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そして無事恨まれた。 - mの小説 - pixiv
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5,918文字
そして無事恨まれた。
芹澤お兄さんが草太さんにヤキモチ妬かせて草鈴をくっつけようとする話。草鈴です。
※映画未視聴の方はご注意願います。

友達が離れて行くことを感じてちょっとだけ切なくなるも、表面上明るく道化っぽく振る舞って二人を全力応援してくれる芹澤お兄さんっていいよなあ…と思っています。
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2022年11月18日 15:15

日曜日、10時。東京駅丸の内駅側出口にて。単語だけの無機質なメッセージに俺はテキトーなスタンプで返す。デートだ。デートには違いない。が。これが自分のデートならどんなに楽しかっただろう。遅れて行った大講堂の末席には仏頂面の男が座っていた。なんでお前、仏頂面。間違っても初デートの前にする顔じゃないだろ。もっとドヤ顔で報告してこいよ。

「遅刻だぞ、芹澤」 「お前のラインに返事してなければ間に合ってた」 「スタンプだけだろ」

 講師にギロリと睨まれる。俺は「はいはいすみません」の意で両手を上げる。こんなに広い大講堂でも俺の声は響いてしまうらしい。どうせならこんな場所で気持ちよく歌ってみてぇもんだ。仕方なく携帯を取り出し、隣の男にメッセージを打つ。

【ところでどこ行くんだ】 【鈴芽さんはデパートに行きたいらしい】 【おー、いいね。ウィンドウショッピングってわけ】 【そういうことだ】 【あー初々しい。試着室とかで「これ似合うー?」とかやっちゃうわけ? あーうらやましい】 【誰がうらやましいんだ。鈴芽さんか?】 【はあ?! 何言ってんだお前。頭沸いたのか? それともお前実はそっち系?!】 【そっち系とは】 【何でもねぇよ。とにかく楽しんで来いよ】 【何を楽しむんだ?】 【す・ず・め・ちゃんとのデートだよ! それくらい分かるだろ、バカかお前は!】 【鈴芽さんとデートするのはお前だろ】

「はあああああ?!」

 思わず叫んで立ち上がってしまう。今度は講堂中の生徒が俺を見る。講師が非難のこもった咳ばらいを一つ。「すみません! 間違えました!」と俺は大声をあげる。間違いだ。間違いには違いない。ただ間違えてるのは俺じゃなくて……



「私が誘ったのは芹澤さんで間違いありません」 「マジか……」  喫茶店で向かい合って座る。久々に会う鈴芽ちゃんが対面の席から俺を見つめている。琥珀色の目。ブレない黒い瞳孔が鈴芽ちゃんの意志の強さを現している。まっすぐな瞳。心臓を刺し貫かれるような、見透かされるような瞳。この子は俺のことが好き。そう実感するとなんだか照れくさい。鈴芽ちゃんって俺のこと好きだったんだ。マジかマジかー…。  俺はスッ…と右手を差し出した。

「それじゃあ鈴芽ちゃん、俺たち付き合おうか」 「ごめんなさい、芹澤さんとは付き合えません」 「何でよ!」 「他に好きな人がいるからです」 「あーはい。もう初めから分かってましたあー」

 秒で失恋した。  少しだけがっくりきた俺を尻目に、鈴芽ちゃんはクスクス笑い始める。口元に手を当てて控えめに。可愛いんだよなぁ。こういう仕草とか女の子らしくて。でもこういう可愛らしいところと、何かを決意して走り出す時のギャップがすごい。草太もこういうとこ好きになったんだろうか。こういう女の子に助けに来られたらメロメロになっちゃうわな。  鈴芽ちゃんは人差し指をいじりながらモジモジと話し始める。 「あのお……芹澤さんに、草太さんのことを教えて貰いたくて……」  んっとに、いいなあ、草太のやつ!

 かくかくしかじか、鈴芽ちゃんは話し始める。要するに、クリスマスに草太にプレゼントを渡したいが何が好きだろうというリサーチだ。うん、だいたい俺も分かってた。草太の鈍さも相当だけど、この子も負けず劣らず。似たもの同士って訳だ。けれど草太を通じて誘ってくるところは、ニブいの域を越えてるな。

「なんで俺に直接メッセージ送らないの?」 「芹澤さんとこそこそやり取りしてると、草太さんが気にするかと思って。だから堂々と、芹澤さんに用があります! と草太さんに言いました」

 うん、堂々とした結果、草太今めっちゃ気にしてるね。  今日は研究室に籠るって言ってたけど、絶対勉強手についてないね。  鈴芽ちゃんはそんなことは露ほど思わず、大ぶりのトートバッグの中をガサゴソと漁っている。そしてラッピングされたパウンドケーキを取り出した。

「あと、これを渡したかったのもあります」 「ナニコレ」 「環さんから、いつも愚痴聞いてくれてありがとって」 「環さんからか~。うわ、めっちゃ美味しそ! 凝ってんね~。野菜?のケーキ?」 「ほうれん草のパウンドケーキです。芹澤くんは野菜を食べてないだろうから少しでも野菜を取りんさいって」 「うわぁー重い! この重さが環さんっぽーい」 「芹澤さん……」 「ジト目で見ないで鈴芽ちゃん。もちろんいい意味よ? ちゃんと感想送るから」 「きっと環さんも喜びます」  いただきまーす。と俺はありがたくそれをバッグに仕舞う。後で勉強の夜食にしようと思って。多分環さんも、そう思ってくれたはず。

「それで、本題なんですけど」 「草太のプレゼントね」 「はい! いったい何をプレゼントしたらいいのかと思って。考えてみたら私、草太さんの趣味とか、よく知りませんし……」 「鈴芽ちゃんの愛のこもったものなら何でもいいんじゃね? あいつ泣いて喜ぶよ」 「あ、あああああ愛ではなくて、そのぉ、草太さんに色々助けてもらってお世話になったからっ!」

 んな必死で隠さなくてもとっくにバレてんのよ。しどろもどろになっちゃって可愛いねぇ。この姿を草太に見せてやりたいよ。それが一番のプレゼントじゃね?

「参考書とかノートとかでいいんじゃね?」 「嫌です、そんなプレゼント! ちゃんと草太さんが喜ぶ素敵なものを選びたいんです」 「可愛いノート」 「嫌です」 「可愛いペン」 「嫌です」 「可愛い机」 「芹澤さん真面目に考えてください」 「可愛い椅子」  突っ込みが来るかと思ったら、鈴芽ちゃんは俯いてモジモジしていた。何か。椅子に何か思い入れが? 「椅子は可愛いですよね」 「うん、鈴芽ちゃん、椅子はやめとこうか」 「はい……」

 とは言っても俺かて鬼ではない。真剣に考えている鈴芽ちゃんのために何かしてあげたい。草太の身に着けているものを考えた。白衣。ゴツめのブーツ。あと、ああ、あれだ。あいつがいつも首から下げている。アレ。

「キー……ホルダー……、とかキーケース……?」 「キーケース!」

 鈴芽ちゃんはぱあっと顔を輝かせた。どうやら俺の回答はご所望のものだったらしい。  結局鈴芽ちゃんは革製品屋さんで鍵を仕舞っておく革製のポーチを買った。自分のお金で買いたいからとバイト代を貯めて買ったらしい。どこまでも健気な子だ。  草太の買い物だけして帰るのも味気ないので、駅ナカの喫茶店でフルーツがぎっしり乗ったとびきりオシャレなパフェを御馳走してあげた。鈴芽ちゃんは顔をぱーっと輝かせて写真を撮っていた。どっかにアップすんの?って聞いたら環さんに送ってあげるんです。ってニンマリしながら言ってた。カシャ。俺と鈴芽ちゃんとパフェの映った写真を撮って送信。多分送り先は環さん。するとピロリンと音が鳴る。相変わらず返信はえー。二人は俺が知らない間に随分親子っぽくなった。親って言ったら環さん怒るな。姉妹?美人姉妹。よしこれで行こう。

 女子高生のフレッシュな反応が嬉しくて、俺もホワホワしながら帰った。  するとアパートの最寄駅の改札口に白衣の男がいた。いつも不健康そうな顔色がますます青ざめている。ヤバい研究やってる科学者みてぇ。スルーしようとしたら肩を強く掴まれた。

「どこまでいった」 「丸の内」 「そういう意味じゃない」 「じゃあどういう意味だ」 「…………」  草太はそっぽを向いた。何も言わないその横顔はどこか悔しそうにも見える。

「草太、もしかしてお前気になるのか? 俺と鈴芽ちゃんのデ~トが」 「別に気にはなってない」 「じゃあ何でここにいる。ここ俺の最寄駅じゃん」 「鈴芽さんが」 「鈴芽さんが?」 「無事に東京まで来れて、無事に帰れただろうかと……」

 草太は俯いた。そうか。こいつはこいつなりに心配してたんだ。俺とどうかなるかってことよりも、まずは鈴芽ちゃんの安否を。俺は少しだけ悪いことをしている気持ちになってきた。けれどここで優しくはしてやらねぇ。だってこいつは俺より成績良くて顔も良くて二次試験もすっぽかした上にかわいい女子高生の鈴芽ちゃんにこんなに愛されてんだ。ムカつくだろ。

「俺にお持ち帰りされてないか気になってたっつうこと?」 「ば、バカなことを言うなっ!」 「鈴芽ちゃんなら新幹線で帰ったけど、帰りたくないって散々駄々こねてさあ、なだめるの大変だったんだぜ」 「……鈴芽さんが?」 「鈴芽ちゃんが」

 草太は俯く。また顔を上げる。不可解そうに眉を下げ、口元に手を当てる。何かと忙しい草太の表情を俺は黙って見ている。

「……何か帰りたくない理由があるのだろうか?」 「理由なんて一つだろ。俺のこと好きだからだよ」 「は」 「決まってんだろ。だってデートだぜ?」 「…………」 「可愛いよなぁ女子高生って。パフェの写真撮って喜んでた」

 俺は証拠写真を見せる。俺と鈴芽ちゃんとパフェ。写真の中で鈴芽ちゃんはとろける表情でピースしてた。勿論表情の意味は、「いいプレゼントが買えたよ!待っててね草太さん」であることを俺は知ってる。けど教えてやらない。草太は呆然として黙っていた。俺は掲げた携帯を仕舞った。俺の携帯を見つめてた草太の目はまだ虚空を彷徨っている。そこに鈴芽ちゃんはいないのに。

「そんでさぁ、俺の愛車で海岸沿いをドライブして、また会おうねーつって別れた」 「…………また、会うのか?」 「会うよ。当たり前だろ。なんか文句あんのか?」 「……別に」 「キスのひとつでもすりゃ良かったかなぁーなんつって!」 「………っ! 鈴芽さんに手を出したら……っ!」 「出したらなんだよ?」

 胸倉を捕まれた。そんでキッと睨まれる。なんだ。やっぱり保護者気取りなわけじゃないんじゃん。鈴芽ちゃんを女の子として見てんじゃん。キスしたかったなんて嘘に決まってるし。お前なら分かりそうなもんだけど。  草太の青い目が揺れている。彼女を取られたくない。そう言ってるようだ。お前はほんと、素直じゃないね。こんな所で俺の胸倉掴んでないでさっさと告白すりゃいいのに。

「文句あんのかよ」 「鈴芽さんが良いというなら俺に何も言う権利は……」 「ごたく垂れてねぇで、ムカつくならぶん殴ったらいいだろ」 「芹澤」 「殴れよ、草太」

 草太は右の拳を宙に浮かべた。殴られる。反射的に目を瞑った。しかし拳は飛んでこない。薄目を開けると、草太は握った右手を力なくほどいた。俺の胸ぐら掴む手が震えてた。草太を見ると怒ってんのか、悔しいのか、寂しいのかよく分かんねぇ表情してた。初めて見る表情だ。お前って表情ない奴だと思ってたよ。いつも勉強とか家業に追われてて付き合い悪りぃし。たまに休みが出来りゃいっつも遠くのほう見てて。近くの人間にも何にも興味ねぇみたいな、いつ死んでもいいみたいなツラして。お前がこんな表情出来るなんて知らなかったよ。お前も血の通った人間だったんだな。それもこれも、ぜーんぶ鈴芽ちゃんに出会ってからで。  まるで、鈴芽ちゃんが無機物だったお前を人間に戻してくれたみてぇだ。一応お前の友達やってた俺にはそれが少し悔しくもある。俺はお前と喧嘩したかったよ。環さんと鈴芽ちゃんみたいに本音ぶつけ合ってさ。けどお前は優しいから、俺のこと殴らねぇんだろうな。  俺は両手をひらひらと振った。頭の中でけんかをやめて〜が流れ始めたからだ。

「なーんて、ぜーんぶ嘘だ」 「なんだと」 「別にデートじゃなかった」 「じゃあ何だったんだ」 「ただの所用だ。人生相談みてぇなもんだよ」 「相談とは」 「鈴芽ちゃんの大切な相談をお前に教えるわけねーだろ! てーかそもそも俺が女子高生にモテるわけねーだろ! 早く気づけ!」

 俺は思いっきり自虐を言いながら、ポケットに両手を突っ込んでさっさと歩き出す。途中でふと止まった。気が向いたからだ。単にそれだけだ。俺は振り返らずに言った。背中越しにまだ草太の息遣いが聞こえる。

「鈴芽ちゃんには好きな人がいるんだってさ」 「……誰だ?」 「さあ誰でしょう。でもすげー鈍い奴だと思うな俺は。俺かなー? それとも高校の友達とかかなー?」

 たっぷり間を取ったあとで、俺は振り返った。

「それとも、お前かな?」

 瞬間、草太の目に光が宿った気がした。外のイルミネーションが反射しただけかもしれない。それは分からない。  草太はそのまま改札で立ち尽くしていた。俺は構わずに駅の階段を降りる。駅前を彩っているイルミネーションの光が眩しい。目がくらむような光の中を、手を繋いで歩く二人を想像した。草太と鈴芽ちゃん。考えてみたらお似合いじゃん。カルピスのCMとか出てそうで。俺みたいに歌舞伎町のホストとかとつるんでる奴はお前らの隣に相応しくないよ。階段を下りる。一段。二段。途中でなんか悔しくなって振り返って叫んだ。

「俺さー! 鈴芽ちゃんのことちょっと好きになったかも!」

 草太は驚いたように目を見開いていた。勿論嘘だ。でも半分くらいは本当だ。プレゼントを選ぶあの真剣な横顔。お前にくれてやるのがちょっと惜しくなったんだ。お前は二次試験すっぽかしたし。俺のが先に教師になるのがムカついたから仕返しだ。それだけ。ただそれだけ。お前らには幸せいっぱいのクリスマスが待ってるんだからその前にちょっとくらい意地悪したっていいだろ。

 日曜日。10時。東京駅丸の内駅側出口にて。単語だけの無機質なメッセージとは裏腹に、隣の男は微笑んでいる。今度こそ自慢だ。ムカつくだろ。いつもしかめっ面で、これから世界救いに行くみたいな神妙な顔した草太にこういう顔が出来たことに、俺は若干の苛立ちと、そして少しの安堵を感じた。「おめでとう」スタンプを返そうとしてやめた。まだ早い。フラれるかもしれないし。てかフラれちまえ。俺は草太を覗き見る。下がった目尻。緩んだ口角。俺には見せないような、やさしい顔だ。ひとつの予感が胸をよぎった。きっと草太は俺が借りてる二万円のことを忘れてくれるだろう。  そしたらしれっと新しく二万円借りちまおう。そんでその金でお前らにプレゼント買ってやるよ。  俺は愛車に乗り込んでエンジンをかけた。よし。今日はあれにしよう。恋人はサンタクロース。俺は恋人にもサンタクロースにもなれないただのお前らの友達だけどな。

そして無事恨まれた。
芹澤お兄さんが草太さんにヤキモチ妬かせて草鈴をくっつけようとする話。草鈴です。
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