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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話 作者:ウィン

第十一章:編入生と修学旅行編

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第三百八十八話:聖教勇者連盟の使命

 言うや否や、カムイさんは全身を炎に変じ、それを使って私の周囲を囲うように飛び掛かってきた。

 早撃ち勝負の時に何度か手の一部を炎に変えているところは見たことがあるが、全身を変えたのを見たのは初めてだ。

 とっさに迎撃しようと思ったが、あの炎はカムイさんの体そのものであり、あまりやりすぎるとそのまま消滅してしまう可能性もある気がして少し怖かったのであえて迎撃はせず、避けることに専念することにした。

 しかし、そこはやはり意思のある炎。横に避けようがジャンプしようがどこへでもしつこく追ってくる。全く迎撃せずにあれを避け続けるというのは少し難しそうだった。


「死なないでくださいよ!」


 私は仕方なく、火球を飛ばして迎撃を試みる。

 あえて火球にしたのは同じ火属性ならダメージもそこまで与えずに迎撃できるのではないかと考えたからだ。

 しかし、それはどうやら悪手だったようで、カムイさんの炎は火球を瞬く間に吸収し、より勢いを増してしまった。

 やはり、炎だから炎を食らえるのだろうか? いや、融合とでも言ったらいいのだろうか。とにかく、火属性はあまり効果が見込めなさそうだった。


「食らいなさい!」


 どこからともなく声が聞こえ、死角から封印石が飛んでくる。ただ、封印石は高純度の魔石の塊なので探知魔法で容易に探知可能だ。

 もちろん、死角を突いて投げてくるであろうことは予測できていたので、余裕を持って躱すことができた。

 いつまでも追ってくる炎ならともかく、ただ直線的に動いてくるだけの封印石ならそこまで当たる心配はない。ただ、退路を炎で塞がれることも予想できるので過信は禁物だ。


「やっぱり駄目か……次!」


 カムイさんは袋から二つ目の封印石を取り出す。

 袋の膨らみからある程度予想はできていたが、やはり複数個あるようだ。

 いくつあるかは知らないが、手持ちの封印石をすべて躱すことができれば私の勝ちと言っていいだろう。さっき投げられた封印石は割れてしまっているようだし。

 袋の大きさからして、あってもせいぜい五、六個と言ったところか。一体どこで見つけてきたか知らないが、よくもまあここまで集められたものだ。


「弾けろ!」


 不意に、足元で小爆発が起こり、足を取られた。

 とっさにバック転の要領で飛び退いたが、足は真っ黒になり、ただれた様になっていた。

 封印石も心配ではあるが、カムイさん自身の攻撃力もかなり高い。今の小爆発もまともに食らえば一般人なら足が吹き飛ばされていてもおかしくなかっただろう。

 竜としての力があるからこそ火傷程度で済んでいるが、もしこれがなかったら少なくとも行動不能にはなっていたかもしれない。

 四肢欠損程度では死なないとはいえ、この状況で機動力をそがれるのは勘弁願いたかった。


「ご、ごめ……じゃなくて!」


 私が足の様子を確認している間、カムイさんの攻撃の手が若干緩んだ。しかし、それも一瞬の事ですぐにまた攻撃が再開する。

 覚悟を決めたような表情ではあったが、やはりまだ迷いがあるのだろうか。相手の火傷なんかを気遣っていたら、私が相手でなければ反撃を受けて殺されてしまっても文句言えないだろうに。

 カムイさんは聖教勇者連盟に洗脳のようなものを受けているというのはただの私の妄想ではあるけど、やはりあながち間違いでもないのかもしれない。

 この調子で封印石をすべて壊し、諦めさせなければ。


「ここ!」


 炎を鞭のようにしならせ、私の両サイドを包囲し、正面から炎の奔流が飛んでくる。それをジャンプで避けたら、そのタイミングで二個目の封印石が飛んできた。

 なるほど、ああされたらジャンプで避けるしかないし、見事に先読みされた形になる。それに空中では動きづらいし、当てるつもりならいい選択肢だ。

 だが、私とてこの程度の事で当たってはやらない。とっさに空中に空間魔法で足場を作り、それを蹴って封印石を躱す。宙を切った封印石はそのまま地面に落下し、ぱりんと割れた。


「なっ!? い、今、どうやって……!」


 驚愕したような声が聞こえてくる。全身炎になっているのにどこで喋っているんだろうか。

 それはともかく、これで二個目。あと三個か四個と言ったところだろう。もし、エル用に残したいというならあっても三個かな。

 とはいえ、このまま続いていくと全身大火傷しそうだな。まあ、火傷くらいだったら治癒魔法ですぐに治せるだろうけど、問題は服だ。

 今は寝巻用の簡単な服を着ているが、すでにズボンはボロボロに焼け焦げている。いくら治癒魔法が使えても、服までは再生することはできない。

 なんか、最近もこんなことがあったような気がする。戦いになると服ってすぐにボロボロになっちゃうよね。


「カムイさん、もうやめにしませんか? 私はあなたと戦いたくない」


「そうしたいのは山々だけど、私も使命と言うものがあるの。だから、そのお願いは聞けない」


 三個目の封印石を取り出しながらそう返すカムイさん。

 使命か、それは結構なことだけど、そんな辛そうな声で言うような使命なんて達成する必要あるのかな。

 炎になっているせいで表情こそ読めないけど、どういう表情をしているかは容易に想像できる。

 辛いならやめてもいいと思うけれど、それだけ聖教勇者連盟と言う組織の存在が大きいのだろう。

 転生者だから本当の年齢はよくわからないけど、この世界においてはまだ子供なのに、特別な力を持っているからと戦闘に駆り出される。そう考えると、なんだかなぁとなる。


「そんなに竜が憎いですか?」


「そんなのわからない。ただ、竜は世界にとっての敵なの。だから、倒されなければならない」


「その認識が間違ったものだとしても?」


「えっ……?」


 おや、これは少し聞くかな?


「カムイさんは、竜とはどんなものだと教わりましたか?」


「そ、それは、魔王に属するもので、人類にとっての敵で、世界を破滅に導く悪の象徴だって……」


「そうですか。私の認識では、それは全くの事実無根です。竜は世界の管理者であり、人類の守り手でもあるのです」


「そ、そんな馬鹿な……」


 今まで転生者相手には何度もしてきた説明だ。話に耳を傾けてくれた人もいれば、全く聞かなかった人もいる。カムイさんは前者のようで、若干声が震えていた。

 このまま封印石が切れるまで耐えようと思っていたけど、話に耳を傾けてくれるならそれで解決した方がいいに決まってる。洗脳が解けかけている今、今まで信じていたものが崩されるのは中々に衝撃的だろう。


「で、でも、竜は過去に何度も国を滅ぼしてきたって……」


「確かに、それは事実でしょう。しかし、それは竜の仕事を妨害した結果であり、本来竜は人類を滅ぼそうという意図はありません。彼らが主に相手にするのは魔物、そしてそれを生み出す竜脈の魔力です」


 もちろん、竜にも色々と種類があり、特に若い竜は興味本位で人里に姿を現すこともままある。そして、人に攻撃されてかっとなって反撃してしまうこともある。

 だけど、そんなのはごく少数であり、多くの竜は人類の味方だ。ただ、その少数の行いが国を滅ぼすような大事だからこそ悪いイメージが先行し、加えて竜の王であるお父さんが魔王と間違えられたことでそれに拍車がかかり、竜は悪だというイメージが定着してしまった。

 そもそも、お父さんは初めから手を出しておらず、向こうが勝手に勇者を召喚し、勝手に攻めてきて勝手に被害を出し、勝手に恨まれただけの話だ。とばっちりもいいところである。


「なら、竜人達は……」


「彼らはもっと関係ないでしょうね。彼らはただ、竜との間に生まれたというだけですから」


「そんな……」


 竜人は竜から生まれたというだけの少し能力が優秀な人族に過ぎない。

 聖教勇者連盟は彼らを目の敵にしているようだけど、竜人からしたらいい迷惑だ。

 カムイさんはドラゴンキラーとして今までにも多くの竜人を殺してきたことだろう。カムイさんの性格からして、それを快楽的に行っていたとは思えない。

 世界平和のためと言う名目があったからこそ実行してきたはずだ。それが今になって関係ありませんでしたじゃショックも大きいだろう。

 気のせいか、カムイさんの炎が震えているような気がする。どうやら、信じてはくれているようだ。


「カムイさん、あなたが悪いわけではありませんよ。すべては不幸な行き違いのせいですから」


「あぁ……」


 お父さんが魔王と間違えられたのは本当に偶然だ。人に変化すれば話せるとはいえ、竜の姿では話すこともままならない。【念話】くらいはできたかもしれないが、竜の姿を見てその言葉を素直に聞く奴はそうそういないだろう。

 だから、これは誰が悪いというわけでもない。強いていうなら、竜のみならず竜人すらも悪の対象としている聖教勇者連盟が悪い。


「私は、なんということを……」


 炎が一つに集まり、人間の形を成していく。そこには、目に涙を湛えたカムイさんの姿があった。

 感想ありがとうございます。

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