CERO“B”になった理由は?
――今回、壁に入って、昔なじみの初代『スーパーマリオ』のドット絵で遊べるというのも特徴ですが、これも試作のひとつで出てきたんですか?
小泉 そうですね。壁って、これまでの『スーパーマリオ』だとただの障害でしかありませんでしたが、ここを遊びに使えないかということで出てきたアイデアの中のひとつです。あと、3Dに慣れてきたところでテンポを変えたいというのもあって、その後に3Dに戻ることで密度を濃くできていると思います。懐かしいと思ってくれる人もいるのではないでしょうか。


――初代『スーパーマリオ』ですからね。すべての衣装にドット絵のパターンを用意しているのには驚きました。
小泉 スタッフのこだわりですが、さすがにこだわりすぎなんじゃないかなあと思いました(笑)。




――(笑)。ちなみに、壁の中の動きも3Dとして処理をしているんですよね?
小泉 3Dではありますが、壁の中の挙動はすべて2D用のものを別に用意しているんです。2Dならではの手触りが大事だろうと、プログラマーが苦労して入れています。
――えっ! では、あの中で別のゲームが1本動いているということなんですね。
小泉 すぐ始まって、すぐ終わっちゃいますが(笑)。
――気になったのが、今作はCEROの対象年齢がB(12歳以上対象)になっているんですね。『スーパーマリオ』シリーズとしては珍しいと思うのですが、Bになった理由をお聞かせください。
小泉 今回はリアルな街やタンクなど出てくるんですよね。これまでの『スーパーマリオ』シリーズだとパステル色のようにふわっとしたタンクだったんですが、あそこで出すタンクはそこそこリアルにする必要があって。それがいままでよりも年齢が高めに見えてしまったということで、Bになったのではないかと思っています。
――Bになった判断材料としては、そのタンクくらいなんですか?
小泉 いままでよりもリアルな、大人っぽい世界の中でマリオがアクションするというのは、僕らの中でいい違和感があると思って採用しているんですが、そのあたりのリアルな世界もBに上がった理由かもしれません。
――判定をA(全年齢)にするための修正などはされなかったわけですね。
小泉 たとえば欧州だと7歳以上、アメリカでは10歳以上と、全世界で見ると幅があるんですね。我々としては、それをどこかに合わせなくても問題なく遊べると思っていますので、あとはお父さん、お母さんにご判断いただければいいかなと。
――今回、スナップショットモードという写真を撮るモードがありますが、いろいろと機能のこだわりがすごいですよね。
小泉 旅と言ったら写真でしょう?
――はい(笑)。
小泉 現実世界では、皆さん当然のように自撮りをしますし、写真にフィルターをかけて加工をして送ったりするのも、特別なことではなくなっています。ニンテンドースイッチには写真をSNSに投稿する機能がありますから、旅行に行った方が写真を投稿しているように、「マリオがこんなところに行ったよ」という感じで投稿してほしいなと思っていて。だから、あって当たり前のような機能だと思っているんですよね。
――とはいえ、ここまでこだわるのもすごいなと。ロゴを配置したり、回転したり。フィルターの数もスゴいですし。
小泉 写真を回転させてスマホの待受として使えるというアイデアはおもしろいなと思いました。フィルターは豊富にあるんですが、僕はもっと増やしてもいいかなと。開発スタッフに「もう無理です!」って言われましたが(苦笑)。
世界を驚かす名作を続々と。任天堂開発で何が起こっているのか?
――今回、ボリュームが本当にすごいですよね。
小泉 セールストークじゃなく、ものすごいことになっています。
――でも、重さを感じずに、ついついやってしまうものになっているように思います。
小泉 そう言っていただけるとうれしいです。遊ぶために不要なストレスをとことんなくしていこうということをやってきて、その上に、お客さんが気づくか気づかないか、ちょうどいい塩梅のレベルデザインをしているので、それらがうまく結実しているのかなと思っています。
――正直、いままでの“3Dマリオ”の中でもトップクラスにおもしろいと思いましたし、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』が出てきたときと同じような、ものすごいものが出てきたなという衝撃を受けました。
小泉 ありがとうございます。そう言っていっただけるのは、どちらのタイトルにとってもうれしいですね。
――そういった手応えは、開発チーム内にもあるのでしょうか?
小泉 作っている側は、どうしても客観的に見られないので、いろいろな人に遊んでいただいた反応を見ながら、一歩一歩心を崩さずに作っていくものなんですよ。ですから、最後にちゃんとまとまったものを見ていただいて、こういった評価を受けることがいちばんの喜びで、それがつぎの原動力になっています。自分たちでは、どういう反応が来るかとドキドキしていますので、高い評価をいただけて心の希望になったので、みんなに伝えておきます(笑)。
――ありがとうございます(笑)。先ほど、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の話をしましたが、『ゼルダの伝説』、『ARMS』、『スプラトゥーン2』、そして『スーパーマリオ オデッセイ』と、そのほかのタイトルも含めて、ニンテンドースイッチのラインアップがローンチの年とは思えないくらい充実していますよね。これは、任天堂の中で何か体制が変わった影響などがあるのでしょうか?
小泉 ひとつは2年前に開発本部が統合した影響で、自社や開発会社さんを含めて、任天堂が発売するタイトルをまとめて統率できていることがあると思います。それと、ニンテンドースイッチのソフト全体のプロデュースを僕が担当させてもらっているんですが、僕のほうから各タイトルのプロデューサーに、ニンテンドースイッチをこう使ってほしいという役割を振り分けたんですね。たとえば『ゼルダの伝説』では、“ニンテンドースイッチは外に持っていける据え置き機”というイメージを持ってもらうためにローンチに出さないと意味がないと話したり、『マリオカート8』では、Joy-Conのおすそ分けのおもしろさを伝えるためにこのタイミングで出してほしい、といったお願いをしていました。あとは、ソフトメーカーさんとの距離を近くしていて、各メーカーさんはどんなアイデアがあるのかというのをソフトメーカーさんの窓口をしているスタッフがヒアリングをして、発売時期のラインアップも含めて、密な連携が取れるようになってきたのは、かなり新しいことだと思います。現在は、そういった話し合いを含めて、今年だけでなく、来年、再来年のロードマップ作りを進めています。
――ニンテンドースイッチユーザーの中には、『ゼルダの伝説』、『スーパーマリオ』という任天堂の看板タイトルが出て、さらに『スプラトゥーン』というブームになったタイトルの新作も出てしまったため、来年以降のラインアップが心配になる人もいると思いますが?
小泉 任天堂にはまだまだ出していないIPがありますし、従来のIPだけではない、皆さんが思ってもいないような新しいことをどんどん仕掛けて、準備していますので、そういったものが来年、再来年にかけてどんどん出てきます。それこそ、皆さんの心に刺さるものを作ろうと思いながらやっているので、期待してお待ちください。
――『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』が、世界中で絶賛をされていますが、それ以外にも、今年の任天堂タイトルを見ると、ものすごいクオリティーのタイトルが続いていて、とてもクリエイティブ力が高まっているように感じます。それについて、何か要因があれば、お聞きできますか?
小泉 あるとすれば、「成功させよう、クオリティーを上げよう」というそれぞれの向上心がとても強くなっているように感じます。「こういう作りかたを変えなきゃいけないんだ」、「いまはこういったものを用意しないとダメなんだ」といった気持ちを各チームが強く持っていて、『ゼルダの伝説』ですと“アタリマエを見直す”といったテーマがあったように、『スーパーマリオ オデッセイ』のチームならば“心に刺さるゲームにしよう”というテーマを掲げたりと、とにかくいままでと同じではダメなんだということを各チームが心に刻んで、そういった効果がクオリティーにつながっているのではないかと思っています。
――いままでのものを変えるというのは、相当なパワーが必要ですよね。
小泉 何かを捨てる必要があるときがありますが、それは何かを作るときよりもたいへんなんですよね。“見直す”ということは“捨てる”ことにもなるので、“見直す”という気持ちができているということは、とてもいい成果につながっているんだと思います。
――見直すという意識がこの時期に重なっているのは、時代背景と、ニンテンドースイッチへのハードの移行期というのが合わさっているのでしょうか?
小泉 お客さんの生活習慣が変わってきたとしても自分たちは変わらなくていい、というのは違うだろうと、みんなが思ってきているんだと思うんです。ニンテンドースイッチが生まれた経緯はそのうちのひとつだと思っていて、ゲーム機はリビングで座って遊ぶものだと決めてはいけないと思って作ってきたんですよね。その人が遊んでいるゲームが、その人の生活スタイルに合わせて持ち出せるようにしない限りはずっと遊んでもらえるゲームにはなりえない。これまで、おもしろいゲームを作ろうとはしてきたんですけど、加えてその人に寄り添うことができる形であるというのも含めてデザインしないと、どこかで忘れ去られてしまうというか、古いものになってしまうのではないかと恐れていて。そういったプレイスタイルを含めてどこまで変えるのかということを、ハードウェアだけでなくソフトウェアでも考えて、同じじゃダメなんだと思わなきゃなと。
――なるほど。ゲーム業界のいろいろな人と話す中で、「今年の任天堂はスゴい」、「どういう開発体制になっているんだ」と話題になるんですよね。
小泉 そうですか。ありがとうございます。でも、そんな特別なことはありませんよ。もし、特別なことがあったとしたら、それは言えませんし(笑)。
――それはそうですね(笑)。では、インタビューの締めに入りますが、これまでの『スーパーマリオ64』、『スーパーマリオサンシャイン』といった“箱庭マリオ”と比べて、本作は完成度が上がった実感などはありますか?
小泉 いまのタイミングで「がんばって作ったね」と満足していても、翌日にまたお腹が減るかもしれないので、まだわかりません。それこそ、このゲームが売れるのかどうかもわからないですから。一方で箱庭ではない“3Dマリオ”もおもしろかったと思っていますし、そういったものに対してどうアプローチするかも含めて、まずは『スーパーマリオ オデッセイ』がどのような評判になってどう受け入れてもらえるかを見ながら、変えていくのか、作り続けるのかというポイントが見えてくるんだと思います。
――今後もし続編が出るとしたら、箱庭ではないゴールがあるものかもしれないし、キャプチャーがあるものかもしれないし、いろいろな方向性があると。
小泉 そのあたりは、まだまだわかりません。
――では最後に、本作を楽しみにしている読者にメッセージをお願いします。
小泉 『スーパーマリオ』シリーズの最新作ができた後には、毎回「集大成です」と言っているのですが、なかなか集大成が終わりません(笑)。とはいえ、いまのお話でも出ましたが、「次回作、どうするの?」という質問に答えが返せないくらいの、現段階では集大成のものがデキたと思っています。さらに、今回はニンテンドースイッチで、これだけのものを外に持ち出すことができ、しかも、Joy-Conをおすそわけすれば、人といっしょに遊ぶこともできるわけです。できるだけ外で旅をしながら遊んでもらって、見知らぬ人にJoy-Conのおすそわけでキャッピーを手渡してお友だちになったりと、そういう遊ばれかたをしてくれると、ニンテンドースイッチも『スーパーマリオ オデッセイ』も旅をテーマにして本当によかったなと思えると思います。ぜひ試してみてください。