日本人の民主主義観と党派性
さて、検証の前にもう一つ「党派制」という視点を導入しておこう。
民主主義がその国に定着するためには、民主主義が「街で唯一のゲーム」(only game in town)であることが重要だと言われる(Linz & Stepan, 1996)。実際に、「唯一のゲーム」として民主主義が既に定着している日本で、近い将来に民主主義が終焉すると考える人はほとんどいないだろう。
また、世界50カ国以上の国で実施される「世界価値観調査」(2017-2021年)では、「民主主義国に生きることはどれだけ重要だと思うか」に対して10点満点で評価する設問がある。ここでも、日本は8.70点であり、他の民主国(たとえば、アメリカは8.32点、韓国は7.90点)に比べても決して低くはない(Haerpfer et al., 2022)。
一方で、一部の政治家やアクティビストは、「日本の民主主義は危機的状況だ」といった言説をしばしば展開する。たとえば、2015年前後の反安保法制の運動では、主に反政府派より「民主主義を取り戻せ」とのスローガンが掲げられた。他方で、体制側である岸田文雄首相も、施政方針演説等で「健全な民主主義の危機だ」と繰り返し述べている。
このように「民主主義の危機」は、しばしば、自陣営への支持を調達するための材料(レトリック)として使われがちである。党派性によって民主主義へのコミットの程度が変わることは海外でも指摘されているが(Graham & Svoliks, 2020)、日本人でも、与党支持者は、非民主的な在り方を好む傾向にあるのに対して、野党支持者は、相対的に、そうした傾向はほとんど見られないことが明らかにされている*1(小林、2021)。
そこで本稿では、支持政党によって、民主主義へのコミットや権威主義への志向性にどのような変化するかについても検討する。