●ふたつのJoy-Conに込めた想い
――Joy-Conには、さまざまな遊びのもととなる機能があります。こういった機能の取捨選択は、任天堂がずっと挑戦してきたところだと思いますが、今回の機能を採用した意図などをお聞かせください。
高橋 最初にお話をしたように、まずいろいろな材料となる要素や技術があるんですが、その材料を単体で判断するのではなく、その機能を使ってどう遊んでもらえるか、楽しんでもらえるかを中心にいろいろと考えた結果、HD振動やモーションIRカメラ、NFCリーダー/ライターが“残った”というイメージです。
――その取捨選択は、各機能をゲームに転換したときにどれだけおもしろくなるか、という先を見据えた判断になるわけですよね。
高橋 そうですね。だから、ハードの開発チームは「これ使うんですか? 本当に使うんですか!? 決めてください!」と詰め寄ってくる(笑)。
――ハード設計に関わりますからね(笑)。最終的に残ったものは、おふたりにとってもゲームを作るうえであったほうがいいもの、必要なものになったということでしょうか。
小泉 そうですね。『1-2-Switch』で、いろいろな機能を使ったゲームを提案させていただいていますが、もちろんそれ以外の使いかたもあります。これくらいの遊びの幅が生み出せるのであれば入れよう、と判断をしました。持ち運べてふたりで遊べるゲーム機というサイズを考えると、何でもかんでも本体に入れようということはできませんので、新しさはこのJoy-Conに詰め込もうと。
――Joy-Conはサイズが小さいですよね。
小泉 あんなに機能を詰め込んで、このサイズ、この軽さになるとは、僕らも驚きました。小さく小さくと、しつこくこだわった結果で、言ってみれば夢が詰まっている。
――先ほど小泉さんがお話されていましたが、ゲームのおすそわけには小さいほうがよさそうです。
小泉 はい。コントローラーをポンと渡せないと。重いものをドンと渡されると、「おぉ……」とちょっと印象が変わってしまうでしょうし。できあがった結果ですが、「こうなったらいいな」という目指したものが実現できたと思います。
――DSや3DS、Wii Uなど、近年の任天堂のハードは、2画面で遊びを多様化させるものが多かったと思いますが、Nintendo Switchでは採用していません。今回も2画面に対応すべきだというお話もあったのではないでしょうか。
小泉 テレビで遊んでいるものを持ち出すという、つまり画面を外に持ち出すという考えかたですと、テレビは2画面ではないので、1画面で遊ぶゲームを外に持ち出すというシンプルな発想で、当初から1画面を想定していました。それこそ、“新しいものを作る”、“いままであるものを引きずらない”というテーマもあって、そこは強い意志で決めました。
高橋 もちろん、2画面を引き継がないのかという声はあったんですが、最終的には1画面で行こうということになりました。
――据え置き機としてひとつ前の世代にあたるWii Uは、結果的に短命なハードになってしまったと思うのですが、Wii Uというハードをどうとらえているのか、また、Nintendo SwitchはWii Uを踏まえてどういう戦略を取るのかをお聞きでいますか。
高橋 Wii Uが、というよりは、花札やトランプから始まっていろいろな娯楽の道具を作ってきた任天堂として、いままで出してきたハードのいいところをどう入れ込むか、いろいろな方にいかに喜んでいただくかを考えた末が、このNintendo Switchだと思っています。Wii Uの反省すべきところとしては、我々がうまく、もっとお客様に喜んでいただけるものを継続的に作れなかったという部分があるかもしれません。ただ、そこだけを考えるのではなく、新しいところにそれこそスイッチをし、Wii Uの流れではない、全体の流れを考えた結果として、このNintendo Switchを作っています。
――たしかにNintendo Switchには、これまでの任天堂ハードのいろいろな特徴的なところが、集大成のように入っていて、かつ新しいものになっていると思います。
小泉 Wii Uだけでなく、全体を見わたしたときに、どうあるべきなのかを見直しています。たとえば、ニンテンドウ 64以降は、同梱のコントローラーがひとつになりましたが、コントローラーがひとつになると、開発者としては、ひとりで遊べるゲームを考えるのが基本になってきます。もちろん、コントローラーを単体で追加販売させていただきますし、みんなで遊ぶゲームも作るんですが、別途購入していただかなければいけないということもあって、先ほどの、ゲームをみんなで遊ぶ際の障壁にもなっていたのではないかと思うんです。僕は、Wii Uで『スーパーマリオ 3Dワールド』のような、多人数で遊べるゲームを作りましたが、付属のコントローラーは、Wii U GamePadひとつでしたから、どうしてもひとり用のプレイありきで、そのつぎにマルチプレイ、の順番になってしまう。Nintendo Switchはそういうところを見直して、まず“ふたりで遊べるということを前提にしたゲーム機にするべきではないか?”と考えて、コントローラーを2個付けるという点に、強くこだわったんです。
高橋 ファミコン、スーパーファミコンの時代にあった、コントローラーがふたつ付いているという点をもう一度やりたくて、それをしっかり見直した結果ですね。
――任天堂のハードは、以前から単純なマシンスペックは追求せず、新しい遊びを実現するためのバランスなどを重視されていますが、一方で、他社のゲーム機やPCといった競合ハードの性能も鑑みた部分はあるのでしょうか?
高橋 大事なのはNintendo Switchのコンセプトを実現することで、TVモードからテーブルモード、携帯モードにスイッチしたときにどうなるのか、という点ですね。テレビに映して遊ぶときに十分に満足できるグラフィックが見られて、かつ、携帯したときにもある程度満足できるくらいの時間が遊べる。その両方を実現できる、いい塩梅を模索した結果を実現するのがもっとも重要なポイントですので、他社の据え置き機とは、だいぶ考えかたが違うのではないでしょうか。
――たしかにそうですね。テレビでの表示を突き詰めた据え置き機にすると、外に持ち出したときに30分しかし遊べない、といったことにもなりかねないでしょうし。
高橋 30分も持たないかもしれません(笑)。
――逆に、持ち出したときのバッテリーを重視しすぎて、クオリティーが落ちたもの表示しても意味がないと、そのバランスを取りながら提供できる、上のレベルを目指したものが現在の形ということなんですね。
高橋 そうですね。お客様がもっとも楽しんでいただける、満足していただけるところはどこかという点を模索するのは、これまでの任天堂の娯楽製品を作る考えかたの中心ですから。
――なるほど。そして、Nintendo Switchという名称ですが、据え置き機としてはWiiからWii Uという流れがあった中、この名称になった経緯をお聞きできますか? 相当な議論があったのではないかと思うのですが。
高橋 これは、本当にいろいろな話し合いをしました。
小泉 まず前提として岩田前社長から「新しくしてほしい」という話がありましたから、名称についても最初からWiiやWii U、DSや3DSとは違うものにして、名称だけでなくゲーム機としても、いままでのハードから大きく変わらなければいけないという考えがありました。
高橋 ゲームを作る側の考えかたもね。
小泉 はい。そういう意味で、さまざまなものを変えていく。たとえば開発環境や開発体制、開発者の頭の中も含めて、過去と変えていかなければいけないということをつねに考えていて。意味合いとしては、“チェンジ”にも近いのですが、変えるというよりは、切り換えるという“スイッチ”のほうが合っているのではないかと思って、さまざまな候補の中から“スイッチ”を選んだんです。
高橋 それはもうすごい量で、何千っていう候補を出したんです。
――千単位ですか! その候補は、いろいろな人がアイデアを持ち寄ったのでしょうか?
小泉 どんな名前がいいだろう、どういう名前ならみんなが理解してくれるだろうと考えつつ、「新しいハードは、こういうゲーム機だ」ということを伝えて、いろいろな関係者から名前を募集しました。それで何千という候補が出たんです。
高橋 結果として“スイッチ”という、意味のある名称になりました。Wiiのような造語ではなく。そこからもスイッチですね(笑)。
――最終的な名称は、満場一致での決定だったのでしょうか?
高橋 それが、いろいろな意見が出ましたね(笑)。
小泉 説明をすると「そのままやん」と(笑)。
高橋 でも、最終的には、海外のスタッフにも違和感がないか確認をして、新ハードで新しく変えていく、遊びをスイッチするという意志を伝える意味も含めて、この名称に決めました。
――WiiやWii Uにはいろいろなチャンネルや、『Miiverse』などの内蔵ソフトウェアが入っていましたが、今回は本体のメニューまわりがとてもシンプルになっているように感じました。こちらは、どのように決めていったのでしょうか?
小泉 Nintendo Switchはあくまでゲーム機、ゲームを遊ぶ道具ですから、河本と、ずっと“サクサク”というキーワードを言い続けていました。本体メニューもできるだけシンプルにして、パッとゲームが立ち上がって、パッと遊べるというのを実現しなければいけないと。カセットを差したらすぐにゲームが遊べた時代に比べると、どうしてもいまは時間がかかってしまうので、カセット時代には敵わないかもしれませんが、そういうことを念頭に入れて開発していました。
――たしかにWii Uは起動に時間がかかって、起動時間の短縮やクイックメニューの導入といったアップデートがありましたね。僕らは、まだ製品版を触れてはいないのですが、かなり早くゲームが起動できるのでしょうか?
高橋 起動にはとてもこだわったのでもちろん早いんですが、そもそも基本的に電源を切らないスタイルのマシンになりますね。
小泉 ドックに入れている状態はもちろん、携帯モードでも、プレイをしないときはスリープ状態にできるようになっていますので、家で『ブレス オブ ザ ワイルド』(『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』)を遊んで、スリープ状態にして持ち出して、外出先でもすぐにプレイできるんですよ。スマートフォンや携帯ゲーム機では当たり前なんですが、あの『ゼルダ』が家でも外でもサクサクできるというのは、ちょっと感動します(笑)。
高橋 先週、先々週と海外出張で2週間不在にしていたんですが、そのあいだ、Nintendo Switchをスリープ状態で放っておいてしまったんですね。でも、会社に戻ってきたら、まだ電池が残っていました(笑)。
――それはすごい。一方で、今回は『Miiverse』などのコミュニティー要素がはなくなっていますが、SNSを活用することになるのでしょうか? Miiそのものは残っていますが。
高橋 よくMiiがいなくなったと言われるんですが、Miiはちゃんといますし、使っています。
小泉 自分のアバターが、Mii以外にも選べるようになって、選択肢が増えました。『Miiverse』を代表するユーザーさんのコミュニティーを常設する仕組みに関しては、今後さまざまなゲームで必要になってくると思いますが、そのときにはまた違った形で実現すると思っています。
――もしかすると、スマートフォンと連携するかもしれないし、何らかの別の方法を企画、検討されているという認識でよろしいでしょうか?
小泉 そうですね。
――今回、オンラインサービスなど、スマートフォンとの連携を利用する場面が多いように感じます。もちろん、いまの時代に則したものだと思いますが、これを重視しているのはなぜなのでしょうか?
高橋 やはり、スマートフォンは皆さんが持っていますし、とても便利なものですので、ケンカするわけではなく、仲良くしておきたいなと。我々も『スーパーマリオ ラン』や『ファイアーエムブレム ヒーローズ』を出していますし。Nintendo Switchとの関係としては、いかにスマートフォンを便利に使えるかというところに焦点を置いています。ですので、ゲームに直接関係があるというよりは、ゲームの補助的な部分でどう使っていただくか、それは既存のアプリでいいのか、我々が新しいものを提供するのかといったところをいろいろ考えています。
――なるほど。TwitterやFacebookなどのSNSとの連携はいかがでしょうか?
小泉 Nintendo Switchの基本機能としてスクリーンショットが撮れるので、それをTwitterやFacebookに投稿できるサービスは初めからやろうと思っています。専用のハッシュタグが付いて投稿できるように考えていまして、そういった写真や感想などの投稿の仕組みとSNSはとても親和性が高いと思いますので、ソーシャルメディアとも仲良くやろうと。
――今後のアップデートで、キャプチャーボタンで動画の撮影ができるようになるということですが、どれくらいの時間を撮影できるのか、またそれをユーザーにどう活用してもらうことを想定しているのかについて、お聞きできますか。
小泉 動画の長さや、どこに投稿できるのか、といった詳細についてはもうちょっとお待ちください。動画の対応は検討して進めていますので、改めて発表します。
――楽しみにしています。今後、本体のアップデートで、現在発表されている以外の機能が追加されることはあるのでしょうか?
高橋 もちろん、あります。我々が考えているロードマップもありますし、ユーザーさんの声を受けて入れるものもあるかもしれない。そこは、これまでのハードと同じと思っていただければ。
――アップデートと言えば、バーチャルコンソールの展開も気になりますが……。
高橋 現時点ではまだ確定していないことも多いので、また決まり次第、お話ししたいと思います。もちろん、いろいろ考えていますのでお待ちください。
――また、今後の展開としては秋からオンラインサービスの有料化が予定されています。いまの時代として、当然の流れだとは思いますが、改めて有料化することになった理由と、そのうえでどういったサービスが展開されるのかをお教えください。
高橋 有料化の理由としましては、遊んでくださるお客様に満足していただくためのことを考えておりますので、それを実現するためにある程度の費用をいただいて作っていく、ということですね。そういったこれまでにないサービスの運営もありますし、快適に安定したプレイ、およびプレイの補助をするためというのも大きな理由です。サービスの具体的な内容については、2017年秋のサービス開始までに準備を進めて、もう少し後にお知らせをさせていただく予定です。
――個人的に意外だったのですが、スマートデバイス向けのアプリを展開していて、Nintendo SwitchのCPUなどを見る限り、Nintendo Switchでもスマートデバイスのアプリを遊べるようにするか、連携などをするのではないかと思っていました。
高橋 スマートデバイス向けのアプリとの連携という意味では、検討を続けています。ただ、スマートデバイスのアプリは、やはりスマートデバイスだからできる遊びを考えたいと思っていますので、それをそのままNintendo Switchに移植するということはないと思います。たとえば『スーパーマリオ ラン』は、宮本がずっと片手で遊ぶパフォーマンスをしていましたが、やはりスマートデバイスはスマートデバイスだからこそ楽しめる設計を突き詰めていますし、Nintendo Switchはコントローラーがあるので、それにふさわしいものを突き詰めていくことになります。
――ちなみに、一部の報道で、君島社長(君島達己氏。代表取締役社長)が、「VRへの対応も視野に入れている」ということをお話されていましたが、現在検討しているということなのでしょうか?
高橋 VRの報道は、どこかで違った解釈をされているように思います。Nintendo SwitchでVRに対応すると言っているわけではなくて、当然ながら我々はつねにVRなどの最新技術も研究していますし、我々の考える、お客さんに楽しんでもらえて、周囲の人もいっしょに楽しんでもらえるようなVRがちゃんと提案できるのであれば、それを形にします。……というお話をしていると思います。
――なるほど。現在の任天堂のスタンスと変わらず、ということですね。
高橋 はい。