後に、Nintendo Switchを楽しみにしているゲームファンの皆さんにメッセージをお願いします。
高橋 『1-2-Switch』をたくさんの人と、いろいろなところで楽しんでいただけることを期待しています。『ゼルダ』は、発売日からどこへでも持って行けますし、たとえ発売日に出張が決まったとしても、出張先で遊べますから。そういう楽しみかたも含めて、いつでもどこでも楽しめるのが、Nintendo Switchです。ぜひ遊んでください。
小泉 このプロジェクトに取り組んできていちばん達成したかったもののひとつに、“ゲームを愛している方々がゲームを遊ぶ時間をたくさん作れるようにする”ということがありました。これを我慢しないとゲームを遊べない、ということを極力減らしたくて、それができたと思いますので、ゲームをたくさん楽しんでいただきたいなと思いますし、できたらそれを外に持ち出して、宣伝していただきたいですね。本体の背後に大きなロゴがあって、裏から見てもNintendo Switchで遊んでいるとわかりますから(笑)。ゲームファンの皆さんに、家で、外でたくさん遊んでいただいて、まわりの人に「ゲームっておもしろいよね」ということを広めていただきたい、お願いしたいと思っています。
――家だけでなく、積極的に外で。
小泉 はい。私たちはこれからたくさんゲームを作っていきますし、ソフトメーカーさんのゲームもたくさん出てきますので、それを遊んでいる姿を家の中だけではなく、外でも見せていただいて、いろいろな人がどこででも、おもしろいゲームに出会える場を作ってほしいですね。
――ありがとうございました!