人気アニメ「ガンダム」シリーズの新作テレビアニメ「機動戦士ガンダム 水星の魔女」。「ガンダム」シリーズのテレビアニメシリーズが放送されるのは、2015年10月に第1期がスタートした「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」以来、約7年ぶり。テレビアニメシリーズとしては初の女性主人公で、学園が舞台となることも話題になっており、どうやらこれまでにない“新しいガンダム”になりそうだ。女性主人公、舞台を学園とした狙いとは? アニメを手がけるバンダイナムコフィルムワークスの岡本拓也プロデューサーに聞いた。
「水星の魔女」のキャッチコピーは「その魔女は、ガンダムを駆る。」。あまたの企業が宇宙に進出し、巨大な経済圏を構築した時代のA.S.(アド・ステラ)122が舞台となる。モビルスーツ産業最大手・ベネリットグループが運営するアスティカシア高等専門学園に、辺境の地・水星から主人公の少女スレッタ・マーキュリーが編入してくるところから物語が始まる。「ひそねとまそたん」「キズナイーバー」などの小林寛さんが監督を務め、「コードギアス 反逆のルルーシュ」などの大河内一楼さんがシリーズ構成・脚本を担当。市ノ瀬加那さんが主人公のスレッタ・マーキュリー、Lynnさんが容姿端麗、成績優秀でアスティカシア高等専門学園の経営戦略科2年のミオリネ・レンブランを演じる。MBS・TBS系の日曜午後5時のアニメ枠“日5”で放送中。
「水星の魔女」のプロジェクトが始動したのは2018年頃で、岡本プロデューサーは2020年初春頃に参加した。岡本プロデューサーが参加した時点で女性主人公になることは決まっていたという。
「私が参加した時には、女性を主人公とした『ガンダム』という話がありました。『ガンダム』の50、60周年に向けて、次の世代の少年少女に向けて作りたいという方向性で進めていました。10代の人たちからお話を聞くタイミングがあって、その時『ガンダムは、僕らのものじゃない。僕らに向けたものではない』という言葉があったんです。その言葉が刺さったんです。『鉄血のオルフェンズ』『機動戦士ガンダム00』などでも新しい若いファンが増えたと思っていましたが、『機動戦士ガンダムSEED』から20年たっていますし、既に歴史、壁のようになっている。それが入りづらさにもなっているのかもしれません」
シリーズ第1作「機動戦士ガンダム(ファーストガンダム)」がスタートしたのは1979年で、40年以上前だ。“21世紀のファーストガンダム”とも呼ばれ、新規ファンを開拓した「機動戦士ガンダムSEED」がスタートしたのは、約20年前の2002年までさかのぼる。「SEED」以降もアプローチを変えながら、数々の作品が生まれてきたものの、「ガンダム」シリーズは“伝説”として認識しているが、「僕らのものではない」と感じる10代もいるかもしれない。
「10代の身近にある環境から作品をスタートするのがいいのでは?という話の中から、学園を舞台にするということになりました。学園から物語がスタートする『ガンダム』は実はこれまでもあります。『新機動戦記ガンダムW』『機動戦士ガンダムUC』もそうですし、『SEED』もそうでした。そこに対する敷居はそんなに高くないのですが、初手から重いものが多かった」
本編に先駆けて公開された前日譚(たん)「PROLOGUE」は“重さ”もある。ただ、本編の予告映像などを見ると“重さ”が軽減されているようにも感じる。
「日曜午後5時という時間の放送ですし、入り口からあまり重々しくするよりも、入りやすい、見やすいというところは意識しています。地球と宇宙の対立のような話が描かれるかのか……というのはさておき、これまでの『ガンダム』のような地球対宇宙、国家対国家の戦争は、若い人にとって実感が湧きづらいのでは?と考えていました。重い、人が死ぬから見ないという人もいらっしゃいます。今の10代にとって入りやすく、身近に感じていただくことを意識しています。ただ、『水星の魔女』にも転換点があり、『PROLOGUE』でもあるような穏やかではない話も描かれます。やっぱり『ガンダム』なので」
「ガンダム」のテレビアニメシリーズとしては初の女性主人公となることも話題になっている。女性主人公だから描けることもあるのだろうか?
「今までの主人公は、男性ばかりでしたし、女性主人公だから描けることはもちろんあるとは思いますが、作り手側としては、女性だからということやジェンダー的なものに配慮して描くことは意識していません。未来の話なので、多様性が当たり前になっている世界だと考えています。女性主人公として描きたいというよりは、キャラクター同士の話を描きたい。男性だから、女性だからということは意識していないですね。ただ、女性主人公になったことで、物語の見せ方、気にするところが変わるとは思います。今までの『ガンダム』の友情、恋愛とは、少し質感が違うかもしれません。女性主人公だからこうしよう!などと作為的なものを入れてることはないですね」
多様性という意味では、さまざまな肌の色のキャラクターが登場する。ただ、「ファーストガンダム」の時代からそこは変わらないところでもある。「未来の話ですし、さまざまなキャラクターが出てくるのは必然なのだろうというところからスタートしています。いろいろなキャラクターが出てくるというのは監督の希望ではありました」といい、多様性を強調するわけではないという。
「PROLOGUE」に、登場したガンダム・ルブリスは、オックス・アース・コーポレーションが開発した試作機で、革新的な技術であるGUNDフォーマットを採用したモビルスーツ「GUND-ARM」の一機。ガンビットと呼ばれる群体兵器システムで構成されたシールドを装備している。実は「この作品におけるガンダムとは何なのかを描く上で必要な設定」が含まれているという。
「GUNDフォーマットと呼ばれるものがあり、その存在によって、この世界でガンダムがどう思われているのか? 『PROLOGUE』から何年かたって、世界でどう思われているのか?というところから話が広がっていきます。物語を追っていくと、こういうことなんだ……と分かっていただけると思います。物語のテーマにもつながる話なので、なかなかお話しできないのですが、この作品で描こうとしているテーマの一つにひも付いている設定であることは間違いないです」
「PROLOGUE」では、GUNDフォーマットが身体拡張技術、医療技術と関わりがあることも説明されている。
「身体拡張、意識の拡張というのが着想としてあります。『機動戦士ガンダム』の時からモビルスーツの元々の着想がそういう考え方に基づいて作られたと記憶していて、小林監督が、どこまでそこを意識していたかは分かりませんが。兵器としてのロボットはなかなかイメージしにくいかもしれませんが、医療技術ということで、身近に感じていただけるかもしれません。人間が宇宙での生活に順応するために必要な技術で、『PROLOGUE』で一部の人が使っていたけど、技術自体が蓋(ふた)をされている。ガンダム・エアリアルが本当に安全な機体なのかも分からない状態です。それがどういうふうにひもとかれていくのか? メインストーリーの一つになります」
タイトルの「魔女」が何を指すのかも気になるところだ。「魔女といえば、魔法を使う魔女、中世ヨーロッパの魔女、魔女狩りなどがあります。最終的な答えは、見た方によって受け取り方が変わるんじゃないか、と思っています」と明言を避けるが、「魔女」もキーワードの一つになってきそうだ。
岡本プロデューサーの言葉から「水星の魔女」は自由かつ柔軟な発想で“新しいガンダム”を作ろうとしていることがうかがえる。
「宇宙世紀は、いろいろなことが決まっているので、難しいところもありますが、宇宙世紀以外を舞台にしたガンダム作品はある程度自由度が高いものだという認識があります。それらにも歴史があり、それぞれの作品ごとにガンダム像があるので、難しいところなのですが。“ガンダムらしさ”はこれだ!と明確に言えるものではありませんが、ファンの方のある種の認識から、いい意味で外れるようなものを作ろうとしています。とはいえ、これまでのファンの方が望んでいるものもちゃんと満たさないといけません」
“新しいガンダム”だからといって、これまでのファンを切り捨てるわけではない。難しいところではあるが……。
「そこはガンダムの懐の深さだと思っています。中学生の時に『SEED』を見ていた人も30代になっていますし、大人になった人たちが楽しめるドラマもしっかり描いていきたい。皆さんに喜んでいただけるものになっているかと思います」
「水星の魔女」は、若い新規ファンを獲得しつつ、これまでのファンも楽しめる作品になりそうだ。“新しいガンダム”の挑戦が注目される。
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